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二章
百十四話 遊撃
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ハティの背にまたがり、こじ開けられた家族風呂側の入り口から外に飛び出してみれば、まるで戦場のような様相だった。
いや、ようなと言うよりまさに戦場なんだが、そんなものをただの宿泊施設に持ち込まないでほしいというのが本音だ。
この騒動が起きてから初めて正面側の様子を確認することが出来たが、案の定というか防衛側が優位に立っているようだ。
「ハティ、とりあえずアレからいってみるか」
とりあえず騎士達と睨み合っている盗賊の一人にハティを向かわせる。
騎士達は苦戦しているようには見えないが、コチラとしても現場が判ってる人から情報を聞いておきたいからな。
放って置いても騎士が勝つだろうが、ここはさっさと終わらせてしまったほうが良いだろう。
ハティは一直線に飛びかかると、すれ違うようにして盗賊に噛み付いた。
いや、噛み付いたと言うよりも牙に引っ掛けた……って感じが近いのか。
まぁどちらにせよ盗賊からすれば似たようなものか。
噛み砕かられるか引き裂かれるかの違いでしか無い。
上半身と下半身が泣き別れした盗賊だったものを他の盗賊達に見せつけるように吐き捨てると、騎士の近くに戻る。
ハティなりのわかりやすい威圧という訳か。
「援護します!」
「ハイナの月狼か! すまない、助かる!」
ここに配置されるだけあって、騎士の方もハティの事は伝わっているみたいだな。
一々説明しなくていいのは正直助かる。
「キョウ、ハティが暴れたいって」
そういや、俺達がたどり着くまで盗賊達に縄掛けられたりしてたんだったな。
そりゃ鬱憤も貯まるだろうな。
「わかった、この周囲だけだが好きにやっていいぞ」
「グルゥァ!」
俺の言葉を聞くやいなや、ハティは盗賊達に突っ込んだ。
普段俺達でも中々見ないような鋭い動きだな。
思っていたよりもかなり頭にきていたようだ。
背中に乗っている俺達を振り落とす事が無いように立ち回っているが、動き事体はかなり獰猛と言うか、怒りがみなぎっている感じがする。
突然突っ込んできたハティに対してろくに対処もできないまま盗賊達はまたたく間に薙ぎ倒されていった。
なんというか、文字通りの蹂躙劇だな。
ハティの攻撃は重くて鋭い。
基本相手を引き裂いてしまうので、なんというかモツが飛び散りまくってかなり見た目が凄惨だ。
昨日の城前の戦場も死体なんぞ木っ端微塵で酷いもんだったが、まだ視界が暗くて「ああ、きっとモツだろうなぁ」と想像して嫌な気分になる程度だったが、今は日が昇っているわけで、色々はっきり見えちゃうのよな。
前々から分かってはいたことだが、あらためてとても一般販売できない代物だと実感できるな、この惨状。
チェリーさんも若干青い顔してるし。
結局騎士達と睨み合いになっていた十数人の盗賊達はものの十数秒で全滅していた。
だが、まぁソレも仕方ないだろう。
ハティの爪や牙が届かなくても、ハティが近くを走り抜けるだけで氷雪の魔法で引き裂かれてしまっていたのだから。
あんな物初見で対処しろという方が無理な話だ。
眼の前の盗賊達を血祭りにあげたところでハティもひとまずは満足したのか、別所で交戦中の盗賊たちには向かわず足を止めた。
これからはあまりハティを怒らせるような指示はしないようにしとこう……
まぁ何にせよ、コレで此処らは一先ず落ち着いたか。
ハティを騎士達の方へ向かわせて、とりあえずは状況確認か。
「すいません、コイツが相当腹に据えかねていたのか問答無用で殺しちまいましたが、マズかったですか?」
「い、いや。貴族は情報を引き出すために殺されては困るが、盗賊はどのみち処刑が決まっているから、構わない……」
「ソレを聞いて安心しました」
日本見たく、犯罪者だからといっていきなり殺したら問題あったらどうしようかと一瞬焦っちまったぜ。
銃社会ならぬ剣社会ってやつか。
民間人が武器の形態が認められている社会では、取り締まる側の身を守るために、その辺の縛りがゆるい傾向にあるのかねぇ?
