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二章
六十九話 道行き
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「お、準備は済んだか?」
「問題なしです。元々大した荷物は持ってないんで」
広場に集まった俺達に、先に来ていた村長が呼びかけてきた。
あれから一週間、本来ならまだ製品版サーバに居るはずだったが、こうして戻ってきてしまった以上は空いた時間をそれぞれが必要だと思うことに取り組んでいた。
チェリーさんはほとんど毎日ガーヴさんのところに通いつめていた。
エリスが言うにはスキルの使い方を一から覚えなおしているようだ。
時折エリスやサリちゃんと組手をするらしいが、なんと素手の勝負ではまだエリスの方が強いらしい。
日課の鍛錬も欠かさず参加しているし、かなり貪欲に強さを求めているようだ。
狩りも大分慣れてきて、一人でもヤギを狩れる様になっていた。
まだ内臓とかはダメらしく解体は俺が請け負っていたが、トドメと血抜きは自分でやれるようにはなった。
というか、嫌がっても無理やりやらせた。
せめてそこは奪う側としてけじめを付けさせる必要があるし、いざという時に戦闘で敵に止めを刺せないというのは色々と危険だと感じたからだ。
そしてメインのブログでは初日からいきなりやらかしてくれた。
俺とエリスがまだ寝ている間に頭の下に腕を差し込んで、腕枕での朝チュン画像をアップしてくれやがった。
しかも、確認できない俺は言われなきゃ知らずに要られたのに、わざわざ知らせてくる辺り、完全に愉快犯である。
一体何の嫌がらせなんだと怒ったものだが、全く悪びれずに笑顔でサービスショットとか言われると起こる気力もなくなるというものだった。
そのサービスショット、俺は見れないんだけどな。
何でそんな事してんだと問いただしてみれば、何の事は無い。現実で男友達とこんな真似したら大問題になるからと、ゲーム内で思う存分楽しむつもりらしい。
正直、『チェリーブロッサム』ではない『結城桜』としての間合いはこの際考えないようにしている。
ただ、どうにもチェリーブロッサムというキャラクターにとっての大丈夫のボーダーライン、パーソナルスペースが狭すぎてかなり掴みにくくて反応に困る。
狭いと言うか殆ど無いようなものだ。
当たり前のように抱きついてきたり、水浴びに乱入してきたりとか、スキンシップとか言い張ってかなりやりたい放題だからな。
それでいてキスのように、避ける行動もあったりするので、どこまでが許されてどこまでが許されないのか分からず触れ合うのがちょっと怖いのだ。
現状の攻略法は、くっつかれてる間は指一本動かさないという安全策だ。
我ながら飛んだヘタレだと思うが、そうなのだから仕方ない。
一方の俺はと言うと、この一週間は時折アラマキさんに建築系のスキルを習いつつ、裁縫や鍛冶といったスキル上げに励んでいた。
もちろん、日課の鍛錬は欠かさなかったし、影でコソコソと新技の研究とかもやってはいたが、まずは何よりも自活能力の向上を目標に据えていた。
その甲斐あって、日用品や普段着程度であれば質を求めなければ自作できる程度には。
実際、今俺やチェリーさん、エリスの来ている服は俺が練習がてら作ったものに着替えている。
初期装備の服がおんぼろ過ぎるのと、デザインが明らかにこの村の衣服から浮いてたからな。
「お前さん達も問題ないな?」
「私も荷物らしい荷物はカバンに収まる程度しかないしね」
「わたしも平気ー」
「ウォン!」
「オメェ等ホントに荷物すくねぇな……」
まぁみんな背負えるカバン分しか無いしな。
俺とチェリーさんは長物の武器持ってる分多少嵩張ってはいるが。
「というか村長の荷物が多すぎるんじゃないですか? 祭の見物にしちゃ大掛かりすぎでしょ」
何というか、荷車いっぱいに色々と積み込まれていた。
街まで片道7日と聞いてはいたけど、いくらなんでもコレは詰め込み過ぎなんじゃ……
「馬ぁ鹿。コレは王に納める物やなんかが色々あるんだよ。オメェらはともかく俺は村長として仕事で参加すんの」
「あぁ、貢物とかそう言うのが詰まってこんな事になってるのか」
