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二章
五十九話 割と普通な朝の一コマ
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オープニングイベントから数日。
街の中は連日人で溢れているが、それでも初日に比べて大分空いてきた。
後発組が居るので、それでもかなり賑わっているのだが。
冒険者ギルドも人で溢れているが、少し待つとは言えクエストを受けることは出来るようになっていた。
初日は阿鼻叫喚だったからな……
あれから狩場を西に伸ばし、エリスのステータスも順調に上がってきた。
対象の敵も強めのやつを狩ってる為、金銭的にも結構いい稼ぎになっている。
といっても、アレからレアが引けたわけでもないので、稼ぎと行っても貯金額は微々たるものだが。
ちなみに、本来払うべきだった滞在費用ということで、2週間分の宿代と食費用に50万Gが支給された。
ちょっと多すぎる気もするが、詫びも兼ねてるとかなんとか。
取り敢えず、これで無駄遣いしない限りはこっちのサーバに滞在中に金に困ることはないだろう。
正直、自分のレベル上げ用には物足りなすぎるが、現状でも日帰りギリギリの距離まで出かけてるのでこれ以上は拠点を移す必要がある。
宿代は1週間分払ってしまってあるので、大人しくエリスのレベル上げに集中することにしている。
そのエリスだが……
「せぃやぁ~!」
「うおっとぉ!? あっぶね!」
宿屋の裏の空き地での朝稽古として毎日やっている組手だが、俺の動きに慣れ始めたのか結構良い攻撃を繰り出すようになっていた。
今の一撃も、ド正直なストレートだが、踏み込みの勢いが尋常じゃない。
初めて見た気がするが、今まで一切見せなかったという事はとっておきの切り札的なやつか?
しかし、これ【飛影】だけじゃなく何かを仕込んでる速さだな。
俺が見てない時に稽古でガーヴさんが何か仕込んだのか?
エリスなら聞けば嬉々として答えてくれそうだけど、それはそれで何かつまらないしクイズ感覚で少し自分で考えてみるか。
手合わせは毎度やってるし、一度見ちまったからには今後は今の技も隠さずに出してくることも増えるだろうから機会はいくらでもあるしな。
「うーん……これでも駄目ー?」
「いや、正直かなり際どかった。 もう半歩踏み込みが鋭かったら避けられなかったかも」
「おしかったかー」
なんというか成長速度がヤバイ。
ステータスに関してはそれ相応の速度で上がってると思う。
だが、ステータス意外のスキルの使い方や間合いの詰め方といったテクニックをまるで水を吸うスポンジのごとく凄まじい勢いで吸収していく。
受けや捌きといった防御テクはまだ苦手のようだが、攻めに関してはかなりセンスがいい。
そう遠くないうちに並ばれるというか、下手したら追い抜かされかねない。
俺がリハビリしてる間もガーヴさん家でサリちゃんと組み手してたみたいだし、スキルの扱いに関しては下手するとエリスのほうがいろいろ知ってる可能性まである。
なんというか根が素直だから、飲み込みが早いんだよな。
俺は物覚えが悪いから、同じ動きを身体に馴染むまで延々と同じこと繰り返さないと駄目なんだよな。
格ゲーの時もセンスの良いやつは対戦でガンガン強くなっていくが、俺はトレモでひたすら練習繰り返して一個ずつ覚えなきゃならんから稼働初期はボロ負けしたんだよなぁ。
それが、このゲームでは稼働初日であんだけプレイヤースキルに差が出るようなことになったのが不思議でならんのだよな。
確かに、他のゲームの小技とかを応用して使ってるけど、完全初心者ならともかくゲーマーであれば誰だってそんな事思いつくはずだ。
