ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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二章

八十話 密談Ⅳ

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「いや、副団長殿よ? 打ち解けたというか……」
「特にそういう意図もなく、ただ雑談してただけというか……」

 そもそも、最初から拒絶的な態度をとっていた覚えはないというか……
 たしかにこの人らの団員にうちの村や周辺はえらい目に合わされたが、この団がやらせていた訳ではないみたいだし、最初から事を荒立てるつもりなんてなかったしな。
 傭兵団相手にただの小村が難癖付けてもプチっと潰されるだけだろ。

「そもそも俺達は詫びに来た訳で、最初から敵対するつもりはなかったし、特別何か打ち解ける必要があるほど別にギスギスもしていなかったろう?」

 ――だよな?
 関係が関係だから、仲良し小好しとは行かないが、あの野獣使いのような悪意は感じられないし、そもそも圧倒的強者側だから、そんな事は知らんと流してしまえるはずの相手側が先に詫びを入れてきたんだから、たとえ内心がどうだろうとギスギスを表に出したりはしない。
 というかそれがわかっていたら普通ギスギスしない。
 俺達側はそこまで甚大な被害を出していないというのも有るけどな。
 身内を皆殺しにされたガガナ村の連中はそう簡単に許せるような相手ではない知れないが、俺はガガナ村は一度も見たこともないし、ハイナ村としてもガガナ村から追い出されたような物だから隣村が潰されたと言っても、道理を無視して憎悪に走るほど思い入れはない……という考えは少々薄情だろうか?

「なに、形式だけの意味のないものではなく、実りある会話が自然にできているようならそれで俺は構わんよ。此方も互いに納得できる落とし所に持ち込めた事だし、妙な気遣いでギクシャクするのも面白くない」
「こちらは特に思い入れはないというか……俺達はハイナでは新参なんで、村長が納得してるなら特に何も言うことは無いですね」

 村長次第。
 正直この一言に限る。

「私はその出来事の後に合流したからそもそも当事者ですらないけど、私としては色々気になる話聞けたから満足よ」

 チェリーさんはまぁそうだよな。
 根幹の内容には一切触れずに、聞きたいことだけ聞いてたって感じがしないでもないが多分気のせいだ。

「ただまぁ、そっちの嬢ちゃんには退屈な話だったかもしれんな」

 シーグラム氏から苦笑とともにそう振られたエリスはかなり眠そうだが、これは別に話がつまらなくて眠いんじゃなくて、前日祭りではしゃいだ直後、次の日の早朝に呼び出されたせいで単に睡眠時間が足りてないだけだ。
 というか俺もぶっちゃけ眠いのだ。

「んー? 退屈じゃなかったよ? 気配の探り方や見分け方のお話は面白かった……zz」
「お、おう……そうか? というか大丈夫か?」

 見てくれはただの幼女だけど、これでいて知識吸収量は馬鹿にできないんだよなぁ。
 ビックリするほどこちらの予想だにしない所まで見たり聞いたりしている。
 その上で、小難しい内容の話もしっかり理解していたりする。
 末恐ろしいただの幼女なのだ。

「どうやら、そちらも話はまとまった様であるな。余がわざわざ取り持った甲斐があったというものだ」

 今までニヤニヤしてるだけでほとんど口をはさんでこなかった王様が口を開いた。
 俺達が話しやすいように茶々を入れなかった……といえば聞こえは良いが、絶対ただ見て楽しんでただけだな。

「これで、お前達への……というよりも錬鉄への借りは返したという事で相違ないな?」
「ああ、わざわざの取次ぎ、感謝しますよ」

 どうやら何か個人的な借りがあったという事だろうか?
 つい最近やりあって、壊滅させたとか何とか話してた割には、ずいぶん気安いというか気心が知れているといった感じだが……
 ……まぁ、気にはなるが、この手の話題は根掘り葉掘り聞く内容じゃないよな。

「お前達にも手間を取らせたな。この後は午後から予定通りハティについての発表があるが、それまでまだ時間がある。時間までしばらくは祭りを楽しんでくるか?」
「まだ、こんな時間だし二度寝したいってのが本音ですね。昨日は祭りを楽しんだ後になって、唐突に今日の時間を知らされたというか、そういった理由でほとんど寝られてないので……」

