ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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三章

百三十九話 協会Ⅰ

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 一夜明けて……

 朝食の後、チェリーさんと別れた俺とエリスとハティの三人で闘技大会の受付――つまり『協会』とやらの事務所に再び訪れたわけだが……

「相変わらず、大会の参加者受付としてしか機能してねぇな」
「そだねぇ」

 新しく入ってきた人も皆、受付でやり取りをしたらすぐに出ていってしまう。この建物の中に留まろうとする人は皆無だった。
 というか、受付も済ませてあるのにこの場に留まっている俺達が悪目立ちしている有様だ。
 受付の人の前に並んでいる人が居なくなったら、協会について話を聞きたいのだが、なかなか人の波が途切れないので待ちぼうけせざるを得ない。
 もしかして、派出所みたいな感じで、別所に受付があるんじゃないかとすら思えてくる。しかし、そうであってもその場所を知るためには結局話を聞く必要がある訳だ。めんどくせぇ……
 そうやって待つこと三十分ほどだろうか。いい加減人の列が収まらない事に苛つきを覚えていたところで、ようやく動きがあった。

「あの、受付方法がわからないのですか?」

 窓口に並ぶわけでもなく、ただ列を眺めている俺達のことを勘違いしたのか、職員と思わしき人の方から話しかけてきた。
 これはラッキーだ。タイミングを測りかねていた所をわざわざ相手から話しかけてきてくれるとは。
 この好機を逃す訳にはいかない。

「いえ、闘技大会の登録とは別にちょっと聞きたいことがあって……ちょっとお時間大丈夫ですか?」
「え? ええ……こちらは問題ありませんが……」
「ここは闘技大会の受付会場でもあるけれど、実際は協会の建物だと聞いたんですが」
「ええ、はい。そうですよ」

 とりあえず勘違いという訳じゃなかった訳だ。

「俺達、田舎から出てきたので協会というのがどういった組織なのか詳しく知らないので、よろしければ教えていただきたいんですけど……」
「はぁ、興味を持って来たのがこの街とはまぁ……ええ構いませんよ。何が知りたいのですか?」

 なんだ? なんか引っかかる反応だな。気にはなるが、今は別に知りたいことがある。変な好奇心で道をそれるのは我慢しておこう。

「基本的な事からお願いします。本当に何も知らないもので……」
「わかりました。それでは……」

 そうして話を聞いた感じ、纏めるとこうだ。
 協会というのは正式には「国家間相互扶助協会」というらしい。詠んで時のごとく国家間の互助組織という訳だ。
 国をまたいで存在し、国内へ逃げ込んだ犯罪者の指名手配や、危険な害獣などの討伐依頼を請け負っているという、まさに大抵のゲームプレイヤーが思い描く冒険者ギルドそのものと言って良い。
 ただし、協会の会員登録は誰でも簡単に入れる……と言う訳ではないらしい。
 国を跨いだ組織という事と、犯罪者の摘発などにも関わっている為、ハッキリとした身分証明が必要という話らしい。
 これは国に問い合わせれば、住民台帳から確認をとってくれるらしい。
 台町に関しては毎年、祭りの時期に更新されたという事なので、俺やエリスもちゃんとハイナ村の住民として登録してあるはずだ。
 今思うと、周辺の村長が集まって城で色々やってたのもその一環だったんだな。
 ただ、王都までの往復期間と実際に王都での確認作業の時間も含めて、手続きに約十日ほど掛かるらしい。
 ではそれまで仕事ができないのかと言うと、実はそんな事はないらしい。
 機密情報の扱いなどの問題で、犯罪者などを紛れ込ませる事のないように身元確認をキッチリするという事だが、それはつまり、そういった機密に関しないような以来であれば、会員登録していなくても仲介依頼という形で受けることが出来るらしい。
 とはいえ、そんな身分の不確かな相手にホイホイと仕事を流して大丈夫なのか? と聞いた所。

「仲介依頼の受諾に関しては身分証明は必要ありません。その変わり宿泊宿等の情報の記帳と、違約金と同額を担保として預けて頂くか、対象の位置を把握できる特別な道具に登録して戴くことになります」
「位置を把握する道具?」
「はい。お金を稼ぎたくても担保が払えない……という人は多いので。そういう人は特殊な腕輪を身に着けていただく事になります。これは依頼の失敗した際に、違約金を払うのを嫌って逃げる不届き者を捕まえるための必要な措置とご理解ください」
 
 ――という事らしい。こんな魔法のアイテム的な物まで使うって事は、実際にトンズラした奴が相応の数居たんだろうなぁ。
 まぁ、最低限のセキュリティは機能しているという事のようだ。