この間戦った対戦相手の人は、思いついても実行できない的な事を言ってたけど、ガーヴさんに教えてもらったテクニックはそれ程難易度が高いとは思えんのだよなぁ。
これが俺だけにしか出来ないとかならドヤ顔できるものだけど、俺に教えたガーヴさんは当然ながら娘のサリちゃんや、サリちゃんと一緒に鍛錬しているエリスだって普通に使えている。
狩りの時に俺と一緒にライノスを足止めしていた二人も今思えば普通に使いこなしていたと思う。
SADも俺の見よう見まねなのか、毎歩ごとにと言う訳じゃないが、小刻みに移動系スキルを切り替えるような使い方は取り入れることはできていた。
俺は見てないけど、PvP先行体験会でも何人かは普通にコツなんかを教えてないのに俺の見よう見まねで使っているプレイヤーも居たらしいから、俺が痛みを感じちゃうような特殊な状況とか特殊な筐体のおかげで俺だけが出来る動き……とかでも無いような気がする。
だとしたら、出来る人とできない人の差とは一体何なんだろうか。
俺と他のプレイヤーとの違いは……
・植物状態
・特殊な筐体で接続している
・ALPHAテスト参加してる
まぁこの3つだろう。
植物状態と特殊筐体はただの状況からの物なので一纏めとして、あんまり関係ないよな。
これが条件で、なにかスーパーパワーに目覚めてたとしたらならそもそも俺しか使えないだろ。
そもそもが、ガーヴさんから教えてもらったテクニックな訳だし。
ALPHAサーバ関係者のみの特殊技能かと言われればそうでもない筈だ。
一般プレイヤーでも似たようなことは出来てるという話だし、テスターではないチェリーさんもかなり怪しい動きだったけど俺の真似はできていた。
状況の特殊性が関係するんじゃないかとちょっと思っていたんだが、そうでないとなると単純にプレイヤースキル依存としか思いあたらない……んだが、やってる俺自身がそれに違和感を感じる。
なんせ、俺が見せた一歩ごとにスキルを切り替える変則のジグザグダッシュは、一般的なアクションゲームの特殊テクニックに比べてタイミングとかが特別難しいわけではない……というかかなり猶予がヌルいと言えるのだ。
なんせ、一歩目で踏み込み系スキルを発動し、次の一歩で進行方向を変える場合、発動するのは同じ踏み込み系でも加速系でもどっちでも構わず、別方向に向けてスキルを発動するだけでいい。
そして二歩目のスキルを使うタイミング、要するに足をつく瞬間はプレイヤーが自由に極められるので自分でやりやすいタイミングで出せる訳だ。
俺が使ったテクニックの中には簡単そうに見えて実際にはなかなか出来ない、というテクニックは確かにある。
例えば急制動系はリハビリ中に色々試したけど、まだ俺も完全には使いこなせてない。
エドワルトとの戦いの時に使ったが、あれは身体への負担を無視できる製品版側だから出来ただけで、ALPHAではまだ全力ダッシュからの急制動はつんのめったり足を痛めてしまったりと思うようには使えない。
だが、一歩ずつ刻むだけのスキル移動は、崩れる姿勢をダッシュ慣性で無理やり整える力技なのでかなり簡単な部類のはずなのだ。
実際、訓練中どころか散策中にエリスは鼻歌交じりに使ってるし。
スキップ感覚でハティとよく駆け回っている。
つまり出来る俺等が凄いんじゃなくて、出来ない連中が根本的に何かを勘違いしているとしか思えないのだ。
しかし、これだけのプレイ人口が居てここまで再現できないものなのか?
う~ん、謎だ。
ある意味、原因が不明な俺の痛覚や味覚的な問題よりも、身近で感覚的な物な分余計謎な気がする。
俺自身がこんな状況だから色々考えすぎちまってるのか……?
実は別に特別なことなんて何もなくて、偶然コツを掴むのが万人には気づきにくい何かがある……とか?
