ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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三章

百二十九話 森を抜けると

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 そんなこんなでキルシュから色々情報を聞き出しつつ、世間話も交えて森を進んでいたのだが、いつの間にか周囲の木が開け森から抜け出ていた。
 森の先は崖になっており、つづら折りの道が崖下まで伸びており、その道を降りきった所からかなりの規模の街が広がっていた。
 何で崖下に街なんか……と一瞬思ったが、街の反対側に広い平地が広がっているところを見ると、崖下に街を作った訳ではなく、崖を背に作った街から崖上に道を通したというのが正しいだろう。
 要するに俺たちが通ってきた森は裏口だな。
 広大な平地で背後は崖で、町を貫くように大きな川も有る。街を作るにはピッタリな地形だ。

「さぁ、ついたよ。下に見える街がクフタリアさ!」

 そうキルシュが指差す街の様子は、王都のものとはまた変った印象だった。
 どちらかと言うとファンタジーといえばこの街のイメージのほうがしっくり来る、石製の建造物がメインの街並みだ。
 街の中央に有る円柱の施設は、闘技大会を主催しているというコロシアムだろうか?
 背面と片側側面を崖で覆われ、崖の両端から斜めに伸びる市壁によって平原側と街を区切っている作りのせいで、上から見ると街の形は三角形になっている。なかなか珍しい感じの街だ。
 
「デケェな。王都もデカかったが、ここもソレに匹敵する広さなんじゃないのか?」
「ホント、何人住んでるのかしらこの街」

 王都の祭りの間、中央通りを練り歩いてみたのだが、朝イチに北の端にある宿を出て店を冷やかしながら南の大門まで行ってから宿に戻ってみればかなりの夜更けだった。
 朝イチに出て反対側までたどり着いたのが日が傾き始めた頃という事は大凡中央通りの長さは2~30km程度だろう。要するに東京と同じくらいの規模だと考えられる。
 それに比べると、この都市は王都ほどではない。とはいえ平野側の街を遮る外壁の長さは10km程度ではないだろう。
 これだけの巨大な街があといくつも有るということなんだろうが、そこに住むNPCは一体どれだけの数になるのか。
 俺がよくやっていたネトゲは街の広さなんて、かなり大きな作りのゲームでも徒歩5分で町の外だった。ソレに引き換え、目の前に広がるこの街の広さよ。
 コレがジェネレーションギャップというやつだろうか……?

「どしたの? キョウくん。目が虚ろだよ?」
「いや、何か王都に居たときは街の中に紛れていたってのもあってそこまで気にもとめなかったんだけどさ、こうやって街を俯瞰してみると俺の知ってるネトゲと改めて違うなーとか考えてたら、なんかこう自分が懐古……とは違うけど、古い人間になっちまったなぁって」
「あぁ、うん。言いたいことは何となく分かるかも」

 チェリーさんも以前からネトゲ廃人だったって話だし、言わんとしてることは伝わってくれたようだ。
 今までのネトゲは街の中に居住区なんてまず無かったし、あったとしてもプレイヤールームとして部屋だけあったり、住宅地っていう形のインスタンスエリアが設けられてたりって感じであくまで『隔離施設』だったんだよな。
 だがこのゲームにはそもそもエリアチェンジなんて概念がない。街には普通に人が過ごして居るし、宿屋だって金を出せば無限にプレイヤーの部屋を用意してくれる訳でもない。
 昔に自分がネトゲを遊びながら『こうであれば良いのに』と思った不足部分が全部適用されたかのようなそんな街が目の前に広がっている。
 あれからほんの20年程で実現されちまうとはなぁ……
 って、ジジ臭い思考でおかしなテンションになって手も仕方ねぇか。

「よし、深く考えるのはよそう」
「なぁ、姉ちゃん。兄ちゃんはどうしちゃったんだい? 何か街に変なところでもあったのかな?」
「ううん、彼は街が大きくて驚いてるのよ。多分」
「そっか。でも確かにこの街は王都ほど大きくはないけど、街の規模で言えばこの国で二番目の大都市だからね」

 なるほど確かにこの街の規模であれば『大都市』の呼び名に偽りはない。
 一年中賑わっているというのも誇張ではないだろうな。
 実際、大通りを何かが動いているのがここからでもよく見える。それだけ人の流れが活発だということだろう。

「普段からこんなに賑わってるのか? 祭りの時の王都もすげぇ賑わいだったが、ここもそれに負けず劣らずって感じだぞ」
「普段はもうちょっと落ち着いてるかなぁ。闘技大会5日前って事もあって、参加者や観客なんかが他所から集まってる時期だからね。普段に比べてかなり多いよ。それでも年に一度の大祭や3月に一度の練武祭の時なんかはもっと人が集まるよ」
「そいつはスゲェな」

 きっと闘技大会ってのはこの世界における最先端の娯楽なんだろうな。
 人と人の戦いを商売にするなんてのは、古代ローマのコロッセオから現代のボクシングやプロレスみたいに次代を問わず娯楽として定番のショーだからな。そりゃ人気も出るだろう。
 現代では娯楽が溢れているが、この世界のこの文明発展度であれば娯楽の種類はかなり限られてるはず。
 であれば、最先端の娯楽である闘技大会にハマる人というのは凄まじい数に登るだろう。
 それに、周りがみんな楽しんでいればそれにつられて興味なかった人も「ちょっと試しに」といった感じで振れる機会が増える。テレビ番組で取り上げられた商品が次の日スーパーから消えるアレだ。
 この世界にテレビなんてものは無いから口コミなんだろうが、評判が評判を呼ぶ形で爆発的に闘技大会観戦ブームみたいなのが広がっていったんだろうな。

「これだけ大きい街で、しかも闘技大会なんてものが毎月開かれてるくらいなんだから、この槍治せる店にも期待できそうね」
「ああ、武器が曲がっちゃったのか。でもこの街なら腕のいい鍛冶屋はたくさんあるからきっと大丈夫だよ」

 キルシュのその言葉にチェリーさんはほっとため息を付いていた。
 だが、チェリーさんはちゃんと気付いてるんだろうか。店があっても金がなければ修理できないということを。
 あの槍買うので全財産使い切っていた気がするんだが……まぁその辺りはゲームやり慣れてるんだし何とかするか。
 幸い、金策するのにちょうどいい情報を聞いたばかりだしな。

「しっかし、街も石造りになってるみたいだが、この坂からはちゃんと石で舗装されてるのな」

 適当に石が埋められてる訳ではなく、キッチリと石材として四角く加工されて地面に埋め込まれている。紛うこと無く石畳だ。
 ここまできっちり敷き詰めるのはかなりの手間だった筈だが……

「流石になんで石が敷かれているのかなんて詳しい理由まではオイラにはわからないけど、多分雨で坂が崩れたら困るからじゃないかな」
「ま、そりゃそうだな」
「裏口とはいえ街道に繋がってるから、崩れたら一大事だからね」

 林道とはいえ結構な数の人が行き交っていたからな。この街にとっては裏口であっても、結構重要な街道っぽかったし、そこに連絡するこの坂道の維持に力を入れるのも街としては当然か。

「取り敢えず街の前まで来てただ見下ろしていても仕方ないし、街に入っちまおう」

 しばらくこの街を拠点にするならやっておくことは色々あるだろうしな。
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