「にしてもお前らは少なすぎると思うがな。普通その倍はあるカバンに限界まで詰め込むくらいの旅だぞ?」
「そうは言われても、俺等が持ってる物全部詰め込んで、7日分の食料なんか詰め込んでコレなんですけどね」
ハイナ村の店と呼べるものには殆どない。
俺の知る限り金物屋と薬屋だけだ。
その2つも店というよりも村人の要望に沿って提供するって感じで、売買しているわけではない。
肉は村総出で狩りをして、それを村人に割り振ってるので当然肉屋なんてものはない。
畑に関してはアラマキさんが、『畑とはどういうものか』を教えてる段階なので当然野菜屋なんてものもない。
物々交換が基本で、流通の販路から外れているのか商人も村に来ないので外の品物なんかもない。
服とか自分で作るのが当たり前になってるので服屋なんて当然無い。
本当に必要なものしか無いので物が増えないのだ。
着替えは俺の裁縫の練習がてら三人分、上下二着ずつ作ったが、ほかは殆ど物が増えてない。
チェリーさんから下着も作って欲しいと言われたが、ブラとか作れるほどまだ裁縫の腕はないのでダボダボパンツとサラシで我慢してもらっている。
別にブラなんて必要ないんじゃないの? って言ったら、疲れた顔で理由を教えてくれた。
なんでも訓練で派手に動き回ったら胸が揺れすぎて地味にダメージ食らったとかいう冗談みたいな理由だった。
おっぱいモゲそうになるほど跳ね回ったとか、一体何やってたんだこの人……
まぁ元々村には草綿で作られた綿布しかないので、たとえ俺の腕が良くなってもあんま凝ったものは作れないけどな。
結局俺達のカバンの何は初期の冒険お役立ちグッズ一式と服が2着に干した薬草類と保存食の干し肉くらいしか入っていない。
俺達のカバンはリュックサック型の背負うタイプなので、見た目的に余計荷物が少なく感じるかもしれない。
エリスが背負うとかなり大きく見えるが、こう見えてそれなりに鍛えてるから問題ない。
まぁキツそうなら俺が持ってやれば済むし。
「まぁついこの間1週間旅してきた訳だから、旅を舐めてるってわけでもないとは思うが……」
ごめんなさい、それは旅をしてた振りなだけで実際は宿屋に泊まって普通に過ごしてました。
「ま、まぁ前の時は二人旅だったし、こんな馬車での旅はしたこと無いから勝手は違うとは思いますけどね」
「あぁ、ソレはあるかもしれんな。そうやってある程度心構えができてるんなら俺から特に言うようなことでもねぇな」
「まだ旅は初心者の自覚はありますから、困った時は色々頼るかもしれませんけど」
「何、最初は誰だって初心者なんだ。変に問題が大きくなるまで抱え込まずにさっさと周りを頼ると良い」
「わかりました」
頼って構わないという言質が取れただけでまずは良しとしておこう。
マジで判らんからな……
「うまいこと話を誘導したねぇ」
「いや、誘導とか言えるほどのことはしてないし……っていうかこういう対人スキルは俺よりチェリーさんのほうが鍛えられてるでしょ?」
「まぁ、そうかも知れないけど、私こっちの常識をまだ知らないのよねぇ」
「それは俺も一緒だって。イベントの時以外ではハイナ村から離れたこと無いんだから」
「そっか……まぁ、私よりは共通の知識を持ってるだろうし暫くは頑張って。それを観察して私も安全ラインとかいろいろ見極めて見るから」
「お、おう……プロの営業スキルに期待してるから早く慣れてくれ」
「まぁ、明らかに問題がありそうならサポートするからさ、暫くは対話スキルの訓練だと思って頑張ってよ」
「わかったよ……」
チェリーさんがコミュ強とはいっても、俺がコミュ障のまま居て良いって理由にはならないしな。
今後もずっと一緒に居るというわけでもないし、プロからのサポートが有るうちに対話スキル上げに勤しむのもありか。
同じコミュ強のエリスも居るが、何かあるたびに歳の離れた妹を頼る兄貴というのは流石に外聞が悪すぎるしな。
「お、迎えの馬車が来たようだな。行くぞお前たち」
「わかりました」
現れた護衛と思われる騎士っぽい人と村長が二言三言話し、村長に紹介された俺達が挨拶をするといった軽いやり取りの後は、毎度のことなのかわりかしスムーズに話が進んでいた。
村長の用意した荷馬車を騎士っぽい人たちが引き継ぎ、村長は招待客用なのか、少し豪華な馬車に乗り込んでいった。
