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二章
五十八話 祭りの後
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「いや~戻ってこないからどうしたのかと思いましたよ。戦いに集中しすぎて段取り忘れちゃいましたか?」
「……は?」
戻ってきた時にC1さんからかけられたあんまりな言葉に一瞬素で返してしまった。
サプライズの無茶振りだったから俺が何も知らないことは知ってるはず。
無茶で困惑する公式プレイヤーというネタを用意するための仕込みだからこそ、俺も出来るだけそういう対応したつもりだ。
ちょっと腹立ったけど。
でも、今のセリフは何なわけ?
取られ方によっては段取りどおり……つまり打ち合わせありきのヤラセだという暴露に等しいものなんだけど……
しかも実際に段取りなんてなかったにもかかわらず。
「いやいや、なに言ってんすか? サプライズでいきなり放り込まれて段取りとか判るはずないじゃないっすか!?」
「……ぁ」
努めて「無茶ぶりに抗議してます」体の俺の反論にC1さんも自分の失言に気がついたのか、一瞬真顔になっていたが、流石に喋りなれているのかその後はうまく取り繕って話を勧めていった。
だがまぁ、これだけの視聴者数だ。
今の失言、間違い無く拾われるだろうな。
番組最後の最後で油断とか勘弁して下さいよまじで。
今回の、ヘタするとヤラセプレイヤーとかいって俺にまで飛び火しかねないんですから。
どうなることかとヒヤヒヤしつつ成り行きを見守っていたが、その後はミスらしいミスもなくステージは進み、オープン記念生放送はエンディングを迎えることが出来た。
いやぁ、何だかんだでなんとか無事終了できて何よりだ。
……とか、ささやかな達成感で脱力していたのだが、問題はここからだった。
控室に戻った俺達を待っていたのは謎のGMアバター二人組とT1……田辺さんだった。
GMアバターの一人にディレクターとプロデューサーと一部のスタッフが連れて行かれ、T1ともう一人のGMアバターに呼び出されたのは何故か俺だった。
え? 何? 意味がわからない。
何か俺呼び出し食らうような真似したっけ?
バトルに集中しすぎてうっかり不味いこと口にしちまってたとかか?
とっさに自分の行動を振り返ってみても何が問題あったのか全く思い出せない。
T1に先導されるまま、冒険者ギルドとは別の建物に案内された。
あの後冒険者ギルドの機能が開放される予定だからまぁ当然といえば当然か。
そんな訳で一軒の民家に入る。
鍵がかかってないし、迷わずここに入ったってことは普段から空き家になっているんだろう。
T1に招き入れられ中に入った途端、GMの人とT1が同時に頭を下げた。
「「この度は大変申し訳ありませんでした!」」
「……え?」
どゆこと?
怒られるためじゃなくて謝罪のために呼び出されたってこと?
いやまぁ、何を怒られるのかと言われると俺自身悪い子とした覚えはなかったんだけど、このタイミングで改まって謝罪ってどういう事だ?
「このようなアバターで失礼します。私、リバースカー人事部長の巽と申します。今回はこちらの不手際によってご不快な思いをさせてしまい大変申し訳ありませんでした!」
「あ、えっと待ってください。ちょっと確認させていただきたいんですけど、この謝罪は何に対する謝罪何でしょうか」
そこが問題だ。
確かに今回の生放送での運営の対応はかなりお座なりな部分が多かったが、一体その中のどれに対する謝罪なのかがちょっと判らない。
「そうですね、実は今回の謝罪は抗議電話が発端なのですが、その内容をお伝えする前に質問に質問で返すようで大変恐縮なのですが、立浪さん御自身の感じた運営の不手際を上げてもらってよろしいでしょうか? 細かいことでも構いません。非常に重要なことなのでお答えいただけませんでしょうか?」
んん?
ご自身の感じた……ということは俺に関する問題としてって事?
でもわざわざ俺に確認取るって事は今回の仕事での雑な対応についての謝罪ではないのか……?
