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二章
百十六話 狙い撃ちⅡ
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足跡は途中で綺麗サッパリと消えている。
足跡のもととなる人物らしき姿も見当たらない。
では、あの石の獣が、引き裂いた盗賊の足を体に引っ掛けて転がった跡か?
ソレは違うだろう。
それなら、足あとの消えた場所の近くにその足が転がっていないとおかしい。
足跡を偽装するために、自分の足後を踏んで引き返した?
そんな事をする意味がないし、そもそもそんな真似をした変人がいれば流石に誰かが気づくだろう。
なら、何だ? この違和感は。
なぜあの足跡は途絶えている?
まるで、本来そこに……
そこに……?
いや、違う。
俺はこの感覚を以前感じた事があったような……?
どこでだ? 一体何時、何処でこの感じを覚えた?
こんな状況、リアルではありえない。
だとしたら、それは――
『行くと言ったろうが』
そうだ、俺がこっちの世界に来て、初めてボコられたあの時。
その言葉を思い出した瞬間、殆ど反射的な動きで身を翻していた。
何かを感じた訳でもなく、ただ直感に従っての行動だ。
あの時、俺は目の前にいた相手を見失うという状況に理解が及ばず、立ち止まった所を頭に一撃貰っていた。
その時の反省を活かし、以降、ガーヴさんとの組手では理解できない状況に陥った場合は取り敢えず逃げる癖がついていたのだが……どうやらその行動によって俺は救われたらしい。
身を翻した俺のすぐ目の前を、大きく湾曲した刃が振り抜かれていた。
「ぐっ……」
咄嗟に武器を構えて下がったのは、切り返し技を持っていないキャラを使っていた事で防御を固めるよりも回避やカウンター狙いが染み付いて癖になってたからなのだが、本来レバー入力による手癖での慣れだったはずなのに、意外と咄嗟の行動に思ったように体の方も反応するんだなと変な所で感心した次の瞬間
「グッ……!」
バックステップで身を浮かした俺をホームランするような勢いで強烈な打撃を受けて、文字通りふっ飛ばされていた。
流石に踏ん張りきれないだろうと、勢いに任せ地面を転がり、その勢いで起き上がる。
「え、何!?」
「キョウ!」
そのやり取りで、二人も気づいたようだ。
切り上げるような一撃を避けきったと思った途端に、全く別角度からの一撃だった。
一体どういう動きをすればそうなるのか、と相手を見て今の攻撃がどういう物なのか納得出来た。
「ショーテルの二刀流とかまた随分と傾いてんな」
二刀流であれば、全く別の角度からの一撃も打てるだろう。
にしても、だ。
ガーヴさんのように気配を消しているのかと思ったがそういうわけではないらしい。
いや、全く気配を消していない訳ではないんだが、隠形の方は姿を消すマントか何かを羽織ってソレに頼っているようだ。
何もない空中に、突然二本の剣と肘までが浮かび上がっていた。
そして、腕の位置から想定した頭のあるだろう場所に、目元だけが覗いている。
確かに目まで覆ってしまうと相手も何も見えないのだから、そこは仕方なく露出してあるのだろうが、あの程度であれば風景に溶けてしまってまず気付け無いだろう。
武器が露出していたことで、そこから頭の位置を割り出す形で意識したから見えているが、よほど何もない場所でもない限りは例え視界の中に入っていたとしても風景に紛れて気が付けないと思う、
ファンタジーとはいえ、とんでもないアイテムが出回ってんなオイ。
あの緋爪のアサシンがこれ来て襲撃を掛けてきていたら、恐らく終わってたぞ……
「信じられん。今のを避けるのか」
驚きから立ち直ったのか、俺と透明人間の間にに割り込んで構えたエリスとチェリーさん越しに相手を探る。
相手の素性がわからない以上、なにか挑発でもして相手の言葉を引き出せないかとか考えていたら、以外にも相手の方から語りかけてきた。
アサシン等の殺し屋であればこういう時は無言のままただ殺しに来ると思っていたんだが、どうやらコイツは違うらしい。
本来は別の役目を持っているのが、たまたま今回は殺し屋の真似事をしたのか、あるいは殺し屋の中でもコイツが独特なのか。
「アンタ、闇に潜む殺し屋……って感じじゃないな?」
「なぜそう思う?」
「プロの殺し屋が殺し以外の……会話なんぞに時間を割くとは思えんからな」
「……なるほど、道理だ」
いや、納得されても……
暗殺の腕ということであれば、この眼の前の透明人間は本職程の隠形技術は無いように感じる。
そして、偶然ガードできたあのなぎ払い、片手での一撃なのに俺は面白いようにふっ飛ばされた事から、見た目はヒョロっとしているのに筋力は絶望的に差があるらしい。
ガードしてるのに正面から受けきれないのは、伊福部との対戦を思い出すな。
あの時はレベル4差があったんだっけか?