などと考えていたら……
「隙ありー!」
「残念、ありません」
俺が考え込んでいたのを見てエリスが一撃を狙ってきたようだが、幾ら考え込むと行っても対戦中に相手を視界から外すほど深く考え込むような事は流石にないわ。
かなり鋭い踏み込みではあったが、直線的に過ぎるので一歩横にずれるだけで盛大に空振って通り過ぎていく。
あとは背中を見せたエリスに向かって手刀を落とすだけだ。
「あいたー!?」
結果、脳天にチョップを叩き落とされてエリスがしゃがみこんで震えていた。
「いくらチャンスだといっても、そこまで無防備に突っ込んだら今みたいに簡単に対処されちまうぞ?」
「うぅ……行けると思ったのに」
「本当に行けると踏んだならまぁ、ありかもしれないけど、今回のはエリスの見極めが甘かったって事だな」
確実に留めがさせる時に全力で仕留めに行くという考え自体は間違ってないしな。
多少無理しても倒し切れる場合は、迷わず倒し切るのは基本だ。
「というか、隙を見つけたなら『隙あり』だなんて叫んで教えたら、せっかくの隙がなくなっちゃうぞ?」
「あっ、そうか」
無自覚かい。
子供なんてそんなもんか。
少年漫画とかでも普通に隙を付いてるのに叫びながら斬りかかるのとか当たり前だし。
こういうのが子供は好きなんだろうな。
俺も、必殺技をいちいち口に出したりするのも子供の頃は何も疑問を抱かなかったし。
「おし、今日の日課はここまでにしとこうか」
「はーい。今日も一本も取れなかった……」
「う~ん……結構惜しいところまでは来てるんだけどな。今日も何度か捌ききれなかった事があったし」
エリスの攻撃はとにかく素直で、搦め手が一切ないせいで対応がかなりしやすい。
崩しを挟んでこないので守りを固めるだけで全て対応できてしまうからだ。
とはいえ、そんな素直な攻撃で何度かこっちの防御を突破されるってのは、それだけ攻め手が鋭いという事だ。
次に来る攻撃が判ってるのに防御が追いつかないっていうのは実は結構肝が冷える。
ステータス差で対応できてるけど、同Lvまで育ったら今の技術でも多分完全互角の戦いになるんじゃなかろうか。
末恐ろしい幼女である。
「そろそろレベル上げるにも相手が釣り合わなくなってきたし、宿を引き払ったその日に拠点を移せるように今のうちに色々準備しとくか」
「はーい」
といっても、テントなんかの野営用の必需品等の購入は既に済ませてある。
一般的な旅に必要な最低限のアイテムは初期所持品に一式揃ってるしこれも何とかなるだろう。
取り敢えず必要なのはエリスたちの食材とポーション系だよなぁ。
旅の間の食事に関してはは干し肉と豆類でなんとかなるか……?
ポーションは在庫を抱えていると劣化するので街を出る直前に買えばいいな。
店員の説明によると水薬系は購入後に使わず放置すると段々効果が薄くなるんだそうだ。
真空密閉なんて技術無いだろうから普通に腐るんだろうか?
一応出回ってる情報だと西の方に2日ほど行った所にちょっとした街があり、その街の更に西側がLv1の終盤からLv2序盤までの狩りに丁度いいという話だった。
東側は3日ほど歩くと大きな渓谷があり、そこはLv3でもソロはきついらしい。
南の森林地帯は深部まで行くと雰囲気がガラッと変わってLv3の大人数パーティでも苦戦するとかで、βテストからの引き継ぎ組が森林の踏破を狙っているとか何とか。
北は切り立った崖の多い山脈地帯で、足場の悪い所をモンスターに襲われることが多く、素直に西か東から迂回するほうがいいとかであまり情報はない。
登頂を狙っているパーティもそこそこ居るらしいがまだ成功したところはないそうな。
取り敢えず無茶なレベル上げとかはするつもりはないので俺達は西を目指す予定だ。
徒歩でも2日で街につくそうなので、余裕を持っても3日分くらい食料があればよっぽど大丈夫だろう。
それ以上の贅沢は途中で獣系のモンスター狩って自分で用意すればいいか。
調理道具も一式揃えてあるし、香辛料も定番のものは一応買ってある。
まぁ、こっちのサーバだと俺は味を感じられないので味付け料理はエリスの仕事になるだろうけど。
味はわからなくても調理スキルとレシピは持ってるから、料理自体は普通に作れるんだけどな。
……味見できないからそれが美味いかどうかは判らんが、ファンブルしなければそれなりの味にはなってるはず?