細かいことでも、となると……
「えぇと……細かいこと、というとまずは事前告知ではALPHA側で装備していた武器種がそのまま引き継がれる筈がカテゴリエラーとかでショートソードになっていた事……とかなんですけどこういった物でいいんですか?」
「はい、宜しくおねがいします」
この程度のものでもいいのか。
となると他に思いつくのは……
「僕等……僕やエリスやハティがログアウト出来ないのを理解しているはずなのに、2週間の滞在手はずとかが一切無かった事ですかね。一応ステージの合間に狩りで素材集めて宿屋は確保しましたけど、スタッフさんの一人が気づいて色々教えてくれなきゃ野宿する羽目になっていましたね」
これに関してはエリスやハティにも関わることだし、手伝いという形でキナコさんにも迷惑をかけている。
元々番組後にディレクターに対して文句……と言うほどじゃないが保証を何とかするように言うつもりだった。
「それは……誠に申し訳ありません!」
「あとは、無茶振りに関してですかね。今回はバトルに関するものに集中していたんで偶然対応できましたけど、正直芸人でもないのにドッキリのような台本にない行動を求められてもうまく対応できる自信がないというか……」
一応それっぽい対応で返すことは出来てたとは思う。
そもそも、オレ個人の感情としては無茶ぶりに関してだけ言えば「何てことしやがる!?」っていうか「馬鹿じゃないの!?」みたいな感覚はあったが、それはあくまでノリの一環としてであって、元々ゲームの運営動画の茶番は見慣れているので腹が立つほどではなかった。
最後のあの台無しにしかねない失言意外は。
ただ、やはり素人に対して仕掛ける内容ではないと思うんだよな。
事前になにか言ってくれれば面白がってノッたかもしれんのに。
というか、今更思い至ったが、俺が参加したメインのチャレンジバトルとプレイヤーVS公式プレイヤーの両方共で俺嵌められたって事なんじゃ……
いや、チャレンジバトルは最後に俺が残らなければ回避はできたはずだからあれは俺の自業自得……なのか?
「う~ん……あとは、本当に細かいことですけどサプライズとかで段取り一切説明なかったのに、さっきのバトルの後闘技場に放置されて、一般プレイヤーの人と一緒に「どうすりゃいいんだ?」ってなった事くらいですかね。パッと思いつくのはこの程度です」
「そうですか。ありがとうございます」
それで、結局なんだったんだ?
「今回の謝罪については先程も伝えましたとおり、社の方に届いた抗議電話から端を発するものです。簡単に説明すると「一部プレイヤーを見せしめに嫌がらせしているようで非常に不快」というものです」
「あー……」
そういや昔から居るな、そう言うのすぐ抗議で電話とかメールとかで送っちゃう人。
「それを受けて、問題のシーンの内容を確認した結果、言いがかりと放置するには問題のある内容と判断し、さらにそれが社内の人間ではなく出演をお願いしている立場の方に対する内容ということで、人事部としても今回の件は放置する訳にはいかないという事になりまして……」
「えっと、確かにさっき無茶ぶりに関して今後はやめてほしいように伝えましたけど、僕はそこまで腹を立てているわけではないというか……」
「そう言ってくださるのは非常にありがたいのですが、今回の件は当人同士の問題だけではない所まで広がる危険がありまして、対応を間違えるわけには行かないんです。そういう意味では立浪さんには二重でご迷惑をおかけすることになりまして大変申し訳なく……」
「あぁ、その辺、あまり詳しくはないですけどなんかいろいろ大変そうですからね」
「ご理解いただけたようで……」
会社になるとその辺面倒臭そうだからなぁ。
何でそんな事に過剰反応するの? ってレベルの細かいことにまでやたらでかい声で喚き散らす人というのはいつの時代にも居る。
そういう人間に限って、被害を受けてる本人のことでもどうでも良くて、ただ自分が避難したいだけというタイプが多いから俺は大嫌いな人種だったりするわけだが。