つまりはソレくらいの実力差があるということだ。
しかもあの時の伊福部と違い、こっちのNPCは自分の体を使った戦いのイロハって奴を熟知している。
つまり、伊福部には……SADには通用したレベル差を覆すだけの『わからん殺し』が通用しない可能性が高いということだ。
さて、どう対処するべきか……
「確かに私は闇夜に紛れて人を狩る殺し手の者ではない……人々を教え導く伝道者である」
「おいおい、問答無用で俺を殺しに来た危険人物が伝道者名乗るとか世も末だな。人殺しの方法を広めてるなら、そんなの只の犯罪者じゃねぇか」
「わが崇高なる使命を理解できぬとは」
「人殺しの使命なんて理解したくねぇなぁ。そんな毒にしかならん教えを平和なこの国の人間に伝えてんじゃねぇよこのド外道」
コイツはあれか?
人を殺せば殺しただけ世界は救われるとかいう超過激なエコ組織の構成員か何かか?
「そもそも伝道師なんていう割には随分鍛えているようで。アンタ、説法なんかより殴って言い聞かせるが向いているだろう?」
「そうだな、手間さえ考えねばそれが一番楽であることは否定しない」
いや、否定しねぇのかよ。
宗教家か啓蒙家かしらねぇが、物騒な物言いに悪意がまるで感じられない。
つまり、自分の行いを正義だと信じて疑わないか、悪事に全く拒否感がないと言うことだ。
ろくな人種ではないことは確かだな。
悪意があろうとなかろうと、あんなエゲツない装備を使ってまでのバックスタブ狙い……って、あれ?
「つか、アンタ等の狙いはハティじゃなかったのか? 何で発覚の危険を犯してまで俺を狙ったんだよ」
「あの月狼を欲しているのはあの俗に溺れた哀れな貴族だ。私の知ったことではない」
……という事は、コイツは貴族に雇われた訳ではない?
なら、コイツは全く別口で俺を狙ってきたということか?
それにしては、コイツは貴族の狙いがハティであることは把握しているみたいだし、無関係とは考え難いんだが。
情報収集で、貴族の目的を把握していた……?
うぅん、何か決定的な裏付けになるピースが足りないな。
まぁ、それはそれとして、問題は何故コイツが俺を狙ったのか、だ。
こんな手練に命を狙われるような心当たりがまるで無いぞ。
「何でアンタは俺を狙う? こう言っちゃなんだが、俺個人には命を狙われるような心当たりがまるで無いんだが?」
ハティはまぁ、その希少価値的なものとか単純な強さとかで手に入れたがる気持ちはわからないでもないが、俺個人を狙う理由が全く思い当たらん。
「わが信仰の為……」
「信仰って宗教!?」
思わずと言った感じで会話に割り込んできたチェリーさんだったが、たしかに俺も驚いた。
過激な思想集団かとおもったら宗教家かよコイツ。
というか、そんなものまで形成されてんのかこの世界。
「エリス、離れてろ。コイツは色々な意味で良くない」
「う、うん……」
って、まぁよく考えたらこれだけの王国が成立しているんだから、宗教の一つも起きておかしくないか。
その宗教的な理由で狙われるこっちとしては全く笑えないが。
こういう胡散臭い連中に、エリスを関わらせたくはないよな。
……というか俺だって関わりたくねぇ。
「良かったら、俺が襲われた原因を教えてもらえないか? それを正すことで狙われなくなるというのなら、俺は争うよりもそちらを選ぶつもりなんだが」
「無理だ」
「何故? 内容を聞かなければ無理かどうかの判断もできんし、それが無理かどうかを決めるのは俺の方じゃないのか?」
確認する前から何故無理だと決めつけられねばならんのだ。
「貴様の存在、そのものが罪であるからだ」
「……何?」
「貴様が貴様である限り、罪は消えぬ。そして我が神は己の命を捨てがまる事も罪であると説いている」
あぁ?
