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二章
六十二話 帰還
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「ひゃっ!?」
洞窟にたどり着いたと思った瞬間、突然後ろから引張りこまれた。
何事かと振り向いてみれば、俺のマントを手繰って引き寄せていたのは初期装備のチェリーさんだった。
「えっと……大丈夫です?」
突然足場がはっきりして転びそうになってつい掴んじまったとか?
……にしては随分しっかりとホールドされてる気がするんだが。
というかそんなマントで首締めるようにガッツリ捕まえないで、こうガバっと抱きついてくれればまだ約得感があるというに。
「いや、ぜんぜん大丈夫じゃないというか……絶体絶命というか」
そういってガクブルするチェリーさんの視界の先に居たのは……
「ワフ?」
5mサイズのハティだった。
そうか、向こうだとハティの見た目ってワンコサイズだったし、ハティのこの姿知ってるのってミーティングの時に居たテスターと、ハイナ村関係者だけだからな。
こんな暗い所で突然出くわせばそりゃビビるか。
いくら俺よりも高レベルで強いモンスターとの戦闘経験があったとしても、こんな状況で不意打ちにハティのこの姿が目の前にいれば驚いても仕方ない。
あの村長ですら初見でかなりビビってたしな。
「大丈夫ですよ。こいつはハティです」
「へ? これが? ハティちゃん? マジで?」
「街中をこの姿で動く訳にはいかないってことで、他の人が見ても混乱しない姿に設定されてたんですよ。ほら、背中にエリスが乗ってるでしょ?」
「え、あ……ホントだ」
「ハティは怖くないよ~。ね~?」
「ウォン!」
ハティ単体だと怖すぎるかもしれんが、背中に幼女が乗ってるだけで大分怖さは緩和されるんじゃないだろうか。
少なくとも手懐けられてるアピールにはなっているはず。
「え、あの……大丈夫なの?」
「こいつ、見た目はおっかないかもしれないですけど俺等の言葉はきっちり理解してるし、リアルのペットなんかよりも遥かに賢くて意思疎通できますよ? ハティ」
ハティを呼び頭を下げさせると頭を撫でようとして……マントを掴まれてる都合上腕を高く上げられないので、仕方なく顎の下を軽く引っ掻いてやる。
「この子もバディなの?」
「いや、一応モンスター扱いらしいんですけど、運営側も何で俺達にこんなに懐いているのか判らないらしいんですよね。ただ、毎日同じ家で寝てるし、俺の言葉理解するし、俺は死にかけた所を助けてもらったりもしてるんで信頼してますよ」
最初は暴れられたら手も足も出ないからっていう諦めの境地だった事は今言う必要はないよな。
信頼とは積み重ねで得られるものなので、ハティはもう十分に信頼に値する。
「ねぇ、私が触っても大丈夫?」
「ハティ、どうだ?」
一瞬、間があったがハティが首をチェリーさんの方に差し出す。
恐る恐るといった感じでチェリーさんがハティのタテガミに腕を差し込んだ。
「わ、ゴワゴワしてるかとおもったら意外とフカフカ」
「モフモフだよ~」
「触らせてくれてありがとう」
「ウォン」
「わ、ほんとに言葉理解できるんだ……」
つい今の今まで怯えてたはずなのに、思いの外アッサリ受け入れたな。
若いからだろうか? 村のおっさんたちよりもアッサリとハティのことを受け入れてるようだった。
もうちょっと怯えて警戒するんじゃないかと思ったんだが、無駄な心配だったか。
「ん? お前の脚ってこんなだったっけ?」
「わふ?」
何気なく見たハティの脚に甲殻……というかなんか硬そうな突起が増えている気がする。
あれ? 前からあったっけ?
「ちょっと前からトゲトゲし始めたんだよ」
ハティの上からエリスがそう言葉を投げてくる。
ずっと一緒に居るエリスはハティの変化に気づいていたらしい。
「脚だけじゃなくて、フサフサに隠れてわかりにくいけど、体中トゲトゲっぽくなってるよ?」
「大丈夫なのかそれ?」
「ハティはなんとも無いみたいだし、コレが普通なんじゃないかなぁ?
「そうか?それなら良いけど」
変化があるってことは、この巨体でまだ成長中って事なんだろうか?
てっきり大人の生き物だと思いこんでたが、実はコイツ結構若いのか?
