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三章

百四十六話 ご帰還

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「たっだいまー!」
「……っ!?」

 大会前日は休養日として、ゆっくり身体を休めようとベッドに転がってうつらうつらと眠気が来始めた所で、凄い勢いでチェリーさんが部屋に飛び込んできたもんだから、ビクッとして目が冷めてしまった。

「とぅっ!」
「ごぇぇ!?」

 というかそのままの勢いでボディプレスまでブチかましてきやがった。子供か!? これ地味にとか言うレベルでなく苦しいんだぞ。
 つかテンション高すぎるだろう。

「目覚ましダイブは勘弁してくれ。アレが許されるのは子供だけ……いや子供でも滅茶苦茶苦しいから……」
「あはは、つい勢い余って」

 施設ではガキ共からさんざん食らったが、子供とは言えかなりの重量な訳で、当たりどころが悪いと目が覚めると同時にリバース案件だったからな。

「おかえり、その様子だと目的は果たせたみたいだな」
「当然! 見てよこれ~、無事クエストもクリアして、ついに私の槍もこの通り復活したわよ! というか元よりちょっとパワーアップしてるのよ!」

 愛槍が復活してテンションMAX。見せびらかしたい気持ちは分からんでもないが、部屋の中で槍を振り回すのは勘弁して欲しい。普通に怖いわ。

「協会のクエストの方はどうだった? エリスちゃんからは2つクリアしたって聞いたけど」
「とりあえず10等級と9等級の駆除依頼は問題なくこなせたよ。落ち着いたら8等級のに挑もうと思ってる」
「製品版の方とは数字が逆なんだっけ? 8等級って事はLv3相当って事だよね?」
「そうなるね。オープニングイベントでの無茶振り対戦で出てきたモンスター相当だと思うけど、こっちでの8等級と製品版のLv3の強さが同じとは限らないからな……」
「それはまぁ……そうね。Lv3のサラマンダーなら一人でもなんとかできる自信はあるけど、こっちではその辺のヤギに負けたからね、私」

 そうなんだよな。
 ヤギなんてそれこそ等級で言えば10等級の扱いの筈だ。
 だけど、当時既にLv3だったチェリーさんは何度もボコられてようやく倒すことが出来た。
 AIの挙動だとかそういうシンプルなものだけじゃなく、本物のようなプレッシャーを感じるんだよな。こっちの獣って。
 製品版の強さの段階と、こっちの強さの段階が同等とは限らないからこそ慎重に一つずつ等級を上げていってるわけなんだが。

「俺は製品版のLv3モンスターとはまだ戦ったこと無いけど、昨日戦った9等級の野犬は、間違いなく俺が戦った事のあるLv2のサソリ型モンスターよりも厄介だったよ」
「やっぱり、そうなるよねぇ。こっちでの等級による強さの基準は地道に強さを測っていくしか無いね」

 そういう判断になるよな。
 いきなり「とりあえず試しに殴り掛かる」のはリスクが高すぎる。
 協会っていう便利な組織があるんだから、うまく活用していかないと勿体無い。

「ソッチはどうだったのさ? 護衛目的を達成出来たのは見れば分かるけどさ」
「色々あったわよ~? 最初はずっと平和で、襲ってくるのも蛇とかコウモリとかその程度だったんだけど、最終日にとんでもないのが襲ってきてねぇ」
「とんでもないの?」

 チェリーさん視点でとんでもないって事は、少なくともレベル4以上……いや、同等でとんでもないって表現はそう使わないだろうから最低でもLv5相当って事か? となると、ライノスやイベントで見たルビースケイルよりもさらに格上ってことになるが……
 
「詳しいのはわからないけど、同行していた護衛が言うにはラスティ・スケイルってモンスターみたいで、なんと4等級の大物だって話だったわね。すごく鋭角的なアルマジロって感じの見た目なんだけど、実際今まで見たことないくらい強そうだったわ。あれに比べたらボス猿なんて雑魚ね、雑魚」

 おいおい、4等級って確かアーマードレイクとかのクラスだった筈だぞ。災害レベルじゃねーか。
 人か獣かも判らん『鬼』はこの際考慮しないとして、アーマードレイクは俺が今まで見た獣の中でも味方であるハティを除いて最強だったんだが……アレと同等となるとかなりヤバイ筈だ。
 
「よく倒せたな。4等級の化物と戦ったことはあるけど、アレはそう簡単に倒せるもんじゃないだろ」

 俺の時はハティがムシャムシャしてくれたから助かったが、あの場にハティが居なければ村は大変なことになってた筈だ。
 ガーヴさんでも手傷を負わせるには至らなかったし、いくらあの王様が居合わせたと言っても、アレを一人で倒すのは流石に難しかったろうからな。

「それが、居合わせた人の中に一人、すごい人が混ざってたのよ!!」
「うぉ!? びっくりした」

 会話中に突然テンション上がるのは良いけど、顔近すぎるから! 鼻息届いてるんですけど!?