「俺はその罪が何であるかを聞いているんだが?」
「そんな事は私の知ったことではない。神が貴様を罪人であると断じた。ならば私は代行者として罪人を裁くのみである」
おいおい……
「要するに、俺はただそこに居るだけで罪人であり、己を己で裁く行為すら罪であるから自殺も許さず、殺されろとそう言っているのか?」
「その通りだ」
「その通りって……」
無茶苦茶なこと言ってる自覚は……無いんだろうな。
この手の宗教家ってのは基本的に一般人には理解しがたい頭のおかしい論理で動いていることが多い。
ストーリーの中でも、現実の話でもな。
「まるで、貴方の信仰する神は、自殺は許さなくても他殺を認めるような言い方ね?」
さすがの暴論に、チェリーさんの声にも呆れが混ざっている。
実際、俺もため息が自然と出ちまうような無茶苦茶な言い分だ。
「他人の命を刈り取ることを我が神は認めておらぬ」
「つまり、信仰のためとか言いながら、貴方自身が信仰を裏切っているということじゃない」
「いいや? 私は信仰に準ずる。我が神を裏切る事などありえないし恥ずべきことなど何もない」
「だったら何故貴方は彼を狙うの!? たった今自分で語った『他者の命を刈り取ること』に反しているじゃない!」
あ~……なんとなく読めてしまった。
この論法、ラノベとかで狂信者とかのキャラが出てくるとよくあるパターンだ。
「人の命をかることを禁じているが、人ならぬ罪人をいくら狩ってもそれは世のためであろう? 我が神の定めた罪を認めぬ愚か者が人を名乗ることなど許されぬ」
「はぁっ!?」
さすがのチェリーさんも絶句である。
まぁ、俺はもうオチが読めてたから『やっぱりなぁ』って感想しか無いわけだが。
教徒にあらずんば人にあらずって奴だな。
現実の中世とかでは実際にこの論法で弾圧が繰り返されたらしいし、現代的な感性では全く受け入れられないが、この連中にとっては当たり前として受け取れてしまうんだろうなぁ。
これはもう言葉でどうこうとかそういう次元じゃない。
無いんだが、最後に一つ、これだけは確認しなきゃならない。
「神が定めたと言ったな。俺の何を持って罪だとお前の神は告げたんだ?」
「私が神の御言葉を直接賜る事はない。最高司祭様が信託によってお言葉を受け取り、その神意を持って我らが代行するのみである」
「そうかい。要するにお前は何も知らない。神様なんて居ようが居まいが知ったことではない。司祭様から『神様が殺れっていった』と伝えられたのだから俺は何も悪くないと、そう言い訳しながら殺しを楽しむタイプのクソ野郎か」
「貴様……我が信仰を愚弄するのか!」
実際にコイツがそんな事を思っているかどうかと言われれば多分違うだろう。
だが、それで狙われるこっちは堪ったもんじゃない。
コイツの考えがどうであれ、狙われる俺からはそういう風に映るという意味を込めた、ただの挑発だ。
出来るなら穏便に済ませようと対話を試みはしたが、コレは無理だ。
こんな信仰に寄りかかって神のため、平和のために仕方なくとかうそぶきながら率先して人殺しをするコイツに腹が立ったのだから仕方がないだろ。
コイツに限ったことじゃあない。昔からどうも俺の身近な左翼と宗教家は愛と平和のために人を殺すとか宣う過激な輩が多かった。
全員がそうだとは俺も思わんが、とにかく目についたし実際この世界で初めて出会った宗教家がこのザマだ。
コレだから俺は宗教家は嫌いなんだ。
足跡のもととなる人物らしき姿も見当たらない。
では、あの石の獣が、引き裂いた盗賊の足を体に引っ掛けて転がった跡か?
