134 / 328
三章
百二十七話 救援?
しおりを挟む
エリスの言葉に従って進行先に目を凝らしてみるが――
「駄目だ、サッパリ見えん」
俺には森が続いてるだけにしか見えん。相変わらずすげぇ良い目をしてるな。はじめての狩りのときも感じたが、エリスの目はサバンナの原住民並に見通せるんじゃないだろうか。
その上、ガーヴさんからハイディングとかスカウトとしての技能をみっちり仕込まれてるようだし、将来とか言わず現状でも相当優秀なスカウトとして仕上がってる。さっきのバックスタブとかすげぇ綺麗に決まってたしな。
――と、そんな事よりも今は前方の状況か。
「周りに敵は居そうか?」
「激しく動いてるから、多分何かと戦ってるんじゃないかな?」
「クソ、戦闘中か……」
そこまで解った上で見捨てるのは気が引ける。
こっちはさっさと先に進みたいのだが、かといって別に今何かに追われてる訳でもないからな。自分を納得させる言い訳も思いつかん。
「仕方ない、突っ込もう」
「助けるの?」
「ああ。気付いちまったた以上、放置するのも寝覚めが悪いからな。ただし、俺たちにどうこうできるような相手でなければさっさと逃げるのを優先な。大事なのは自分の命だ」
「りょうかーい」
身内ならともかく、あかの他人を助けるために命なんて張れないからな。
こんな所で人助けのために行動しようとする時点で、自分で言うのも何だが十分お人好しな訳だが。
「タイミングはエリスとハティに任せる。……ほらチェリーさん、もう人仕事だよ」
「はいはい。ちゃんと話は聞いてたから解ってますよー」
テンション低っく! どんだけ引きずってんだよ?
まぁ、取り敢えず聞いていたなら良いか。
「じゃあ、行くよハティ」
「わうっ!」
ハティにも見えてたのか。まぁ動物って普通の人間よりか目が良さそうだしなぁ。すごい勢いで疾走してるが、一体どこに居るんだ? 結構進んだのに全然見えんぞ?
視線を彷徨わせていた所、前方の大木の向こう側で化物の吠え声っぽいものが聞こえてきた。つまりあの先にいるって事か?
目を凝らしてみると、確かに木々の間から何かが動いてるらしい影がちらほら見える気がしないでもない。
コレを見て人が居るって確信したのか? ここからでも何が居るのかサッパリ見えんのだが……
「吠え声が聞こえるってことは交戦中って事か。急いだほうが良さそうだな」
「うん。急ごう」
エリスの言葉に応じてハティが一段階速度を上げる。とはいえ、距離はもうそこまでないので現場への到着はほんの一瞬だ。
一足飛びに木々の間を駆け抜け、その勢いのままちょっとした広場になった場所へ躍り出る。
「おい! 誰だか知らんが助け……」
「おおっ?」
「……は要らないみたいだな」
助けに入るつもりで乱入してみれば、既に怪物は事切れていた。
というか倒れてる怪物……というかまんま恐竜だなこれ。直立する小型のトカゲを見た時点でなんか嫌な予感がしてたのだが、やっぱりTレックスみたいなのも居るのな。実物と違って角とか生えてるけど。
しっかしドヤ顔で乗り込んで、いざ援護宣言しようとしてみたら全ては終わっていたとか気不味いってレベルじゃないんだが。
しかも、その当事者と言うか、怪物と戦っていたと思われる人物だが、なんというか若い。14~16歳ぐらいなんじゃなかろうか。
腕輪がないからプレイヤーって訳じゃないハズ。つまりこの若さで自力でこのTレックスもどきの怪物を倒せるだけの実力を身に着けたということだ。
すごくね?
「どうしたんだい兄ちゃん達。こんな所に人が来るなんて珍しい」
「いや、なんか戦ってるみたいだったから、通行人が襲われてるのかと思ったんだが、どうやら早合点だったみたいだな」
「あはは、こんな所に通行人なんて居やしないよ」
うん? 何でだ?