護衛の人から俺達も乗るように言われたが、それをやんわりと断る。
細かい操作が必要なゲームができなくなってから、昔はあまりやらなかったRPGやったりラノベを読み漁っていたりしたのだが、色々な作品の中でファンタジー物の定番というか馬車にのると尻が痛くなるという話をよく目にしていたからだ。
そんな理由だけで断るのは流石に失礼にあたるんだろうけど、今回に限っては大義名分がある。
アルマナフからハティに乗って、少なくとも俺達がいればハティが人を襲う事がないと示してほしいと頼まれているからだ。
その事を伝え俺とエリスとチェリーさんはハティの背にまたがる。
護衛の人がドン引きしていたが、みんな似たような反応するしそういうリアクション芸だと思っておく事にした。
旅路は順調で特に問題らしい問題は起きていない。
護衛任務にありがちな襲撃イベントも無く、実にのんびりとしたものだ。
気がつけば、人が踏み鳴らし周りに比べて雑草がないだけの獣道といった風情のものから、ちゃんと舗装はされてないにしろ街道と呼べる程度にしっかりした道に入っていた。
同時に、それまで一切見かけなかった人を見かけるようになった。
やはり、道というのは人と人との交流では重要なようだ。
安全に歩ける道があれば、人が行き来する。
人の行き来が増えれば、物が行き交い金の匂いを嗅ぎつけた商人が乗り出す。
宿や飯処が増え、村と村の間に宿場町が出来……といった感じで道に沿って人が集まる。
要所であれば宿場町から街まで規模が膨れ上がるかもしれない。
今まで居た所は何というか、自然豊かでファンタジー的と言えば確かにそうなんだが、まるでサバンナの村落のような感じだったからな。
ファンタジーと言うと何故か中世っぽい感じの時代設定が多いんだが、ハイナ村はどうにも中世って感じがしないんだよな。
だが目に見えて人が増え、文明の匂いを感じるようになってきて、ようやくイメージに沿った感じになってきた。
通りを歩く人達も、よく見れば人間だけではない。
ケモミミが普通に歩いていた。
更にはエルフ……と思ったら角も生えていた。
魔族……だろうか?
誰も気にした感じはないし、この世界では友好的な種族なんだろうか。
人間3割、ケモミミ4割、魔族3割といった感じだろうか。
思ったより人間が少ない。
流石にハティが怖いのか誰も近づいてこないので遠巻きに観察するしかないが、通行人の種族を考えてるだけでそれなりに楽しめた。
今日に至るまで一度も獣なんかの襲撃がないので、ここまで護衛で固める意味はあるのかと思っていたら、顔に出ていたのか食事の際に近くに居た護衛の人が色々教えてくれた。
今回の旅が順調なのはハティに怯えて襲撃をかけて来る相手が居ないからだという。
辺境を旅すれば肉食の獣の襲撃は大なり小なりほぼ確実に起こるらしい。
群れに襲われることは滅多にないが、群れから弾き出され餌に困った獣が旅人を襲うことは結構あるらしい。
だから武装した護衛もなしに辺境に度に出る者はめったに居ないのだという。
そして、それだけの備えをしたとしても辺境での商いで利益が出せるかと言われれば、そううまい話があるわけもなく、商人たちも動かない為辺境と都市部で貧富の格差がかなり出ているのだそうだ。
そして、襲ってくるのは獣だけとは限らず、むしろ獣よりも野盗なんかに襲われる危険のほうが高いらしい。
獣よりも人間のほうが恐ろしいとは世も末だな。
それはリアルでも変わらないか……
旅も5日目ともなると、街に近付いてきたからか大分ファンタジー感がでてきたが、製品版では当たり前にあった石造りの建物なんかは見当たらない。
この辺りは山や森が多いからか、建物なんかは木造がメインのようだ。
石組みの壁はちらほらあるが、防壁や堤防として積み上げてあるだけのもので、建物はほぼ全て木造だった。
それ以上に目についたのは服装だ。
ハイナ村では前を開いてシャツの上に羽織っていたのでそこまで気にしていなかったが、中世ヨーロッパ風というイメージではなく、和服……とは違うが法被のような前開きの服を着ている人が多い。
昔の格ゲーキャラで見たアイヌの服とヨーロッパ風の服を足して割ったような感じだった。
この辺りは和風モチーフのリージョンなんだろうか?