まぁ、それはさておき、ハティの方も違和感がないと言うなら問題ないってことだろう。
「取り敢えず、ここに居ても仕方ないし明るいうちに家に帰ろう」
「はーい」
「ウォン!」
「えっと、それじゃ案内お願いします」
そんなこんなで、二週間の予定の旅行は一週間での村への帰還となった。
◇◇◇
「おや、どうしたんだキョウ。予定よりずいぶん早いじゃないか。それにそこの娘は見ない顔だが……」
「ちょっと旅先で知り合ったんだ。身寄りがないって話だったから一緒に来るように誘ったんだけど、村長に紹介しようと思うんだけど今って居るかな?」
「あー、そりゃちょうど良かったな。明日からこの間の件で周辺の村長を集めた会議で出かけるところだったんだ」
おっと、それは本当にラッキーだな。
一日遅れたら面倒なことになるところだった。
あの襲撃で、ウチの村以外にも餌場にされて滅ぼされた村があったようだし、かなりの大事になってるみたいだし一度の周回で細かい所まで決まるのかも怪しい所だ。
今後も暫くは村長の遠出も繰り返しあるかもしれんな。
そうなる前に、顔をつないでおかねぇと。
「それじゃ、ちょっと村長の所に顔だしてくるよ」
「あいよ。ガーヴさん無しで余所者を招き入れるのは本来良くないんだが、まぁハティが一緒にいるなら大丈夫だろ」
なんと言う信頼感。
俺じゃなくてハティが、って所がちょっと泣けるが。
「ねえ、さっきの人ってプレイヤーじゃなくてNPCなんですよね?」
「そうですけど……何か変な所ありました?」
いつもどおりって感じだったと思うが……
「変な所が全く無いというか、人間と全く区別が使いないんですけど……」
「それは本サーバの方も同じじゃ? あっちのAIも多少の違和感はあるけど殆ど人間と変わらないくらいの受け答えしてたと思いますけど」
「そうですね。でも、βでも製品版でもNPCの言動には違和感が確実にあるんです。対応しきれてないというか、そんな感じの」
「うーん、そこはテストサーバだからとか? 昔から試作機は性能高いのがお約束じゃん?」
「それは漫画の中の話ですよ? 現実的に考えて完成品が試作品に劣るとかありえ無いでしょ。何のための試作品だと思ってるんですか」
「あ、やっぱり?」
漫画とかだと試作品は無茶な予算とか機能とか全部盛りとかしてめちゃくちゃスペック、完成品はローコストな量産品ってイメージがあるけど、実際の量産機って無駄な部分を削ぎ落としてローコスト化してることはあるとは思うが、機能は洗練され安く想定のスペックに限りなく近い廉価高品位品となる。
……妥協しなければ、の話だが。
たとえ妥協したとしても試作品に比べて無駄が削ぎ落とされ、技術は進歩していく。
同じ技術力を持った者が何かを作れば、先に作った試作品よりも後継技術で作られた完成品が劣る方が不自然なのだ。
「となると……あれか? 性能は高いけど長期間可動してるALPHAのNPCと、βと合わせても稼働期間の短いGAMMAのNPCのAIとではコミュニケーション能力に成長差が出てるとか」
「まぁ、自然に考えるとそれが一番現実的な答えなのかもしれないですね。あと一年もすれば本サーバのNPCもこんな感じになるってことですか。ヤバイですね」
「ヤバイですか?」
「ヤバイですよ? 人間っぽい、ではなく本当に人間と見分けのつかないようなNPCが溢れる世界って、ゲームの中かもしれないけど、それもう異世界とほとんど変わらないんじゃないですか?」
異世界か。
ネトゲものを楽しんでいた筈が気がついたら異世界物になってましたってか。
でもまぁ、確かに……
「そもそも俺にとってALPHAでの生活は俺のもう一つのリアルだからなぁ。異世界と言われればたしかにその通りかもしれない」
「NPCの反応もそうだけど、感覚がまるで違うから似たような風景なのに感じ方がまるで違うわ」
「そんなに違うの?」
「風邪を肌で感じるくらい違いますね」
「え、それどうなってるんです?」
通常筐体は腕と脚を固定する、なんというか寝そべるタイプの座椅子……みたいな感じだったはず。
座席部分と着装部の部分振動でダメージ表現するとか聞いてたけど、そんなので風とかどうやって感じるんだ?
