ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

文字の大きさ
上 下
86 / 330
二章

八十話 密談Ⅳ

しおりを挟む
「いや、副団長殿よ? 打ち解けたというか……」
「特にそういう意図もなく、ただ雑談してただけというか……」

 そもそも、最初から拒絶的な態度をとっていた覚えはないというか……
 たしかにこの人らの団員にうちの村や周辺はえらい目に合わされたが、この団がやらせていた訳ではないみたいだし、最初から事を荒立てるつもりなんてなかったしな。
 傭兵団相手にただの小村が難癖付けてもプチっと潰されるだけだろ。

「そもそも俺達は詫びに来た訳で、最初から敵対するつもりはなかったし、特別何か打ち解ける必要があるほど別にギスギスもしていなかったろう?」

 ――だよな?
 関係が関係だから、仲良し小好しとは行かないが、あの野獣使いのような悪意は感じられないし、そもそも圧倒的強者側だから、そんな事は知らんと流してしまえるはずの相手側が先に詫びを入れてきたんだから、たとえ内心がどうだろうとギスギスを表に出したりはしない。
 というかそれがわかっていたら普通ギスギスしない。
 俺達側はそこまで甚大な被害を出していないというのも有るけどな。
 身内を皆殺しにされたガガナ村の連中はそう簡単に許せるような相手ではない知れないが、俺はガガナ村は一度も見たこともないし、ハイナ村としてもガガナ村から追い出されたような物だから隣村が潰されたと言っても、道理を無視して憎悪に走るほど思い入れはない……という考えは少々薄情だろうか?

「なに、形式だけの意味のないものではなく、実りある会話が自然にできているようならそれで俺は構わんよ。此方も互いに納得できる落とし所に持ち込めた事だし、妙な気遣いでギクシャクするのも面白くない」
「こちらは特に思い入れはないというか……俺達はハイナでは新参なんで、村長が納得してるなら特に何も言うことは無いですね」

 村長次第。
 正直この一言に限る。

「私はその出来事の後に合流したからそもそも当事者ですらないけど、私としては色々気になる話聞けたから満足よ」

 チェリーさんはまぁそうだよな。
 根幹の内容には一切触れずに、聞きたいことだけ聞いてたって感じがしないでもないが多分気のせいだ。

「ただまぁ、そっちの嬢ちゃんには退屈な話だったかもしれんな」

 シーグラム氏から苦笑とともにそう振られたエリスはかなり眠そうだが、これは別に話がつまらなくて眠いんじゃなくて、前日祭りではしゃいだ直後、次の日の早朝に呼び出されたせいで単に睡眠時間が足りてないだけだ。
 というか俺もぶっちゃけ眠いのだ。

「んー? 退屈じゃなかったよ? 気配の探り方や見分け方のお話は面白かった……zz」
「お、おう……そうか? というか大丈夫か?」

 見てくれはただの幼女だけど、これでいて知識吸収量は馬鹿にできないんだよなぁ。
 ビックリするほどこちらの予想だにしない所まで見たり聞いたりしている。
 その上で、小難しい内容の話もしっかり理解していたりする。
 末恐ろしいただの幼女なのだ。

「どうやら、そちらも話はまとまった様であるな。余がわざわざ取り持った甲斐があったというものだ」

 今までニヤニヤしてるだけでほとんど口をはさんでこなかった王様が口を開いた。
 俺達が話しやすいように茶々を入れなかった……といえば聞こえは良いが、絶対ただ見て楽しんでただけだな。

「これで、お前達への……というよりも錬鉄への借りは返したという事で相違ないな?」
「ああ、わざわざの取次ぎ、感謝しますよ」

 どうやら何か個人的な借りがあったという事だろうか?
 つい最近やりあって、壊滅させたとか何とか話してた割には、ずいぶん気安いというか気心が知れているといった感じだが……
 ……まぁ、気にはなるが、この手の話題は根掘り葉掘り聞く内容じゃないよな。

「お前達にも手間を取らせたな。この後は午後から予定通りハティについての発表があるが、それまでまだ時間がある。時間までしばらくは祭りを楽しんでくるか?」
「まだ、こんな時間だし二度寝したいってのが本音ですね。昨日は祭りを楽しんだ後になって、唐突に今日の時間を知らされたというか、そういった理由でほとんど寝られてないので……」