当然、本当の義侠心から動く人も居るだろうが、目につくのが酷い見本ばかりなのだから仕方がない。
「本当に申し訳ありません、我が社の社員の起こした事故で大変な不自由をさせてしまい、その補填の補填の一つとしてこのゲームを勧めたと田辺から話は聞いております。そのゲームでまで我が社の不手際でご迷惑をおかけしてしまい何と申し訳したらいいか……」
「ああいえ、今回の件は色々お座なりなところはたしかにあったかもしれませんが、ALPHAサーバでの生活はやたら危険なことを除けば第二の生活の場と言ってもいいくらいで、そこは本当に感謝しているんです。ベッドの上で植物状態になって指一本動かせない事を考えたらそりゃもう」
「そう言っていただけると助かります」
実際今これで問題があるからとNew Worldを取り上げられてしまったら正直困るどころの騒ぎではない。
それくらいにセカンドライフとしてあの世界にハマってしまっている。
そもそも寝たきりで何も出来ないとか耐えられる気がしない。
「ですが先程の聞き取りで、どうやら番組内容以外でも配慮を欠いた点が多々見られる様子。厳正に調査し、後ほど賠償という形で保証することをお約束致します」
賠償……賠償か……
「あの、そういうことであれば下世話な話で恐縮なんですが、些細なことでも構わないので妹の生活援助をお願いしたいんですが……」
「といいますと?」
「おr……僕が倒れたせいで、今学生の妹……えと、血はつながってないんですが児童養護施設で一緒に育った子が僕を頼って上京してきたいたんですが、僕が事故で入院したせいで一人暮らしの状態になってしまっていて、色々と問題も出てるんじゃないかと……。僕がこの有様なので面倒を見るどころか状況の確認もできない有様でして」
俺はかなり危険度高めとは言えゲームの中でそれなりに暮らせているが、リアルに残してきた美咲は大学受験のことを考えるとバイトなんかをしているわけにも行かないはず。
食費や光熱費、家賃の支払いなんかは兄妹の共通通帳でなんとかなるだろうがそれだって限度がある。
大学の学費分も通帳にあるから使い込むことも出来ないはず。
今はまだ一応田辺さんのはからいで示談金として多少の援助金は出ているらしいが、俺が身体を動かせるようになるまで正式な示談として話が進められないとかで後々になって色々問題が出てくるはず。
一応俺もテスターや公式プレイヤーとしての仕事で給料はもらっているが、それは医療費の為の積立貯金にしてもらっているため手が出せない。
「なるほど、そういった状況になっていたのですか。申し訳ない、人事部には立浪さんの事故の情報は入っても個人情報に類するものや周辺状況などは入ってこないのでご同居人の状況までは把握できていませんでした」
「あ、いえそれは当然だと思うし仕方ないと思います。それにテスターとしてや公式プレイヤーとしても仕事を振ってもらえてるだけでも十分助かっているというか」
事故ったのは確か営業部の人間で人事部とは関係がなかったはずだしな。
「なるほど……それなら、まだ本決まりしていませんが、新たに立浪さんにお仕事を斡旋という形になりますが可能かもしれません」
「詳しく伺っても?」
「この話はまだ確定はしていません。その上での話になりますが、公式プレイヤーとしての不定期な物ではなく、テストプレイヤーとしての物と平行する仕事として一つ御依頼することが出来るかもしれません」
「マジですか!?」
おっと、つい素で答えてしまった。
でも、現状で収入増やせるなら食いつくでしょ普通。
その後の話は田辺さんが引き継いだ。
「テストサーバの規模等を鑑みて、ただテストのために使うのは勿体無いという話が上層部に上がりまして、あるプレイヤーをテスターとして迎え入れることになりました。テストサーバーでの活動日記などを公式ページに上げてもらい、その中で次期アップデートで搭載予定のシステムのお漏らしなどをしたら面白い、という話になりまして、そのプレイヤーとテストサーバで行動を共にしてほしいんです」
