ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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三章

百三十二話 へんしん

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「何というかこの国の門兵はロクでのないのが多いわねぇ」

 苦笑とともにつぶやくチェリーさんだったが、その意見には概ね同意だ。
 王都の時と言い今回といい門をくぐるだけで随分と手間を掛けさせられる。

「でも、もう一人の方は話のわかる相手だったじゃないか。オイラも特に揉めたことはないし、きっと兄ちゃんがツイてないんだろうな」
「ソレはそれで凹む話だなぁ……」

 雨男ならぬ門男ってか? 何だそれ、字面だけじゃ意味が全く分からん。

「ところでエリス? 何でそれ被ってるんだ?」

 エリスはさっきまでハティの背中に掛けてた敷物を何故か仕舞わずにマントのように被っていた。
 子供には少し大きめなリュックを背負っているため、何というか着膨れて丸くなっている。
 今は真昼で結構日差しが強いし、見るからに暑苦しいんだが、子供だから平気なんだろうか?

「ん……隠れ蓑」

 隠れ蓑?
 そう言って、被っていた布を脱ぎ去ったエリスの隣には、エリスと同い年くらいの女の子が立っていた……って、何ぃ!?
 一体いつの間に……っていうか何処から連れてきたんだ!?

「えっとエリス、その子は?」
「ハティだよ」

 …………はい?
 ……いや、ちょっとまって? 
 その女の子がハティ? いや確かに以前ステータス確認した時は性別女ってなってたけどさ?
 髪の色とか目の色だったり、犬系獣人だしそれっぽいと言えば確かにそれっぽいけど。
 というか、漫画とかではお約束のネタの一つではあるけど、こうして実際目の前でやられると反応に困るな。

「いやぁ、ウソのようなホントの話なのよねぇ。私は後ろに居たからハティちゃんが縮んで敷物の中に隠れる一部始終見てたし」
「え、だったら言ってくれよ……本気でハティが勝手に居なくなったとは思って無かったけどさ。それでも気を使わせてのけ者にする羽目になったのかと思って、無駄に門兵相手にエキサイトしちまったじゃないか」

「いやぁ、あの状況で門兵の前でそれをバラしたら余計騒ぎ出しそうだったからねぇ」
「……確かに、それはそうかもしれないな」

 魔術で姿を変えて連れ込むつもりだのなんだのと、余計にやかましくなる姿が目に浮かぶ。
 となると、黙ってたチェリーさんの判断は正しかったって事か。
 今この姿を見るまで考えもしなかったが、よくよく考えるとハティって何だかんだで攻撃魔法とかも当たり前のように使いこなすし、姿を変える魔法とかを使えてもおかしくない……のか?

「にしてもなぁ……お前ホントにハティなのか? 獣人の子供にしか見えないんだがなぁ」
「わう」

 あ、この感じ、確かにハティだ。
 エリスより少し年上の女の子って風体だが、吠え方やしっぽの振り方がなんか凄く見覚えある。
 というか、見た目は女の子に化けれても、流石に言葉はしゃべれないのか。

「まぁ、何にせよこの姿なら街の中だからってパニックを引き起こすこともないだろうな」

 そう言ってつい頭をぽんと撫でてみたら不思議な顔で見上げられた。

「あれ、お前頭撫でられるの好きなんじゃなかったっけ?」

 そう問いかけてみれば、何故か再び頭を差し出してきた。
 コレはもう一度撫でろってことか……?
 再度ポンポンと頭をなでてみると、気に入ったのか目を細めてしっぽを振っている。

「ゎぅ……」
「何だ、やっぱり好きなんじゃないか」

 ハティは頭や首を撫でると喜んでたから、つい今までの感じで撫でてしまったが間違いではなかったようだ。
 さっきの反応は、狼の姿の時と人の姿の時とで感覚が違って驚いたんだろうか?

「ヤダちょっと可愛いんですけど! 私にも撫でさせて!」
「エリスも~」

 何となくそのまま頭を撫でていたら、ハティを横からチェリーさんたちに攫われた。
 ビックリしてるが、特に嫌がっている様子もないし構わないか。
 チェリーさんがこっちに来たばかりの頃はハティも結構警戒してたけど、最近は大分心を許してるみたいだな。

「すごいなぁ。オイラも『化ける』怪物とは何度か戦ったことあるけど、こんなにそっくりに人に化けるのは初めて見たよ」
「あ、やっぱり化ける奴って居るのか」
「うん、滅多に見かけないけど、大規模な討伐依頼で未開の奥地なんかに行った時、極稀そういう魔物がね」

 なるほど、魔物ともなるとそういう魔法を使う奴も出てくるのか。コレは覚えておこう。
 括りでは魔獣ではなく野獣扱いのハティでも魔術を使うって事は、魔獣ってのはどれもハティと同じくらいヤバイと認識しておいたほうが良さそうだな。

「というかそんな大規模な討伐に参加したことあるんだな」
「まぁ、オイラコレでも傭兵団の団員だからね。あんまり大きな団じゃないんだけどさ」

 おぉう、この歳で既に実戦経験アリアリか。
 そりゃあの森の中で1人で武者修行するくらいだから戦いなれてるとは思っていたが、まさか戦いのプロとは。
 口ぶりからすると緋爪みたいな大規模な団とは違うみたいだけど、大規模討伐に声が掛かる程度には活動的な傭兵団なんだろう。
 そこで実戦経験を積んだとしたなら、もしかしたら戦闘技能では俺より上かもしれないな。
 レベルはまぁ……俺が低いだけだし比較対象にもならんか。

「にしても変身魔法を使う魔物か……人間でも使えるのかな?」
「魔法じゃないって」
「ん?」

 何が?

