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二章

百三話 混乱の都Ⅵ

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「さて、これからの俺達の取るべき行動なんだけど……」

 ハティの上に居た二人に対して、さっきのアサシンの話をかいつまんで二人に説明する。
 連中が相対していた騎士が、貴族の手の者だったこと。
 貴族が盗賊を街に放ったことで緋爪が貴族達と決別したこと。
 俺達がもう緋爪に追われていないこと。
 その緋爪は国と話して協調したいと考えていること。
 そして……そう俺に伝えたことがそもそも罠かもしれないという事。

「なるほどねぇ、まぁ大規模傭兵団から今後追われる心配がなくなったというのが本当ならかなり楽になるのは確かだね」
「まぁ、俺達にとってはそれが一番大きいな。その話が本当だったらな。」

 緋爪がこの国に協力するかどうかと言ったことは正直俺達にはあまり関係がない。
 いや、この街を貴族と一緒に攻めてくるとかなら話は別だが、連中は城攻めに見せかけて街と城を分断するのが目的で、最初から街に対して攻撃を仕掛けるつもりはなかったみたいだしな。
 チェリーさんとは違って俺は流石に政争やら戦争なんかに好き好んで首を突っ込むつもりはないし、そもそもそんな事案においそれと口を出せる立場にもない。
 緋爪とは敵対していたが、そもそもの理由が貴族の依頼で俺達というかハティを狙っていたせいなので、その理由もなくなった以上は俺達と緋爪が今後関わることはもう無い……はずだ。
 それにしても、見せかけの戦いで、予測不能の乱入者によってあれほどの大損害をだし、名声まで落とそうとしているとか緋爪にとっては災難以外の何物でもないな。
 あの名前も聞き忘れたアサシンの男が落とし前をつけさせると息巻いていた理由もわかろうというものだ。
 敵だった連中が、土壇場で味方になってこの国にとってはラッキーって感じかもしれんがな。

「で、俺達の取るべき行動なんだけど、現状、外は傭兵、内は盗賊で街は混乱中で、今後状況がどう動くのかちょっと予想が難しい。この状況で明日以降の事まで見通して考えるのは流石に無理があるし、直近の―ーとりあえず夜までの行動を……」
「夜……? …………あぁっ!?」
「うわ、なにびっくりした!?」

 あまりに唐突に大声を上げたチェリーさん相手にマジで驚いたわ。
 つかなんなのさ?

「ゴメン、私夜から打ち合わせで出かけないといけないのよ」
「あぁ、仕事関係か。そういやチェリーさんには徹夜でそのまま付き合ってもらってたんだっけか」

 病院で寝たきりの俺と違って、チェリーさんは仕事や所用でこの世界から離れなきゃいけないタイミングがどうしても出てくる。
 祭りで朝から遊び倒したその夜に襲撃を受けて、そこからずっとで、今はもう日が真上に登ってる訳だから軽く24時間以上ぶっ続けって事になる。
 というか、昨夜からのあのドタバタで食事やトイレなんかも行ってる暇なかったんじゃ?
 なにか用事がなかったとしてもそろそろ休まないと色々ヤバイだろう。
 とはいえ、システム的にパーティチャット等がないこのゲームで、こんな状況で離ればなれになるのはちょっと問題が有るな。
 互いにこの街の地理にはあまり詳しくない。

「夜から……となると後どれくらいで抜ける予定?」
「ごめん、会議中に居眠りはまずいし、少し仮眠したいからすぐ落ちようと思ってる」

 そりゃそうか。
 徹夜明けで出勤して会議となれば流石に眠気が洒落にならないことになる。
 ただ徹夜するだけなら兎も角、何故か会議となると猛烈な眠気が来るというのは俺にも経験があるんだよなぁ。

「正直こんな半端な所で抜けたくはないんだけど、そもそもNew World関連の話でも有るから休む訳にはいかないのよね」
「仕事じゃ仕方ねぇって。これで遅刻した理由が『New Wolrdやってました』とか、仕事を取り上げられかねんでしょ」
「だよねぇ」

 学生時代なら授業ブッチしてそうなレベルで後ろ髪引かれてるが、流石にゲームで仕事を休ませる訳にはいかない。
 というかチェリーさんの普段の言動見ていると、本当にブッチしかねないからな……

「チェリー、どうかしたの?」
「ごめんねーエリスちゃん、私ちょっとお仕事の用事があって一度離れないといけないの」
「ん……、そっかぁ。お仕事じゃ仕方ないよね」

 流石に長いこと一緒に暮らしてるだけあって、エリスもチェリーさんが時折姿を消すことには慣れている。
 チェリーさんやアラマキさんとも話し合って、変にごまかすよりもそのまま伝えておいたほうが良いだろうという事で、チェリーさんが姿を消すのは「お仕事」の為という事は既にエリスに伝えてあるのだ。
 エリスから仕事の内容について聞かれるようなことはなかったから、エリスが気を利かせているのだろうが、あの歳で空気を読む事を当然と考えるとかちょっと、教育間違っちまってるか? と不安になる。
 今のところネガティブな部分は見られないから、エリスが特別気が利く子なんだと思っておくことにしている。