「もうなんていうか別物ですよ? 宇宙服……とまでは行かないですけど、もうなんかケーブルだらけでとても人様にはお見せできない有様で」
「うわ、そんな事になってんですか。それはそれでちょっと見てみたいかも」
「もう、見せられないって言ってるじゃないですかー」
そう言われるとよけい見てみたくなるんだよな。
SFモノの人体実験的な感じかな? ……っと
「ついたな、ここだよ」
話しながら歩いてるうちにいつの間にか村長の家の前までたどり着いていた。
この村そんな広くないからちょっと喋って歩いてるとすぐ目的地にたどり着くんだよな。
「ここが村長さんの?」
「そういう事。おーい、村長さんいるかー?」
……
「あれ?」
「留守かな?」
「いや、門番のおっちゃんは居るって言ってたし、村の中に入るはずなんだが……村長ー! おーい!?」
「うるっせぇな、金城迷惑だからでかい声で喚くんじゃねぇよ」
「うおっ!?」
なんで後ろから!?
「驚きすぎだろ……」
「いや、想定外の場所から突然声かけられれば誰だって驚くでしょうよ」
「予定より一週間も早く帰ってきたやつが想定外にも俺の家の前で喚いていたが、それほど驚きはしなかったんだが?」
いや、そりゃそうかもしれんけど……
「明日から野暮用で出かけるから、それについて集会場で少し話し合いしてたんだよ。で、昼飯食いに帰ってきたらお前が居たってだけだ」
「ああ、そういう事……」
そりゃ他所の村長達と集ってなにか話し合うなら、この村の事情や利益に関することもあるだろうし、事前の打ち合わせやっててもおかしくないか。
何か村のオッサンが打ち合わせするのなんて夜に酒飲みながらっていう変な先入観があるな……。
「それで、予定の半分の帰還で帰ってきたのと、そこの娘。何か関係があるのか?」
「ああ、ちょっと旅の途中で知り合って……まぁいろいろ事情があって身寄りがないようなんで一緒に来ないかと誘いまして。もし問題がなければ俺が居る間だけでいいんでこの村に置いてやっては貰えないかと」
「……ふむ」
まぁ、二つ返事じゃOK出ないわな。
俺のときも圧迫面接みたいなの食らったし、少しはチェリーさんにも頑張ってもらうことに……
「判った。いいぞ」
「もちろん、それで……えっ?」
「あん?」
「そんなアッサリ、良いんですか?」
「何だよ、もっと色々面倒くさくしてほしかったのか?」
「いやいや、そんな滅相もない。ただ、俺のときはもっと顔合わせて圧浴びせ掛けて色々質問とかあったんで、また同じことがあるのかな、と」
「顔合わせも理由聞きも今やったじゃねぇか」
……あれ? 本当だ。
変な圧力をかけられたりはしなかったけど、やったことだけで言えば確かに……
「あの時は紹介者もなしの見ず知らずの小僧だったから色々試しもしたが、今回はお前という紹介者がいるんだからそれは必要ないだろうが」
ああ、その差が今回の対応なのか。
そう言われると納得できるな。
「ただし、ハティのときと同じだ。お前が連れてきた以上責任はお前が取れ。その娘がこの村に益になるようであればその娘はこの村で受け入れられるだろうが、害するようであればその責任は娘ではなくお前に取ってもらうことになる。それが人を紹介するということだ」
「ええ、解ってます」
その辺厳しい人だしな、この人もガーヴさんも。
しかし、もう少し色々言われるだろうと覚悟していたから、こうもアッサリと認められたのは想定外だがラッキーだったな。
「あの、チェリー・ブロッサムと言います。チェリーと読んでください。これからお世話になります。よろしくおねがいします」
「おう。この村の村長のシギンだ。よろしくやってくれ。どこから来たのか知らんが、こいつといいお前さんといいある程度の礼儀作法を心得てるって事はどこかで最低限の教育受けた経験があるんだろ? なら馬鹿に対してするような説明はいらないだろ。見ての通りこの村は小さく村人全員が協力してやりくりしている。受け入れられたきゃ近所付き合いを大事にしな」
「はい、わかりました。ご忠告有難うございます」
あ、最低限の教育を受けたことがあるとかまで気がついていたのか。
この人、絶対ただの村人上がりじゃないよなぁ。
ガーヴさんもウォーモンガー入ってるここの村人の中でも頭一つ抜けて強いというか、戦い方が妙に賢いんだよな。
二人共ガガナ村から独立したって話だけど、この前居たガガナ村の連中のと見比べてもあの二人だけ知識や力量が飛び抜けてるんだよなぁ。
あの二人はガガナ村に入る前にも何か経歴があるんじゃねぇかなぁと思う。
それが何なのかとかは、特に興味ないというか俺に関係するような事でもないから特に聞くつもりはないけど。
というか変に突っ込んでこの村に居にくくなっても面白くないしな。
何にせよ、だ。
「この村の案内とかはキョウがやってやれ。もう出来るよな? 俺はいい加減腹ぁ空いたから飯にするぜ」
「わかりました。対応ありがとうございます」
「おう」
案内に関しては問題ない。
元々大した大きさの村じゃないから覚えるところも大して多くないからな。
それなりの時間過ごしているから物覚えの悪い俺でも流石に覚えられる。
「これでチェリーさんもこの村の住人になった訳だ。これからどうするかは一度俺の家に帰ってからいろいろ決めよましょう」
「わかったけど、ちょっと良いですか?」
「はい?」
なにか気になることでもあったか?