「ここは森の向こうの街に行くための通り道なんじゃないのか? 手前の街で川沿いに森を抜ければ良いって教えてもらったんだが……」
「川沿いって……もしかしてこの川に沿って来たの?」
「そうだが……何か問題あったか?」
街の人から道の案内は受けてるから見当違いな事はない筈なんだが……
「川を間違えてるよ。本来の川はもっとずっと向こう側のメナト川の事。ちゃんと森のなかでも街道が整備されてて獣避けの実のなる木が道沿いに植えてあるからすぐ分かるはずなんだけど……」
「そうなのか……? 街を出てすぐの川って言われたからてっきりこの川だと」
「あぁ、それは伝えるほうが悪いね。メナトの川は実際街のすぐ傍を通ってはいるけど街付近では地下を通ってるんだ。だから街の外で川に合流するには街から街道沿いに少し離れないといけないんだよ。街では地下を通ったメナト川を水場として利用できるようになってるんだけど、多分教えてくれた人はそれを知ってる前提で伝えちゃったんだろうね」
「マジか……勘弁して欲しいな」
そんなローカルネタを知ってる前提で言われても、あの街についたばかりの俺たちにそんな事分かる訳がない。
こりゃ、聞く相手を間違えたか。まぁ人柄もわからない初対面の人相手にモノを聞いてるんだし、次からはそういうのも織り込んで何人かに聞いたほうが良いか。
……にしても道を間違えてたとか、どうしたもんかねぇ? ここは一度……
「何なら、オイラが送ってあげようか?」
「え? それは助かるんだが、いいのか?」
「いいよ。オイラもここでの武者修行を終えたらクフタリアに向かうつもりだったし」
マジで!?
一度街まで戻ろうかとか考えてた所だから、案内してくれるというのならぜひ頼みたいところだ。
「正直言って超助かる。運良くここで……っとそういえば名乗ってなかったな。俺はキョウ、この子はエリスで後ろに乗っているのがチェリーさんで、コイツがハティだ」
「オイラはキルシュ。リハビリ兼ねてこの森で修行してたんだ」
「キルシュか。ここでキルシュに出会えなければ、何も知らずに危うくこのままこの川沿いに進むところだったから、正しい道を教えてくれるなら凄く助かるよ」
「良いって良いって。オイラが帰るついでなんだから」
「じゃあ、お言葉に甘えるとするよ」
これはラッキー……いや、ガセみたいな情報掴まされてえらい目にあったんだから決してラッキーじゃあないか。
だが、怪我の功名……? もなんか違うな。雨過天青とか終わり良ければ全て良し的な感じか。
「でもクフタリア目指してるって事は、兄ちゃん達も5日後の闘技大会に出場するのかい?」
「闘技大会?」
「闘技大会!?」
うぉびっくりした!?
ちょっとチェリーさん? つい今しがたまで凹みまくってたはずなのに食いつき良すぎやしませんかねぇ?
「あれ? 違うのか? この時期にあの街に、しかもそんな武器抱えて向かうんだからてっきり参加者なのかと思ったよ」
「いや、ほとんどチェリーさんの思いつきで決まった強行軍だったからな。そもそもクフタリアって街に行くのも初めてなんだ。チェリーさんは知ってたのか」
「いいえ? 初耳。だけどずいぶんタイムリーなネタね……」
「何がタイムリー?」
最近何か闘技大会ネタなんてあったか?
俺の知る限り製品版イベントの無茶振り対戦くらいだが、アレから結構立ってるしタイムリーとは言わないだろう。
となるとぱっと思いつく物がないんだが……
「明後日の製品版のアップデートで闘技場が正式実装するのよ。ver1.02で実装予定だったのが予想以上に体験会の参加者が多かったからって、1on1の対人戦だけ繰り上がりのサプライズ実装するんですって」
思ったより早かったな。
もうちょっと実装までかかると思ってたが、体験会で想定していたよりも遥かに大量データが取れたってことか?
って、なんでもない事みたいに話してるがこれって……
「そんな事バラしちゃって良いんか」
「いや何言ってんのよ。キョウくん公式テスターでしょうに」
「確かにテスターだけど、その情報、一切俺の所に来てないから一部の人だけに伏せられてるんじゃね?」
「いいえ? アップデート直前生放送で普通にディレクターがバラしてたわよ?」
「えぇ……」
俺一応公式テスターなんですけど。何で一般公開されてる情報すら回ってきてねぇんだよ。
というか、アップデートが近々である事すら知らされてねぇんだが……?