そもそもこっちでは俺は腹も減らない。
パラメータ上の空腹値を満たすために作業的に食事をとっているだけだ。
美味いものを食べたがるのは専らエリスとハティだし、そこは自分の力で頑張ってほしい所だ。
「……うん? メッセージ?」
突然誰から……もなにもないな。
相手はわかりきっている。
というか俺のアドレス知ってるのは運営と田辺さんしか居ない。
でもイベントはもう終わったし、後は普通にプレイするだけだったはずだが……
『先日お話した追加の仕事の依頼の件ですが、会議の結果本決まりになりました。立浪様には本件に関して詳しい説明を行いたいと存じます。2~3時間ほど時間を頂く事になると思います。立浪様の都合のつくご希望日時を教えて頂けないでしょうか?』
ああ、この間話してた……
やるにしろやらないにしろ、決定はもっと掛かると思ってたけど意外と早かったな。
……それにしても知人からのビジネスメールって普段絶対使わない敬語で書かれるからなんかモニョモニョするな。
元から丁寧な口調の人だけど、やっぱり仕事用のとなるとぜんぜん違うから妙に気になるんだよな。
まぁ、田辺さんに限った話じゃないけど伊福部とかは同じ部署だったから仕事上のメールも結構砕けてたんだよなぁ。
って、また思考が変な方に脱線しちまった。
いい加減このクセ、何とかしないとと毎回思っても全く直らないんだよなぁ。
それで……うーん、ご希望日時といわれてもなぁ。
まぁ丸一日ログインしてる訳で、正直いつでも良いんだが……
でも宿の抑えてある期間を過ぎないほうが良いよな。
追加の宿代払うのも勿体無いし、相手任せで期限が延びていくと迂闊にこの街から動けなくなりそうだし……
となれば……
『宿屋の間借り期間に問題で3日以内であれば助かります。時間は問いません』
と、こんなもんでいいか。
わざわざ聞いてくれてるんだから、変に相手に任せず希望は伝えておいたほうが良いだろう。
いつでも良いとか伝えると大抵後回しにされるんだよな、こういうの。
「どうかしたの?」
「ん? ああ、仕事の連絡があったから返答してたんだ」
「ふぅん?」
まぁ目の前で突然黙ったら疑問にも思うか。
メール機能はNew Worldの機能ではなくて、筐体側の機能だからエリスにはわからんだろうし。
「よし、朝の稽古も終わったし飯にするか」
「はーい!」
さて、連絡は予想外だったけど、どの道出発までは遠出を控えようと思っていた所だし、予定通り準備と買い出しに時間を使うとするか。
そうと決まれば腹ごしらえだ。
午前中は手元の素材で納品クエストに使えるものがあればクエスト消化で処分して……
なんて考えていたらメールのアラーム音が。
って、早いな。
もう返信がきたのか。
えぇと……?