 なんかもう、口調とかグダグダになっている気がするけど、一応俺が暮らす国の王様だし体裁は整えておかねば。

「そうか、祭りを楽しんで貰えたようで何よりだ。渡したお守りは役に立ったかね?」

 お守り? あぁ、あれか。

「案の定面倒な貴族に絡まれましたが、使うまでもなく乗り切れたのでまだ手を付けずにいられてます。いざという時には遠慮なく使わせて貰おうと思います」
「うん、……うん??」

 あぁ、そうだ。
 祭りを楽しむといえば、今のうちに聞いておかないとだな。

「ちょっとお聞きしたいんですが、どこか、日雇いでも良いのでお金を稼ぐことのできる場所はないですか?」
「金を……? わざわざ祭りの最中にか?」
「いえ、祭りの最中だからというか……私達はそもそも貨幣のない村から来たのでお金を持ち合わせてないんですよ。ただ見てるだけというのもそれはそれで楽しめはするんですが、折角だからいろいろ買ったりしてみたいと思いまして……」

 やっぱり、目の前にいろんな商品が出てると、つい欲しくなっちまうんだよな」。
 それに祭りの屋台から漂ってくる匂いは、いくら腹を膨らませておいたと言っても耐えきれるもんじゃない。

「ぬ? そのための……いやそうか、これは余が悪かったか」

 なんだ?

「渡したお守りはまだ持っているか?」
「ええまぁ、いつ何があるか判らないので常に持ってますけど」

 そういって、懐から取り出して見せる。

「開けてみるがいい」
「良いんですか?」
「むしろ何故開けてはならないと思ったのだ?」

「それは、中身を知らせずに困ったときに開けろと言われたので、開封した段階で効果を失うタイプのモノかもしれないと考えて本当に危機的状況になるまでは手を付けないようにしていたんですけど」
「……そう解釈したか……そうか……ユーモアというのは難しいな」

 どうしたんだ?

「許す、包みを開いてみよ」
「え、えぇ」

 意図は解らないが、渡してきた本人が良いと言ってる訳なので、とりあえず言われたとおりに渡されたお守りを開けてみる。
 入っていたのは……貨幣?

「これは……?」
「その……な? お前たちが金を持っていない事は解っていたから、祭りで買い物に困ったときに使えと小遣いを渡したつもりだったのだ」

 あぁ……困ったときって、貴族に絡まれた時の切り札じゃなくて、祭りを楽しめない時の切り札だったのか……
 いくら何でも分かり難過ぎるだろ……
 いや、タイミングが悪かったのか。
 門前で貴族に絡まれたりしなければ、貴族に対する危機感なんて……いや、あの時も普通に貴族の話をしていたような?

「その、なんだ。残りの日程も、三人で十分楽しめるだけの金額はあるから、ここに呼びつけた事に対する対価だと思って、残りの日程を楽しんでくれ」
「ええと、ありがとうございます……」

 色々と言いたいことは有るが、小遣い貰えたのは普通にうれしい。
 小遣いというにはかなりの大金な気もするが、こっちの世界の金銭感覚はよくわからんしが、少なくとも対価として融通してくれるというのならこの金に対して何か要求されることもないだろう。
 くれるというのなら有難く貰っておこう。

「うむ、アレだ。これ以上此奴等の睡眠時間を奪うのも心苦しい。ここらで解散するとしようか!」

 それっぽいこと言って誤魔化したな。
 思い切り視線が泳いでるぞ。
 だが、正直寝かせてくれるならありがたい。
 アレだけの人混みの中を歩き回ったからな、マジで眠い……

「ふむ、ではこれで解散するとして……分かれる前に今回王にはこの席を取り持ってくれた事だし、一つそれなりに鮮度の高い、王にとって有益な情報を進呈しよう」
「ほう? 随分と気前がいいな」
「この情報であれば現在の我らとそちらの関係上、我らに利するところが特に無いからな。この国への打撃に繋がりはしても、我らはその様な勝利に価値を見出してはいない。まぁ、ここらで恩を売るには丁度いい情報といったところでしょうや」
 
 おいおい、せっかく解散かと思ったら何やら不穏な話が耳に飛び込んできたんだが……?

「あの、それって俺達が聞いちゃって良いものなんですか?」
「ええ、恐らくお前さん方には一切身に覚えがない事だと思いますが、まぁ状況的に間違いなく巻き込まれるだろうな」

 うーわ、巻き込まれるとか穏やかじゃない。
 何か、直接関係ないかも知れない俺たちまで巻き込まれかねない何かが起きるとか嫌な予感しかしない。

「四日前のことになりますが……」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...