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三章

百五十話 決勝大会Ⅰ

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 「只今より闘技大会を開催いたします!!」

 ……とかなんとか、外ではなんか盛り上がっているみたいで、壁を通してくぐもった歓声みたいなのが時折聞こえてくる。
 規模的にはそれほど大きな大会というわけでもない。イメージ的には市の体育館でやる高校生の空手や剣道なんかの市内大会程度の規模だ。毎月定期的にやる大会だと、こんなもんなんだろう。あまり大きな大会だと色々気負いとか出てくるし、腕試し的には丁度良いのかも知れない。ただし客は大入りのようだが。
 まぁ現代と違い、テレビやネットみたいに自宅で楽しめるような物は無いだろうし、そもそも娯楽自体が限られているだろうから、こういった見世物は特に大人気なんだろうな。
 ただ、雰囲気は雰囲気であって、スポーツ大会とかとは違い選手宣誓みたいなのは特に無いようだった。
 8人まで絞ってるんだから、最初に全員の紹介みたいなのが入るかと思っていたんだが、正直無くて助かった。
 人前に立って目立つのってどうも苦手なんだよな、やっぱり。

 そんな感じで開幕式が華々しく盛り上がってる中、選手一同はというと、大して広くもない控室詰め込まれていた。
 といっても流石にすし詰めというほど狭くはないし、対戦相手と同じ控室にするという訳では無いようで、4人一部屋だ。
 チェリーさんやキルシュはどうやら別室らしい。つか、当然ながら知り合いが一人も居ねぇ……
 全員無言で各々好きなように時間を潰していると言った感じだ。
 しかし、集合時間に集まった8人とこの部屋にいるメンツを見比べてみると、流石にあからさますぎて俺にも部屋分けの意図は察することができてしまう。
 あの8人の中でも特に注目選手だと俺が見て取った3人と、見るからに身体つきの良いもう一人がもう一つの部屋に固まり、こっちの部屋は俺含めてあまりパッとしない連中ばかり。
 要するに、一回戦で強者があっさりと共食いで潰し合わないように、組分けされてるんだろうな。
 あの予選の時に居た係員は、審判と同時に組み合わせを決める際の強さも同時に測っていたとそういうことなんだろう。
 まぁ運営意図も分かるし、別にイカサマが有るってわけでもない。一回戦を勝ち抜けば結局強者同士でぶつかる訳だからな。
 俺が一段下に見られるのも、勝手に相手が過小評価してくれるというならむしろ楽でいいと思えるくらいだ。
 ただ、それはあくまで戦場での話であって、こう言う一応は対等試合のはずの競技戦闘で最初から格下に見られるってのは、なんというか良い気はしねぇよなぁ。

 他の連中も薄々気づいてるのか、とてもじゃないが良い雰囲気とは言えない。
 ここで主人公属性を持ったコミュ力の高いやつなら、周りに発破をかけたりして盛り上げていくんだろうが、あいにく俺はそんなコミュ力とは無縁の存在なので、おとなしくしていることしか出来ん。
 出来んが、やっぱり気に食わないことには変わりないから、試合ではいっちょドカーンと本気出させてもらおう。


  ◇◇◇


 ドカーン

「一瞬で決まったー!! キョウ選手の瞬殺劇だー!!」

 いや、ドカーンじゃねぇよ! こっちはポカーンだっつの。見掛け倒しもいいとこじゃねぇか!
 開幕、様子見に放った俺の諸手突きがそのまま相手の胸甲をひしゃげさせていた。
 真正面から突撃してこようとした相手の胸へカウンター気味に入ったのか、相手はそのまま白目をむいて気絶。試合終了だ。
 試合時間にして約5秒。
 試合前のこっ恥ずかしい上に長々とした選手紹介だけで10分位かかってたのに、アレは一体何だったんだ。
 確かに他の三人に比べて見劣りしたけど、もしかしてガタイが良いだけで、実際はただの運で勝ち上がってきただけか?
 とはいえ、だ。体格差がとんでもなく大きいとは言え、いくらなんでも舐め過ぎだろ。ふざけんじゃねぇぞ。


  ◇◇◇


「キョウくん、顔、顔」
「ん?」

 先に試合を終わらせて舞台袖で待っていたチェリーさんが顔を指差していた。
 どういう意味だ?

「仏頂面。すごいよ?」
「あぁ……顔に出てた?」
「そりゃもう。勝ち上がってきたのにこれ以上無いってくらいの不服顔」
「む……でもなぁ」

 あんな消化不良な対戦後じゃ、不満にもなる。
 俺と同じ負け組認定を受けてたチェリーさんの対戦相手ですらもうちょっとマシだったってのに……

「気持ちは解らないでもないけどね。流石にあの瞬殺激じゃぁ流石に……ねぇ?」
「あんなのが勝ち組認定されてたんだろ? 運営の目は節穴かっつの」
「そうは言っても、他のも五十歩百歩だったけどねぇ」
「キルシュの相手も?」