『迅速な対応ありがとうございます。近々でとのご要望ですが、最速ということであれば本日の13時からであれば関係者が全員揃っているのですが如何でしょうか? それ以外ですと、2日後の19時からとなります』
おぉう、即日対応か。
でも、早いなら早いに越したことはないな。
特に断る理由もないし、午後からの予定もまだ考え中だったところだしこの時間で問題ないか。
『了解です、今日の13時ですね。午後からは予定を開けておきます』
返信はこんなもんでいいだろう。
さて、なんやかんやであっという間に丸一日分予定が埋まっちまったな。
いつまたこんな風に予定が入るかわからないし、午前中に出来るだけのことをこなしておいた方が良いかなこりゃ。
街の中は連日人で溢れているが、それでも初日に比べて大分空いてきた。
後発組が居るので、それでもかなり賑わっているのだが。
冒険者ギルドも人で溢れているが、少し待つとは言えクエストを受けることは出来るようになっていた。
初日は阿鼻叫喚だったからな……
あれから狩場を西に伸ばし、エリスのステータスも順調に上がってきた。
対象の敵も強めのやつを狩ってる為、金銭的にも結構いい稼ぎになっている。
といっても、アレからレアが引けたわけでもないので、稼ぎと行っても貯金額は微々たるものだが。
ちなみに、本来払うべきだった滞在費用ということで、2週間分の宿代と食費用に50万Gが支給された。
ちょっと多すぎる気もするが、詫びも兼ねてるとかなんとか。
取り敢えず、これで無駄遣いしない限りはこっちのサーバに滞在中に金に困ることはないだろう。
正直、自分のレベル上げ用には物足りなすぎるが、現状でも日帰りギリギリの距離まで出かけてるのでこれ以上は拠点を移す必要がある。
宿代は1週間分払ってしまってあるので、大人しくエリスのレベル上げに集中することにしている。
そのエリスだが……
「せぃやぁ~!」
「うおっとぉ!? あっぶね!」
宿屋の裏の空き地での朝稽古として毎日やっている組手だが、俺の動きに慣れ始めたのか結構良い攻撃を繰り出すようになっていた。
今の一撃も、ド正直なストレートだが、踏み込みの勢いが尋常じゃない。
初めて見た気がするが、今まで一切見せなかったという事はとっておきの切り札的なやつか?
しかし、これ【飛影】だけじゃなく何かを仕込んでる速さだな。
俺が見てない時に稽古でガーヴさんが何か仕込んだのか?
エリスなら聞けば嬉々として答えてくれそうだけど、それはそれで何かつまらないしクイズ感覚で少し自分で考えてみるか。
手合わせは毎度やってるし、一度見ちまったからには今後は今の技も隠さずに出してくることも増えるだろうから機会はいくらでもあるしな。
「うーん……これでも駄目ー?」
「いや、正直かなり際どかった。 もう半歩踏み込みが鋭かったら避けられなかったかも」
「おしかったかー」
なんというか成長速度がヤバイ。
ステータスに関してはそれ相応の速度で上がってると思う。
だが、ステータス意外のスキルの使い方や間合いの詰め方といったテクニックをまるで水を吸うスポンジのごとく凄まじい勢いで吸収していく。
受けや捌きといった防御テクはまだ苦手のようだが、攻めに関してはかなりセンスがいい。
そう遠くないうちに並ばれるというか、下手したら追い抜かされかねない。
俺がリハビリしてる間もガーヴさん家でサリちゃんと組み手してたみたいだし、スキルの扱いに関しては下手するとエリスのほうがいろいろ知ってる可能性まである。
なんというか根が素直だから、飲み込みが早いんだよな。
俺は物覚えが悪いから、同じ動きを身体に馴染むまで延々と同じこと繰り返さないと駄目なんだよな。
格ゲーの時もセンスの良いやつは対戦でガンガン強くなっていくが、俺はトレモでひたすら練習繰り返して一個ずつ覚えなきゃならんから稼働初期はボロ負けしたんだよなぁ。
それが、このゲームでは稼働初日であんだけプレイヤースキルに差が出るようなことになったのが不思議でならんのだよな。
