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二章

七十八話 密談Ⅱ

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「さて、村への賠償関連のやり取りはあ奴等に任せるとして……お前達の方だな。」

 村長達が保障関連の話をしに隣の部屋へ行ってしまい、どうしたものかと考えていたら唐突に話を振られた。
 どうやら俺達には俺達で別に用があるらしい。
 まぁ、無かったら何で呼んだって突っ込むところだったが。
 シーグラムって人が残ってるのもそれに関連する話か?

「余も偶然あの場に居合わせたが、戦いの当事者として最も長く対峙していたのはお前の筈だ。この男も状況を知りたいということでな。今一度あの時の話を出来るだけ詳しく説明して貰いたい」

 成る程。
 そう言われてみれば、現場の見聞とかはやっていたが、詳しい現場の話みたいなのは聴取とかされなかったな。
 せいぜい事の顛末くらいか。
 村長とかとも話し合ってたみたいだし、それで情報は出揃っていたのかと思ったが……
 まぁ、状況確認と言うよりも所属していた傭兵団の幹部に聞かせるって意味合いが一番強いんだろうけどな。

「アレも我が団の一員ではあったからな。ケジメをつけるにしろ、まずはその結末について正確な情報を俺自身の目と耳で得ておきたい」

 この傭兵の人にしても、自分ところの団員が一体どうやって迷惑をかけたのかを正しく知っておきたいのか。
 まぁ、やらかした団員の言動やなんかが今後の交渉とかに関わるかも知れないとなると、少しでも情報を得ておきたいといった所か?

「わかりました。それでは、あまり話を遡っても長くなるだけですし、あの野獣使いと直接顔を合わせた所からにしようと思いますけど、それで大丈夫ですか?」

 ぐむ……丁寧語慣れねぇな俺は。

「それで構わん、初めてくれ」
「わかりました。まずは……」

 そこから、バジリコックを倒して野獣使いが現れたこと、アーマードレイクを村の中に引き入れた事、その目的や手口等を覚えている限り順番に説明した。
 そして村を襲った目的がアーマードレイクの餌の為だったことや、アーマードレイクを倒したのは俺ではなくはティであること、野獣使いに関しては俺だけでは倒しきれず逃げられそうだった所をで王様が現れたという所まで、特に隠すべき内容はなかったので全て正直に話してみた。
 トドメに関しては王様が指したから、俺が説明できるのはそこまでだ。
 俺の説明を補足する形で、王様から野獣使いが錬鉄傭兵団所属である事を自供していた事や、使っていた武器や能力なんかの説明の追加があったが、それで終わりだ。

「成る程……話を聞く限り確かに我が団のグリューという者のようだ。使役の技術や装備からもまず間違いないだろう。俺の知っている奴とは随分と性格が違うように感じたが」
「別人が成りすましていたと?」
「可能性は否定せんが、それは考えすぎだろう。我が団を陥れるための狂言であるのなら、辺境のような衆目を浴びぬ場所でやる意味がない。場合によっては人知れず村が滅んで終わっていたかも知れないからな」

 たしかにそうだな。
 傭兵団に悪評を押し付けるならもっと目立つ場所でやるほうが自然だ。
 皆殺しにしてしまっては、誰が何のためにやったのかも解らなくなってしまう。

「卑屈で皮肉屋でもあったが、相手を馬鹿に出来るような積極性は持ち合わせていなかった筈……まぁ、我々の前では猫を被っていたのかもしれんな」

 傭兵団の中では大人しめに演じていた……と言うことか。
 まぁ、自分のすべてをさらけ出している人の方が少数だろうし、実際そんなもんだろう。

「確認に必要な情報は十分に得られることが出来た。感謝する」

 そういって思いの外アッサリとシーグラム氏は犯行が自分の団の人間だと認めたようだ。
 王様直々に止めを刺してる時点で、言い逃れとかはするつもりは無かったんだろうが、事後報告とか組織の幹部としての必要な仕事だったと言うことだろうか?

