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三章

百四十七話 予選Ⅰ

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「いやー、テンション上がるわね!」
「つっても、まだ予選だけどな」

 闘技大会初日。
 予選を行うということで闘技場の前に集まった選手一同に混じって、俺とチェリーさんはとりあえず待っていた。
 エリスとハティは年齢的に出られないので、留守番を頼もうと思ったんだが、エリスの強い要望で俺達が大会に参加している間は本を読んで勉強したいらしい。
 それを断る理由はないというか、自分の意志で勉強するというのならむしろどんどんやってほしい所なので、エリスのやりたいようにやらせてみることにした。

 さて、時間に遅れたわけでもないと思うが、一体これからどうすれば良いんだと考え始めた所で、丁度人混みが移動を開始した。
 戦闘に誰かが居て集団を引っ張っているようなので、どうやら係員に従って移動しているらしい。
 そういうのは先に説明して欲しい……と思ったが、先頭団体からの距離を考えると多分説明はしていたが、俺達のところまで声が届かなかったって所だろう。
 マイクやスピーカーなんて無いだろうからな。拡声器代わりの魔法とかはありそうな気がしないでもないが。
 
 しかし、今回の大会は毎月やってる小規模大会という話だったが、かなりの人数が集まってるように見える。
 三百は届かないと思うが、二百は軽く超えているんじゃないだろうか。
 どこかにキルシュも居るんだろうが、こう固まって動いていると、流石に見つけられそうにないな。

「折角闘技場の前に集まったのに、なんで離れるのかしら?」
「さぁ? 人が多すぎるから闘技場だと予選が終わらないとかなんじゃない? 入ったこと無いから中の作りが判らんし、何とも言えんけど」

 そういや、一度闘技場の下見をしようと思ってたんだっけか。依頼の方に意識を持ってかれていて完全に頭から抜けてたな。
 ま、忘れてたもんは仕方ねーか。

「闘技場でやらないってなら、何処でやるのかしら?」
「そりゃ、街中でやるわけにもイカンだろうし、門の外でやるんじゃねぇの?」

 一番戦いに向いているあろう闘技場を使わないという事であれば、別所に求められるのは闘技場以上の利便性だ。そういう意味では壁の外は迷惑をかける事になるような人もそう居ないし、広いスペースを自由に使えると言うことでもある。
 予選なんて別に客を意識したものじゃなく、あくまで出場者選別にすぎないのだから、人数を捌き切るため複数の組分けをして、予選を複数人同時進行で進めるというのが、時間を節約できて且つ手っ取り早い。まぁ、何かしらの大会に出たことがある人ならお馴染みの光景ではある。
 ゲーム大会然り、スポーツ大会然りだ。

 そうして連れてこられたのは予想通り門の外。
 毎度そうしてるのか、草原の中にあってこの場所だけは地面は踏み固められており、運動場のようになっていた。
 しかも、高くは無いが盛り土がされ、一応簡易ステージのようなものがいくつも作られている。これなら草に足を取られるなんてこともないだろう。
 しかしかなりの広さがあるな。これなら10組くらいずつ同時にやれるんじゃなかろうか。
 そのちょっとした広場の中心で行進が止まった。相変わらず前の方で何かを叫んでいるが、ざわつきが多くて聞き取りづらい。仕方がない、ちょっと前の方に……

「ちょっと何言ってるのか聞き取れないし私前の方に出るけど、キョウくんはどうする?」
「いや、俺も全く同じことを考えてた。一緒に行こう」

 考えることは同じか。まぁほんとに聞き取りにくいしな。一応大声で叫んでいるんだろうけど、もうちょっと声を張って欲しい。
 何か叫ぶたびに人が前に出てるから、名前を読んでるのかもしれない。だとしたら名前を聞き逃して不戦敗とかは流石に避けたいからな。
 周りの参加者も同じことを思ったのか、舌打ちしながら隊列を崩して係員を囲うように陣を組み直し始めていた。

「あの、あの! 呼び出すまで列を崩さないようにお願いしますぅ」
「姉ちゃんの声が小さすぎて、全く聞こえねぇんだよ!」
「でも、でも、指示には従っていただかないと……」
「そう思うならもっとでかい声で呼び出してくれよ。アンタのせいで不戦敗なんて勘弁願いたいんだよコッチは!」

 これは係員が文句言われても仕方がない。本人は頑張っているつもりなのか知らないが、本当に後ろの方には全く声が届いていなかったからな。
 実際このやり取りすら後ろの方には怒鳴っている参加者の声しか聞こえていないんだろう。参加者たちは次々と列を崩して声が聞こえる距離まで寄ってきていた。

「オイ嬢ちゃん、その名簿よこしな」
「あっ……!」
「えぇと、今まで呼んだのがここまでだな……? よし、ギリアム・ウーガ、エスト・スーラー、アリオス・カーリエン! それとアル・シシルと……ジン・コリオ。今名前読んだやつは既に呼ばれて集まってる奴の所へ集まってくれ! 続いて……」

 見かねた参加者の一人が、係員の女の子から名簿を取り上げると代わりに読み上げ始めてしまった。
 正直コレはありなのかと思う所だが、ハッキリ言ってこっちとしては聞き逃しかねない様な声で呼ばれるよりも遥かに良い。
 係員の子もオロオロするばかりでちっとも場を収集できてないしな。
 審判役だろうか? 先に現地に来ていた係員と同じ格好をした人たちも、参加者の好きなようにさせてるのを見る感じ、あの係員の娘に任せるよりも、進行にはこのままあの男にやらせた方が良いと判断しているんだろか?
 ……いや呆気にとられてるだけか。
 しかしあの参加者の人、すげぇテキパキと話を勧めていくな。王都の詰め所で会っジルクリフって騎士も「仕事の出来る」って感じのおっさんだったが、あの人からも似た空気を感じる。
 こういう場で率先して前に出て場を取りまとめるのに妙に慣れてる感じがするし。パーティのリーダーとかやってる人だろうか?

「キョウ・ハイナ! エンリコ・サジャーノに、アル・イブリス!」
「キョウくん、呼ばれてるよ」
「おっと……」

 俺のキャラネーム名字がなかったから、ハイナ村の名前を借りたのを忘れてた。
 呼ばれるがまま前に出て、集められたメンツの所へ向かう。
 どうやら12人ずつ集められているようだが、ここからどうするんだ……?

「さて、組み分けが済んだわけだが、その組ごとに戦闘を行ってもらう。一対一ではなく全員でだ」

 バトルロイヤルかよ!?

「ルールは簡単。武器の使用は禁止、舞台から落ちた奴は失格。それだけだ。要するにその舞台上で最後まで立っていた奴の勝ちだって事だな。当然一度でも場外に落ちれば本戦同様復帰は認められんぞ」

 なるほど、ずいぶんと広いとは思ったが、元々バトルロイヤル前提だから盛り土のステージがこんなに広いのか。
 確かにこれなら短時間で人数を絞り込める。しかも武器の使用を禁止すれば事故死の危険も減るだろうし、監督する側も楽だろう。
 しかし予選だからか? 闘技場というよりは何というか相撲みたいだな。どうやら倒されても場外にさえ落ちされなければ問題ないようだが……

「えーと? あとはステージに割り振られた係員の誘導に従ってくれ。以上!」

 そういって、場を取り仕切っていた男は読み上げに使った名簿を呆然としている係員に突っ返して、自分もグループの中に混ざっていく。
 それで、他の審判役っぽい係員の人も我に返ったのか、集まった俺達の誘導を開始し始めた。
 毎月やってるんだよな? それでこのグダりっぷり……大丈夫か? この大会。

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