「俺達は今表に出たばかりで戦況がわからないんですけど、手こずっていそうな場所とかはありますか?」
「正面玄関側へ向かってくれ! どういう訳か連中は真正面から乗り込むことに固執しているフシがある!」
「わかりました!」
なるほど、確かにハティの背の上から見てみれば、中央側に人が集まってるようだ。
にしても、真正面からに固執?
中央エントランスに人が集まってるのを知って、集中突破を仕掛けてるのか?
ソレにしては俺達の部屋に忍び込んでいたんだが……
いや、そういえばあの盗賊、頭の悪い雇い主がどうこう言ってたな。
虫の居所が悪いとかなんとか。
もしかしてその正面突破の指示が気に入らなくて他の連中を出し抜いて侵入していたとかだろうか。
いくら雇い主の命令だからといって、騎士や有名傭兵団が待ち構える正面にバカ正直に突撃掛けたいとは思わないだろうし、そういう事なのかね。
まぁ、もう居なくなった奴の事を考えても仕方ないか。
ここは問題ないようだし中央に向かおう。
「ハティ、玄関前に飛び込むぞ」
「ウォン!」
正面玄関前を守っているのは、あの赤い小手は緋爪の連中か。
というか緋爪だけで守りを固めているみたいだな。
騎士達は他の場所を守っているみたいだが、協力せずに確固バラバラに対応しているように見える。
話はついたといっていたが、まだ現場間で確執があるのか?
「お、おい……」
中央玄関前、最初の犠牲者はハティの接近に気づいた盗賊だった。
声を上げた瞬間には隣りにいた仲間ごと爪でなます切りになっていた。
どうもここの盗賊達の強さは民間人のソレと大して違わないように感じる。
盗賊や山賊ってのは物語序盤に出る敵役として様々なゲーム等で出てくるメジャーな存在だが、大抵が村人よりも強く、ゲーム開始直後の主人公では敵わないけど、ちょっとレベルを上げて装備を整えることで立ち向かえる位の存在だと思うんだが……
緋爪や騎士達とやりあってる姿を見るに、武器を握って勇ましく振る舞っているが、明らかに相手になっていない。
むしろ勇ましくしているなら良いほうで、殆どのやつが腰が引けてへっぴり腰になっている。
そりゃ、常に鍛えている騎士達が盗賊に劣るとは最初から思っては居ないが、それにしても盗賊側が弱すぎるように感じるのだ。
「救援に来ました! 助力は必要ですか?」
「おいおい、アンタ等は守られる側だろうに、何で矢面に立ってるんだ? 特にその狼は連中の目的そのものなんじゃなかったのか?」
「いやまぁそうなんですけど、狙われてる俺達が表に居たほうが、他の巻き込まれた人たちが狙われる確率が減るんじゃないかって」
「それはそうかもしれんが……まぁ、今の暴れっぷりを見るに、アンタ等の心配は無用か」
「ええ、俺達はともかく、特に今日はハティがかなりやる気なので……」
今回は俺達が一切手を出さなくても、激おこのハティが鬱憤晴らしで盗賊共を壊滅させるってパターンもあり得る。
「なら、門の方を頼む。かなり庭に侵入されはしたが、敵の本体は門の方で我々の隊が抑え込んでるはずだ」
「わかりました。向かってみます」
指揮官……なんてものは居ないとしても、盗賊のリーダー的な奴か、あるいは貴族が居てもおかしくないのに、どうもそういった存在は見かけないし盗賊達はバラバラに攻めてきてるからどういうことかと思ったが、何てことはない。
この敷地に入る前に門前払いされてるってことか。
それで指示待ち連中が背面を取ったのにウロウロしたり、独断先行でハティを拐おうとしたりと統率の取れていない動きをしていたのか。
そりゃ、寡兵のはずの守備隊に力量差で蹴散らされるわけだわ。
あ、力量差といえば……
「あっとその前に、ちょっと聞きたいんですけど、こっちの盗賊ってこんなに歯ごたえがないものなんですか? 俺の知ってる盗賊って傭兵とかには劣りはするけど、もっと戦いに慣れてる印象があるんですけど」