確かに、他のゲームの小技とかを応用して使ってるけど、完全初心者ならともかくゲーマーであれば誰だってそんな事思いつくはずだ。
この間戦った対戦相手の人は、思いついても実行できない的な事を言ってたけど、ガーヴさんに教えてもらったテクニックはそれ程難易度が高いとは思えんのだよなぁ。
これが俺だけにしか出来ないとかならドヤ顔できるものだけど、俺に教えたガーヴさんは当然ながら娘のサリちゃんや、サリちゃんと一緒に鍛錬しているエリスだって普通に使えている。
狩りの時に俺と一緒にライノスを足止めしていた二人も今思えば普通に使いこなしていたと思う。
SADも俺の見よう見まねなのか、毎歩ごとにと言う訳じゃないが、小刻みに移動系スキルを切り替えるような使い方は取り入れることはできていた。
俺は見てないけど、PvP先行体験会でも何人かは普通にコツなんかを教えてないのに俺の見よう見まねで使っているプレイヤーも居たらしいから、俺が痛みを感じちゃうような特殊な状況とか特殊な筐体のおかげで俺だけが出来る動き……とかでも無いような気がする。
だとしたら、出来る人とできない人の差とは一体何なんだろうか。
俺と他のプレイヤーとの違いは……
・植物状態
・特殊な筐体で接続している
・ALPHAテスト参加してる
まぁこの3つだろう。
植物状態と特殊筐体はただの状況からの物なので一纏めとして、あんまり関係ないよな。
これが条件で、なにかスーパーパワーに目覚めてたとしたらならそもそも俺しか使えないだろ。
そもそもが、ガーヴさんから教えてもらったテクニックな訳だし。
ALPHAサーバ関係者のみの特殊技能かと言われればそうでもない筈だ。
一般プレイヤーでも似たようなことは出来てるという話だし、テスターではないチェリーさんもかなり怪しい動きだったけど俺の真似はできていた。
状況の特殊性が関係するんじゃないかとちょっと思っていたんだが、そうでないとなると単純にプレイヤースキル依存としか思いあたらない……んだが、やってる俺自身がそれに違和感を感じる。
なんせ、俺が見せた一歩ごとにスキルを切り替える変則のジグザグダッシュは、一般的なアクションゲームの特殊テクニックに比べてタイミングとかが特別難しいわけではない……というかかなり猶予がヌルいと言えるのだ。
なんせ、一歩目で踏み込み系スキルを発動し、次の一歩で進行方向を変える場合、発動するのは同じ踏み込み系でも加速系でもどっちでも構わず、別方向に向けてスキルを発動するだけでいい。
そして二歩目のスキルを使うタイミング、要するに足をつく瞬間はプレイヤーが自由に極められるので自分でやりやすいタイミングで出せる訳だ。
俺が使ったテクニックの中には簡単そうに見えて実際にはなかなか出来ない、というテクニックは確かにある。
例えば急制動系はリハビリ中に色々試したけど、まだ俺も完全には使いこなせてない。
エドワルトとの戦いの時に使ったが、あれは身体への負担を無視できる製品版側だから出来ただけで、ALPHAではまだ全力ダッシュからの急制動はつんのめったり足を痛めてしまったりと思うようには使えない。
だが、一歩ずつ刻むだけのスキル移動は、崩れる姿勢をダッシュ慣性で無理やり整える力技なのでかなり簡単な部類のはずなのだ。
実際、訓練中どころか散策中にエリスは鼻歌交じりに使ってるし。
スキップ感覚でハティとよく駆け回っている。
つまり出来る俺等が凄いんじゃなくて、出来ない連中が根本的に何かを勘違いしているとしか思えないのだ。
しかし、これだけのプレイ人口が居てここまで再現できないものなのか?
う~ん、謎だ。
ある意味、原因が不明な俺の痛覚や味覚的な問題よりも、身近で感覚的な物な分余計謎な気がする。
俺自身がこんな状況だから色々考えすぎちまってるのか……?
実は別に特別なことなんて何もなくて、偶然コツを掴むのが万人には気づきにくい何かがある……とか?