「たしかにコレは仕事でもあるんだけど、これから長い間一緒に過ごすことになるわけだし、慣れない丁寧口調で話すのはやめましょ? これは仕事であってもゲームなんだし、キョウさんは仕事じゃない時もゲームの中にいるわけだから、私と一緒に居たら仕事とプライベートの区別もできなくなっちゃうでしょ?」
確かに丁寧口調は慣れないけどな。
どうせ無理に使おうとしても進行形でボロでまくってるし、変に気を使わなくて良いのは助かる。
てっきり声優って芸能関係だからこういうのってきっちりしてるもんだと思ってた。
楽できるなら遠慮なく乗っからせてもらうが。
「了解、んじゃ普段どおりに喋らせてもらうわ。丁寧語とか下手くそ過ぎて考えながら喋るの駄目なんだわ」
「だろうと思った」
まぁ、バレるよな。
あんなチグハグな言葉遣いで喋ってたら、俺だって気づく。
……俺のことだけどな。
洞窟にたどり着いたと思った瞬間、突然後ろから引張りこまれた。
何事かと振り向いてみれば、俺のマントを手繰って引き寄せていたのは初期装備のチェリーさんだった。
「えっと……大丈夫です?」
突然足場がはっきりして転びそうになってつい掴んじまったとか?
……にしては随分しっかりとホールドされてる気がするんだが。
というかそんなマントで首締めるようにガッツリ捕まえないで、こうガバっと抱きついてくれればまだ約得感があるというに。
「いや、ぜんぜん大丈夫じゃないというか……絶体絶命というか」
そういってガクブルするチェリーさんの視界の先に居たのは……
「ワフ?」
5mサイズのハティだった。
そうか、向こうだとハティの見た目ってワンコサイズだったし、ハティのこの姿知ってるのってミーティングの時に居たテスターと、ハイナ村関係者だけだからな。
こんな暗い所で突然出くわせばそりゃビビるか。
いくら俺よりも高レベルで強いモンスターとの戦闘経験があったとしても、こんな状況で不意打ちにハティのこの姿が目の前にいれば驚いても仕方ない。
あの村長ですら初見でかなりビビってたしな。
「大丈夫ですよ。こいつはハティです」
「へ? これが? ハティちゃん? マジで?」
「街中をこの姿で動く訳にはいかないってことで、他の人が見ても混乱しない姿に設定されてたんですよ。ほら、背中にエリスが乗ってるでしょ?」
「え、あ……ホントだ」
「ハティは怖くないよ~。ね~?」
「ウォン!」
ハティ単体だと怖すぎるかもしれんが、背中に幼女が乗ってるだけで大分怖さは緩和されるんじゃないだろうか。
少なくとも手懐けられてるアピールにはなっているはず。
「え、あの……大丈夫なの?」
「こいつ、見た目はおっかないかもしれないですけど俺等の言葉はきっちり理解してるし、リアルのペットなんかよりも遥かに賢くて意思疎通できますよ? ハティ」
ハティを呼び頭を下げさせると頭を撫でようとして……マントを掴まれてる都合上腕を高く上げられないので、仕方なく顎の下を軽く引っ掻いてやる。
「この子もバディなの?」
「いや、一応モンスター扱いらしいんですけど、運営側も何で俺達にこんなに懐いているのか判らないらしいんですよね。ただ、毎日同じ家で寝てるし、俺の言葉理解するし、俺は死にかけた所を助けてもらったりもしてるんで信頼してますよ」
最初は暴れられたら手も足も出ないからっていう諦めの境地だった事は今言う必要はないよな。
信頼とは積み重ねで得られるものなので、ハティはもう十分に信頼に値する。
「ねぇ、私が触っても大丈夫?」
「ハティ、どうだ?」
一瞬、間があったがハティが首をチェリーさんの方に差し出す。
恐る恐るといった感じでチェリーさんがハティのタテガミに腕を差し込んだ。
「わ、ゴワゴワしてるかとおもったら意外とフカフカ」
「モフモフだよ~」
「触らせてくれてありがとう」
「ウォン」
「わ、ほんとに言葉理解できるんだ……」
つい今の今まで怯えてたはずなのに、思いの外アッサリ受け入れたな。
若いからだろうか? 村のおっさんたちよりもアッサリとハティのことを受け入れてるようだった。
もうちょっと怯えて警戒するんじゃないかと思ったんだが、無駄な心配だったか。
「ん? お前の脚ってこんなだったっけ?」
「わふ?」
何気なく見たハティの脚に甲殻……というかなんか硬そうな突起が増えている気がする。
あれ? 前からあったっけ?
「ちょっと前からトゲトゲし始めたんだよ」
ハティの上からエリスがそう言葉を投げてくる。
ずっと一緒に居るエリスはハティの変化に気づいていたらしい。