限られてるとは言え、連絡手段は確保されたんだから情報共有ぐらいちゃんとして欲しいわ。
そういえば、何らかの形でちゃんとした連絡ツールを作るみたいなこと言っていたが、あれから一向に音沙汰ないな。
……アップデート直前でゴタツイていて、テスト版のこっち側の機能追加なんかに割けるだけのスケジュールの余裕が無かったんだろうなぁ。
「というか、俺達『も』って事は、キルシュは出場するのか?」
「当然! 一番の目玉大会はつい先月終わっちゃったから、次の大武闘祭は来年待ちだけど、毎月小さな闘技大会は開催されてるんだ。三月に一度の練武祭での上位入賞者は大武闘祭への参加資格を貰えるから、一年中が闘技大会みたいなもんだよ」
「へぇ~、そんな街もあるんだなぁ」
昔のコロッセウムみたいなもんか?
毎月大会が開けるほど頻繁に興行が打ててるって事は、その街は相当儲かってそうだな。
「なんなら兄ちゃん達も出てみなよ。参加資格は犯罪者でないなら一切ないから、その気さえあれば誰でも参加できるんだぜ」
「あぁ、腕試しくらいなら良いかもしれないなぁ。俺はともかく、チェリーさんとか好きそうじゃない?」
「私? 当然参加するに決まってるじゃない! キョウくんやエリスだって参加するのよ?」
え、なにそれ聞いてない。
「俺達の目的ってレベル上げじゃなかったっけ?」
「そのレベル上げの結果を測るのにちょうどいいじゃない、闘技大会」
ああ、どれくらい上達したのかを実践で測るってことか? でも――
「大会出ても、初めて戦う相手にどうやって以前より強くなったとか比べれば良いのさ?」
「え? そんなの、勝ち進んでいけば私たちでぶつかるだから、その時に確かめるに決まってるじゃない」
全員勝ち進むこと前提かよ。
「わたしも出るの?」
「そりゃエリスちゃんだって、あの地獄の訓練でかなり強くなってるじゃない。色々成果、試してみたくない?」
「う~ん……」
エリスの場合はどうなんだろうな?
狩りとか真面目に参加してるけど、強くなりたいとかそういう気配はエリスからはあまり感じないんだよな。
これを覚えておくと便利、ってガーヴさんにそそのかされて色々な技術を覚えていってるって感じだし。
どちらかと言うとチェリーさんよりも俺に考えが近いかもしれん。行きていくために必要な技術から覚えていく的な所が。
「エリスちゃんだっけ?、キミって歳はいくつ?」
「多分10歳!」
「た、多分? ……だけど10歳かぁ。大会の参加規定って確か12歳からなんだ。だから君は参加できないと思う」
「ありゃ、そうなんだ」
そりゃ、武器で殴り合うんだから子供の参加は危険だから認められないよな。
公開処刑や残虐ショーってならともかく、『闘技』大会を名乗っている以上は真っ当な競い合いをメインに据えてるはずだしな。
「だそうだよ、チェリーさん。全員出場は無理っぽいし、何ならチェリーさんだけでも……」
「じゃあ、私とキョウ君でワンツーフィニッシュだね!」
「……お、おう」
優勝する気まんまんじゃねぇか。
……というか、決勝でぶつかる前提で話してるけど、第一試合でぶつかる可能性とか考えてんのかな?