ソレは違うだろう。
それなら、足あとの消えた場所の近くにその足が転がっていないとおかしい。
足跡を偽装するために、自分の足後を踏んで引き返した?
そんな事をする意味がないし、そもそもそんな真似をした変人がいれば流石に誰かが気づくだろう。
なら、何だ? この違和感は。
なぜあの足跡は途絶えている?
まるで、本来そこに……
そこに……?
いや、違う。
俺はこの感覚を以前感じた事があったような……?
どこでだ? 一体何時、何処でこの感じを覚えた?
こんな状況、リアルではありえない。
だとしたら、それは――
『行くと言ったろうが』
そうだ、俺がこっちの世界に来て、初めてボコられたあの時。
その言葉を思い出した瞬間、殆ど反射的な動きで身を翻していた。
何かを感じた訳でもなく、ただ直感に従っての行動だ。
あの時、俺は目の前にいた相手を見失うという状況に理解が及ばず、立ち止まった所を頭に一撃貰っていた。
その時の反省を活かし、以降、ガーヴさんとの組手では理解できない状況に陥った場合は取り敢えず逃げる癖がついていたのだが……どうやらその行動によって俺は救われたらしい。
身を翻した俺のすぐ目の前を、大きく湾曲した刃が振り抜かれていた。
「ぐっ……」
咄嗟に武器を構えて下がったのは、切り返し技を持っていないキャラを使っていた事で防御を固めるよりも回避やカウンター狙いが染み付いて癖になってたからなのだが、本来レバー入力による手癖での慣れだったはずなのに、意外と咄嗟の行動に思ったように体の方も反応するんだなと変な所で感心した次の瞬間
「グッ……!」
バックステップで身を浮かした俺をホームランするような勢いで強烈な打撃を受けて、文字通りふっ飛ばされていた。
流石に踏ん張りきれないだろうと、勢いに任せ地面を転がり、その勢いで起き上がる。
「え、何!?」
「キョウ!」
そのやり取りで、二人も気づいたようだ。
切り上げるような一撃を避けきったと思った途端に、全く別角度からの一撃だった。
一体どういう動きをすればそうなるのか、と相手を見て今の攻撃がどういう物なのか納得出来た。
「ショーテルの二刀流とかまた随分と傾いてんな」
二刀流であれば、全く別の角度からの一撃も打てるだろう。
にしても、だ。
ガーヴさんのように気配を消しているのかと思ったがそういうわけではないらしい。
いや、全く気配を消していない訳ではないんだが、隠形の方は姿を消すマントか何かを羽織ってソレに頼っているようだ。
何もない空中に、突然二本の剣と肘までが浮かび上がっていた。
そして、腕の位置から想定した頭のあるだろう場所に、目元だけが覗いている。
確かに目まで覆ってしまうと相手も何も見えないのだから、そこは仕方なく露出してあるのだろうが、あの程度であれば風景に溶けてしまってまず気付け無いだろう。
武器が露出していたことで、そこから頭の位置を割り出す形で意識したから見えているが、よほど何もない場所でもない限りは例え視界の中に入っていたとしても風景に紛れて気が付けないと思う、
ファンタジーとはいえ、とんでもないアイテムが出回ってんなオイ。
あの緋爪のアサシンがこれ来て襲撃を掛けてきていたら、恐らく終わってたぞ……
「信じられん。今のを避けるのか」
驚きから立ち直ったのか、俺と透明人間の間にに割り込んで構えたエリスとチェリーさん越しに相手を探る。
相手の素性がわからない以上、なにか挑発でもして相手の言葉を引き出せないかとか考えていたら、以外にも相手の方から語りかけてきた。
アサシン等の殺し屋であればこういう時は無言のままただ殺しに来ると思っていたんだが、どうやらコイツは違うらしい。
本来は別の役目を持っているのが、たまたま今回は殺し屋の真似事をしたのか、あるいは殺し屋の中でもコイツが独特なのか。
「アンタ、闇に潜む殺し屋……って感じじゃないな?」
「なぜそう思う?」
「プロの殺し屋が殺し以外の……会話なんぞに時間を割くとは思えんからな」
「……なるほど、道理だ」
いや、納得されても……
暗殺の腕ということであれば、この眼の前の透明人間は本職程の隠形技術は無いように感じる。
そして、偶然ガードできたあのなぎ払い、片手での一撃なのに俺は面白いようにふっ飛ばされた事から、見た目はヒョロっとしているのに筋力は絶望的に差があるらしい。
ガードしてるのに正面から受けきれないのは、伊福部との対戦を思い出すな。
あの時はレベル4差があったんだっけか?
