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三章

百六十話 貴族なパーティー

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 パーティー会場の伯爵邸は闘技場のすぐ近くにあったので、その場所に迷う事は一切なかった。
 場所には迷わなかったが……

「お城みたいだね」
「おおきい」

 そう、デカかった。
 デカいうえにめっちゃキラキラして、なんかエロい石造とかが道の両脇に立ちまくってる。
 石造りの多いこの街と同じよう、この邸宅もヨーロッパ建築っぽい感じだ。
 同じ国でも王都は木造が多くて全体的にオリエンタルな雰囲気だったがこっちは完全に洋風なんだな。
 門の向こう側にはなんというか、超金持ち貴族のテンプレート的な庭が目の前に広がってる……

「え、ここに入るの? 俺等かなり場違いじゃね?」
「良いんじゃない? 勝手に入るんじゃなくて、呼ばれて来た訳だし」

 建物が立派過ぎて立ち入るかどうかで迷うわ。
 しかし、伯爵ねぇ……?
 リアルヨーロッパの貴族の爵位と呼び方が全く同じなのは、そういう設定なのか?
 でも、勝手に似たような意味として翻訳されてるだけかもしれんか。既にいくつかそういうのに遭遇してるしな。
 ただ、貴族という言葉自体はこの世界の言葉として間違いなく存在しているようだし、俺が伯爵と自動翻訳されている元の言葉の正確な意味を知らないから判断つかないだけで、案外世界設定として全く同じ呼び方で設定されている可能性が無きにしも非ずなんだよなぁ。
 この世界のいろいろな場所を見て回りたいと決めたことだし、これはエリスを見習って、もうちょっといろいろな言葉を勉強しないとだな。

 自動翻訳任せでも会話は成立するが、時折現代語変換できずに変な意味になることがあるから過信は出来ない。
 闘技大会登録の時にも、この世界の言葉を多少なりとも覚えていた俺と、全く覚えていないチェリーさんではコミュニケーションで差が出たし、実際馬鹿にできないと思う。
 リアルでなら子供向けの勉強本でも手に入れれば良いんだが、生憎この世界では本なんて高価なものはそうホイホイと買える物じゃないし、そもそも子供向けの学問というのがまず存在しない。
 文字だのなんだのを学ぶのはそれなりの地位と金があるやつが大人になってからお高い金を払って覚える物らしいからな。
 ――と、それはまぁ後々の話として今はこのパーティーだな。

 しっかし何度見返してもデケェな、この館。
 この国で貴族として粛清を免れて統治しているって事は、少なくとも王都でクーデター起こしたような頭お花畑の悪徳貴族という訳では無いのだろう。だが、どうにも腐れ貴族しか見てこなかったせいで、どうしても貴族というと拒否反応が出てしまう。
 この街の発展具合を見た感じ、歪さはあっても貧富の差はそこまで酷くないし、一部の特権階級だけではなく、一般の商店とかも活気があって街全体の雰囲気も悪くない事から、むしろ統治者としてはかなり有能なんだとは思うんだけどな。
 こればっかりは貴族という存在に対する第一印象が悪すぎるから仕方ない。
 悪印象を取り払ってくれるような善良……とまでは言わないから、せめて普通な貴族なら良いんだが。

「入り口で狼狽えて足踏みしてても仕方ないし、さっさと入りましょ」
「お、おう」

 とりあえず、中に入らないことには始まらないか。

「ビビる必要ないって。さあ、入りましょう」

 もう、入り口の時点で中坊時代に間違えて足を踏み入れた、高級百貨店並の貧乏人拒絶オーラが俺を襲っているんだが、流石チェリーさんは頼りになるぜ。


 ◇◇◇


 外見は凄まじいまでの成金邸宅だったが、中に入ってみると思いのほか落ち着いた意匠だった。
 落ち着いたと言ってもあくまで貴族の邸宅基準であって、ふっつうに金掛かってそうな内装なんだけどな。
 約束の時間まではまだあるというのに、かなりの人がホールを埋め尽くしていた。
 ぶっちゃけパーティーなんて施設のガキ共の誕生日会くらいしか知らないから、この人口比率はちょっと引く。
 もっとこう、お貴族様のパーティーとかいうと優雅なイメージがあったんだが、始まる前からすでに人でごった返しているように見える。
 まぁ、あの中に飛び込む必要は無いよな。
 特に高そうな服を着ている人には絶対に近寄らんぞ。ついうっかり汚して賠償請求とかされたら、その時点でゲームオーバーだ。

「おっ、やっと来たな、兄ちゃん」

 キョロキョロと、屋敷の中の危険地帯を探っていた所で、後ろから知った声が。

「まぁ、主催に呼ばれたから来るわな」
「そりゃそうだ」

 俺達同様、お供を連れ立って来たのはキルシュだ。
 お供の人は……俺達よりも少し年上くらいか。整った顔立ちだが、ガッシリとした体型で、張り出した胸板や首、腕の太さから見るに相当鍛えてる。キルシュの言ってた傭兵団の先輩とかだろうか?
 かなりのツワモノオーラを感じる……何故かやや疲れたような顔をしているのは気になるが。

