ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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三章

百六十一話 クフタリアの統治者達Ⅰ

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 キルシュたちと話しているうちに、どうやら開始の時間になったらしい。
 気が付けばホールに集まっていた人達が同じ方向を見ていた。
 そこには主催者と思われる貴族っぽい人が壇上に上がっている。何となく見覚えがあるから、おそらくあの人が大会主催者でありこの街を治めている人だろう。
 集合場所で指定されたのが伯爵邸で、そのホストだというのだから多分伯爵のハズだ。
 流石本物の貴族。伯爵とかいうだけあって超目立つ。主に服装が。
 いやまぁ、貴族は王都の城でウンザリするほど見たが、ここまでド派手な人は流石に居なかった。
 本人はオールバックになでつけた髪にいかにも貴族っぽいヒゲを貼り付けた、すごく陽気なおっちゃんって印象以上の物はないのだが、服装が超絶金キラ金だった。
 何というか目立つなんてもんじゃない。
 洋風な建物と違って、服装はどうやら洋風ではなく王都側と同じアジア風に近い様だが、それも相まってB級映画のアジア系エセ金持ち商人っぽさがヤバイ。
 俺なら恥ずかしくて絶対着れないわあんな服。

 壇上ではスゲェ気持ちよさそうにスピーチが続いている。
 居るよな、長話が好きな人。学生時代の朝礼とか運動会の開会式の校長の話とか、大抵の聞かされる側はウンザリしながら聞き流していただろう。
 喋ってる方だって、立ちぼうけで長時間聞かされる話を喜ぶ奴なんて居ないことぐらい解りそうなもんなんだが、何故か毎度長いんだよな。あの手の話って。
 ただ、あのお貴族様のスピーチは少し違うらしい。ここからでは何を言っているのか聞き取れないが、喋りが上手いのか時折笑いが起きていたりして、周囲もウンザリしているような空気ではないようだ。
 喋り好きが高じて喋り上手になったって所だろうか。退屈させない長口上とか、なかなかのエンターテイナーじゃないか。

 そんな目立つ伯爵様なんだが、俺としてはそのド派手な伯爵様よりも会場のあちこちに居るメンツが気になって仕方がない。
 見た目はフォーマルな、タキシードとかそういったお高そうで整った服で着飾っているが、問題はその中身だ。
 なんというか、ガキの頃夜9時からやっていた洋画の再放送とかで見たマフィアとかギャングの抗争映画に出てきそうな感じのオーラを感じる。
 ゴツい体に精悍な顔つき。よっぽど要人警護のSPとか言われたほうがしっくり来るような人種だ。
 でも、ゴツくはあるが、粗野で野卑な感じは見受けられない。
 あくまで『関わり合いになりたくない怖いお兄さん』止まりで、どうにも記憶の中のギャングとはイメージが一致しない。
 どっちかと言うと任侠映画で美化して描かれるヤクザ的な雰囲気だ。

 そしてそれを束ねるのは、恐らくド派手な伯爵様の隣にいる男なんだろう。
 何というか纏っているオーラが違う。見るからに『漫画に出てきそうなファンタジーマフィアのボス』のような見た目だ。 
 貴族のオッサンと並んでいるが、頭2つはデカイ。
 その巨体にたてがみのようなザンバラ髪、パーティ会場だからか落ち着いた服を着ているが、山賊のリーダーとかがよく羽織っているファ付きマントとか超似合いそう。

「あの人がこの街の裏のボスなのよね?」
「キルシュの話が正しければ、そういう事になってるはずだけど」

 確か、この街の裏を取り仕切っているのと同時に、大会の実力者でもあった筈だ。
 そういや、主催の名前を誰も知らないな俺……まぁいいか。

「なんというか『ボス』とか『ドン』って感じが凄いするわね。第一印象から既にトップの風格っていうか、王様や錬鉄の人達みたいなひと目で強者だって判る雰囲気というか……」
「あぁ、それは判る気がする」

 格好からして既に普通じゃないとは言え、多分アレで周りの黒服と同じ格好していても、一発でボスが誰なのか見抜けたと思う。
 纏っている空気が明らかに他とは一線を画しているんだよな。どっしりとしていると言うか、見た目どうこう関係なしに大物感が漂っていると言うか……

 この都市の場合はヤクザ的な連中が治安を維持していて、それで上手く回っているらしいのだけど、普通ギャングだのヤクザだのが幅を利かせると治安が悪化しそうなもんだが、この街の裏を仕切ってる連中は街の治安の安定が集客に影響する事も、それによって自分たちが儲かる事もきっちり理解しているらしい。
 教育がそこまで発達していないこの世界で、そこらの冒険者よりもよっぽど経済的な物の道理を理解しているようだ。
 それも、あのボスが取りまとめているというのなら、納得できてしまうだけの風格がある。