「脚だけじゃなくて、フサフサに隠れてわかりにくいけど、体中トゲトゲっぽくなってるよ?」
「大丈夫なのかそれ?」
「ハティはなんとも無いみたいだし、コレが普通なんじゃないかなぁ?
「そうか?それなら良いけど」
変化があるってことは、この巨体でまだ成長中って事なんだろうか?
てっきり大人の生き物だと思いこんでたが、実はコイツ結構若いのか?
まぁ、それはさておき、ハティの方も違和感がないと言うなら問題ないってことだろう。
「取り敢えず、ここに居ても仕方ないし明るいうちに家に帰ろう」
「はーい」
「ウォン!」
「えっと、それじゃ案内お願いします」
そんなこんなで、二週間の予定の旅行は一週間での村への帰還となった。
◇◇◇
「おや、どうしたんだキョウ。予定よりずいぶん早いじゃないか。それにそこの娘は見ない顔だが……」
「ちょっと旅先で知り合ったんだ。身寄りがないって話だったから一緒に来るように誘ったんだけど、村長に紹介しようと思うんだけど今って居るかな?」
「あー、そりゃちょうど良かったな。明日からこの間の件で周辺の村長を集めた会議で出かけるところだったんだ」
おっと、それは本当にラッキーだな。
一日遅れたら面倒なことになるところだった。
あの襲撃で、ウチの村以外にも餌場にされて滅ぼされた村があったようだし、かなりの大事になってるみたいだし一度の周回で細かい所まで決まるのかも怪しい所だ。
今後も暫くは村長の遠出も繰り返しあるかもしれんな。
そうなる前に、顔をつないでおかねぇと。
「それじゃ、ちょっと村長の所に顔だしてくるよ」
「あいよ。ガーヴさん無しで余所者を招き入れるのは本来良くないんだが、まぁハティが一緒にいるなら大丈夫だろ」
なんと言う信頼感。
俺じゃなくてハティが、って所がちょっと泣けるが。
「ねえ、さっきの人ってプレイヤーじゃなくてNPCなんですよね?」
「そうですけど……何か変な所ありました?」
いつもどおりって感じだったと思うが……
「変な所が全く無いというか、人間と全く区別が使いないんですけど……」
「それは本サーバの方も同じじゃ? あっちのAIも多少の違和感はあるけど殆ど人間と変わらないくらいの受け答えしてたと思いますけど」
「そうですね。でも、βでも製品版でもNPCの言動には違和感が確実にあるんです。対応しきれてないというか、そんな感じの」
「うーん、そこはテストサーバだからとか? 昔から試作機は性能高いのがお約束じゃん?」
「それは漫画の中の話ですよ? 現実的に考えて完成品が試作品に劣るとかありえ無いでしょ。何のための試作品だと思ってるんですか」
「あ、やっぱり?」
漫画とかだと試作品は無茶な予算とか機能とか全部盛りとかしてめちゃくちゃスペック、完成品はローコストな量産品ってイメージがあるけど、実際の量産機って無駄な部分を削ぎ落としてローコスト化してることはあるとは思うが、機能は洗練され安く想定のスペックに限りなく近い廉価高品位品となる。
……妥協しなければ、の話だが。
たとえ妥協したとしても試作品に比べて無駄が削ぎ落とされ、技術は進歩していく。
同じ技術力を持った者が何かを作れば、先に作った試作品よりも後継技術で作られた完成品が劣る方が不自然なのだ。
「となると……あれか? 性能は高いけど長期間可動してるALPHAのNPCと、βと合わせても稼働期間の短いGAMMAのNPCのAIとではコミュニケーション能力に成長差が出てるとか」
「まぁ、自然に考えるとそれが一番現実的な答えなのかもしれないですね。あと一年もすれば本サーバのNPCもこんな感じになるってことですか。ヤバイですね」
「ヤバイですか?」
「ヤバイですよ? 人間っぽい、ではなく本当に人間と見分けのつかないようなNPCが溢れる世界って、ゲームの中かもしれないけど、それもう異世界とほとんど変わらないんじゃないですか?」
異世界か。
ネトゲものを楽しんでいた筈が気がついたら異世界物になってましたってか。
でもまぁ、確かに……
「そもそも俺にとってALPHAでの生活は俺のもう一つのリアルだからなぁ。異世界と言われればたしかにその通りかもしれない」
「NPCの反応もそうだけど、感覚がまるで違うから似たような風景なのに感じ方がまるで違うわ」
「そんなに違うの?」
「風邪を肌で感じるくらい違いますね」
「え、それどうなってるんです?」
通常筐体は腕と脚を固定する、なんというか寝そべるタイプの座椅子……みたいな感じだったはず。
座席部分と着装部の部分振動でダメージ表現するとか聞いてたけど、そんなので風とかどうやって感じるんだ?
