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二章

八十八話 逆撃Ⅴ

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「何だあれ……」

 エリスが少数で居る敵を見繕い、俺が気を引き、ハティが倒す。
 そうやって最初に2人、その2人を探しに来たもう2人を倒すことが出来た。
 チームが10人前後で行動していたのは既に確認できていたので、その時点で残っているのは約半数。
 だが、仲間が帰ってこないことで警戒を強めたかも知れない。
 コレ以上の分散は望めないかもしれないが、ハティが居るし二~三人程度の人数差であれば不意を打てばやり方次第ではなんとか出来る。
 そう考えて敵の本隊を探していた俺達が見つけたのは、想像以上の大所帯だった。
 遠目で細かい人数までは確認できないが10人以上居る。
 どうやら他の隊と合流してしまったらしい。
 マズったか……?
 相手の偵察役を倒したのは今の今だ。
 まだ報告に戻らなくても、そこまで不自然な時間帯じゃない。
 この短時間で他の隊と合流するような慎重策を取るとは思わなかった。

「見える範囲で13人」

 エリスは案の定というかハッキリ見えているみたいだな。

「相変わらず見えないわね……キョウくん達はよく見えるわね」
「いや、俺はハッキリとは見えてねぇよ?」

 俺に分かるのは、人影があるかどうか程度。
 大人か子供かくらいなら見分けられるかもしれんが、顔を見分けるのはもちろん男か女かどうかも見分けられるか怪しいところだ。

「エリスは見えるよー」
「ホント、お前は目がいいな……視力いくつくらいあるんだ?」
「わかんない!」

 そりゃ測る方法ないし、当然知らないわな。
 サバンナの住人的に4.0とか普通にありそうだな。

「にしても厄介ね。ああやって集まったってことは、ゲリラ戦術を警戒してのことだろうし、今までの戦法で10人以上の人数相手にするのは無理があるよ?」
「……だなぁ。斥候でもかなり強かったし、メインの戦闘系は俺らと同等か、或いは俺達よりも強いかも」
「やっぱそうなるよねぇ」

 相手は見張りや殺し屋なんかを使い分ける仕事人集団だ。
 そこらの野盗であれば斥候も戦士も大した質の差なんて無いだろうが、大人数を抱え、役割分担までしっかりこなす巨大組織がそこまで雑なやり方をするとは思えない。
 あれが斥候をメインに配置された人員だとすると、戦の花形である正面から戦う戦士はもっと強いと考えたほうが自然だろう。

「ただ、問題はそれだけじゃないっぽいんだよな」

 問題なのは傭兵団側の人数じゃない。

「あと一人……? すごく嫌な感じがする」

 そう、問題は傭兵団と対峙している黒い化物の方だ。
 明らかに人間じゃない。
 そして野生の獣という雰囲気でもない。

「もしかして、アレが魔獣……なのか?」
「ごめん、私からじゃ殆ど見えないんだけど野獣じゃなくて魔獣? こっちじゃ今まで一度も見かけなかったけど、βで見かけたRPGらしいモンスターがやっと出てきたってこと?」
「まぁそうなんだけど、これは……」

 自然発生したものではない、外的要因によって化生したものだけを魔獣と呼ぶらしいが、アレがそうなんじゃないだろうか?
 明らかに普通じゃない。
 どう見ても人間ではないが、とはいえ生き物として絶対にありえない外見――というわけではない。
 腕が4本あったり、この距離で俺がハッキリ見えるくらい体もでかいが……4足ではない生き物なんていくらでもいるし、デカいの程度差はともかくとして異常と感じるくらい高身長の人は居ないわけではない。
 だが、何というか、コレと言って決定的な証明をすることは出来ないが、直感でそう感じてしまうのだ。
 アレはヤバい、獣とは一線を画す何かだと。
 
「なにか気になる事があるの?」
「うまく言葉に出来ないんだけど、アレは絶対ダメなやつだ。エンカウントしたらもうゲームオーバー的な、その手のデッドイベントの匂いというか……」
「ふぅん? 私にはなにか動いているくらいにしか見えないから何とも言えないけど……」