「あん? 盗賊なんてものは食い詰めたやつが手段を選ばなくなったってだけのただのゴロツキだ。村人が鍬を持って襲いかかってくるのと大して変わりはないよ。だがまぁ盗賊共の中には騎士くずれや傭兵くずれといった者たちもいるがね。素行の悪さ等で古巣を追われ、食いつなぐために盗賊に身を落としたクズどもだな」
俺の盗賊の印象ってやってたゲームが偏っているせいもあるが、おおよそ後者のイメージだな。
村人や、村の周りにいる雑魚モンスターよりは強いって印象。
しかし、今の話だと前者……つまり一般人と対して変わらないような盗賊が多数派の様に聞こえる。
「単純に考えてみろ。何処にでも居る一般人と傭兵の比率を比べた時、傭兵なんて家業についている奴の割合は極端に低いだろう? そもそも傭兵くずれになるような奴は正規の傭兵よりもさらに少数だ。一般的に見れば盗賊なんてものは9割型素行の悪いだけの一般人だよ」
「あ、たしかにそうか」
戦争に参加しない村人を例えば100とした時、傭兵でもなく、落ちこぼれた奴が盗賊と化す割合などたかが知れている。
多くて2か3程度がいいとこだろう。
このゲームがリアリティを追求している以上、盗賊なんかもパラメータを設定したものじゃなくて、自然発生的なもののはず。
そう考えると、この盗賊達の弱さこそが普通なのか。
傭兵や騎士達の主力連中の化物みたいな強さを見て勘違いしていたが、特に鍛えているわけではない盗賊達の強さって、要するに殺しや武器の扱いに慣れているだけで、それこそ現代風に言えば喧嘩慣れしているナイフをチラつかせるチンピラ程度のものという訳か。
「とはいえ、所詮は割合の話だ。居るときには居るもんだ。そしてそういった傭兵くずれの力自慢な手合は大抵力に物を言わせ他者を従えようとするだろう。そして、恐怖で結束した賊はそこらの盗賊よりも遥かに危険であることは間違いない。死にものぐるいだからな」
「方法は兎も角統率は取れてる……ってことですか」
某大戦時のどこぞの国の兵隊みたいなもんだな。
後ろから味方に撃たれたくなきゃ、前に進むしか道は無いってか。
そうまでして外道に身をやつす価値なんてあるのかねぇ……?
「だがまぁ、今回の盗賊共の中にそういった物が居るのは確認されていないな」
「今はただ隠れているだけなんじゃ?」
「いや、こういう時だからこそ力に頼るやつは暴れなきゃならないんだ。でなければ従えている筈の手下から軽んじられる恐れがあるからな」
「なるほど」
確かにそうだ。
力を誇示して部下を従えたなら、その力を誇示し続けられなくなった時点で、別の力ある者にその立場を奪われるということだ。
ここまでお膳立てされた街の襲撃という大舞台で、コソコソすることなんて出来やしないか。
「いま都に襲撃を掛けてきた者共は、近く討伐する予定の盗賊団でな。実はあらかた調査が終わっていて、俺達にも情報が渡されてるんだが、コイツラは元々はただの村人で、リーダーも元村長らしい」
「ただの村人? 何でそれが盗賊団なんだ?」
「収めていた貴族が違法に徴税していたらしくてな。食うに困ったコイツラは、よりによって村総出で近隣の村を襲撃したのさ。しかも食料を奪うだけでは飽き足らず女は犯して売り払い、老人子供は皆殺しだ」
「おいおい……」
無茶苦茶にもほどがあるだろう。
「普通、近くの村か、でなければ国に助けを求めるのが先だろう? 何でいきなり襲撃なんだ」
「調べによるとコイツラが以前、助けを求めた他村を見捨てた事があるようだ。自分たちがしたなら相手もするに違いないと思い込んだんだろう」
自業自得な上に、ただの思いこみで皆殺しとか普通じゃねぇだろ。
飢えてもうマトモな判断力が出来なくなっていた?