「もうなんていうか別物ですよ? 宇宙服……とまでは行かないですけど、もうなんかケーブルだらけでとても人様にはお見せできない有様で」
「うわ、そんな事になってんですか。それはそれでちょっと見てみたいかも」
「もう、見せられないって言ってるじゃないですかー」
そう言われるとよけい見てみたくなるんだよな。
SFモノの人体実験的な感じかな? ……っと
「ついたな、ここだよ」
話しながら歩いてるうちにいつの間にか村長の家の前までたどり着いていた。
この村そんな広くないからちょっと喋って歩いてるとすぐ目的地にたどり着くんだよな。
「ここが村長さんの?」
「そういう事。おーい、村長さんいるかー?」
……
「あれ?」
「留守かな?」
「いや、門番のおっちゃんは居るって言ってたし、村の中に入るはずなんだが……村長ー! おーい!?」
「うるっせぇな、金城迷惑だからでかい声で喚くんじゃねぇよ」
「うおっ!?」
なんで後ろから!?
「驚きすぎだろ……」
「いや、想定外の場所から突然声かけられれば誰だって驚くでしょうよ」
「予定より一週間も早く帰ってきたやつが想定外にも俺の家の前で喚いていたが、それほど驚きはしなかったんだが?」
いや、そりゃそうかもしれんけど……
「明日から野暮用で出かけるから、それについて集会場で少し話し合いしてたんだよ。で、昼飯食いに帰ってきたらお前が居たってだけだ」
「ああ、そういう事……」
そりゃ他所の村長達と集ってなにか話し合うなら、この村の事情や利益に関することもあるだろうし、事前の打ち合わせやっててもおかしくないか。
何か村のオッサンが打ち合わせするのなんて夜に酒飲みながらっていう変な先入観があるな……。
「それで、予定の半分の帰還で帰ってきたのと、そこの娘。何か関係があるのか?」
「ああ、ちょっと旅の途中で知り合って……まぁいろいろ事情があって身寄りがないようなんで一緒に来ないかと誘いまして。もし問題がなければ俺が居る間だけでいいんでこの村に置いてやっては貰えないかと」
「……ふむ」
まぁ、二つ返事じゃOK出ないわな。
俺のときも圧迫面接みたいなの食らったし、少しはチェリーさんにも頑張ってもらうことに……
「判った。いいぞ」
「もちろん、それで……えっ?」
「あん?」
「そんなアッサリ、良いんですか?」
「何だよ、もっと色々面倒くさくしてほしかったのか?」
「いやいや、そんな滅相もない。ただ、俺のときはもっと顔合わせて圧浴びせ掛けて色々質問とかあったんで、また同じことがあるのかな、と」
「顔合わせも理由聞きも今やったじゃねぇか」
……あれ? 本当だ。
変な圧力をかけられたりはしなかったけど、やったことだけで言えば確かに……
「あの時は紹介者もなしの見ず知らずの小僧だったから色々試しもしたが、今回はお前という紹介者がいるんだからそれは必要ないだろうが」
ああ、その差が今回の対応なのか。
そう言われると納得できるな。
「ただし、ハティのときと同じだ。お前が連れてきた以上責任はお前が取れ。その娘がこの村に益になるようであればその娘はこの村で受け入れられるだろうが、害するようであればその責任は娘ではなくお前に取ってもらうことになる。それが人を紹介するということだ」
「ええ、解ってます」
その辺厳しい人だしな、この人もガーヴさんも。
しかし、もう少し色々言われるだろうと覚悟していたから、こうもアッサリと認められたのは想定外だがラッキーだったな。
「あの、チェリー・ブロッサムと言います。チェリーと読んでください。これからお世話になります。よろしくおねがいします」
「おう。この村の村長のシギンだ。よろしくやってくれ。どこから来たのか知らんが、こいつといいお前さんといいある程度の礼儀作法を心得てるって事はどこかで最低限の教育受けた経験があるんだろ? なら馬鹿に対してするような説明はいらないだろ。見ての通りこの村は小さく村人全員が協力してやりくりしている。受け入れられたきゃ近所付き合いを大事にしな」
「はい、わかりました。ご忠告有難うございます」
あ、最低限の教育を受けたことがあるとかまで気がついていたのか。
この人、絶対ただの村人上がりじゃないよなぁ。
ガーヴさんもウォーモンガー入ってるここの村人の中でも頭一つ抜けて強いというか、戦い方が妙に賢いんだよな。
二人共ガガナ村から独立したって話だけど、この前居たガガナ村の連中のと見比べてもあの二人だけ知識や力量が飛び抜けてるんだよなぁ。
あの二人はガガナ村に入る前にも何か経歴があるんじゃねぇかなぁと思う。
