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二章

百二十一話 反省と摺合せⅡ

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「喧嘩撃ってるわけじゃなくて、普通死んだときってどうなってるのか、どうやって復帰するのかとか予め知っておきたいんだって」
「わかってるって。冗談よ」

 割と冗談って反応じゃなかったように思えたんですけど?

「でも何でそんなことを?」
「今回死にかけた時に、ちょっと思うところがあってさ。俺の場合バグ抱えてるからどうなるかわからないけど、それでもいざという時のために少しでも知識を蓄えておきたいんだわ」
「なるほどねぇ。このゲームやってる人にとっては知ってて当たり前の事でもキョウくんにとっては重要な情報かぁ」
「まぁね。動けなくなってる間、パニックとまでは行かないまでもかなり焦ったからな」

 と、ちょっと見えを張ってみたが、実のところかなり焦ってたからなあの時の自分。
 一切の感覚がない状態で復活方法が無いとか、運営側が気付いてくれるまで植物状態でベッドにくくりつけられてる自分の生身と何も変わらない状態になっちまうってことだからな。
 そりゃ焦るってもんだろう。
 
「で、死んだ時の状況だっけ? そうだなぁ……状況を端的に言うと、幽体離脱して、少しだけ動けるけど周囲が暗くなって極端に視界が狭まるって感じ」
「幽体離脱?」
「そ。死んだアバターは倒れてるままなんだけど、代わりにアバターの影を半透明にしたような幽霊みたいなのを操れるって感じ。実際βのプレイヤーはその状態を幽霊とかゴーストって言ってたしね」
「なるほど、ゲーム的に死んでますってプレイヤーにわかりやすくする為の演出なのか」

 死んでるからゴーストか。
 たしかにそういう、ひと目見て自分の状況が判るっていうのはゲームには重要だよな。

「ただ、死体から殆ど離れられない上に、他のプレイヤーやモンスターはすり抜けて触れないし、幽霊中はボイスチャットが近距離の同じ状況……要するに同じ幽霊状態の人にしか通じなくなって、生きてる人と意思疎通できなくなるから基本はパーティプレイ中の全滅待ちの待機状態的な使い方だったよ。街でパーティを組んで、ってよりも現地で臨時で組む事が多かったから、復活場所が全員一緒とは限らなかったからね」

 製品版でもグループチャットとか個人チャットみたいな遠距離通話が出来ない仕様になってたし、パーティを組む場合は人でごった返している街中で声掛けするよりも、現地でメンバー集めたほうが楽なのか。
 で、全員が街の宿を取れるとも限らないのだから、不慮の事故で全滅した後はゴースト状態待機して、ゴースト同士であれば声が届くことを利用して、再び戻って来て狩りを再開するか、解散するかを確認するのに使っていたってことか。
 復帰位置が遠方だった場合、合流はかなり難しいだろうからなこのゲーム。

「蘇生魔法とか蘇生アイテムがあればあの状態から復帰できるのかも知れないけど、βではまだ存在しなかったからそこはわかんない」
「そっかぁ……」

 復活方法については誰も知らないということならしばらくは無いものと捉えておいて問題ないだろう。
 今はそれ以前の問題の話だしな。 

「でも何でそんな事にこだわるの? 一度死ねばすぐに判るようなもんだと思うけど……って、迂闊に死ぬ訳にはいかないんだから確かめることも出来ないのか」
「そういう事」

 アバターが死んだらプレイヤーの俺も死ぬかも知れないとかいう状況では、そういった『死んでから』の情報というのはかなり貴重なのだ。
 垂涎モノの情報といってもいい。

「それにあの時は痛みで頭が回ってなかったってのもあるけど、とにかくその時は自分が生きてるのか死んでるのかさえ分からなかったんだよ。復活方法が提示されなかった時点で、死んでないかも知れない可能性は考えたけどさ。でも死んでいないいう確証も獲られなかったという事と、もし死んでいた場合操作不能状態からの脱出手段がわからないってのは結構肝が冷えたよ。もしかして俺ずっとこのままなのか? って」
「え? いや、ステータス確認すれば生きてるかどうかなんてすぐ分かるでしょ? HP残量やデバフなんかで確認すれば一目瞭然でしょうに」

 ……!

「まぁでも死んだ死んだで、初めて死んだ時はわかりやすくヘルプ表示がされるし、それ以降も死んだ時は視界の端にアンクレットへの操作指示が表示されるからすぐに……どしたの?」
「いやその……」

 そうだよ、自分のステータスが解らないならステータス画面が見りゃ良かったじゃないか。
 何でそんな簡単なことを失念していたんだ?

「…………え、ウソでしょ? もしかして自分のステータス確認もせずに素でボケてたの? もしかしてキョウくんってば、うっかりキャラ?」

 うっかりキャラと言われても反論の余地がねぇ。
 言われて初めて、そんな当たり前な事に気づかされた訳だし。
 というか何でこんな当たり前の事に気が付かなかった……って、よく考えたらあの時はステータス画面を開くとかそれ以前の問題だったんだった。

「あ、いややっぱ駄目だわ。そもそも指一本動かせなくて、メニュー操作もできないのにどうやって復活すればいいんだって焦ってたんだよ。ステータス確認にまで頭が回らなかったのは事実だけど、あの時もしソレに気付いていたとしても指先一つ動かせなくて、手首のリングを操作とか出来ない状態だったからな……」

 このゲームの唯一のゲームらしいUIであるメニュー画面は手首のリングを操作することで操作用のスフィアが出現する。
 だからこそ、指一つ動かせない状況では打つ手がなくて焦った訳だ。

「え、それじゃ本格的に不味いかも? 幽霊状態からの復帰ってメニューを開いた時に強制的に『帰還しますか?』って確認画面が開くようになってるから」
「あぁうん。でもチェリーさんの話だと本当に死んだ時はゴーストのアバターが出るんでしょ? ならまぁ行けるんじゃないかな? 今回の場合は死んではないけど指一本動かせない状態……ゲーム的には気絶とか麻痺とかの行動不能デバフ状態に近い状況だったって話かもしれないし」

 近い状態と言うか、失血による意識不明だかられっきとした気絶だよな。
 他のゲームでだって別にキャラクターが気絶しても、当然ながらプレイヤーまで気絶するわけじゃない。
 だからどこか甘く見ていたが、今回はそれをVRの、しかもリアリティに特化したALPHAで味わった場合こうなるって思い知ったって訳だ。

「いやぁ、でも実際のところ、ここしばらくステータスどころかメニューすら開いてなかったから、完全に存在を失念してたってのは確かに問題あるわな……」
「私だってキョウくんに教えてもらってからは、アイテムや装備に関してインベントリやイクイップを使わずに過ごすようになったけど、それでも流石に存在を忘れはしなかったんだけど?」
「効率の問題でメニューに頼らない様にし過ぎた結果、必要な時ですらも意識から抜けてる様じゃ本末転倒だよなぁ」

 最適を求めての行動の筈が、非効率な結果に繋がる典型的な悪例だな。
 この手の話題は大抵は結果論的な話になってしまうが、今回の場合はメニューの不使用に徹し過ぎた結果での意識抜けなので、言い訳しようもない程単純な俺の対応ミスと言える。
 とはいえ、戦闘での瞬間判断を要する対応の話とかではないので、一度意識してしまえば流石にもう大丈夫だろう。
 ここまで痛い目にあってしまえば、流石にうっかり者な俺であったとしても次同じ状況になればメニューを開けないか確かめるだろう。

「とりあえず、かなり締まらない終わり方だったけど、課題は色々見えたかなぁ」
「でもまずは身体を休める事。ろくに動けないんでしょ?」
「これが辛い所だなぁ。復帰出来てもダメージを引きずってすぐに行動に移れない。いろんなネトゲでも死亡後の衰弱デバフってのはよくあるけど、リアル衰弱デバフを食らう事になろうとは」

 実際には死んではいないけどな。
 いや、死んでもないのにまともに動けないレベルのダメージを引きずってるんだから余計ダメか。

「今は無理はしない事。といっても復調したらやる事は決まってるんだけどね?」
「え、何か予定あったっけ?」

 祭り以降は特に何も予定は無かったと思うけど……しいて言えば家を大きくする計画くらいか?

「あったというか、出来たのよ。必要に迫られてね」
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