……いや、であれば腹を満たした後に盗賊団になんてならなかったか。
「それで成功しちまったコイツラは、自分で田畑を耕すよりも奪うほうが楽だと味をしめちまった」
つまり、元から性根が腐っていたという事か。
勿論、そうと決めつけるのは浅はかだろう。
村長の言に絶対服従せざるを得ないとか、何かしらの事情があったかも知れない。
だが……
「始まりの時点ではこいつらはたしかに被害者だったかもしれんが、その後とった手段が間違っていた。しかも、かつては自分らを追い詰めたはずの貴族に加担する加害者の側だ。同情の余地はまったくないな」
「ですね」
どんな事情があろうと、皆殺しにされた村人には関係ない。
今もコイツラは盗賊として街を襲撃しているのだから、もはや過去がどうとかそういう問題じゃあないのだ。
生きるために殺すというのはこの世界では別段悪ではないだろう。
傭兵団なんてそれが飯のタネだからな。
だが、それは戦場での話だ。
真っ当に食うための努力を捨て、平和に過ごす他者を食いものにすることを選んだのなら、それは明確な悪だろう。
コイツラが楽に稼ぐ方法としてそれ事を選んだ時点でもう、処刑されても文句を言えない立場に立たされている。
どんな悲惨な背景があっても、弱者を食い物にする道を選んだ時点でもはや同情する者は居ないだろう。
そこまで堕落したのはこいつら自身の選択だ。
元々盗賊共に容赦するつもりはないが、迷いを捨てさせてくれたのは正直ありがたい。
個人的に『実は裏に止むに止まれぬ悲しい事実が』みたいな話に弱い自覚はあるので、そういった奴が居た場合に対する対応をどうしよう、とかちょっとだけ迷っていたんだけど、事前に盗賊共の裏事情が聞けてよかった。
これで変に事情とか聞かされても命乞いに耳を貸す必要もなくなったからな。
……等と、バッサリと斬り捨ててしまう俺の考え方は、薄情なのだろうか?
だが、そう感じてしまうのだから仕方がない。
武器を持たない一般人を殺して私腹を肥やすという連中の行為に対して、自分でも不思議な程に強く湧き上がる嫌悪感は誤魔化しようがないのだから。
「ありがとうございまず。色々参考になりました」
「おう、気にすんな。味方への情報伝達は傭兵家業における長生きの基本だからな」
必要な情報の伝達が、味方の被害を抑えて、結果自分の身を守るって事か。
現実世界でもファンタジーなゲームの中でも『ほうれんそう』は重要なんだなぁ。
「俺達はこのまま門に向かうことにします。そちらもお気をつけて!」
「騎士達みたいに肩肘張る必要はねぇよ。固くなりすぎて敵に狙われんじゃねぇぞ」
しかし、我ながら昨日まで狙い、狙われていた関係とは思えないくらいサバサバしてんな。
あのアサシンはちょっと頭おかしそうだから例外としても、もうちょっとこう、緋爪と顔を合わせたらイライラするかと思ったんだが、思いの外この状況を受け入れてる自分にちょっと驚きだ。
とどめを刺したときにも感じた事だが、相手はゲームのNPCだし……みたいな感じで無意識に割り切っちまってるんだろうかね?