「兄ちゃん、コイツはカル。オイラと同じ傭兵仲間さ」
「どうも、私はキルシュ……彼の同僚、と言うことになりますか。カルヴァドスと申します」
「こいつはご丁寧にどうも。俺はキョウ、こっちは同じ村で暮らしていたチェリー、エリス、ハティです」

 やっぱり傭兵仲間か。恐らく大会でアピールしたいって言ってたのはこの人にって事だろう。

「この度はウチの……キルシュが随分と迷惑をかけたようで……」
「あぁいえ別に迷惑なんてことは。むしろ森から俺達を街まで案内してもらって助かった位で」
「そうですか? それなら良かったのですが、もし何かあれば伝えてくだされば注意しますので」
「あっはい。それはどうも」
「カルは一体、オイラのことを何だと思ってるんだよ……」

 しっかし荒くれ者ってイメージの強い傭兵にしては随分と腰の低い感じを受けるが、まぁこういう人もいるんだな。

「思い付きでこちらに何の相談もなく、ホイホイ行動を決めるフォレストボアの様だと思っていますが?」
「つまり心根の真っ直ぐな奴って事だな!」
「……」

 なるほど、確かにこれは心労が祟りそうだ……
 確かにキルシュって好奇心強そうだしなぁ。
 あぁ、この妙に疲れたような顔はキルシュのお守役としての気疲れから来るものか……

「えぇと、キルシュの先輩傭兵って事で良いんですかね?」
「いえ、歳は離れてますが私とアレは傭兵団では同期になります。そのせいで、何かと好奇心の強い彼のお目付け役みたいな事を任される事が多くてですね……」
「あぁ、成程……」

 同期ってそういうのあるよね。何がとは言わないけど。すごく良くわかるよ俺は。

「そういえば傭兵団って何て名前なんですか? 今まで聞きそびれてたんですけど」
「あれ? 言ってなかったっけ? ウチは精れ……」 
「キルシュ!」

 何だ?

「今は駄目だと言ったでしょう! もう忘れたんですか? ……あとその名はもう違うでしょう?」
「あ、そうだった、ゴメンゴメン。あそこも長かったからついウッカリ……悪いな兄ちゃん。今は名前出せないんだった」

 そんな風に隠されると、それはそれで気になるんだが……なんか訳ありの団なのか?
 『精れ』に繋がるとしたらパッと思い浮かぶのは『精霊』辺りか? 名前に精霊が付く傭兵団はまだ知らないな。

「すいません、最近ウチの団でちょっとしたトラブルがありまして……資金繰りや退団者の諸処理等でゴタついていて現在入団者の受け入れを断っている状況なんです。そういう開店休業状態の傭兵団は名前を売るような行為を自粛する暗黙の了解みたいなものがあるんです。同業の中での狭いルールですけどね」
「あぁ、そういう……解りました、これ以上団の事を聞いたりしないようにします」
「どうもすいません。気を使っていただいて」

 特に大した訳がある訳でもなかった。
 会社内がごたついて、求人募集の広告を取り下げるようなものだろう。
 変に名前が売れても受け入れられなければ意味がないどころか、悪印象すら与えてしまいかねないからな。
 小さい傭兵団って話だし、そういう営業努力はとても大事だ。
 というか、キルシュが団員へのアピールをする必要があると考えたのもそのトラブルが関係してるんだろうな。
 しかし、傭兵団多いな……現代のベンチャーIT企業みたいなもんで人気職なんだろうか?

「正直こんな大会に参加するのも私は反対だったんですけどね。私に内緒で参加登録を済ませてしまいまして……まぁ、勝ってしまった以上はウチの様な小型の傭兵団としては将来的な仕事に繋げなければ勿体ないという事で、私も参上した次第です。戦えれば満足なだけのアレには任せておけませんしね」
「なるほど、営業活動ですか」
「そういう訳です。素直にパーティを楽しみたいところですが、世知辛い話です」

 お金は大事だよね。
 俺達も身につまされて協会の仕事を始めたから凄く良くわかる。
 何だろうこの人とはすごく話が合う気がする。

「では、我々は失礼しますね」
「あ、はい。営業頑張ってください」
「えぇ~? オイラはもっと話してたいんだけど」

 キルシュが静かだと思ったらどうやらチェリーさんと話してたようだ。準決勝での戦いについていろいろ話してたんだろうか?

「優勝したあなたが居なければ商談にもならないでしょうが! さっさと行きますよ!」
「えぇ~……? ってうわっ、わかった! わかったから引っ張るなって! それじゃ兄ちゃん、姉ちゃん、またなー!」
「お、おう。またな」

 何というか、やり放題だなあいつ……俺達と話してた時と比べて大分相方だから容赦がないって事かね。

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