「おお、ねーちゃんやる気だね!」
「あったりまえよ。こういうのは参加することに意義があるってね!」
「そうそう、気軽に参加しちゃいなよ」
確かに最近は自分のレベル的に手に余る相手とぶつかり過ぎてる気がするから、レベルをあげることには賛成した。
けど、俺は別に自分の身が守れればそれで十分なんだけどなぁ。
「まぁ、気が向いたら考えるよ」
個人的に対人戦は格ゲーで狂ったようにやっていたけど、昔ほど勝負事に飢える感覚はもう無いんだよな。
一時は食事代も惜しんでゲーセンに通ってた時期もあったし、今も別に嫌いになったわけじゃない。というか未だに一番好きなジャンルだと思う。
ただ、事故による腕の故障でまともに対戦できるほど操作できなくなって以来、勝てない自分と以前の自分を比べて虚しくなるから手を出さずに居たら、熱が冷めてしまったんだよな。
とはいえ、つい最近その対人……NPC相手だから対人とは言わないのか? でも人間に近い思考AIだから対人と言ってしまっていいか。
まぁ、その対人戦で遅れを取って死にかけたのだから、流石にそっちも伸ばす必要があるのは間違いない。
となると、一度もそういう勝負事に参加しないというのも勿体無いよな。
これは真面目に参加を考えたほうが良さそうだ。
「駄目だ、サッパリ見えん」
俺には森が続いてるだけにしか見えん。相変わらずすげぇ良い目をしてるな。はじめての狩りのときも感じたが、エリスの目はサバンナの原住民並に見通せるんじゃないだろうか。
その上、ガーヴさんからハイディングとかスカウトとしての技能をみっちり仕込まれてるようだし、将来とか言わず現状でも相当優秀なスカウトとして仕上がってる。さっきのバックスタブとかすげぇ綺麗に決まってたしな。
――と、そんな事よりも今は前方の状況か。
「周りに敵は居そうか?」
「激しく動いてるから、多分何かと戦ってるんじゃないかな?」
「クソ、戦闘中か……」
そこまで解った上で見捨てるのは気が引ける。
こっちはさっさと先に進みたいのだが、かといって別に今何かに追われてる訳でもないからな。自分を納得させる言い訳も思いつかん。
「仕方ない、突っ込もう」
「助けるの?」
「ああ。気付いちまったた以上、放置するのも寝覚めが悪いからな。ただし、俺たちにどうこうできるような相手でなければさっさと逃げるのを優先な。大事なのは自分の命だ」
「りょうかーい」
身内ならともかく、あかの他人を助けるために命なんて張れないからな。
こんな所で人助けのために行動しようとする時点で、自分で言うのも何だが十分お人好しな訳だが。
「タイミングはエリスとハティに任せる。……ほらチェリーさん、もう人仕事だよ」
「はいはい。ちゃんと話は聞いてたから解ってますよー」
テンション低っく! どんだけ引きずってんだよ?
まぁ、取り敢えず聞いていたなら良いか。
「じゃあ、行くよハティ」
「わうっ!」
ハティにも見えてたのか。まぁ動物って普通の人間よりか目が良さそうだしなぁ。すごい勢いで疾走してるが、一体どこに居るんだ? 結構進んだのに全然見えんぞ?
視線を彷徨わせていた所、前方の大木の向こう側で化物の吠え声っぽいものが聞こえてきた。つまりあの先にいるって事か?
目を凝らしてみると、確かに木々の間から何かが動いてるらしい影がちらほら見える気がしないでもない。
コレを見て人が居るって確信したのか? ここからでも何が居るのかサッパリ見えんのだが……
「吠え声が聞こえるってことは交戦中って事か。急いだほうが良さそうだな」
「うん。急ごう」
エリスの言葉に応じてハティが一段階速度を上げる。とはいえ、距離はもうそこまでないので現場への到着はほんの一瞬だ。
一足飛びに木々の間を駆け抜け、その勢いのままちょっとした広場になった場所へ躍り出る。
「おい! 誰だか知らんが助け……」
「おおっ?」
「……は要らないみたいだな」
助けに入るつもりで乱入してみれば、既に怪物は事切れていた。
というか倒れてる怪物……というかまんま恐竜だなこれ。直立する小型のトカゲを見た時点でなんか嫌な予感がしてたのだが、やっぱりTレックスみたいなのも居るのな。実物と違って角とか生えてるけど。
しっかしドヤ顔で乗り込んで、いざ援護宣言しようとしてみたら全ては終わっていたとか気不味いってレベルじゃないんだが。
しかも、その当事者と言うか、怪物と戦っていたと思われる人物だが、なんというか若い。14~16歳ぐらいなんじゃなかろうか。
腕輪がないからプレイヤーって訳じゃないハズ。つまりこの若さで自力でこのTレックスもどきの怪物を倒せるだけの実力を身に着けたということだ。
すごくね?
「どうしたんだい兄ちゃん達。こんな所に人が来るなんて珍しい」
「いや、なんか戦ってるみたいだったから、通行人が襲われてるのかと思ったんだが、どうやら早合点だったみたいだな」
「あはは、こんな所に通行人なんて居やしないよ」
うん? 何でだ?