「なるほど、ゲーム雑誌とかでやってる編集者の冒険記みたいなのを公式でやるんですね?」
「そういう事です。最初は当社の伊福部が担当する予定でしたが、仕事の都合上どうしても時間が合わないことも出てしまう。それなら常時接続状態の立浪さんの方が色々と都合がいいだろうという話も出ていまして」
なるほど。
確かに、社会人ともなればいくら仕事としてのプレイと言ってもどうしても時間の合わないところは出てきてしまう。
プレイ日記なんかを上げる場合はそういうのだと更新期間にもよるが困ることも出るかもしれないな。
「もちろん、負担だというのであればこの話はなかったことにしていただいても構いません。まだ立浪さんに振るという選択も選択肢の一つとして存在する、といった段階の話でお断り頂いてもなにか問題が出ると言った事にはなりませんし、他に何らかの形で仕事を振ることも出来ると考えています」
迷う必要はないな。
ただ一緒に行動するだけであればそれ程のデメリットはないはずだ。
「いえ、その仕事受けます……といってもまだ確定してないんでしたっけ。もしその話が決まったようならぜひ受けたいとお伝え頂ければと思います。
「わかりました、現在調整中なので今すぐの返答はできませんが、数日中にはご返答できると思います」
「宜しくおねがいします」
お仕事ゲット(仮)だぜ!
あれ……冷静に考えるとゲームやってるはずなのに何で仕事貰って喜んでるんだ俺……?
一日中ゲームとか夢のような生活だったはずなんだが……ゲームしかやることがなくて、逆に仕事に飢えてる……?
いやいやまさか、給料がもらえるっていうこの状況が安心感あるってだけだ。
……だけだよな?
その後、CIさんとディレクターとプロデューサー両名が現れ、今後の話をするのかと思ったら部屋に入るなり突然の土下座謝罪をされ、変な空気になりつつも次回以降は適切に対処するという話で纏まった。
アバターとは言え人が大の大人が本気の謝罪で土下座する所初めてみたわ。
正直反応に困るからやめてほしい……
「……は?」
戻ってきた時にC1さんからかけられたあんまりな言葉に一瞬素で返してしまった。
サプライズの無茶振りだったから俺が何も知らないことは知ってるはず。
無茶で困惑する公式プレイヤーというネタを用意するための仕込みだからこそ、俺も出来るだけそういう対応したつもりだ。
ちょっと腹立ったけど。
でも、今のセリフは何なわけ?
取られ方によっては段取りどおり……つまり打ち合わせありきのヤラセだという暴露に等しいものなんだけど……
しかも実際に段取りなんてなかったにもかかわらず。
「いやいや、なに言ってんすか? サプライズでいきなり放り込まれて段取りとか判るはずないじゃないっすか!?」
「……ぁ」
努めて「無茶ぶりに抗議してます」体の俺の反論にC1さんも自分の失言に気がついたのか、一瞬真顔になっていたが、流石に喋りなれているのかその後はうまく取り繕って話を勧めていった。
だがまぁ、これだけの視聴者数だ。
今の失言、間違い無く拾われるだろうな。
番組最後の最後で油断とか勘弁して下さいよまじで。
今回の、ヘタするとヤラセプレイヤーとかいって俺にまで飛び火しかねないんですから。
どうなることかとヒヤヒヤしつつ成り行きを見守っていたが、その後はミスらしいミスもなくステージは進み、オープン記念生放送はエンディングを迎えることが出来た。
いやぁ、何だかんだでなんとか無事終了できて何よりだ。
……とか、ささやかな達成感で脱力していたのだが、問題はここからだった。
控室に戻った俺達を待っていたのは謎のGMアバター二人組とT1……田辺さんだった。
GMアバターの一人にディレクターとプロデューサーと一部のスタッフが連れて行かれ、T1ともう一人のGMアバターに呼び出されたのは何故か俺だった。
え? 何? 意味がわからない。
何か俺呼び出し食らうような真似したっけ?