いや、ようなと言うよりまさに戦場なんだが、そんなものをただの宿泊施設に持ち込まないでほしいというのが本音だ。
この騒動が起きてから初めて正面側の様子を確認することが出来たが、案の定というか防衛側が優位に立っているようだ。
「ハティ、とりあえずアレからいってみるか」
とりあえず騎士達と睨み合っている盗賊の一人にハティを向かわせる。
騎士達は苦戦しているようには見えないが、コチラとしても現場が判ってる人から情報を聞いておきたいからな。
放って置いても騎士が勝つだろうが、ここはさっさと終わらせてしまったほうが良いだろう。
ハティは一直線に飛びかかると、すれ違うようにして盗賊に噛み付いた。
いや、噛み付いたと言うよりも牙に引っ掛けた……って感じが近いのか。
まぁどちらにせよ盗賊からすれば似たようなものか。
噛み砕かられるか引き裂かれるかの違いでしか無い。
上半身と下半身が泣き別れした盗賊だったものを他の盗賊達に見せつけるように吐き捨てると、騎士の近くに戻る。
ハティなりのわかりやすい威圧という訳か。
「援護します!」
「ハイナの月狼か! すまない、助かる!」
ここに配置されるだけあって、騎士の方もハティの事は伝わっているみたいだな。
一々説明しなくていいのは正直助かる。
「キョウ、ハティが暴れたいって」
そういや、俺達がたどり着くまで盗賊達に縄掛けられたりしてたんだったな。
そりゃ鬱憤も貯まるだろうな。
「わかった、この周囲だけだが好きにやっていいぞ」
「グルゥァ!」
俺の言葉を聞くやいなや、ハティは盗賊達に突っ込んだ。
普段俺達でも中々見ないような鋭い動きだな。
思っていたよりもかなり頭にきていたようだ。
背中に乗っている俺達を振り落とす事が無いように立ち回っているが、動き事体はかなり獰猛と言うか、怒りがみなぎっている感じがする。
突然突っ込んできたハティに対してろくに対処もできないまま盗賊達はまたたく間に薙ぎ倒されていった。
なんというか、文字通りの蹂躙劇だな。
ハティの攻撃は重くて鋭い。
基本相手を引き裂いてしまうので、なんというかモツが飛び散りまくってかなり見た目が凄惨だ。
昨日の城前の戦場も死体なんぞ木っ端微塵で酷いもんだったが、まだ視界が暗くて「ああ、きっとモツだろうなぁ」と想像して嫌な気分になる程度だったが、今は日が昇っているわけで、色々はっきり見えちゃうのよな。
前々から分かってはいたことだが、あらためてとても一般販売できない代物だと実感できるな、この惨状。
チェリーさんも若干青い顔してるし。
結局騎士達と睨み合いになっていた十数人の盗賊達はものの十数秒で全滅していた。
だが、まぁソレも仕方ないだろう。
ハティの爪や牙が届かなくても、ハティが近くを走り抜けるだけで氷雪の魔法で引き裂かれてしまっていたのだから。
あんな物初見で対処しろという方が無理な話だ。
眼の前の盗賊達を血祭りにあげたところでハティもひとまずは満足したのか、別所で交戦中の盗賊たちには向かわず足を止めた。
これからはあまりハティを怒らせるような指示はしないようにしとこう……
まぁ何にせよ、コレで此処らは一先ず落ち着いたか。
ハティを騎士達の方へ向かわせて、とりあえずは状況確認か。
「すいません、コイツが相当腹に据えかねていたのか問答無用で殺しちまいましたが、マズかったですか?」
「い、いや。貴族は情報を引き出すために殺されては困るが、盗賊はどのみち処刑が決まっているから、構わない……」
「ソレを聞いて安心しました」
日本見たく、犯罪者だからといっていきなり殺したら問題あったらどうしようかと一瞬焦っちまったぜ。
銃社会ならぬ剣社会ってやつか。
民間人が武器の形態が認められている社会では、取り締まる側の身を守るために、その辺の縛りがゆるい傾向にあるのかねぇ?