アルマナフは正にファンタジー!って感じの金属鎧を着てたから気づかなかったが、もしかしたら中はこんな感じの服だったのかもしれない。
となると街というのも思っていたのと違うモノかもしれんな。
ずっと製品版の始まりの街みたいなイメージ持ってたが、木造メインとなると戦国時代の日本や中国っぽい感じかもしれない。
まぁ、和風デザインは結構好きだからむしろ望む所なんだけどな。
ちなみに、チェリーさんの服のデザインも本人の希望で和風が良いというので、それっぽく仕立て上げはしたが、それもデザイン的に周囲から浮きすぎることが無いと判断しての事だ。
まぁ和風と言っても、見た目がそれっぽいだけで、所詮は麻みたいな荒い布地を使った素人作りのバッタもんなので、クォリティはお察しだがな。
もし、周囲がガチガチのヨーロッパ風ファンタジーであれば、俺も和風の服は作らなかったかもしれない。ヨーロピアンな初期装備のイメージが村から浮くからという理由で服を作り直したのに、それでまた浮いてたら意味が無いし。
――とまぁ、この日はそんな事を考えながら荷車に揺られていたのだが、結局ハティという見えている地雷を踏み抜くようなアホは居ないということなのか、結局一度も獣も野盗も現れず実に平和的に街の門へたどり着いていた。
というか、門デカイ……
街というより都だなコレ。
門から伸びる壁の規模から考えても製品版の始まりの街よりも、かなりデカイんじゃなかろうか。
アルマナフは王様やってるみたいだし、このデカさなら十分に王都とか名乗って良い規模だろう。
イベントらしいイベントは一切起きなかったせいで旅路は少々刺激が足らなかったところだけど、これだけ大きな街の祭りであれば色々珍しいものとかも見れるだろうし、期待できそうだ。
……などと思っていたら門の前で足止めを食らった。
何事かと見てみると、どうやら護衛の人と門兵らしき人たちで揉めているようだ。
やっぱり獣より人間のほうがめんどくさいというのは間違いないようだ……
「問題なしです。元々大した荷物は持ってないんで」
広場に集まった俺達に、先に来ていた村長が呼びかけてきた。
あれから一週間、本来ならまだ製品版サーバに居るはずだったが、こうして戻ってきてしまった以上は空いた時間をそれぞれが必要だと思うことに取り組んでいた。
チェリーさんはほとんど毎日ガーヴさんのところに通いつめていた。
エリスが言うにはスキルの使い方を一から覚えなおしているようだ。
時折エリスやサリちゃんと組手をするらしいが、なんと素手の勝負ではまだエリスの方が強いらしい。
日課の鍛錬も欠かさず参加しているし、かなり貪欲に強さを求めているようだ。
狩りも大分慣れてきて、一人でもヤギを狩れる様になっていた。
まだ内臓とかはダメらしく解体は俺が請け負っていたが、トドメと血抜きは自分でやれるようにはなった。
というか、嫌がっても無理やりやらせた。
せめてそこは奪う側としてけじめを付けさせる必要があるし、いざという時に戦闘で敵に止めを刺せないというのは色々と危険だと感じたからだ。
そしてメインのブログでは初日からいきなりやらかしてくれた。
俺とエリスがまだ寝ている間に頭の下に腕を差し込んで、腕枕での朝チュン画像をアップしてくれやがった。
しかも、確認できない俺は言われなきゃ知らずに要られたのに、わざわざ知らせてくる辺り、完全に愉快犯である。
一体何の嫌がらせなんだと怒ったものだが、全く悪びれずに笑顔でサービスショットとか言われると起こる気力もなくなるというものだった。
そのサービスショット、俺は見れないんだけどな。
何でそんな事してんだと問いただしてみれば、何の事は無い。現実で男友達とこんな真似したら大問題になるからと、ゲーム内で思う存分楽しむつもりらしい。
正直、『チェリーブロッサム』ではない『結城桜』としての間合いはこの際考えないようにしている。
ただ、どうにもチェリーブロッサムというキャラクターにとっての大丈夫のボーダーライン、パーソナルスペースが狭すぎてかなり掴みにくくて反応に困る。
狭いと言うか殆ど無いようなものだ。