「納得は出来たようだな。お前達が余を相手に直接接触を求めてきた時はどうしたものかと考えたものだが」
「それは仕方ないだろ。我が団の幹部候補が敵対組織の後方の村々で虐殺を働いた挙げ句、そこの住人に撃退され、何故か村に居た月狼と、これまた偶然居合わせた王によって処断された……などと聞かされて素直に納得できるはず無いだろう?」

 確かに、状況だけを並べられると凄まじく胡散臭いなこれ。
 そもそも辺境に王様が居合わせるという時点でかなりおかしな状況だし、色々と疑って掛かっても仕方ないと思う。

「奴の強さは直接手を下したアンタならよく知っているだろう? アレでも幹部候補なだけはあって、俺等程ではないが、決して一般人がどうこう出来るような相手ではない。しかも俺達ですら知らなかったがアーマードレイクを使役していたというのであれば尚更だ。偶然居合わせたというが、そうでなければ生存者が居たことすら奇跡的なレベルだぞ。狂言や罠を疑うのが当然といっていい。だが……」

 そういって、シーグラム氏は何か疲れたような目でハティを見やる。

「実際にこの場でこの月狼の王を見せられては納得せざるを得ないだろ。ずいぶん懐いているようだが、コイツ恐らく単体でなら俺はもちろんの事エルヴァスト王、アンタよりも強いぞ?」
「わかっておるよ。余が駆けつけた時、田舎の村の中で鎧竜と巨大な月狼が暴れまわって居るのを見た時の絶望が貴様になら判るであろう」
「あぁ……俺なら間違いなく『どうしてこうなった』と頭を抱えるだろうな」

 あらま、王様ってば圧倒的な強さで野獣使いを倒していたけど、その王様よりもハティの方が強いのか。
 ……ってよく考えたらハティってLv10だっけか。
 対パーティ戦ならともかく、レベルカンストのボス相手にそらタイマンじゃ勝てないわな。
 ……よくよく考えるまでもなくやっぱりハティの強さヤベェな。
 一プレイヤーが連れて歩いていいペットモンスターの域を軽く超えてるだろ。

「それにしても、絶対不可侵の北の山脈の王者と言われた月狼の、しかも王種がこうも人に懐くとはねぇ? しかもこんな小さな娘に」
「? ハティの飼い主は私じゃなくてキョウだよ?」

 シーグラム氏の問いに「何いってんの?」って顔で答えるエリス。
 確かにその通りなんだけど、最近は俺よりもエリスと一緒にいる時間のほうが長いし、もはやエリスの方がよっぽど飼い主してるんじゃないかと思うんだが。
 ハティってこれで居て結構人見知りをすると言うか、無闇に吠えかけたりはしないんだが、触られるのを嫌がる。
 今は当たり前のように背中を許してるが、最初はチェリーさんでさえ触らせるのに躊躇していたのに、エリスには初対面から嫌な顔ひとつせずにモフモフさせてたからかなり相性はいいと思うんだよな。

「ほう? お前は、さっきの話では出てこなかったがバジリコックを仕留めたというので間違いはないか?」

 で、そんな風に俺の名前を出せば当然興味は俺の方に流れる訳で。

「ええ、まぁ。それ聞かれる度に驚かれますけど、あんまり強くなかったですよ? その前にけしかけられたライノスのほうがよっぽど辛かったですし、もし本当にバジリコックが言うほどの強敵だったなら、多分俺が戦ったやつは弱ってたんじゃないですかね」
「多少弱っていたとかそんな程度で変わるほどあの怪鳥の危険度は生易しいもんじゃないんだがな」

 そうは言っても、当時Lv1の俺が一対一で倒せる程度の敵だしなぁ。

「バジリコックの危険さの原因はその爪にあってな。あの爪はたとえ鎧の上からだろうが毒液が染み込んで石化させちまう所にある。しかも厄介なことに石化の毒は生き物の血液に混ざった途端、ものの数秒で石化が始まる。魔法による硬化と違い、解除方法もないから一撃貰っただけで致命傷だ。たとえ運良く毒が回る前に幹部を切り落とせたとしても、四肢欠損で戦仕事が出来るほど戦場は甘くない。つまり廃業に追い込まれるって訳だ。一度の失敗も許されない相手だからこそそこまで恐れられるのだ」