「俺達は今表に出たばかりで戦況がわからないんですけど、手こずっていそうな場所とかはありますか?」
「正面玄関側へ向かってくれ! どういう訳か連中は真正面から乗り込むことに固執しているフシがある!」
「わかりました!」
なるほど、確かにハティの背の上から見てみれば、中央側に人が集まってるようだ。
にしても、真正面からに固執?
中央エントランスに人が集まってるのを知って、集中突破を仕掛けてるのか?
ソレにしては俺達の部屋に忍び込んでいたんだが……
いや、そういえばあの盗賊、頭の悪い雇い主がどうこう言ってたな。
虫の居所が悪いとかなんとか。
もしかしてその正面突破の指示が気に入らなくて他の連中を出し抜いて侵入していたとかだろうか。
いくら雇い主の命令だからといって、騎士や有名傭兵団が待ち構える正面にバカ正直に突撃掛けたいとは思わないだろうし、そういう事なのかね。
まぁ、もう居なくなった奴の事を考えても仕方ないか。
ここは問題ないようだし中央に向かおう。
「ハティ、玄関前に飛び込むぞ」
「ウォン!」
正面玄関前を守っているのは、あの赤い小手は緋爪の連中か。
というか緋爪だけで守りを固めているみたいだな。
騎士達は他の場所を守っているみたいだが、協力せずに確固バラバラに対応しているように見える。
話はついたといっていたが、まだ現場間で確執があるのか?
「お、おい……」
中央玄関前、最初の犠牲者はハティの接近に気づいた盗賊だった。
声を上げた瞬間には隣りにいた仲間ごと爪でなます切りになっていた。
どうもここの盗賊達の強さは民間人のソレと大して違わないように感じる。
盗賊や山賊ってのは物語序盤に出る敵役として様々なゲーム等で出てくるメジャーな存在だが、大抵が村人よりも強く、ゲーム開始直後の主人公では敵わないけど、ちょっとレベルを上げて装備を整えることで立ち向かえる位の存在だと思うんだが……
緋爪や騎士達とやりあってる姿を見るに、武器を握って勇ましく振る舞っているが、明らかに相手になっていない。
むしろ勇ましくしているなら良いほうで、殆どのやつが腰が引けてへっぴり腰になっている。
そりゃ、常に鍛えている騎士達が盗賊に劣るとは最初から思っては居ないが、それにしても盗賊側が弱すぎるように感じるのだ。
「救援に来ました! 助力は必要ですか?」
「おいおい、アンタ等は守られる側だろうに、何で矢面に立ってるんだ? 特にその狼は連中の目的そのものなんじゃなかったのか?」
「いやまぁそうなんですけど、狙われてる俺達が表に居たほうが、他の巻き込まれた人たちが狙われる確率が減るんじゃないかって」
「それはそうかもしれんが……まぁ、今の暴れっぷりを見るに、アンタ等の心配は無用か」
「ええ、俺達はともかく、特に今日はハティがかなりやる気なので……」
今回は俺達が一切手を出さなくても、激おこのハティが鬱憤晴らしで盗賊共を壊滅させるってパターンもあり得る。
「なら、門の方を頼む。かなり庭に侵入されはしたが、敵の本体は門の方で我々の隊が抑え込んでるはずだ」
「わかりました。向かってみます」
指揮官……なんてものは居ないとしても、盗賊のリーダー的な奴か、あるいは貴族が居てもおかしくないのに、どうもそういった存在は見かけないし盗賊達はバラバラに攻めてきてるからどういうことかと思ったが、何てことはない。
この敷地に入る前に門前払いされてるってことか。
それで指示待ち連中が背面を取ったのにウロウロしたり、独断先行でハティを拐おうとしたりと統率の取れていない動きをしていたのか。
そりゃ、寡兵のはずの守備隊に力量差で蹴散らされるわけだわ。
あ、力量差といえば……
「あっとその前に、ちょっと聞きたいんですけど、こっちの盗賊ってこんなに歯ごたえがないものなんですか? 俺の知ってる盗賊って傭兵とかには劣りはするけど、もっと戦いに慣れてる印象があるんですけど」