当たり前のように抱きついてきたり、水浴びに乱入してきたりとか、スキンシップとか言い張ってかなりやりたい放題だからな。
それでいてキスのように、避ける行動もあったりするので、どこまでが許されてどこまでが許されないのか分からず触れ合うのがちょっと怖いのだ。
現状の攻略法は、くっつかれてる間は指一本動かさないという安全策だ。
我ながら飛んだヘタレだと思うが、そうなのだから仕方ない。
一方の俺はと言うと、この一週間は時折アラマキさんに建築系のスキルを習いつつ、裁縫や鍛冶といったスキル上げに励んでいた。
もちろん、日課の鍛錬は欠かさなかったし、影でコソコソと新技の研究とかもやってはいたが、まずは何よりも自活能力の向上を目標に据えていた。
その甲斐あって、日用品や普段着程度であれば質を求めなければ自作できる程度には。
実際、今俺やチェリーさん、エリスの来ている服は俺が練習がてら作ったものに着替えている。
初期装備の服がおんぼろ過ぎるのと、デザインが明らかにこの村の衣服から浮いてたからな。
「お前さん達も問題ないな?」
「私も荷物らしい荷物はカバンに収まる程度しかないしね」
「わたしも平気ー」
「ウォン!」
「オメェ等ホントに荷物すくねぇな……」
まぁみんな背負えるカバン分しか無いしな。
俺とチェリーさんは長物の武器持ってる分多少嵩張ってはいるが。
「というか村長の荷物が多すぎるんじゃないですか? 祭の見物にしちゃ大掛かりすぎでしょ」
何というか、荷車いっぱいに色々と積み込まれていた。
街まで片道7日と聞いてはいたけど、いくらなんでもコレは詰め込み過ぎなんじゃ……
「馬ぁ鹿。コレは王に納める物やなんかが色々あるんだよ。オメェらはともかく俺は村長として仕事で参加すんの」
「あぁ、貢物とかそう言うのが詰まってこんな事になってるのか」
「にしてもお前らは少なすぎると思うがな。普通その倍はあるカバンに限界まで詰め込むくらいの旅だぞ?」
「そうは言われても、俺等が持ってる物全部詰め込んで、7日分の食料なんか詰め込んでコレなんですけどね」
ハイナ村の店と呼べるものには殆どない。
俺の知る限り金物屋と薬屋だけだ。
その2つも店というよりも村人の要望に沿って提供するって感じで、売買しているわけではない。
肉は村総出で狩りをして、それを村人に割り振ってるので当然肉屋なんてものはない。
畑に関してはアラマキさんが、『畑とはどういうものか』を教えてる段階なので当然野菜屋なんてものもない。
物々交換が基本で、流通の販路から外れているのか商人も村に来ないので外の品物なんかもない。
服とか自分で作るのが当たり前になってるので服屋なんて当然無い。
本当に必要なものしか無いので物が増えないのだ。
着替えは俺の裁縫の練習がてら三人分、上下二着ずつ作ったが、ほかは殆ど物が増えてない。
チェリーさんから下着も作って欲しいと言われたが、ブラとか作れるほどまだ裁縫の腕はないのでダボダボパンツとサラシで我慢してもらっている。
別にブラなんて必要ないんじゃないの? って言ったら、疲れた顔で理由を教えてくれた。
なんでも訓練で派手に動き回ったら胸が揺れすぎて地味にダメージ食らったとかいう冗談みたいな理由だった。
おっぱいモゲそうになるほど跳ね回ったとか、一体何やってたんだこの人……
まぁ元々村には草綿で作られた綿布しかないので、たとえ俺の腕が良くなってもあんま凝ったものは作れないけどな。
結局俺達のカバンの何は初期の冒険お役立ちグッズ一式と服が2着に干した薬草類と保存食の干し肉くらいしか入っていない。
俺達のカバンはリュックサック型の背負うタイプなので、見た目的に余計荷物が少なく感じるかもしれない。
エリスが背負うとかなり大きく見えるが、こう見えてそれなりに鍛えてるから問題ない。
まぁキツそうなら俺が持ってやれば済むし。
「まぁついこの間1週間旅してきた訳だから、旅を舐めてるってわけでもないとは思うが……」
ごめんなさい、それは旅をしてた振りなだけで実際は宿屋に泊まって普通に過ごしてました。
「ま、まぁ前の時は二人旅だったし、こんな馬車での旅はしたこと無いから勝手は違うとは思いますけどね」