 俺の試合直前だったから、様子を見れなかったんだが……

「完全に遊ばれてたわね。しかも速攻で飽きられて鎧袖一触」

 まぁ、キルシュの腕ならそうなるだろうな。
 多分だけどアイツが今回の大会で一番強いし。
 あれで小規模の傭兵団のルーキーとか末恐ろしいにも程がある。

「そんなんばかりなら、俺を勝ち組側に入れてもバチは当たらんと思うんだがなぁ」
「キョウくんの場合は、なんというか地味だからねぇ」
「地味か~」
「うん。超地味」

 そこはまぁ、自覚は有る。
 ステータス差を技術で補うって戦い方は、要するに小手先の技術で派手な力を押さえ込む戦い方だ。
 相手に実力を出させずに、こちらの実力まで引きずり下ろすような展開になるので、俺も相手もとにかく地味な戦い方になってしまう。
 そうなれば、派手な戦いを好むチェリーさんとかと比べると、そりゃもう目立たないだろう。
 しかも武器が特殊なためか、チェリーさんの『スパイラルチャージ』や『サイクロンスラスト』のような派手の必殺技も1つもないし。
 というか俺が持ってる必殺スキルって片手剣の『ピアース』だけなんだよなぁ。その片手剣も久しく触ってねぇし。
 やっぱり特殊武器っぽいミアリギスだから、必殺技の習得条件が普通の武器よりも高いのか……?
 一応武器として成立している以上は、対応技が存在しないなんてことは無いだろうが……無いよな?
 まぁなんにせよ、そういう訳で戦い方も地味なら、必殺技も無い有様では確かに目に止めろというのは理不尽な物言いかもしれん……が、それにしてもなぁ。

「派手に戦えるようになるための経験稼ぎと腕試しだったはずなんだがなぁ」

 さっきの相手じゃ弱すぎるし、キルシュじゃ強すぎる。
 チェリーさんは程よく俺より強くていい塩梅なんだが、付き合いが長い分、癖とかを見抜けてしまっているから腕試しっていうのとはちょっと変わっちまうんだよなぁ。
 幸い、準決勝はキルシュでもチェリーさんでもないから、ソッチの強さに期待するしか無い。

「そういえば次の試合、チェリーさんの相手はキルシュだけど大丈夫か?」
「う~ん……正直まともにやったらちょっと勝て無さそうなんだよねぇ」
「お、チェリーさんも相手の強さが分かるようになってきた?」

 こっちのサーバに来た直後の頃は、よく見た目で油断してネズミとか鹿とかに猛反撃を受けて痛い目にあってたものだが、大分成長したみたいだな。
 ……なんて上から目線でどうこう言えるほど、俺も大したもんじゃないんだが。

「まぁ、キョウくんとしばらく一緒に居たからねぇ。エリスちゃんやサリちゃんっていう良い見本があったし、流石の私ももう見た目で強さを見誤ったりはしないよ……見抜ける相手ならの話だけど」
「あぁ、なるほど。たしかにあの子達と一緒に訓練してれば自然と身につくかも」
「見た目と強さが一致しない代名詞みたいなもんだからね、特にサリちゃん」

 確かに、あの子は元来の性格はかなりおとなしいけど、ガーヴさんにさんざん仕込まれたせいか、護身術が護身の域を軽く飛び越えて、近接戦のエキスパートみたいな動きするんだよな。
 ガーヴさんもガーヴさんで、スポンジみたいに技を習得していくサリちゃんに面白がってかなり高難度の技とかをガンガン覚えさせてるみたいだし、大きくなったらとんでもない武道家になるんじゃないか……?
 現時点でも状況を選ばない総合戦力としては、エリスやチェリーさんよりもサリちゃんのほうが多分強い。
 チェリーさんが来る前、俺も何度かガーヴさんとの訓練がてらサリちゃんと手合わせしたことが有るが、本気でやってもかなりヒヤリとする瞬間が何度もあった。
 子供の成長速度ってのは馬鹿にできないから、今のサリちゃんはおそらく俺とやってた頃よりもっとずっと強くなってるだろうから、下手をすると俺も追い抜かれているかもしれないほどだ。

「チェリーさんも大分伸びてるみたいだし、俺もすこしは強くならねぇとなぁ」
「そうしないとお兄ちゃん出来ないもんねぇ?」
「ぐむ……」

 ……実のところ、俺が強くなろうとするためのモチベーションは、この間死にかけたって事も大きいが、もう一つ、理由がある。
 件のサリちゃんやエリスにまだしばらくは兄貴面していたいっていう、どうしようもない理由が。
 ちなみにチェリーさんには速攻でバレた。兄弟の居るチェリーさんにとってはどうやら見慣れた物だったらしい。
 これは単純な見栄とかではなく、どっちかというと習慣癖のようなものだ。
 施設のヤンチャなガキどもに言うことを聞かせるには舐められてはならず、強い兄貴を印象づける必要があった。でなければ子供は言うことを聞こうとしないというのを、俺自身が当時みんなの姉代わりだった人の言うことをちっとも聞かない悪ガキだったからこそ理解していた。
 だからなのか、今でも小さな子ども相手にはもう習慣的なレベルで女の子にはいい兄貴を、男の子には怖い兄貴を無意識に印象付けようとする事を自分でも自覚している。
 なんというかもうこれは、生活習慣として頭に刷り込まれ脊椎反射的にそう行動してしまうのだ。
 そんな俺がもしサリちゃんやエリスに「キョウ(さん)、弱い(です)ね!」なんて言われたら、軽く凹むどころか心が折れかねない。
 というわけで、二人が子供の内はええかっこしいの為にも少しは強くなろうとやる気を出しているのだ。

「とまぁ、からかうのはコレまでにして、真面目な話キルシュ君相手には胸を借りるつもりで色々試させてもらうつもり。何だかんだで付き合ってくれそうな気はするのよね」
「まぁ、あの正確だからな」

 面白く戦える相手なら喜んで試合を長引かせたりしそうだ。

「キョウくん以外の、しかもレベルも技術も上の相手と一対一で戦える機会ってなかなか無いしね。幸いキルシュくんもノリノリだし、この機会を逃す手はないってね」
「そうだな、この際だし一丁揉んでもらうと良いんじゃないか?」
「揉むって、おっぱいを?」
「へぇ、若い子に揉ませたい派?」
「む~……最近返しが冷静になって反応がつまらないんですけど~?」

 そりゃ、アレだけ散々からかわれれば、多少の耐性くらいはつくって。
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