「あん? 盗賊なんてものは食い詰めたやつが手段を選ばなくなったってだけのただのゴロツキだ。村人が鍬を持って襲いかかってくるのと大して変わりはないよ。だがまぁ盗賊共の中には騎士くずれや傭兵くずれといった者たちもいるがね。素行の悪さ等で古巣を追われ、食いつなぐために盗賊に身を落としたクズどもだな」
俺の盗賊の印象ってやってたゲームが偏っているせいもあるが、おおよそ後者のイメージだな。
村人や、村の周りにいる雑魚モンスターよりは強いって印象。
しかし、今の話だと前者……つまり一般人と対して変わらないような盗賊が多数派の様に聞こえる。
「単純に考えてみろ。何処にでも居る一般人と傭兵の比率を比べた時、傭兵なんて家業についている奴の割合は極端に低いだろう? そもそも傭兵くずれになるような奴は正規の傭兵よりもさらに少数だ。一般的に見れば盗賊なんてものは9割型素行の悪いだけの一般人だよ」
「あ、たしかにそうか」
戦争に参加しない村人を例えば100とした時、傭兵でもなく、落ちこぼれた奴が盗賊と化す割合などたかが知れている。
多くて2か3程度がいいとこだろう。
このゲームがリアリティを追求している以上、盗賊なんかもパラメータを設定したものじゃなくて、自然発生的なもののはず。
そう考えると、この盗賊達の弱さこそが普通なのか。
傭兵や騎士達の主力連中の化物みたいな強さを見て勘違いしていたが、特に鍛えているわけではない盗賊達の強さって、要するに殺しや武器の扱いに慣れているだけで、それこそ現代風に言えば喧嘩慣れしているナイフをチラつかせるチンピラ程度のものという訳か。
「とはいえ、所詮は割合の話だ。居るときには居るもんだ。そしてそういった傭兵くずれの力自慢な手合は大抵力に物を言わせ他者を従えようとするだろう。そして、恐怖で結束した賊はそこらの盗賊よりも遥かに危険であることは間違いない。死にものぐるいだからな」
「方法は兎も角統率は取れてる……ってことですか」
某大戦時のどこぞの国の兵隊みたいなもんだな。
後ろから味方に撃たれたくなきゃ、前に進むしか道は無いってか。
そうまでして外道に身をやつす価値なんてあるのかねぇ……?
「だがまぁ、今回の盗賊共の中にそういった物が居るのは確認されていないな」
「今はただ隠れているだけなんじゃ?」
「いや、こういう時だからこそ力に頼るやつは暴れなきゃならないんだ。でなければ従えている筈の手下から軽んじられる恐れがあるからな」
「なるほど」
確かにそうだ。
力を誇示して部下を従えたなら、その力を誇示し続けられなくなった時点で、別の力ある者にその立場を奪われるということだ。
ここまでお膳立てされた街の襲撃という大舞台で、コソコソすることなんて出来やしないか。
「いま都に襲撃を掛けてきた者共は、近く討伐する予定の盗賊団でな。実はあらかた調査が終わっていて、俺達にも情報が渡されてるんだが、コイツラは元々はただの村人で、リーダーも元村長らしい」
「ただの村人? 何でそれが盗賊団なんだ?」
「収めていた貴族が違法に徴税していたらしくてな。食うに困ったコイツラは、よりによって村総出で近隣の村を襲撃したのさ。しかも食料を奪うだけでは飽き足らず女は犯して売り払い、老人子供は皆殺しだ」
「おいおい……」
無茶苦茶にもほどがあるだろう。
「普通、近くの村か、でなければ国に助けを求めるのが先だろう? 何でいきなり襲撃なんだ」
「調べによるとコイツラが以前、助けを求めた他村を見捨てた事があるようだ。自分たちがしたなら相手もするに違いないと思い込んだんだろう」
自業自得な上に、ただの思いこみで皆殺しとか普通じゃねぇだろ。
飢えてもうマトモな判断力が出来なくなっていた?