つまりはソレくらいの実力差があるということだ。
しかもあの時の伊福部と違い、こっちのNPCは自分の体を使った戦いのイロハって奴を熟知している。
つまり、伊福部には……SADには通用したレベル差を覆すだけの『わからん殺し』が通用しない可能性が高いということだ。
さて、どう対処するべきか……
「確かに私は闇夜に紛れて人を狩る殺し手の者ではない……人々を教え導く伝道者である」
「おいおい、問答無用で俺を殺しに来た危険人物が伝道者名乗るとか世も末だな。人殺しの方法を広めてるなら、そんなの只の犯罪者じゃねぇか」
「わが崇高なる使命を理解できぬとは」
「人殺しの使命なんて理解したくねぇなぁ。そんな毒にしかならん教えを平和なこの国の人間に伝えてんじゃねぇよこのド外道」
コイツはあれか?
人を殺せば殺しただけ世界は救われるとかいう超過激なエコ組織の構成員か何かか?
「そもそも伝道師なんていう割には随分鍛えているようで。アンタ、説法なんかより殴って言い聞かせるが向いているだろう?」
「そうだな、手間さえ考えねばそれが一番楽であることは否定しない」
いや、否定しねぇのかよ。
宗教家か啓蒙家かしらねぇが、物騒な物言いに悪意がまるで感じられない。
つまり、自分の行いを正義だと信じて疑わないか、悪事に全く拒否感がないと言うことだ。
ろくな人種ではないことは確かだな。
悪意があろうとなかろうと、あんなエゲツない装備を使ってまでのバックスタブ狙い……って、あれ?
「つか、アンタ等の狙いはハティじゃなかったのか? 何で発覚の危険を犯してまで俺を狙ったんだよ」
「あの月狼を欲しているのはあの俗に溺れた哀れな貴族だ。私の知ったことではない」
……という事は、コイツは貴族に雇われた訳ではない?
なら、コイツは全く別口で俺を狙ってきたということか?
それにしては、コイツは貴族の狙いがハティであることは把握しているみたいだし、無関係とは考え難いんだが。
情報収集で、貴族の目的を把握していた……?
うぅん、何か決定的な裏付けになるピースが足りないな。
まぁ、それはそれとして、問題は何故コイツが俺を狙ったのか、だ。
こんな手練に命を狙われるような心当たりがまるで無いぞ。
「何でアンタは俺を狙う? こう言っちゃなんだが、俺個人には命を狙われるような心当たりがまるで無いんだが?」
ハティはまぁ、その希少価値的なものとか単純な強さとかで手に入れたがる気持ちはわからないでもないが、俺個人を狙う理由が全く思い当たらん。
「わが信仰の為……」
「信仰って宗教!?」
思わずと言った感じで会話に割り込んできたチェリーさんだったが、たしかに俺も驚いた。
過激な思想集団かとおもったら宗教家かよコイツ。
というか、そんなものまで形成されてんのかこの世界。
「エリス、離れてろ。コイツは色々な意味で良くない」
「う、うん……」
って、まぁよく考えたらこれだけの王国が成立しているんだから、宗教の一つも起きておかしくないか。
その宗教的な理由で狙われるこっちとしては全く笑えないが。
こういう胡散臭い連中に、エリスを関わらせたくはないよな。
……というか俺だって関わりたくねぇ。
「良かったら、俺が襲われた原因を教えてもらえないか? それを正すことで狙われなくなるというのなら、俺は争うよりもそちらを選ぶつもりなんだが」
「無理だ」
「何故? 内容を聞かなければ無理かどうかの判断もできんし、それが無理かどうかを決めるのは俺の方じゃないのか?」
確認する前から何故無理だと決めつけられねばならんのだ。
「貴様の存在、そのものが罪であるからだ」
「……何?」
「貴様が貴様である限り、罪は消えぬ。そして我が神は己の命を捨てがまる事も罪であると説いている」
あぁ?