「ここは森の向こうの街に行くための通り道なんじゃないのか? 手前の街で川沿いに森を抜ければ良いって教えてもらったんだが……」
「川沿いって……もしかしてこの川に沿って来たの?」
「そうだが……何か問題あったか?」
街の人から道の案内は受けてるから見当違いな事はない筈なんだが……
「川を間違えてるよ。本来の川はもっとずっと向こう側のメナト川の事。ちゃんと森のなかでも街道が整備されてて獣避けの実のなる木が道沿いに植えてあるからすぐ分かるはずなんだけど……」
「そうなのか……? 街を出てすぐの川って言われたからてっきりこの川だと」
「あぁ、それは伝えるほうが悪いね。メナトの川は実際街のすぐ傍を通ってはいるけど街付近では地下を通ってるんだ。だから街の外で川に合流するには街から街道沿いに少し離れないといけないんだよ。街では地下を通ったメナト川を水場として利用できるようになってるんだけど、多分教えてくれた人はそれを知ってる前提で伝えちゃったんだろうね」
「マジか……勘弁して欲しいな」
そんなローカルネタを知ってる前提で言われても、あの街についたばかりの俺たちにそんな事分かる訳がない。
こりゃ、聞く相手を間違えたか。まぁ人柄もわからない初対面の人相手にモノを聞いてるんだし、次からはそういうのも織り込んで何人かに聞いたほうが良いか。
……にしても道を間違えてたとか、どうしたもんかねぇ? ここは一度……
「何なら、オイラが送ってあげようか?」
「え? それは助かるんだが、いいのか?」
「いいよ。オイラもここでの武者修行を終えたらクフタリアに向かうつもりだったし」
マジで!?
一度街まで戻ろうかとか考えてた所だから、案内してくれるというのならぜひ頼みたいところだ。
「正直言って超助かる。運良くここで……っとそういえば名乗ってなかったな。俺はキョウ、この子はエリスで後ろに乗っているのがチェリーさんで、コイツがハティだ」
「オイラはキルシュ。リハビリ兼ねてこの森で修行してたんだ」
「キルシュか。ここでキルシュに出会えなければ、何も知らずに危うくこのままこの川沿いに進むところだったから、正しい道を教えてくれるなら凄く助かるよ」
「良いって良いって。オイラが帰るついでなんだから」
「じゃあ、お言葉に甘えるとするよ」
これはラッキー……いや、ガセみたいな情報掴まされてえらい目にあったんだから決してラッキーじゃあないか。
だが、怪我の功名……? もなんか違うな。雨過天青とか終わり良ければ全て良し的な感じか。
「でもクフタリア目指してるって事は、兄ちゃん達も5日後の闘技大会に出場するのかい?」
「闘技大会?」
「闘技大会!?」
うぉびっくりした!?
ちょっとチェリーさん? つい今しがたまで凹みまくってたはずなのに食いつき良すぎやしませんかねぇ?
「あれ? 違うのか? この時期にあの街に、しかもそんな武器抱えて向かうんだからてっきり参加者なのかと思ったよ」
「いや、ほとんどチェリーさんの思いつきで決まった強行軍だったからな。そもそもクフタリアって街に行くのも初めてなんだ。チェリーさんは知ってたのか」
「いいえ? 初耳。だけどずいぶんタイムリーなネタね……」
「何がタイムリー?」
最近何か闘技大会ネタなんてあったか?
俺の知る限り製品版イベントの無茶振り対戦くらいだが、アレから結構立ってるしタイムリーとは言わないだろう。
となるとぱっと思いつく物がないんだが……
「明後日の製品版のアップデートで闘技場が正式実装するのよ。ver1.02で実装予定だったのが予想以上に体験会の参加者が多かったからって、1on1の対人戦だけ繰り上がりのサプライズ実装するんですって」
思ったより早かったな。
もうちょっと実装までかかると思ってたが、体験会で想定していたよりも遥かに大量データが取れたってことか?
って、なんでもない事みたいに話してるがこれって……
「そんな事バラしちゃって良いんか」
「いや何言ってんのよ。キョウくん公式テスターでしょうに」
「確かにテスターだけど、その情報、一切俺の所に来てないから一部の人だけに伏せられてるんじゃね?」
「いいえ? アップデート直前生放送で普通にディレクターがバラしてたわよ?」
「えぇ……」
俺一応公式テスターなんですけど。何で一般公開されてる情報すら回ってきてねぇんだよ。
というか、アップデートが近々である事すら知らされてねぇんだが……?