「あぁ、ソレはあるかもしれんな。そうやってある程度心構えができてるんなら俺から特に言うようなことでもねぇな」
「まだ旅は初心者の自覚はありますから、困った時は色々頼るかもしれませんけど」
「何、最初は誰だって初心者なんだ。変に問題が大きくなるまで抱え込まずにさっさと周りを頼ると良い」
「わかりました」
頼って構わないという言質が取れただけでまずは良しとしておこう。
マジで判らんからな……
「うまいこと話を誘導したねぇ」
「いや、誘導とか言えるほどのことはしてないし……っていうかこういう対人スキルは俺よりチェリーさんのほうが鍛えられてるでしょ?」
「まぁ、そうかも知れないけど、私こっちの常識をまだ知らないのよねぇ」
「それは俺も一緒だって。イベントの時以外ではハイナ村から離れたこと無いんだから」
「そっか……まぁ、私よりは共通の知識を持ってるだろうし暫くは頑張って。それを観察して私も安全ラインとかいろいろ見極めて見るから」
「お、おう……プロの営業スキルに期待してるから早く慣れてくれ」
「まぁ、明らかに問題がありそうならサポートするからさ、暫くは対話スキルの訓練だと思って頑張ってよ」
「わかったよ……」
チェリーさんがコミュ強とはいっても、俺がコミュ障のまま居て良いって理由にはならないしな。
今後もずっと一緒に居るというわけでもないし、プロからのサポートが有るうちに対話スキル上げに勤しむのもありか。
同じコミュ強のエリスも居るが、何かあるたびに歳の離れた妹を頼る兄貴というのは流石に外聞が悪すぎるしな。
「お、迎えの馬車が来たようだな。行くぞお前たち」
「わかりました」
現れた護衛と思われる騎士っぽい人と村長が二言三言話し、村長に紹介された俺達が挨拶をするといった軽いやり取りの後は、毎度のことなのかわりかしスムーズに話が進んでいた。
村長の用意した荷馬車を騎士っぽい人たちが引き継ぎ、村長は招待客用なのか、少し豪華な馬車に乗り込んでいった。
護衛の人から俺達も乗るように言われたが、それをやんわりと断る。
細かい操作が必要なゲームができなくなってから、昔はあまりやらなかったRPGやったりラノベを読み漁っていたりしたのだが、色々な作品の中でファンタジー物の定番というか馬車にのると尻が痛くなるという話をよく目にしていたからだ。
そんな理由だけで断るのは流石に失礼にあたるんだろうけど、今回に限っては大義名分がある。
アルマナフからハティに乗って、少なくとも俺達がいればハティが人を襲う事がないと示してほしいと頼まれているからだ。
その事を伝え俺とエリスとチェリーさんはハティの背にまたがる。
護衛の人がドン引きしていたが、みんな似たような反応するしそういうリアクション芸だと思っておく事にした。
旅路は順調で特に問題らしい問題は起きていない。
護衛任務にありがちな襲撃イベントも無く、実にのんびりとしたものだ。
気がつけば、人が踏み鳴らし周りに比べて雑草がないだけの獣道といった風情のものから、ちゃんと舗装はされてないにしろ街道と呼べる程度にしっかりした道に入っていた。
同時に、それまで一切見かけなかった人を見かけるようになった。
やはり、道というのは人と人との交流では重要なようだ。
安全に歩ける道があれば、人が行き来する。
人の行き来が増えれば、物が行き交い金の匂いを嗅ぎつけた商人が乗り出す。
宿や飯処が増え、村と村の間に宿場町が出来……といった感じで道に沿って人が集まる。
要所であれば宿場町から街まで規模が膨れ上がるかもしれない。
今まで居た所は何というか、自然豊かでファンタジー的と言えば確かにそうなんだが、まるでサバンナの村落のような感じだったからな。
ファンタジーと言うと何故か中世っぽい感じの時代設定が多いんだが、ハイナ村はどうにも中世って感じがしないんだよな。
だが目に見えて人が増え、文明の匂いを感じるようになってきて、ようやくイメージに沿った感じになってきた。
通りを歩く人達も、よく見れば人間だけではない。
ケモミミが普通に歩いていた。
更にはエルフ……と思ったら角も生えていた。
魔族……だろうか?