「ハティの変身は魔法じゃないって」
「マジで?」
「らしいよ?」

 え? だって、見た目が……というかもう質量保存の法則ガン無視で体積まるまる変ってるんだけど。
 コレが魔法じゃない? マジで? 現実的に身体の体積ごと変えてるのか? だとしたらどういう仕掛けなんだ?
 というか、ハティは一言も喋ってないけど、人形になってもやっぱり以心伝心してるのな。
 これ、動物の言葉がわかるスキルとかいう訳じゃなくて、単純にハティの仕草から思考を読み取ってるのか?
 そんな事を考えていたら隣でキルシュがなんか絶句していた。

「どうした?」

 ってまぁ、聞かなくてもわかる。あの狼が女の子に化けたなんて、そりゃ驚きもするか。
 しかもあの巨体からこんな華奢な娘の姿に化けたのだから、色々と常識が怪しくなってくるってものだろう。

「スゲェなエリスちゃん。普通に会話できるんだな。オイラ何言ってるのかサッパリ聞こえなかったよ」

 って、驚いたのそっちかよ! いや確かにスゲぇけどさ。

「安心しろキルシュ。お前だけじゃない。多分エリス以外は誰にも分からん」
「そうなのか? 兄ちゃんもてっきり理解できてるんだと思ってた」

 無茶言うな。俺はただの凡人だぞ……

「ハティが人の言葉を理解してるだけで、俺はハティの鳴き声で何言ってるのかはサッパリ分からんぜ」
「……それで、あんな巨大な獣と一緒にいられる度胸はオイラ凄いと思うけどな」

 度胸というか、初手が諦めからだったしな……
 あの巨体と見た目で懐かれて、拒絶しようにも俺のレベルじゃ追い払うなんて無理だったし、どうせ無理なら好きにさせようって考えて一緒に居たら、何か情がうつっちまったんだよなぁ。
 にしても、ホントに別人……別狼? みたいだな。

「なぁ、ハティ。コレ本当に魔法じゃないのか?」

 そう本人に尋ねてみれば、その通りだとばかりにコクリと首肯。

「ハティは食べた相手の真似ができるんだって。この間宿を襲った悪い奴ら食べたから、人の真似ができるようになったって」
「なにそれ凄い……そりゃ月狼ってのが恐れられる訳だ」

 いくら高レベルで群れてるとはいえ、ドラゴンが住むような山で王者に君臨できるってどういうことなのかと思ってたが、その能力のせいなんじゃないのか?
 そういえば、チェリーさんがこっちに来た辺りからハティに頭や足に硬い角みたいなパーツが増えたけど、もしかしてアレってアーマードレイクを食ったから、その甲殻を部分的に取り込んだって事なのか?
 食えば食うほど強くなるとかそういう系統の……

「ハティの変身は魔法じゃなくて記憶なんだって。だから一度食べれば好きなように真似ができるって言ってるよ」
「やっぱりか。魔法で姿を偽装しているわけじゃなくて、食った相手の特徴から身体そのモノを作り変えてるのか。スゲェな」
「わんっ」

 見た目だけじゃなくて、サイズも自由自在とか理屈は分からんが凄まじい能力だ。
 スパイとかなら喉から手が出るほど欲しいスキルだろコレ。

「ホント、お前には驚かされっ……!?」
「キョウくん?」

 別に何か特殊なことをしようとしたわけじゃない。
 エリスとチェリーさんに可愛がられているのを見て、何となくハティを『高い高い』の要領で抱き上げてみようとしただけ。
 エリスがコレやると喜ぶから何となく同じ感じでハティも喜ぶかと抱き上げてみようとしたらのだが、持ち上げようとした瞬間腰が抜けそうになった。
 別に嫌がったハティが怒気を当ててきたとかそういうのじゃなくて、物理的にだ。
 持ち上げようとしてびくともしなかったせいで、腰に深刻なダメージが……

「いてて……もしかしなくても、サイズは誤魔化せても体重はそのままなのな、お前……」
「わん」

 これはあれか。サイズ的には縮んでいるが、圧縮されてるだけで全体質量自体はあの巨体のままって事か。
 身長150cm、体重800kgとかそんな感じの。
 こりゃエリスみたいに肩車とかしたら両肩がすっぽ抜けそうだな。まぁ見た目が中学生くらいだし流石に肩車って歳じゃあないからただの例えだが。
 見た目は華奢な女の子だがこれはちょっと注意が必要だな。
 しかし、賢いとは思っていたが、まさか人化まで出来るとはなぁ。

「折角人の姿になれるなら言葉も話せれば普通に会話できて良かったんだがな。まぁ流石に高望みし過ぎか」
「わぅ?」

 ハティが人の姿になれると言っても、ソレで人間の言葉が喋れるようになるとは俺も思っては居ない。
 特に、元々人里から隔絶された山奥で狼の群れの王として野生に暮らしていたハティが、人の言葉を喋れる訳がない。
 何故かエリスとは以心伝心みたいだが、アレはまぁ、特殊事案だろう。他では参考にならん。
 俺が金髪のかつらを被って外国人のマネしても、英語喋れるようになるわけじゃないのと同じだな。

「おっと、兄ちゃん達には色々驚かさっぱなしだけど、こんな所で固まってたら周りの迷惑になるし、まずはさっさと街に入っちゃおうぜ」
「それもそうだな」

 門前に留まってたら、また良からぬ事に巻き込まれそうな気がするし、さっさと離れよう。
 ホント、楽にくぐれねぇなぁこの国の門……
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