 もしあれが、傭兵達の切り札的な何かだった場合、コレ以上迂闊に手を出すのはヤバイ気がする。
 人数の問題ではなく、あの巨体から得体の知れない雰囲気を感じるからだ。
 例え、アレが一体で孤立していたとしても決して手を出そうとは思えない。
 サイズで言えばハイナ村を襲ったアーマードレイクの方が遥かに巨大で力強かった。
 なのに、遠目から眺めているだけなのに『アレ』の方がヤバイと直感的に分からされる。
 『かもしれない』という予感じゃない。
 『絶対に』という断定で、本能が喚き叫ぶ様に訴えてくるのだ。

「キョウ、あれはなにか良くないよ」

 エリスもアレの発する不穏な空気を感じ取ったんだろう。
 やや青い顔でこちらに次のアクションを促してくる。

「うぅん、このゲームに関しては私よりカンの効くキョウくんとエリスちゃんの2人共がそう感じたというなら、その直感に従ったほうが良いかもしれないわね」

 ――そうだな。
 と答えようとした矢先、黒い巨体が動いた。
 目にも留まらぬ、というほかない。
 動いた、と気づいた時には傭兵達のうち数人が殺されていた。
 ハッキリと姿を確認できない俺が何故死んだと明言できるのかといえば、死体は残らず胴から上が無くなっていたからだ。

「やべぇ……」

 傭兵側の切り札でないことは喜ぶべきことだが……
 傭兵達を襲ったとなると味方?
 ……には見えないというか、どう考えてもモンスターだよなアレ。
 考えられるのは割とお馴染みの第三勢力の乱入イベントって感じか?
 細かいディティールまではわからんけど、腕が4本で巨大でアンバランスなあの姿を見て味方だと安心するプレイヤーはまず居ないと思う。
 いやもう、何でかと問われると見た目が敵っぽいとしか説明できないが、心の底からアレは味方ではないと否定の思考が溢れてくる。
 接触するにはいくら何でもリスクが高すぎる。
 とりあえずは俺達にも傭兵達にもどちらにとっても味方ではないと考えておいたほうが良さそうだ。
 もし遭遇してしまった時、味方であればラッキー程度の考えでいよう。
 ――となればだ。
 あの傭兵たちが引きつけている内に『アレ』から距離をとったほうが良さそうだ。
 探知範囲がどれだけ広いかわからないが、わらないなら俺の知る最大――つまりエリス並みに鋭いという前提で居たほうが良い。
 つまりは、もうバレてるかも知れないけど、それならそれでできるだけ距離を取りたい。
 少なくとも、危険だと直感できる相手に対しては特に。
 幸い……といっていいのか、俺達を追っている傭兵連中を片付けてくれるなら、状況的には俺達に味方していると言えなくもない。
 今のうちに少しでも城への距離を詰めるべきだろう。
 
「よし、あのバケモノが傭兵を相手にしている内に俺達は距離を稼ごう」
「了解」
「はーい」

 連中を捨て石にすると言っている訳だが、二つ返事の了承だった。
 二人共連中のことを明確に敵だと割り切れてるって事か。
 こっちとしては助かるんだが、大人のチェリーさんはともかく、まだ小さいエリスにはこういう嫌な割り切りに慣れさせたくはなかったなぁ。
 せめて、もうちょっと分別つく歳に……っていくら何でも考えが保護者的過ぎるな。
 親バカか俺は。
 ……しっかし、これって物語とかだと後で絶対主人公にやられる小悪党的な行動だよな。
 生き残るために自然に手段を選ばない行動を選ぶ俺は、どうやらヒーロー的なロールはできそうにないな。
 まぁ、勇者様目指してるわけでもないし、腕一つでのし上がる英雄的なプレイも特に興味ないから構わないといえば構わないんだが……なんかこう、やっぱりもにょもにょする。
 つっても、大事なのは自分と仲間だし、ましてや明確な敵を気遣ってやる理由はねぇか。

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