限られてるとは言え、連絡手段は確保されたんだから情報共有ぐらいちゃんとして欲しいわ。
そういえば、何らかの形でちゃんとした連絡ツールを作るみたいなこと言っていたが、あれから一向に音沙汰ないな。
……アップデート直前でゴタツイていて、テスト版のこっち側の機能追加なんかに割けるだけのスケジュールの余裕が無かったんだろうなぁ。
「というか、俺達『も』って事は、キルシュは出場するのか?」
「当然! 一番の目玉大会はつい先月終わっちゃったから、次の大武闘祭は来年待ちだけど、毎月小さな闘技大会は開催されてるんだ。三月に一度の練武祭での上位入賞者は大武闘祭への参加資格を貰えるから、一年中が闘技大会みたいなもんだよ」
「へぇ~、そんな街もあるんだなぁ」
昔のコロッセウムみたいなもんか?
毎月大会が開けるほど頻繁に興行が打ててるって事は、その街は相当儲かってそうだな。
「なんなら兄ちゃん達も出てみなよ。参加資格は犯罪者でないなら一切ないから、その気さえあれば誰でも参加できるんだぜ」
「あぁ、腕試しくらいなら良いかもしれないなぁ。俺はともかく、チェリーさんとか好きそうじゃない?」
「私? 当然参加するに決まってるじゃない! キョウくんやエリスだって参加するのよ?」
え、なにそれ聞いてない。
「俺達の目的ってレベル上げじゃなかったっけ?」
「そのレベル上げの結果を測るのにちょうどいいじゃない、闘技大会」
ああ、どれくらい上達したのかを実践で測るってことか? でも――
「大会出ても、初めて戦う相手にどうやって以前より強くなったとか比べれば良いのさ?」
「え? そんなの、勝ち進んでいけば私たちでぶつかるだから、その時に確かめるに決まってるじゃない」
全員勝ち進むこと前提かよ。
「わたしも出るの?」
「そりゃエリスちゃんだって、あの地獄の訓練でかなり強くなってるじゃない。色々成果、試してみたくない?」
「う~ん……」
エリスの場合はどうなんだろうな?
狩りとか真面目に参加してるけど、強くなりたいとかそういう気配はエリスからはあまり感じないんだよな。
これを覚えておくと便利、ってガーヴさんにそそのかされて色々な技術を覚えていってるって感じだし。
どちらかと言うとチェリーさんよりも俺に考えが近いかもしれん。行きていくために必要な技術から覚えていく的な所が。
「エリスちゃんだっけ?、キミって歳はいくつ?」
「多分10歳!」
「た、多分? ……だけど10歳かぁ。大会の参加規定って確か12歳からなんだ。だから君は参加できないと思う」
「ありゃ、そうなんだ」
そりゃ、武器で殴り合うんだから子供の参加は危険だから認められないよな。
公開処刑や残虐ショーってならともかく、『闘技』大会を名乗っている以上は真っ当な競い合いをメインに据えてるはずだしな。
「だそうだよ、チェリーさん。全員出場は無理っぽいし、何ならチェリーさんだけでも……」
「じゃあ、私とキョウ君でワンツーフィニッシュだね!」
「……お、おう」
優勝する気まんまんじゃねぇか。
……というか、決勝でぶつかる前提で話してるけど、第一試合でぶつかる可能性とか考えてんのかな?
「おお、ねーちゃんやる気だね!」
「あったりまえよ。こういうのは参加することに意義があるってね!」
「そうそう、気軽に参加しちゃいなよ」
確かに最近は自分のレベル的に手に余る相手とぶつかり過ぎてる気がするから、レベルをあげることには賛成した。
けど、俺は別に自分の身が守れればそれで十分なんだけどなぁ。
「まぁ、気が向いたら考えるよ」
個人的に対人戦は格ゲーで狂ったようにやっていたけど、昔ほど勝負事に飢える感覚はもう無いんだよな。
一時は食事代も惜しんでゲーセンに通ってた時期もあったし、今も別に嫌いになったわけじゃない。というか未だに一番好きなジャンルだと思う。
ただ、事故による腕の故障でまともに対戦できるほど操作できなくなって以来、勝てない自分と以前の自分を比べて虚しくなるから手を出さずに居たら、熱が冷めてしまったんだよな。
とはいえ、つい最近その対人……NPC相手だから対人とは言わないのか? でも人間に近い思考AIだから対人と言ってしまっていいか。
まぁ、その対人戦で遅れを取って死にかけたのだから、流石にそっちも伸ばす必要があるのは間違いない。
となると、一度もそういう勝負事に参加しないというのも勿体無いよな。
これは真面目に参加を考えたほうが良さそうだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
622
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる