ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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二章

五十七話 サプライズⅢ

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 勝負が終わったからか、倒されてロックが掛かっていたはずの対戦相手達が起き上がってきた。
 身体に刻まれていたダメージエフェクトも全て消えている。

「お、」

 同時に俺の持っていた借り物の槍も消えていた。
 相手の手元にないってことはインベントリ……カバンの中にでも戻ったってことか?

 こういう形でシステム的にアイテムや装備の持ち逃げを対策してる訳だ。
 戦闘中の強奪を認めてる辺りかなりダーティなのに、一応こういう対策はしてるのな。
 左腕もオレンジ色のダメージエフェクトがトラ模様のようになっていた筈が、キレイに元通り。
 リングアウトしたはずの上着も無くなってるし、多分俺のカバンの中に戻っているんだろう。

「お疲れ様っした。いやぁ、完敗っすわ」

 そう声をかけてきたのはタンクの人。
 あれ、思ってたのと違う……
 ついさっきまで、もっとどっしりと構えて何事にも動じない……っていうか無口っぽい印象じゃなかったか?

「えっと、こちらこそお疲れ様です」

 何がこちらこそなんだろう。
 つい勢いで口にしてしまった。

「いやぁ、正直舐めてました。実のところ昼のNPC戦も出来レースすら疑ってたんですが、とんでもない。イヤホントここまで見事に負けると笑いしか出てこないっていうか」
「ああ、えっとさっきのステージでちょっと話しましたけど接続環境がちょっと特殊ではありますけどデータ的には他の人と一緒ですよ」

 俺への質問の中で、そういうのがあったんだよな。
 事故の詳細や相手なんかに関してはボカしてあるけど、事故でベッドから起き上がれないことや、病院から接続してるとかそういった事は隠さず答えていた。
 テスターになったきっかけなんかも全て話してある。
 変に隠すとボロが出そうだしな。
 俺、昔から嘘とかかなり下手みたいだし。

「そこはもう疑いようがないっていうかね、実際戦った手応えとか、ログなんかではっきりと思い知らされましたわ。俺達はβで一体何やってたんだって超反省中っす」
「それに、あのKYOなんですよね? デッドドライブのザック全一の! そう言われるとあのプレイヤースキルも納得というか……あ、俺も昔デッドドライブやってたんですよ。一度公式戦で壇上にも出たことあって、キメリってわかります?」
「え? ああ、埼玉のリリカ使いの!?」
「そうそう! いやぁチームにスポンサーが付いてからはFPSメインになってデッドドライブからは離れてたんですけど、こんな所で別のゲームで戦えるとは思ってもなかったっすわ」

 おおう、スポンサー付き……つまりこのパーティはプロゲーマー集団なのか。

「あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「はい?」

 おずおず、と言った感じで声をかけてきたのは弓使いの女性だ。

「私、あの時どうしてやられたのかがログだけだとちょっとよく分からなかったんで、良かったら教えてもらえませんか?」
「ああ、アレはまず派手に葉擦れの音が出るように上着の中に使わないINTポーションをおもりに詰め込んで、放物線軌道で魔法使いさんの方に投げ込んだ後、直線軌道でそちらの木に飛び移って、その場で毒ビンを足元に叩きつけたんです。それで、遅れて上着が大きな音を建てて反対側の木に着弾したんで、小さな音だった最初の方は囮だと錯覚させることを狙った感じですね。後は、投げ込まれたのはポーション瓶だと勘違いした相手を上からザク―ッと」
「あの――」

 あれ?
 なんか間違ったか?
 答えるシーンを間違えた? どうしてやられたのかって事は自分のやられた時の話で……あってるよな?

「そこは判るんです。その、判らないのは、えっと……どうしてこちらの木に飛び移れたんですか? 不意打ちは私の頭上からですよね?」
「……というと?」
「木と木の幅はかなり広くて、樹上の枝の内、人が乗れる太さの枝と枝の間の距離でもAGIにかなり偏ってる私が助走をつけてぎりぎり届くか届かないか、そんな距離だったはずでLv2のプレイヤーがAGI強化薬を使ったとしても届くような距離ではないと思うんですけど……」
「え……いや、結構余裕ありましたよ? 確かにAGI強化薬無しでは無理だったかもしれませんけど」
「ええっ……?」

 素のステータスだとギリギリ届かない感じではあったが、AGI強化薬を使ったら割と普通に飛び移れたんだが、何で俺よりも高AGIで無理なんて判断に……

「あ……もしかして普通にジャンプ力で計算してません?」
「どういうことですか?」
「いや、普通にただ飛んだらそりゃ僕のAGIじゃとても届きませんけど、踏切足に【飛影】使えば助走なんかなくても飛距離稼げるでしょ?」
「…………ぁぁぁあああああ! なるほど、そんな方法が!!」

 あれ? これ使わないと相手との距離が離れてるときとか咄嗟の退避の時に初速稼げなくない?
 というか対遠距離武器相手に【踏み込み】や【飛影】無しでどうやって対処するつもりなのか。
 まぁこの人は対処される側なんだけど、今まで戦った相手は誰もやってこなかったとでも言うんでろうか。

「え、いや結構これ基本だと思ってたんですけど。さっきの対戦でチェリーさんも普通にやってたし」
「多分それ、キョウさんの戦い方近くで見て真似たんですよ」
「だろうねぇ、今日PvPで対戦した相手でも昼の戦いを真似て飛影と疾走でのジグザグ走りをする人は何人もいたけど、踏み込み系のスキルを通常行動で使う人なんて居やしませんでしたって!」
「いや、そのジグザグ走法がそもそも歩きにスキルを合わせる動作の基礎なんですけど……」

 何でそんな縛りプレイみたいな真似をみんなでやってるんだ?