 なんかもう、口調とかグダグダになっている気がするけど、一応俺が暮らす国の王様だし体裁は整えておかねば。

「そうか、祭りを楽しんで貰えたようで何よりだ。渡したお守りは役に立ったかね?」

 お守り? あぁ、あれか。

「案の定面倒な貴族に絡まれましたが、使うまでもなく乗り切れたのでまだ手を付けずにいられてます。いざという時には遠慮なく使わせて貰おうと思います」
「うん、……うん??」

 あぁ、そうだ。
 祭りを楽しむといえば、今のうちに聞いておかないとだな。

「ちょっとお聞きしたいんですが、どこか、日雇いでも良いのでお金を稼ぐことのできる場所はないですか?」
「金を……? わざわざ祭りの最中にか?」
「いえ、祭りの最中だからというか……私達はそもそも貨幣のない村から来たのでお金を持ち合わせてないんですよ。ただ見てるだけというのもそれはそれで楽しめはするんですが、折角だからいろいろ買ったりしてみたいと思いまして……」

 やっぱり、目の前にいろんな商品が出てると、つい欲しくなっちまうんだよな」。
 それに祭りの屋台から漂ってくる匂いは、いくら腹を膨らませておいたと言っても耐えきれるもんじゃない。

「ぬ? そのための……いやそうか、これは余が悪かったか」

 なんだ?

「渡したお守りはまだ持っているか?」
「ええまぁ、いつ何があるか判らないので常に持ってますけど」

 そういって、懐から取り出して見せる。

「開けてみるがいい」
「良いんですか?」
「むしろ何故開けてはならないと思ったのだ?」

「それは、中身を知らせずに困ったときに開けろと言われたので、開封した段階で効果を失うタイプのモノかもしれないと考えて本当に危機的状況になるまでは手を付けないようにしていたんですけど」
「……そう解釈したか……そうか……ユーモアというのは難しいな」

 どうしたんだ?

「許す、包みを開いてみよ」
「え、えぇ」

 意図は解らないが、渡してきた本人が良いと言ってる訳なので、とりあえず言われたとおりに渡されたお守りを開けてみる。
 入っていたのは……貨幣?

「これは……?」
「その……な? お前たちが金を持っていない事は解っていたから、祭りで買い物に困ったときに使えと小遣いを渡したつもりだったのだ」

 あぁ……困ったときって、貴族に絡まれた時の切り札じゃなくて、祭りを楽しめない時の切り札だったのか……
 いくら何でも分かり難過ぎるだろ……
 いや、タイミングが悪かったのか。
 門前で貴族に絡まれたりしなければ、貴族に対する危機感なんて……いや、あの時も普通に貴族の話をしていたような?

「その、なんだ。残りの日程も、三人で十分楽しめるだけの金額はあるから、ここに呼びつけた事に対する対価だと思って、残りの日程を楽しんでくれ」
「ええと、ありがとうございます……」

 色々と言いたいことは有るが、小遣い貰えたのは普通にうれしい。
 小遣いというにはかなりの大金な気もするが、こっちの世界の金銭感覚はよくわからんしが、少なくとも対価として融通してくれるというのならこの金に対して何か要求されることもないだろう。
 くれるというのなら有難く貰っておこう。

「うむ、アレだ。これ以上此奴等の睡眠時間を奪うのも心苦しい。ここらで解散するとしようか!」

 それっぽいこと言って誤魔化したな。
 思い切り視線が泳いでるぞ。
 だが、正直寝かせてくれるならありがたい。
 アレだけの人混みの中を歩き回ったからな、マジで眠い……

「ふむ、ではこれで解散するとして……分かれる前に今回王にはこの席を取り持ってくれた事だし、一つそれなりに鮮度の高い、王にとって有益な情報を進呈しよう」
「ほう? 随分と気前がいいな」
「この情報であれば現在の我らとそちらの関係上、我らに利するところが特に無いからな。この国への打撃に繋がりはしても、我らはその様な勝利に価値を見出してはいない。まぁ、ここらで恩を売るには丁度いい情報といったところでしょうや」
 
 おいおい、せっかく解散かと思ったら何やら不穏な話が耳に飛び込んできたんだが……?

「あの、それって俺達が聞いちゃって良いものなんですか?」
「ええ、恐らくお前さん方には一切身に覚えがない事だと思いますが、まぁ状況的に間違いなく巻き込まれるだろうな」

 うーわ、巻き込まれるとか穏やかじゃない。
 何か、直接関係ないかも知れない俺たちまで巻き込まれかねない何かが起きるとか嫌な予感しかしない。

「四日前のことになりますが……」
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