「俺はその罪が何であるかを聞いているんだが?」
「そんな事は私の知ったことではない。神が貴様を罪人であると断じた。ならば私は代行者として罪人を裁くのみである」
おいおい……
「要するに、俺はただそこに居るだけで罪人であり、己を己で裁く行為すら罪であるから自殺も許さず、殺されろとそう言っているのか?」
「その通りだ」
「その通りって……」
無茶苦茶なこと言ってる自覚は……無いんだろうな。
この手の宗教家ってのは基本的に一般人には理解しがたい頭のおかしい論理で動いていることが多い。
ストーリーの中でも、現実の話でもな。
「まるで、貴方の信仰する神は、自殺は許さなくても他殺を認めるような言い方ね?」
さすがの暴論に、チェリーさんの声にも呆れが混ざっている。
実際、俺もため息が自然と出ちまうような無茶苦茶な言い分だ。
「他人の命を刈り取ることを我が神は認めておらぬ」
「つまり、信仰のためとか言いながら、貴方自身が信仰を裏切っているということじゃない」
「いいや? 私は信仰に準ずる。我が神を裏切る事などありえないし恥ずべきことなど何もない」
「だったら何故貴方は彼を狙うの!? たった今自分で語った『他者の命を刈り取ること』に反しているじゃない!」
あ~……なんとなく読めてしまった。
この論法、ラノベとかで狂信者とかのキャラが出てくるとよくあるパターンだ。
「人の命をかることを禁じているが、人ならぬ罪人をいくら狩ってもそれは世のためであろう? 我が神の定めた罪を認めぬ愚か者が人を名乗ることなど許されぬ」
「はぁっ!?」
さすがのチェリーさんも絶句である。
まぁ、俺はもうオチが読めてたから『やっぱりなぁ』って感想しか無いわけだが。
教徒にあらずんば人にあらずって奴だな。
現実の中世とかでは実際にこの論法で弾圧が繰り返されたらしいし、現代的な感性では全く受け入れられないが、この連中にとっては当たり前として受け取れてしまうんだろうなぁ。
これはもう言葉でどうこうとかそういう次元じゃない。
無いんだが、最後に一つ、これだけは確認しなきゃならない。
「神が定めたと言ったな。俺の何を持って罪だとお前の神は告げたんだ?」
「私が神の御言葉を直接賜る事はない。最高司祭様が信託によってお言葉を受け取り、その神意を持って我らが代行するのみである」
「そうかい。要するにお前は何も知らない。神様なんて居ようが居まいが知ったことではない。司祭様から『神様が殺れっていった』と伝えられたのだから俺は何も悪くないと、そう言い訳しながら殺しを楽しむタイプのクソ野郎か」
「貴様……我が信仰を愚弄するのか!」
実際にコイツがそんな事を思っているかどうかと言われれば多分違うだろう。
だが、それで狙われるこっちは堪ったもんじゃない。
コイツの考えがどうであれ、狙われる俺からはそういう風に映るという意味を込めた、ただの挑発だ。
出来るなら穏便に済ませようと対話を試みはしたが、コレは無理だ。
こんな信仰に寄りかかって神のため、平和のために仕方なくとかうそぶきながら率先して人殺しをするコイツに腹が立ったのだから仕方がないだろ。
コイツに限ったことじゃあない。昔からどうも俺の身近な左翼と宗教家は愛と平和のために人を殺すとか宣う過激な輩が多かった。
全員がそうだとは俺も思わんが、とにかく目についたし実際この世界で初めて出会った宗教家がこのザマだ。
コレだから俺は宗教家は嫌いなんだ。
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