バトルに集中しすぎてうっかり不味いこと口にしちまってたとかか?
とっさに自分の行動を振り返ってみても何が問題あったのか全く思い出せない。
T1に先導されるまま、冒険者ギルドとは別の建物に案内された。
あの後冒険者ギルドの機能が開放される予定だからまぁ当然といえば当然か。
そんな訳で一軒の民家に入る。
鍵がかかってないし、迷わずここに入ったってことは普段から空き家になっているんだろう。
T1に招き入れられ中に入った途端、GMの人とT1が同時に頭を下げた。
「「この度は大変申し訳ありませんでした!」」
「……え?」
どゆこと?
怒られるためじゃなくて謝罪のために呼び出されたってこと?
いやまぁ、何を怒られるのかと言われると俺自身悪い子とした覚えはなかったんだけど、このタイミングで改まって謝罪ってどういう事だ?
「このようなアバターで失礼します。私、リバースカー人事部長の巽と申します。今回はこちらの不手際によってご不快な思いをさせてしまい大変申し訳ありませんでした!」
「あ、えっと待ってください。ちょっと確認させていただきたいんですけど、この謝罪は何に対する謝罪何でしょうか」
そこが問題だ。
確かに今回の生放送での運営の対応はかなりお座なりな部分が多かったが、一体その中のどれに対する謝罪なのかがちょっと判らない。
「そうですね、実は今回の謝罪は抗議電話が発端なのですが、その内容をお伝えする前に質問に質問で返すようで大変恐縮なのですが、立浪さん御自身の感じた運営の不手際を上げてもらってよろしいでしょうか? 細かいことでも構いません。非常に重要なことなのでお答えいただけませんでしょうか?」
んん?
ご自身の感じた……ということは俺に関する問題としてって事?
でもわざわざ俺に確認取るって事は今回の仕事での雑な対応についての謝罪ではないのか……?
細かいことでも、となると……
「えぇと……細かいこと、というとまずは事前告知ではALPHA側で装備していた武器種がそのまま引き継がれる筈がカテゴリエラーとかでショートソードになっていた事……とかなんですけどこういった物でいいんですか?」
「はい、宜しくおねがいします」
この程度のものでもいいのか。
となると他に思いつくのは……
「僕等……僕やエリスやハティがログアウト出来ないのを理解しているはずなのに、2週間の滞在手はずとかが一切無かった事ですかね。一応ステージの合間に狩りで素材集めて宿屋は確保しましたけど、スタッフさんの一人が気づいて色々教えてくれなきゃ野宿する羽目になっていましたね」
これに関してはエリスやハティにも関わることだし、手伝いという形でキナコさんにも迷惑をかけている。
元々番組後にディレクターに対して文句……と言うほどじゃないが保証を何とかするように言うつもりだった。
「それは……誠に申し訳ありません!」
「あとは、無茶振りに関してですかね。今回はバトルに関するものに集中していたんで偶然対応できましたけど、正直芸人でもないのにドッキリのような台本にない行動を求められてもうまく対応できる自信がないというか……」
一応それっぽい対応で返すことは出来てたとは思う。
そもそも、オレ個人の感情としては無茶ぶりに関してだけ言えば「何てことしやがる!?」っていうか「馬鹿じゃないの!?」みたいな感覚はあったが、それはあくまでノリの一環としてであって、元々ゲームの運営動画の茶番は見慣れているので腹が立つほどではなかった。
最後のあの台無しにしかねない失言意外は。
ただ、やはり素人に対して仕掛ける内容ではないと思うんだよな。
事前になにか言ってくれれば面白がってノッたかもしれんのに。
というか、今更思い至ったが、俺が参加したメインのチャレンジバトルとプレイヤーVS公式プレイヤーの両方共で俺嵌められたって事なんじゃ……
いや、チャレンジバトルは最後に俺が残らなければ回避はできたはずだからあれは俺の自業自得……なのか?