 それは、バジリコックの話する度に色んな人に言われるんだが……というかあの石化って魔法じゃなくて毒による化学変化的な物なのか。
 今の説明だと、毒が他の生き物の血と反応して石に変質するって話だが、確か現実にも石灰化はそれなりに知られてるし、筋肉が骨に変質する奇病なんてのも昔テレビで見た気がする。
 そういう病気があるなら、状態異常の回復魔法とかで治せても良い気がするんだが、何かが違うんだろうか?

 でまぁ、要するに治療方法の解らない石化攻撃が超危険だからバジリコックはヤバイって話なんだが、それに対する答えって最初から何も変わらないんだよなぁ。

「でも、そんなの石化関係なく、例えば嘴で突かれたりしても致命傷だと思いますけど。それに、ライノスの一撃だって掠っただけで足がへし折れたし、逆にバジリコックに通用した攻撃がライノスにはまるで通用しなかったってのもあって、圧死だろうが石化だろうが、どっちも即死ならバジリコックよりもライノスのほうが十分強敵だと思うんですけど、誰にも理解してもらえないんですよねぇ」

 何でこんな当たり前の事が伝わらないんだろうか。
 途中経過が石化だろうが轢死だろうが、結果は同じだろうに。

「……んん? あぁ~、成る程そういうことか」

 そんな俺の答えに対してシーグラム氏が的を得たような反応。
 この反応はもしかして……ようやく俺の言っていることを理解してくれる人に出会えたのか?

「お前さん、そりゃ誰にも理解してもらえないだろうさ」

 そういう訳ではなかった。

「何でですか?」
「普通、ライノスやバジリコック相手に一撃も耐えられないような鍛え方や貧弱な装備で、アレに挑むなんて事はあり得ないからだよ。協会の連中がライノスやバジリコックの討伐依頼を出す様なレベルであれば、それこそライノスと殴り合えるくらいの猛者共になる。そこらの雑魚ではライノスほどの害獣となると挑ませてすら貰えないからな」

 そういや以前にも話の中に協会って出てきたな。
 話の流れから多分冒険者ギルドみたいな感じの組織だと思うが……
 つまりこれはアレか、冒険者ギルドの受注可能ランク的な話だろうか?

「ライノスとバジリコックでは、バジリコックの方が危険度は上だがランクは同等だった筈だ。つまり、ライノスとマトモに戦えるのが当たり前のような奴らがバジリコックに挑む権利を得ると言う訳だ。判るか? 普通バジリコックと戦うような奴らはライノスの一撃が重いと感じたとしても、それが致命傷になるような奴らではないという事だ」
「あ?……あぁ、なるほど……そういう」

 つまり、俺のレベルが低すぎるから何を食らったとしても即死だったと言うだけで、適正レベルであれば何発か貰っても大丈夫だったと。
 で、バジリコックはそんな連中であっても一撃で戦闘不能に陥る危険な爪を持っているからライノスとランクは同じでも難度が高いと、そういう事か。
 そうか……SAD相手に全力の攻撃がまるで通用してなかったからレベル次第でどれだけ頑丈になるんだ……と考えたことはあったが、レベル上がるとあのライノスの突撃に生身で耐えられるほど頑丈になるのか……
 それは最早本当に人間なんだろうか?

「何というか、シーグラムさんの説明でやっと俺の説明を他の人に理解してもらえない理由が解りました。要するに俺が弱すぎて周りの感覚と食い違ってたって事なんですね」
「まぁ、そういう事なんだが……果たしてお前が弱すぎると言えるのかはちょっと議論の余地があるな」

 そういう話なんじゃなかったのか?

「何で?」
「弱すぎるやつはそもそもバジリコックを倒せたりはせん」

 ……なるほど。
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