ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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三章

百四十三話 お給金

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「シュリガーラの尾、確かにお預かりします。これで依頼は完了となります。お疲れ様でした」

 翌朝、戦利品を手に協会の事務所に顔を出して報酬を受け取った。
 これがこの世界での俺の初任給か。
 まぁ日雇いの土方バイト的なものだけど、対価が貰えるのはやっぱりちょっと嬉しい。
 一応、王都でのゴタゴタでの協力報奨はもらったが、あれは働いて稼いだってよりも、知り合いのおっちゃん手伝って貰ったお駄賃的な感じだったから、給料というのとは違うんだよな。
 大した怪我もしなかったから薬代は掛からなかったし、野宿用の装備に関してはハイナ村に買えるために王都で買い込んであったので、依頼のための必要経費は最低限で済んだ。
 そのおかげで、稼ぎとしては報酬の銀貨50枚がそのまま収入となった。一日で終わったことを考えると悪い稼ぎじゃあない。
 一人あたり銀貨16枚程度。めし処で一食銀貨1枚前後だから、だいたい日本円だと1万5千~2万円くらいの感じか。3人で割っても日払いの一日バイト程度の報酬と考えるとまぁ、意外と悪くない。
 一人でやれば総取り、日給5万の稼ぎになるが、獣の群れを一人で追い回すとか考えたくないし、そう考えると最初から何人かで割る前提での価格なのかもしれん。
 あんま危険じゃない割にそれなりの値段だったのは獣相手でも殺しが必要だからだろうか?。
 というかこの仕事、どう考えても……

「どうしました?」
「いや、契約金は事前に判っていたんですけど、いざ仕事をやってみると一番ランクの低い初心者向けの仕事でも、結構な報酬額なんだなと」
「実のところ、仲介依頼を何のトラブルもなく翌日に達成できるというのはなかなか無いんですよ」
「というのは? なにか特別な事情でも?」
「いいえ、聞けば納得していただけると思う程度の、もっと初歩的な話です」
「初歩的?」

 いやまぁ、俺たちがやった仲介依頼……まぁ言い分けるのも面倒だしもうクエストで良いか、それも超初歩的な奴だから、比較対象にされるならそりゃ初歩的な問題なんだろうけど、どういう意味だ?
 初心者用としてお勧めされるだけあって、はっきり言って何か大きなトラブルが起きる様な内容じゃなかった筈だぞ。

「あの金額でも最初は黒字を出せないんですよ。ほとんどの新人がです」
「何でまた……確かに取り逃がしたりして時間がかかれば、その分の食糧なんかの手間賃が増えますけど、それでも赤は出なくありません?」

 日払いで宿代の部屋取ってたりしたら宿代で足が出たりするかもしれないが、初心者がそんなリスキーな事はしやしない……よな?

「それ以前の問題です。初心者というのは依頼に対する適切な戦力を測れるような経験が無いですから、一人で無茶な依頼を受けたり、あるいは一人でどうにでもできるような内容に4人も5人も仲間を集めたり……」
「あぁ……まぁ、うん」

 確かに戦力計算はやって慣れないと判らない事多いよな。
 俺も、協会の仕事の仕組みが分からなかったというのもあるが、それ以上にこの辺りの獣の事情を知らなかったからこそ、安全確認的な意味も兼ねてチュートリアル的な初心者クエストを受けた訳だしな。

「駆け出しが最初から仲間と組んでいるというのは稀ですから、まず仲間探しから必要になります。場合によってはそこからさらに準備に数日、討伐数に満たなければ日を跨いで再び捜索と討伐です」
「あの程度の仕事の準備に数日とか、流石に手間取り過ぎでは……?」
「戦力計算が出来ない訳ですからね。以来の難易度と費用対効果を測る基準のない新人は赤字でも生きて帰ってくるだけマシという感じなんです。人によっては野犬退治程度の依頼で命を落とす新人というのも居ますからね」
「それは流石に向いてなかったとしか言えないんじゃ……」

 実力的に野犬に勝てないなら、こんな仕事とてもやっていけないし、実力があったのに野犬程度に後れを取るのであれば、格下相手に油断のし過ぎでやっぱり向いているとは思えない。
 害獣駆除以外の何でも屋的な依頼に限定するべきだったんじゃないだろうか。

「私から見れば、昨日まで協会のことすら知らなかった貴方方の手際の良さにこそ驚いていますよ。協会に入る前から知人縁者が協会関係者でもない限り、誰も似たような感じですから」
「……といわれても、こちらとしては当たり前に必要なものを揃えただけなんですけど……」
「あなたのいう「当たり前」というのを事前に準備できない人がそれだけ多いということです」

 俺としてはただの遠足感覚で、野宿用の器具一式と携帯食料、怪我した時用の消毒薬、それと武具一式くらいしか用意していないだが……。
 まぁ、ゲームという形で冒険者ギルドという似たようなものの仕組み知ってたり、インターネットなんて便利なもので色々雑学的に情報を仕入れられる環境があったというのがデカいんだろうな。

「事前準備も疎かに害獣とぶつかれば、逃げられてしまったり手傷を負わされることもあります。そういった失敗から学んで事前に準備を重ね、人脈をつくり、依頼の達成に足る最低限のコストを見定められるようになって初めて稼ぎが出せるようになるんです」
「そうやって聞けば結構厳しいですね」
「そう言いながら、貴方達は最初からそういった基礎が完成していたから驚きましたんですよ?」