「打ち合わせ終わったらすぐ戻るつもりだから、できれば夜ここで待っててよ?」
「一応そのつもりではいるけど、この状況だから、何かしらトラブルに巻き込まれて身動き取れなくなるかも知れないから約束はできないよ?」
「それはまぁ……仕方ないよね。とりあえず仕事が終わって……23時にログインし直してみて、合流できそうになければ一度そのままログアウトして、明日の朝に宿舎に向かってみるよ」

 それが現実的か。
 ログインしてその場に俺達が居なかったからと言って探し回られても恐らく合流は難しいだろうし、普段なら迷子で済むかも知れないがこの状況では何が起こるかわからない。
 チェリーさんの場合は最悪殺されてもリスポーンするだけだろうが、何処にリスポーンするのかが判らないのだ。
 一応、ハイナ村で狩りの途中でうっかり死んだ時は俺の家で復活したらしいが、その時も何かリスポーン場所の設定をした覚えはなかったと言っていた。
 つまり、この国に来てからの拠点であるあの高級宿舎の部屋で蘇るのか、ハイナ村の俺の部屋で蘇るのかがわからない。
 死ぬことに危険がなくても、目覚めたらハイナ村だった、とかになると合流はもう絶望的だろう。
 なんせ遠距離チャットやメール機能がこのゲームにはないのだ。
 いや、先日の生放送で出た情報によると、あるにはあるらしいのだが、システムではなく高レベルの魔法として存在するらしくまだ遠距離通話用の魔法を手に入れたというプレイヤーは居ないらしい。
 ゲーム外となれば俺の身体の状況を考えれば言わずもがな、だ。
 運営とのやり取りも、New Wolrdのソフト的な機能のものではなく、筐体側のデフォルト機能のメールを使ってるし、それすらも……プログラムは詳しくないからよく分からんが、なんでもサーバに擬似的なメールルールを埋め込んで俺の筐体へと直通させる? とかいう裏技を使ってるらしいくて、俺に対してただのメールを送るだけでも結構面倒だという話だしな。
 この国に来るまで結構な日にちがかかったし、あのチェリーさんが何日も合流できないことがわかった時点で大人しくハイナ村で俺達の帰りを待っているとはちょと考えられない。

「了解。それまではエリスと二人でなんとかしてみるよ。チェリーさんは夜の間は興味を惹かれても変に動き回らずにすぐログアウトしてくれよ?」
「私は子供かい!? わかってるから大丈夫だって!」

 念の為、建物の影に隠れてログアウトしていったチェリーさんを確認して話を元に戻すことにする。

「で、夜までどう過ごすかなんだけど……」
「私たちが泊まった所に戻るんじゃ駄目なの?」

 それまであまり口を挟まなかったエリスが唐突に声をかけてきた。
 とはいえ、エリスの口数が増えることはわかっていたので特に驚く事はなかった。
 エリスが人見知りと言うわけではなく、大人の会話に口を挟まないというのを縦社会の空気の強いハイナ村の大人たちを見て覚えていたからだ。
 なので、周りに年上の人間が居る時は、話を振られない限りめったに会話に口を挟むことがない。
 こうして話を遮る心配のない一対一の状況であれば大人相手でも普通に会話するようになるのだ。

「そうだなぁ、最初はどうかと思ったけど、緋爪の襲撃が無いってなら話は別かな」

 元々、行先の中からあの宿舎を避けた最大の理由は、俺達を襲った緋爪の連中の待ち伏せ、あるいは遭遇を嫌ってのことだった。
 今の状況で俺達を攻撃する理由がなくなったという言葉を全て信用するつもりはないが、部分的には信じても良いと思ってはいる。
 さっきであった時点で連中は少なくとも俺達よりも人数で勝っていた。
 あのアサシンがかなりの手練であることは経験済み。
 そんな奴らが揃っていて、俺達を攻撃してこなかった。
 だから、今後のことはともかくとして、今すぐに俺達をどうこうする気がないというのだけはまぁ、信じられる。
 まぁ信じられると言っても単なる確率論だが。
 俺は相手の言葉の中から限られたワードを探し出して真実を読み解く……なんて器用なことは逆立ちしたって出来っこない。
 だから、俺が判断材料に出来るのは、状況から判断して確率の高いと考えられる方を『それがきっと正しい』と信じて選ぶだけだ。
 そして、今の状況で選ぶのなら――

「よし、じゃあ一度宿舎に戻ろう。チェリーさんとの第二合流地点でも有るし、安全の確認はどのみち必要だろうからな」
「うん」

 まずは宿舎の、拠点の確認。
 それが出来たら、チェリーさんとの再合流の為に時間を見てここに戻って来よう。
 というか、いい加減眠気が限界でヤバイのだ。
 早く帰って寝床で寝たい……
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