「ごめん、まじで意味がわからない。何で? 便利でしょ? ゲーマーなら普通誰でも思いつくよね?」

 仮にもこの人達はプロゲーマー集団だよな?
 いくらPvP開放初日とは言え、そこで最強になれるっって事はβで相当動かしてるはず。
 何でこんな基礎的なことを思いつかないんだ?
 Bダッシュの時代からステステや絶だとか、アクションゲームでの移動補助テクは基礎中の基礎だろ。

「思いついても実行して諦めるんじゃないですか? あのジグザグ走り真似しようとしてる人かなり居ましたけど、正しく使えてる人なんて片手の指で数えられる程度でしたよ? 大抵の人が二歩目で止まれずズッこけるか、コケないように意識しすぎてただジグザグなステップ踏んでるだけみたいになってて。時間が経てば今日再現できてたプレイヤーとかが熟達して使いこなせるようになる人も出てくるかもしれませんけど……」
「えぇ……」

 知識として知らないのではなくて、大半が知っても真似ができないレベルってこと?
 確かにゲームに慣れたプレイヤーにとって初心者が簡単なスキルを真似できない事に対して「どうして真似できないのかが解らない」といった感覚を持つ事はある。
 というかゲームに限らずほぼすべてのことに関して当てはまると思うが……俺、このゲーム始めて二週間だぞ?
 しかも格ゲーじゃない、完全初心者の身体を使って動かすVRゲームだ。
 なのにこのプレイヤースキル的な乖離感は一体何なんだ……?

「そりゃ動きが異次元に感じるわけだ……あのジグザグ走りも必殺ムーブとかじゃなく基礎的な間隔で使ってるんですね?」
「ええ、そりゃまぁ……というか、そうしないとすぐにやられちゃうるような環境だったんで、出来て当然というか……そもそもこれ教えてくれたのNPCの村人ですよ?」
「うわ……一般NPCですら当たり前のようにそんなムーブできるとか、テストサーバってどんだけ過酷な環境なんですか……」

 どんな、と言われても……

「え~と、最初にたどり着いた村にバジリコックやアーマードレイクが襲撃仕掛けてくるような環境?」
「うわ……」
「あっはっは、なんスかその阿鼻叫喚。クソゲーバランスじゃないっすか」

 うん、俺もそう思う。
 流石に立場があるから口には出さんけれども。

「まぁ、テストだからって事で色々過剰な対応とかもあるんじゃないかなぁ?」
「ああ、そう言われるとそうなのかも……?」

 自分で言っておいてなんだが過剰ってレベルじゃないと思うけどな。
 もうちょっと平和に暮らしたい……

「疑問と言えば俺も疑問だったんですけど、木に登った時どうして魔法打ち込んでこなかったんです? てっきり範囲魔法が来るものだと待ち構えてたんですけど」
「このゲームの範囲魔法って普通にフレンドリファイアするんでチームでのPvP戦には向いてないんですよ。なんで対人戦闘特化のために範囲魔法は自分周囲を巻き込む自爆技意外は切り捨てて、中距離の単体攻撃に特化させてるんです」
「あ~、なるほどそういう事ですか。基本一人なんでそこは思い至らなかった」

 確かに味方巻き込んで魔法攻撃とか間違いなく喧嘩になるな。
 バトルエリアが限定されるPvPじゃ確かに使いにくいかもしれない。
 大量のモンスターを先制攻撃で焼き払うためのものという割り切りが必要なのか。

 とかなんとか話していたら唐突に目の前にポータルが。
 ……ポータルが出てきたのはいいが、どうすりゃいいんだ? 入れってことだろうか?
 普通のMMOならTellとか個チャなんかで簡単に指示が飛んでくるんだろうけど、このゲームはそんな便利な機能無いからなぁ。
 無いというか意図的に切り捨ててるというか。
 そういやゲーム内での運営メッセージとかどうやって伝えるんだろうか?

「これ、入ればいいんですかね? それとも誰かが出てくるのかな?」
「どうなんだろう、俺段取りとか何も聞かされてないから……」
「え、マジでやらせなしのサプライズだったんすか?」
「ヤラセだったらまだマシだったんだがなぁ……」
「そりゃ何というか、お疲れ様っす……」

 知ってて知らないふりをする演技とか、そういう面倒臭さもあるだろうが、少なくともトラブルに対する対処はしやすいだろう。
 ああいうノリがゲームの宣伝番組で多いのは知っているし、オレ個人としても別に嫌いなわけじゃないが、アレは対応に慣れている芸人だから面白おかしく返せているだけだ。
 というか芸人ですら生放送での無茶振りで滑るところを時おり見るのにそれを俺みたいな素人に求めるのは流石に無茶が過ぎる。
 今回は対応できたが、今後も無茶振りがエスカレートするようなら文句の一つも言っといたほうがいいかもしれんな。

「すいません、ステージに繋がっているのでポータルに入ってください」

 どうしようか迷っていた所でポータルの中からスタッフが出てきた。
 どうやら入るのが正解だったようだ。
 やっぱりここは勝った俺が先頭立って連れて行くのが自然な流れだよなぁ。
 というか、段取り判ってる人間一人も居ないんだからすぐに着てほしかった……

「じゃ、戻りますか」
「ええ」

 格好いいセリフなんて吐ける訳もないし、まぁ俺ならこんなもんだろう。
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