 日本人的にはごく当たり前のリスク管理だから、驚かれても反応に困るというか……
 そもそもの話として、日本人は一定の教育を義務として受けてる訳だから、その時点で俺とこの世界の一般の成人とではでは基礎教養の点でかなりの差があるんだろう。
 これは王都の様な大都市ですら識字率の低さや、簡単な算数レベルの計算すらもおぼつかない人が多い事を見る限りほぼ間違いない。
 おそらく商人のように普段から字を扱う人や、城勤めの役人でもない限り、文字を読めても書ける人は少ないんじゃないかと思われる。
 闘技大会の受付でも当たり前のように代筆の申し出があったくらいだしな。

「貴方方は例外としても、大抵の人が失敗するものなんです。それでも失敗から学びコツさえ掴めば、払われる依頼料は他の仕事に比べてかなり大きいので、協会の仲介依頼はかなりの人気なんですよ? この街にはそれ以上の一攫千金があるせいで廃れてますけど、それはこの街だけの特殊な事情なんです」
「確かに。商売的な伝手や何かが無い人にとって、協会の依頼はちゃんとこなせるなら、かなりオイシイ稼ぎですね。閑古鳥が鳴いているこの状況しかしらない俺にも、実際にやってみれば人気のある仕事というのは判りました」

 おそらく、他の大都市……それこそ王都とかでも協会の建物は、それこそ製品版の始まりの街の冒険者ギルド並に人で溢れているんじゃないだろうか。
 何せ金になる。
 一番簡単な害獣駆除ですら、一日仕事を3人でこなして一人手取り1万超えという事は、それこそ高ランクの害獣駆除ともなれば、かなりの金額になるはずだ。
 当たり前に傭兵団なんて連中が活発に活動しているご時世だ。自分の武威を頼りにする連中はかなり多いハズ。
 戦いに自身はあるが傭兵になりきれなかった人や、敗残の傭兵くずれのような戦うことを生業にしてきた、戦うことでしか金を稼ぐ方法を知らないような人たちにとってこの仕事は美味しいなんてもんじゃない。
 当然高難度の依頼ともなれば、命がけになるかもしれないが、それを織り込んだ上でもだ。
 これは、この街に滞在している間に、できるだけ協会で稼ぐためのノウハウとかを教えてもらったほうが良さそうだな。
 幸い、目先の大会に気を取られて、依頼を取り合うライバルも何も居ない。
 職員も手が空いている様だし、この絶好のチャンスの間に少しでも情報を集めないとな。
 ……大会が無くてもこの街では協会の人気はたいして無さそうだが。

「じゃあ、美味しい仕事だと判ったところで、もう一段階上の駆除依頼をもらえますか?」
「……今後も協会の仕事を行っていくおつもりであれば、協会員として登録してしまいませんか?」
「うぅん、そっちの方が色々お得だというなら考えなくもないんですけど、それで何か義務が発生するのは色々困るんですよねぇ。俺等田舎者なんで、街で何かあって呼集とかされても多分気づけないと思いますし」
「いえ、協会はあくまで仕事の斡旋機関でしかないので、強制的に何かの仕事を強要するといった事は無いですよ。協会員へ登録してあれば、こちらが依頼を振りやすいという意味しかありません。キョウさんもご存知の通り、協会員に登録しなくても仕事を引き受けることは出来ますからね」

 確かに、仕事は簡単に受けることが出来たし、変に縛りが入れば誰も登録しなくなるのは目に見えてる。
 登録型の派遣会社みたいなもんかね?
 〇〇な仕事が来ているので受けてみませんかとメールがくる感じの。

「田舎に引きこもってる間になにがあっても、義務だからって呼び出されたり、罰金が付いたりする事は無いんですね?」
「はい。それはもちろん。そんな縛りつける様な真似をすれば、会員に逃げられてしまいますから」
「なら、とりあえず俺だけ試しに登録しようかな」
「わかりました。と言っても面倒な登録手順等は特にありません。お名前と本拠地……キョウさんであれば田舎の村の名前を記載していただくのみです。容姿特徴等はこちらで纏めますので」

 簡単な履歴書みたいなもんか。

「それと、このプレートを。胸元や手首といった見える場所へ巻いておいてください。他所の協会では職員がそのプレートによって振るべき仕事を判断しますので」

 おお、これはファンタジーモノのお約束、ギルドカード的な奴か。
 まぁ、カードというよりもドッグタグみたいな感じだが。

「わかりました。とりあえず首にかけときます」
「プレートには登録した街とあなたの名前、それと協会員だけが分かる暗号が記されているので偽造は出来なくなっています。もし紛失した場合は素直に申し出てくださいね? 再発行分の金額は頂きますが特に罰則はありませんので。むしろそれを隠して、紛失したプレートを犯罪に使われてしまった際にこそ罰則が発生してしまうのでご注意を」
「わかりました」

 まぁ、罰則がないなら紛失を誤魔化す理由はないわな。
 失くしたことを知らせて、再発行の金額が高すぎるようなら、そこで契約解除しちまえばいいだけだし。

「それでは、今日からあなたは国家間相互扶助協会の会員として登録されました。改めまして、私はあなたの担当を務めさせていただくシーマと申します。今後ともよろしくお願いします」

 おぉう。そういや受付の人の名前、知らないままだったのに今気づいた。
 向こうもそう長い付き合いにはならないと思って、あえて話さなかったんだろうけど。
 それにしても、なんかこのゲーム初めて結構経つが、ようやくこのALPHAでもMMORPGっぽいシステム要素を体験する事が出来たな。
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