などと考えていたら……
「隙ありー!」
「残念、ありません」
俺が考え込んでいたのを見てエリスが一撃を狙ってきたようだが、幾ら考え込むと行っても対戦中に相手を視界から外すほど深く考え込むような事は流石にないわ。
かなり鋭い踏み込みではあったが、直線的に過ぎるので一歩横にずれるだけで盛大に空振って通り過ぎていく。
あとは背中を見せたエリスに向かって手刀を落とすだけだ。
「あいたー!?」
結果、脳天にチョップを叩き落とされてエリスがしゃがみこんで震えていた。
「いくらチャンスだといっても、そこまで無防備に突っ込んだら今みたいに簡単に対処されちまうぞ?」
「うぅ……行けると思ったのに」
「本当に行けると踏んだならまぁ、ありかもしれないけど、今回のはエリスの見極めが甘かったって事だな」
確実に留めがさせる時に全力で仕留めに行くという考え自体は間違ってないしな。
多少無理しても倒し切れる場合は、迷わず倒し切るのは基本だ。
「というか、隙を見つけたなら『隙あり』だなんて叫んで教えたら、せっかくの隙がなくなっちゃうぞ?」
「あっ、そうか」
無自覚かい。
子供なんてそんなもんか。
少年漫画とかでも普通に隙を付いてるのに叫びながら斬りかかるのとか当たり前だし。
こういうのが子供は好きなんだろうな。
俺も、必殺技をいちいち口に出したりするのも子供の頃は何も疑問を抱かなかったし。
「おし、今日の日課はここまでにしとこうか」
「はーい。今日も一本も取れなかった……」
「う~ん……結構惜しいところまでは来てるんだけどな。今日も何度か捌ききれなかった事があったし」
エリスの攻撃はとにかく素直で、搦め手が一切ないせいで対応がかなりしやすい。
崩しを挟んでこないので守りを固めるだけで全て対応できてしまうからだ。
とはいえ、そんな素直な攻撃で何度かこっちの防御を突破されるってのは、それだけ攻め手が鋭いという事だ。
次に来る攻撃が判ってるのに防御が追いつかないっていうのは実は結構肝が冷える。
ステータス差で対応できてるけど、同Lvまで育ったら今の技術でも多分完全互角の戦いになるんじゃなかろうか。
末恐ろしい幼女である。
「そろそろレベル上げるにも相手が釣り合わなくなってきたし、宿を引き払ったその日に拠点を移せるように今のうちに色々準備しとくか」
「はーい」
といっても、テントなんかの野営用の必需品等の購入は既に済ませてある。
一般的な旅に必要な最低限のアイテムは初期所持品に一式揃ってるしこれも何とかなるだろう。
取り敢えず必要なのはエリスたちの食材とポーション系だよなぁ。
旅の間の食事に関してはは干し肉と豆類でなんとかなるか……?
ポーションは在庫を抱えていると劣化するので街を出る直前に買えばいいな。
店員の説明によると水薬系は購入後に使わず放置すると段々効果が薄くなるんだそうだ。
真空密閉なんて技術無いだろうから普通に腐るんだろうか?
一応出回ってる情報だと西の方に2日ほど行った所にちょっとした街があり、その街の更に西側がLv1の終盤からLv2序盤までの狩りに丁度いいという話だった。
東側は3日ほど歩くと大きな渓谷があり、そこはLv3でもソロはきついらしい。
南の森林地帯は深部まで行くと雰囲気がガラッと変わってLv3の大人数パーティでも苦戦するとかで、βテストからの引き継ぎ組が森林の踏破を狙っているとか何とか。
北は切り立った崖の多い山脈地帯で、足場の悪い所をモンスターに襲われることが多く、素直に西か東から迂回するほうがいいとかであまり情報はない。
登頂を狙っているパーティもそこそこ居るらしいがまだ成功したところはないそうな。
取り敢えず無茶なレベル上げとかはするつもりはないので俺達は西を目指す予定だ。
徒歩でも2日で街につくそうなので、余裕を持っても3日分くらい食料があればよっぽど大丈夫だろう。
それ以上の贅沢は途中で獣系のモンスター狩って自分で用意すればいいか。
調理道具も一式揃えてあるし、香辛料も定番のものは一応買ってある。
まぁ、こっちのサーバだと俺は味を感じられないので味付け料理はエリスの仕事になるだろうけど。
味はわからなくても調理スキルとレシピは持ってるから、料理自体は普通に作れるんだけどな。
……味見できないからそれが美味いかどうかは判らんが、ファンブルしなければそれなりの味にはなってるはず?