「う~ん……あとは、本当に細かいことですけどサプライズとかで段取り一切説明なかったのに、さっきのバトルの後闘技場に放置されて、一般プレイヤーの人と一緒に「どうすりゃいいんだ?」ってなった事くらいですかね。パッと思いつくのはこの程度です」
「そうですか。ありがとうございます」
それで、結局なんだったんだ?
「今回の謝罪については先程も伝えましたとおり、社の方に届いた抗議電話から端を発するものです。簡単に説明すると「一部プレイヤーを見せしめに嫌がらせしているようで非常に不快」というものです」
「あー……」
そういや昔から居るな、そう言うのすぐ抗議で電話とかメールとかで送っちゃう人。
「それを受けて、問題のシーンの内容を確認した結果、言いがかりと放置するには問題のある内容と判断し、さらにそれが社内の人間ではなく出演をお願いしている立場の方に対する内容ということで、人事部としても今回の件は放置する訳にはいかないという事になりまして……」
「えっと、確かにさっき無茶ぶりに関して今後はやめてほしいように伝えましたけど、僕はそこまで腹を立てているわけではないというか……」
「そう言ってくださるのは非常にありがたいのですが、今回の件は当人同士の問題だけではない所まで広がる危険がありまして、対応を間違えるわけには行かないんです。そういう意味では立浪さんには二重でご迷惑をおかけすることになりまして大変申し訳なく……」
「あぁ、その辺、あまり詳しくはないですけどなんかいろいろ大変そうですからね」
「ご理解いただけたようで……」
会社になるとその辺面倒臭そうだからなぁ。
何でそんな事に過剰反応するの? ってレベルの細かいことにまでやたらでかい声で喚き散らす人というのはいつの時代にも居る。
そういう人間に限って、被害を受けてる本人のことでもどうでも良くて、ただ自分が避難したいだけというタイプが多いから俺は大嫌いな人種だったりするわけだが。
当然、本当の義侠心から動く人も居るだろうが、目につくのが酷い見本ばかりなのだから仕方がない。
「本当に申し訳ありません、我が社の社員の起こした事故で大変な不自由をさせてしまい、その補填の補填の一つとしてこのゲームを勧めたと田辺から話は聞いております。そのゲームでまで我が社の不手際でご迷惑をおかけしてしまい何と申し訳したらいいか……」
「ああいえ、今回の件は色々お座なりなところはたしかにあったかもしれませんが、ALPHAサーバでの生活はやたら危険なことを除けば第二の生活の場と言ってもいいくらいで、そこは本当に感謝しているんです。ベッドの上で植物状態になって指一本動かせない事を考えたらそりゃもう」
「そう言っていただけると助かります」
実際今これで問題があるからとNew Worldを取り上げられてしまったら正直困るどころの騒ぎではない。
それくらいにセカンドライフとしてあの世界にハマってしまっている。
そもそも寝たきりで何も出来ないとか耐えられる気がしない。
「ですが先程の聞き取りで、どうやら番組内容以外でも配慮を欠いた点が多々見られる様子。厳正に調査し、後ほど賠償という形で保証することをお約束致します」
賠償……賠償か……
「あの、そういうことであれば下世話な話で恐縮なんですが、些細なことでも構わないので妹の生活援助をお願いしたいんですが……」
「といいますと?」
「おr……僕が倒れたせいで、今学生の妹……えと、血はつながってないんですが児童養護施設で一緒に育った子が僕を頼って上京してきたいたんですが、僕が事故で入院したせいで一人暮らしの状態になってしまっていて、色々と問題も出てるんじゃないかと……。僕がこの有様なので面倒を見るどころか状況の確認もできない有様でして」
俺はかなり危険度高めとは言えゲームの中でそれなりに暮らせているが、リアルに残してきた美咲は大学受験のことを考えるとバイトなんかをしているわけにも行かないはず。
食費や光熱費、家賃の支払いなんかは兄妹の共通通帳でなんとかなるだろうがそれだって限度がある。