……いや、であれば腹を満たした後に盗賊団になんてならなかったか。
「それで成功しちまったコイツラは、自分で田畑を耕すよりも奪うほうが楽だと味をしめちまった」
つまり、元から性根が腐っていたという事か。
勿論、そうと決めつけるのは浅はかだろう。
村長の言に絶対服従せざるを得ないとか、何かしらの事情があったかも知れない。
だが……
「始まりの時点ではこいつらはたしかに被害者だったかもしれんが、その後とった手段が間違っていた。しかも、かつては自分らを追い詰めたはずの貴族に加担する加害者の側だ。同情の余地はまったくないな」
「ですね」
どんな事情があろうと、皆殺しにされた村人には関係ない。
今もコイツラは盗賊として街を襲撃しているのだから、もはや過去がどうとかそういう問題じゃあないのだ。
生きるために殺すというのはこの世界では別段悪ではないだろう。
傭兵団なんてそれが飯のタネだからな。
だが、それは戦場での話だ。
真っ当に食うための努力を捨て、平和に過ごす他者を食いものにすることを選んだのなら、それは明確な悪だろう。
コイツラが楽に稼ぐ方法としてそれ事を選んだ時点でもう、処刑されても文句を言えない立場に立たされている。
どんな悲惨な背景があっても、弱者を食い物にする道を選んだ時点でもはや同情する者は居ないだろう。
そこまで堕落したのはこいつら自身の選択だ。
元々盗賊共に容赦するつもりはないが、迷いを捨てさせてくれたのは正直ありがたい。
個人的に『実は裏に止むに止まれぬ悲しい事実が』みたいな話に弱い自覚はあるので、そういった奴が居た場合に対する対応をどうしよう、とかちょっとだけ迷っていたんだけど、事前に盗賊共の裏事情が聞けてよかった。
これで変に事情とか聞かされても命乞いに耳を貸す必要もなくなったからな。
……等と、バッサリと斬り捨ててしまう俺の考え方は、薄情なのだろうか?
だが、そう感じてしまうのだから仕方がない。
武器を持たない一般人を殺して私腹を肥やすという連中の行為に対して、自分でも不思議な程に強く湧き上がる嫌悪感は誤魔化しようがないのだから。
「ありがとうございまず。色々参考になりました」
「おう、気にすんな。味方への情報伝達は傭兵家業における長生きの基本だからな」
必要な情報の伝達が、味方の被害を抑えて、結果自分の身を守るって事か。
現実世界でもファンタジーなゲームの中でも『ほうれんそう』は重要なんだなぁ。
「俺達はこのまま門に向かうことにします。そちらもお気をつけて!」
「騎士達みたいに肩肘張る必要はねぇよ。固くなりすぎて敵に狙われんじゃねぇぞ」
しかし、我ながら昨日まで狙い、狙われていた関係とは思えないくらいサバサバしてんな。
あのアサシンはちょっと頭おかしそうだから例外としても、もうちょっとこう、緋爪と顔を合わせたらイライラするかと思ったんだが、思いの外この状況を受け入れてる自分にちょっと驚きだ。
とどめを刺したときにも感じた事だが、相手はゲームのNPCだし……みたいな感じで無意識に割り切っちまってるんだろうかね?
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お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
30年待たされた異世界転移
明之 想
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気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
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あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
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異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
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フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
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