そもそもこっちでは俺は腹も減らない。
パラメータ上の空腹値を満たすために作業的に食事をとっているだけだ。
美味いものを食べたがるのは専らエリスとハティだし、そこは自分の力で頑張ってほしい所だ。
「……うん? メッセージ?」
突然誰から……もなにもないな。
相手はわかりきっている。
というか俺のアドレス知ってるのは運営と田辺さんしか居ない。
でもイベントはもう終わったし、後は普通にプレイするだけだったはずだが……
『先日お話した追加の仕事の依頼の件ですが、会議の結果本決まりになりました。立浪様には本件に関して詳しい説明を行いたいと存じます。2~3時間ほど時間を頂く事になると思います。立浪様の都合のつくご希望日時を教えて頂けないでしょうか?』
ああ、この間話してた……
やるにしろやらないにしろ、決定はもっと掛かると思ってたけど意外と早かったな。
……それにしても知人からのビジネスメールって普段絶対使わない敬語で書かれるからなんかモニョモニョするな。
元から丁寧な口調の人だけど、やっぱり仕事用のとなるとぜんぜん違うから妙に気になるんだよな。
まぁ、田辺さんに限った話じゃないけど伊福部とかは同じ部署だったから仕事上のメールも結構砕けてたんだよなぁ。
って、また思考が変な方に脱線しちまった。
いい加減このクセ、何とかしないとと毎回思っても全く直らないんだよなぁ。
それで……うーん、ご希望日時といわれてもなぁ。
まぁ丸一日ログインしてる訳で、正直いつでも良いんだが……
でも宿の抑えてある期間を過ぎないほうが良いよな。
追加の宿代払うのも勿体無いし、相手任せで期限が延びていくと迂闊にこの街から動けなくなりそうだし……
となれば……
『宿屋の間借り期間に問題で3日以内であれば助かります。時間は問いません』
と、こんなもんでいいか。
わざわざ聞いてくれてるんだから、変に相手に任せず希望は伝えておいたほうが良いだろう。
いつでも良いとか伝えると大抵後回しにされるんだよな、こういうの。
「どうかしたの?」
「ん? ああ、仕事の連絡があったから返答してたんだ」
「ふぅん?」
まぁ目の前で突然黙ったら疑問にも思うか。
メール機能はNew Worldの機能ではなくて、筐体側の機能だからエリスにはわからんだろうし。
「よし、朝の稽古も終わったし飯にするか」
「はーい!」
さて、連絡は予想外だったけど、どの道出発までは遠出を控えようと思っていた所だし、予定通り準備と買い出しに時間を使うとするか。
そうと決まれば腹ごしらえだ。
午前中は手元の素材で納品クエストに使えるものがあればクエスト消化で処分して……
なんて考えていたらメールのアラーム音が。
って、早いな。
もう返信がきたのか。
えぇと……?
『迅速な対応ありがとうございます。近々でとのご要望ですが、最速ということであれば本日の13時からであれば関係者が全員揃っているのですが如何でしょうか? それ以外ですと、2日後の19時からとなります』
おぉう、即日対応か。
でも、早いなら早いに越したことはないな。
特に断る理由もないし、午後からの予定もまだ考え中だったところだしこの時間で問題ないか。
『了解です、今日の13時ですね。午後からは予定を開けておきます』
返信はこんなもんでいいだろう。
さて、なんやかんやであっという間に丸一日分予定が埋まっちまったな。
いつまたこんな風に予定が入るかわからないし、午前中に出来るだけのことをこなしておいた方が良いかなこりゃ。
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