それが何なのかとかは、特に興味ないというか俺に関係するような事でもないから特に聞くつもりはないけど。
というか変に突っ込んでこの村に居にくくなっても面白くないしな。
何にせよ、だ。
「この村の案内とかはキョウがやってやれ。もう出来るよな? 俺はいい加減腹ぁ空いたから飯にするぜ」
「わかりました。対応ありがとうございます」
「おう」
案内に関しては問題ない。
元々大した大きさの村じゃないから覚えるところも大して多くないからな。
それなりの時間過ごしているから物覚えの悪い俺でも流石に覚えられる。
「これでチェリーさんもこの村の住人になった訳だ。これからどうするかは一度俺の家に帰ってからいろいろ決めよましょう」
「わかったけど、ちょっと良いですか?」
「はい?」
なにか気になることでもあったか?
「たしかにコレは仕事でもあるんだけど、これから長い間一緒に過ごすことになるわけだし、慣れない丁寧口調で話すのはやめましょ? これは仕事であってもゲームなんだし、キョウさんは仕事じゃない時もゲームの中にいるわけだから、私と一緒に居たら仕事とプライベートの区別もできなくなっちゃうでしょ?」
確かに丁寧口調は慣れないけどな。
どうせ無理に使おうとしても進行形でボロでまくってるし、変に気を使わなくて良いのは助かる。
てっきり声優って芸能関係だからこういうのってきっちりしてるもんだと思ってた。
楽できるなら遠慮なく乗っからせてもらうが。
「了解、んじゃ普段どおりに喋らせてもらうわ。丁寧語とか下手くそ過ぎて考えながら喋るの駄目なんだわ」
「だろうと思った」
まぁ、バレるよな。
あんなチグハグな言葉遣いで喋ってたら、俺だって気づく。
……俺のことだけどな。
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愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!
しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。
βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。
そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。
そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する!
※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。
※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください!
※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)
VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇
藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。
トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。
会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……
生産職から始まる初めてのVRMMO
結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。
そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。
そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。
そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。
最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。
最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。
そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。
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