大学の学費分も通帳にあるから使い込むことも出来ないはず。
今はまだ一応田辺さんのはからいで示談金として多少の援助金は出ているらしいが、俺が身体を動かせるようになるまで正式な示談として話が進められないとかで後々になって色々問題が出てくるはず。
一応俺もテスターや公式プレイヤーとしての仕事で給料はもらっているが、それは医療費の為の積立貯金にしてもらっているため手が出せない。
「なるほど、そういった状況になっていたのですか。申し訳ない、人事部には立浪さんの事故の情報は入っても個人情報に類するものや周辺状況などは入ってこないのでご同居人の状況までは把握できていませんでした」
「あ、いえそれは当然だと思うし仕方ないと思います。それにテスターとしてや公式プレイヤーとしても仕事を振ってもらえてるだけでも十分助かっているというか」
事故ったのは確か営業部の人間で人事部とは関係がなかったはずだしな。
「なるほど……それなら、まだ本決まりしていませんが、新たに立浪さんにお仕事を斡旋という形になりますが可能かもしれません」
「詳しく伺っても?」
「この話はまだ確定はしていません。その上での話になりますが、公式プレイヤーとしての不定期な物ではなく、テストプレイヤーとしての物と平行する仕事として一つ御依頼することが出来るかもしれません」
「マジですか!?」
おっと、つい素で答えてしまった。
でも、現状で収入増やせるなら食いつくでしょ普通。
その後の話は田辺さんが引き継いだ。
「テストサーバの規模等を鑑みて、ただテストのために使うのは勿体無いという話が上層部に上がりまして、あるプレイヤーをテスターとして迎え入れることになりました。テストサーバーでの活動日記などを公式ページに上げてもらい、その中で次期アップデートで搭載予定のシステムのお漏らしなどをしたら面白い、という話になりまして、そのプレイヤーとテストサーバで行動を共にしてほしいんです」
「なるほど、ゲーム雑誌とかでやってる編集者の冒険記みたいなのを公式でやるんですね?」
「そういう事です。最初は当社の伊福部が担当する予定でしたが、仕事の都合上どうしても時間が合わないことも出てしまう。それなら常時接続状態の立浪さんの方が色々と都合がいいだろうという話も出ていまして」
なるほど。
確かに、社会人ともなればいくら仕事としてのプレイと言ってもどうしても時間の合わないところは出てきてしまう。
プレイ日記なんかを上げる場合はそういうのだと更新期間にもよるが困ることも出るかもしれないな。
「もちろん、負担だというのであればこの話はなかったことにしていただいても構いません。まだ立浪さんに振るという選択も選択肢の一つとして存在する、といった段階の話でお断り頂いてもなにか問題が出ると言った事にはなりませんし、他に何らかの形で仕事を振ることも出来ると考えています」
迷う必要はないな。
ただ一緒に行動するだけであればそれ程のデメリットはないはずだ。
「いえ、その仕事受けます……といってもまだ確定してないんでしたっけ。もしその話が決まったようならぜひ受けたいとお伝え頂ければと思います。
「わかりました、現在調整中なので今すぐの返答はできませんが、数日中にはご返答できると思います」
「宜しくおねがいします」
お仕事ゲット(仮)だぜ!
あれ……冷静に考えるとゲームやってるはずなのに何で仕事貰って喜んでるんだ俺……?
一日中ゲームとか夢のような生活だったはずなんだが……ゲームしかやることがなくて、逆に仕事に飢えてる……?
いやいやまさか、給料がもらえるっていうこの状況が安心感あるってだけだ。
……だけだよな?
その後、CIさんとディレクターとプロデューサー両名が現れ、今後の話をするのかと思ったら部屋に入るなり突然の土下座謝罪をされ、変な空気になりつつも次回以降は適切に対処するという話で纏まった。
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