「やべぇ~、RPGなら間違いなくイベントに係る重要キャラなんだろうけど、正直言って街一つ裏から牛耳る連中のボスなんて関わり合いになりたくねぇ……」
「そういうのにガンガン飛び込んでいく主人公たちってホントどういうメンタルしてるんだろうね?」
「いやまぁ、画面越しに無責任に主人公操ってヤバイ相手にけしかけてるの、俺等プレイヤーなんだけどな?」
「……なんか、このゲームやった後に普通のRPGとかやると色々余計な事考えさせられそうで複雑なんですけど」

 まぁ、言わんとしていることは判らんでもない。
 俺も、以前主人公が何者か……というかプレイヤーによって要所で五感を奪われ操作されている事を認識して苦悩するっていう中々にメタいゲームをやった後、しばらく悪人プレイする気になれなくなった事ある。
 ただのテレビゲームでもそんな状態になったのに、このゲームは没入感が強すぎるくらいだから、何かしらの影響を受けそうだというのも分かる話だ。

「失礼、ご歓談のところ、少々よろしいですか?」
「え? はぁ……大丈夫ですけど」

 そんなふうに周囲の黒服もどきを何となく探しつつチェリーさんと話していた所で、突然その黒服もどきに声をかけられた。
 つか、デケェな!?
 2mどころじゃねぇな。腕とか俺の太ももみたいな太さが有るぞ。この人大会に出たら普通に優勝できるんじゃねぇのか……?
 というか、俺こんな怖いお兄さんに声掛けられるような事したっけ……?
 今は人が多いせいで口数の少ないだけで、基本的に物怖じしないエリスやハティは兎も角、チェリーさん何か驚いて完全に固まってるんだが。

「ライラール卿の口上の後、大会上位者の紹介があるので、壇上付近まで着いてきて下さい」
「あ、はい。わかりました」

 何かと思えばただの連絡員だった。
 いや怖すぎだろ、連絡係。もうちょっと人当たりの良さそうな人居なかったのか!?
 と思ったらキルシュ達に接触しているのは、服装も相まってウェイターでもやってるのかと思うような線の細いイケメンだった。
 普通はああだよね?

 というか口上の後と言ってるということは、壇上で喋ってる人の事を指していっているんだよな?
 つまり、あの伯爵様はライラール卿という訳だ。
 確か伯爵とかの〇〇卿って名前じゃなくて役職名とかそんなのだったよな? 日本で言うところの中納言とかそんな感じの。前読んだラノベでそんな事が書いてあった気がする。
 という事は、相変わらず名前は分からのか。でもまぁ話を振られたりしたら、とりあえず閣下とかライラール卿って言っとけばその場は凌げそうか。
 内心胸をなでおろしていたところ、強面の連絡役の人からニヒルに笑みを返された。どういうリアクションだ? つか笑顔も怖い。
 ……ン? もしかして『伯爵』ではなく、わざわざ『ライラール卿』なんて呼び方で伝えてきたのは、壇上に呼ばれた俺達が困らないようにっていう助け舟的なサービスだったりするのか? いや考えすぎか。そういうのは事前に色々注意事項教えてくれれば済む話だし。
 何にせよ助かったことには変わりないのでサムズアップして見せたら、ノータイムでサムズアップが帰ってきた。
 あれ、もしかして本当に気配りできる系? 気にはなるが、せっかく恥かかないようにしてくれたのなら、ここで聞いてしまったら流石に台無しだよなぁ。

 ちょっとモヤモヤしつつも、とりあえず案内に従って4人でゾロゾロ着いていきつつ壇上の様子を確認する。
 性格的なものでも掴めれば、壇上で話を振られたときに金持ち相手に波風立たせずに済みそうだからという小市民的な思考からなのだが。
 ライラール卿は絶賛スピーチの真っ最中。相変わらず気持ちよさそうに喋っている。
 その後ろに立つボスっぽい人は目を閉じて仁王立ち。表情が無いのでいまいちキャラをつかみにくい。
 ステージの脇、見える位置にボスの手下だろうか? 護衛の黒服っぽいのが2人。だが、この位置からだとステージ奥の柱の影に数人見える。恐らくステージを挟んだ反対側、丁度柱の死角になっているこちら側にも潜んでいるだろう。
 ……あれ?
 あんな金ピカド派手な格好で権力を主張していながら、ステージの華やかさを損なわないようにという事なのか、自分の身を守る暴力装置は誇示せずに最低限の見せ護衛を置くだけに留めるとか、あのライラール卿っての見た目から受けるイメージとは別の顔を持ってる……のか?
 いっそ顕示欲の権化というのなら、応対方法も簡単に思いつくものなんだが……判らんな。
 初対面の、しかも貴族の事なんて解らなくても当然なんだが、今更ながら大会の表彰式くらいもうちょっとしっかり覚えておけば良かったと、今更ながら後悔した。

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