 そして、その依頼についてなのだが――
 基本的にゲームのクエストのように受注難度なんてものはある筈もなく、依頼の内容から自分で判断して身の丈にあったものを探してくださいと言うことだ。
 といっても、高難度の依頼は大抵は協会員の信頼の置ける相手に割り振られるので、仲介依頼として張り出されるような事は滅多にないそうだ。そりゃ、重要な仕事は信頼できる奴に頼みたいよな。
 ただし、害獣退治だけは話が別で、指定された害獣の危険度が1から10までの数字でランク分けされているらしい。数字が多いほど危険ということで、おそらく協会側の考えるモンスター側のレベルの基準なんだと思う。
 これらは命に関わるものなので、無謀な挑戦者が出ないように目に見えた形の基準を用意してあるんだそうな。

「それでも害獣退治で命を落とす人は毎年結構な数がでます。慣れない地域で最初に害獣駆除を請け負うのなら、自分なら行けると思った物より1つランクの低い獲物を狙うことをおすすめします」

 という事らしい。
 地域によって、協会在籍の戦士の質も変わるし、環境によって同じ種の害獣でも獰猛さに大きな差が出る事があるらしく、Aの街では10等級の獣が、Bの街では9等級の危険度になっているという事は珍しいことではないんだそうだ。
 環境によって強さが変わるとなると、確かに戦い慣れた敵だったとしても、新しく訪れた街での狩りは注意したほうが良さそうだな。
 とまぁ、職員さんの説明はこんな感じだった。

 詳しい話を聞いた上で比較してみても、やはり細かいルールや考え方なんかに違いがあるが、ほぼ冒険者ギルドそのものと言って問題はないはずだ。
 しかも登録しなくても依頼が受けられるというのは、こちらとしてはかなり助かる。
 担保云々以前に、協会への入会費とか請求されたらとても払えそうにないからな。
 まぁ入会云々の前にもう一つ確認しておきたいことがあるんだけどな。

「ところで、見た感じ闘技大会の受付以外やってないように感じるんですけど……」
「実際そのとおりの状況ですからね。この街では協会の影響力が特に弱いんです」
「これだけ寂れてるのはこの街が特別って事ですか?」
「そうですね。他の大きな街では大抵の協会支部は人で賑わっているはずです。以前勤めていた東の港町ではソレはもう盛況でしたよ」

 つまり、協会として機能できなくなるほどの特殊性がこの街にはあるってことか。
 他の街の状況を直接見たことがないからあまり鵜呑みには出来んが、この職員が嘘を言っているとも思えない。
 協会職員である以上、この協会だけが成績不振だなどと自分たちの株を落とす様な発言を進んでするとは考えにくいからな。
 しかし、それはそれで解らないことがある。

「ここは他に類を見ないほど戦士が集まっている街だと思うんですが、何故こんな状況に?」

 ここでは毎月大会が開かれているという。
 三月に一度行われる練武祭っていう大規模な大会と言う訳でもないのに、それでも登録にこれだけ人が並ぶほど盛況なんだ。戦えるだけの人が居ない訳がない。
 大会までこの街にとどまる以上、宿代は気にしなくてもいいと言っても食費なんかはどうしても掛かるはず。
 力自慢だと言うならそれこそ協会の依頼で小遣い稼ぎとか考えるやつが居てもいいと思うんだが……

「命がけで犯罪者を捕まえたり、凶悪な害獣と戦ったりしなくても、闘技場で勝ち抜けば大金が手に入りますから。なのでこの街では強者であるほど危険な仕事をしたがらない傾向が強いんです。この街独特の価値観ですね」
「それって、かなり問題があるんじゃ?」
「はい。そんなだから、住民たちも依頼を出しても受けてもらえない。結局自分で何とかするしか無いと、依頼自体が年々減ってまして……ただ、依頼が減ろうが問題自体は取り残されるわけで、害獣による被害が実際増えていると報告が上がってきています」

 あぁ、なるほど……って大問題じゃねーか。
 強ければ強いほど仕事をしたがらないとか……プロの格闘家が試合でしか戦わないのと同じか。
 闘技大会で優勝すれば大金が手に入る。となれば試合以外の戦いなんて怪我をするリスクでしか無い。怪我をしたら試合に出られなくなるのだから、誰も害獣となんて戦いたがらなくもなるか。
 俺なら、どうせ優勝なんて出来ねぇんだからとコツコツと小さな稼ぎを積み上げていくんだが……この街の人間は俺とは真逆で、一発逆転狙いのギャンブラーの比率がやたらと高いって訳か。

「幸い、街中の治安は、闘技場の有力選手の一人がこの街の裏の顔でもあるおかげで、むしろ以前より引き締まっているくらいなのですけどね……」

 その分街の外がえらいことになってる、と。
 なんだか面倒臭そうなことになってんなぁ……
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