「たった一人で、アルマジロの化物を倒しちゃったのよ。しかも余裕で」
「4等級を一人で? マジなのそれ?」
「マジも大マジ! 術系統って極めるとあそこまでやれるのねぇ。スキルと違いが判らないくらいの速度で魔法完成させるわ、近づかれてもヒラリヒラリと躱しながら急所に魔法を打ち込んでいくわで、もう芸術的って言えるレベルの戦いだったのよ」

 要するに、とんでもないレベルの魔法使いだったって事だな。
 詠唱とか殆ど無しで魔法が発動できて、しかも近接戦にも対応できると。相当戦い慣れた手練なんだろうな。
 あのアーマードレイクと同等の怪物をたった一人であしらうとかちょっと想像できないが、たしかに目の前でそんなの見せられたら俺でも興奮するかもしれない。

「なんでそんな人が鉱山の護衛任務なんて受けてたんだ?」
「それが、護衛で参加してたわけじゃなくて、護衛団に便乗して山を越えようとしてた竜車の方に乗ってたのよ。行きがかり上助けてくれたって感じ」

 あぁ、なるほど。単に巻き込まれただけだったって事か。
 にしても、4等級なんてバケモノに遭遇した時に、偶然それを上回るトンデモ魔法使いが居合わせて助かったとか、チェリーさんってなかなかに主人公属性備えてるんじゃないか?
 なかなか無いぞ、そんな幸運。

「少し話しただけだったけど、強さとか全然気にかけない気風の良い姉さんって感じでかなりカッコよかったわ! 思わずファンになっちゃったわよ」
「気風の良い姉さん……って、その魔法使いの人は女の人なのか」
「そう! 周りからは『緋眼の姉さん』って言われてて、その道では結構有名な人みたい。実際すごい綺麗な緋色の瞳しててさ。ALPHAでもいろいろカラフルな髪や目の色のNPCを見て来たけど、あんな綺麗な緋色を見たのは初めてだったな」
「へぇ、そんな印象に残るくらいなら俺も見てみたかったかも」
「キョウくんがあの場に居たら、間違いなく見惚れてたね。滅茶苦茶美人だったから」

 割と意見の厳しい女の立場から見て、迷わず美人だと称賛されるってことは相当なんだろうな。
 興味はあるが、そんな美人を前にしたらチェリーさんの言う通り見惚れた挙げ句、それをネタにしばらく弄られるだろうから、ある意味見合わせ無くてよかったのかもしれんな。
 
「まぁ、そんな訳でようやく戦線復帰よ。いきなり遠回りになっちゃったけどこれで私もレベル上げに合流できるわね」
「その前に大会なんだけどな」
「あれ? 大会って明日からよね?」
「明日から大会だから、今日は身体をゆっくり休めるんだよ。昨日一昨日と戦闘は夜続きだったから、流石に前日くらいゆっくり休みたい」
「あぁ、そっかぁ……大会前の仕上げに私も一度依頼受けてみたかったんだけどなぁ」
「朝と夜の鍛錬はいつもどおりやるからそれで勘弁してくれ。協会にもしばらく休むって伝えちまったからな」

 大会が終わっても製品版の方のイベントがあるし、また数日は向こうで過ごすことになりそうだからな。
 武器も復活したみたいだし、チェリーさんがいればもう少し安全にモンスターの等級の強さの見極めができるようになるから、正直イベントなんてほっぽってこっちでの狩りを進めたいんだが……まぁ仕事だしな。

「それじゃ仕方ないか~。それじゃ私は一旦部屋に戻るよ! エリスちゃん達にも会いたいしね」

 エリスとハティなら部屋には居ねぇ……と言おうとしたが、当のチェリーさんは既に部屋の外だった。
 自分の部屋に帰る前にこっちに突撃してきたんか。舞い上がってんなぁ。
 それだけ槍が戻ったのが嬉しいってことか。一応この世界での初任給で買った槍だし、俺には判らん思い入れがあったんだろう。
 それにしても、もう少しで寝られそうだったのに、随分半端な時間で目が覚めちまったな……とはいえ、今から何かやろうかと考えても、特に思い浮かぶものもない。
 結局のところ、ベッドで寝転んだままさてどうしたものかと頭を悩ませてるうちに、陽気にやられて何時の間にやら眠りに落ちていた。
 
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