誰も気にした感じはないし、この世界では友好的な種族なんだろうか。
人間3割、ケモミミ4割、魔族3割といった感じだろうか。
思ったより人間が少ない。
流石にハティが怖いのか誰も近づいてこないので遠巻きに観察するしかないが、通行人の種族を考えてるだけでそれなりに楽しめた。
今日に至るまで一度も獣なんかの襲撃がないので、ここまで護衛で固める意味はあるのかと思っていたら、顔に出ていたのか食事の際に近くに居た護衛の人が色々教えてくれた。
今回の旅が順調なのはハティに怯えて襲撃をかけて来る相手が居ないからだという。
辺境を旅すれば肉食の獣の襲撃は大なり小なりほぼ確実に起こるらしい。
群れに襲われることは滅多にないが、群れから弾き出され餌に困った獣が旅人を襲うことは結構あるらしい。
だから武装した護衛もなしに辺境に度に出る者はめったに居ないのだという。
そして、それだけの備えをしたとしても辺境での商いで利益が出せるかと言われれば、そううまい話があるわけもなく、商人たちも動かない為辺境と都市部で貧富の格差がかなり出ているのだそうだ。
そして、襲ってくるのは獣だけとは限らず、むしろ獣よりも野盗なんかに襲われる危険のほうが高いらしい。
獣よりも人間のほうが恐ろしいとは世も末だな。
それはリアルでも変わらないか……
旅も5日目ともなると、街に近付いてきたからか大分ファンタジー感がでてきたが、製品版では当たり前にあった石造りの建物なんかは見当たらない。
この辺りは山や森が多いからか、建物なんかは木造がメインのようだ。
石組みの壁はちらほらあるが、防壁や堤防として積み上げてあるだけのもので、建物はほぼ全て木造だった。
それ以上に目についたのは服装だ。
ハイナ村では前を開いてシャツの上に羽織っていたのでそこまで気にしていなかったが、中世ヨーロッパ風というイメージではなく、和服……とは違うが法被のような前開きの服を着ている人が多い。
昔の格ゲーキャラで見たアイヌの服とヨーロッパ風の服を足して割ったような感じだった。
この辺りは和風モチーフのリージョンなんだろうか?
アルマナフは正にファンタジー!って感じの金属鎧を着てたから気づかなかったが、もしかしたら中はこんな感じの服だったのかもしれない。
となると街というのも思っていたのと違うモノかもしれんな。
ずっと製品版の始まりの街みたいなイメージ持ってたが、木造メインとなると戦国時代の日本や中国っぽい感じかもしれない。
まぁ、和風デザインは結構好きだからむしろ望む所なんだけどな。
ちなみに、チェリーさんの服のデザインも本人の希望で和風が良いというので、それっぽく仕立て上げはしたが、それもデザイン的に周囲から浮きすぎることが無いと判断しての事だ。
まぁ和風と言っても、見た目がそれっぽいだけで、所詮は麻みたいな荒い布地を使った素人作りのバッタもんなので、クォリティはお察しだがな。
もし、周囲がガチガチのヨーロッパ風ファンタジーであれば、俺も和風の服は作らなかったかもしれない。ヨーロピアンな初期装備のイメージが村から浮くからという理由で服を作り直したのに、それでまた浮いてたら意味が無いし。
――とまぁ、この日はそんな事を考えながら荷車に揺られていたのだが、結局ハティという見えている地雷を踏み抜くようなアホは居ないということなのか、結局一度も獣も野盗も現れず実に平和的に街の門へたどり着いていた。
というか、門デカイ……
街というより都だなコレ。
門から伸びる壁の規模から考えても製品版の始まりの街よりも、かなりデカイんじゃなかろうか。
アルマナフは王様やってるみたいだし、このデカさなら十分に王都とか名乗って良い規模だろう。
イベントらしいイベントは一切起きなかったせいで旅路は少々刺激が足らなかったところだけど、これだけ大きな街の祭りであれば色々珍しいものとかも見れるだろうし、期待できそうだ。
……などと思っていたら門の前で足止めを食らった。
何事かと見てみると、どうやら護衛の人と門兵らしき人たちで揉めているようだ。
やっぱり獣より人間のほうがめんどくさいというのは間違いないようだ……
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ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
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こうご期待。
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