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二章
五十六話 サプライズⅡ
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先に動いたのは大盾持ちとヒーラー風の二人だった。
てっきりタンクとヒーラーは距離をおいたまま、遠隔二人がこっちの射程外で遮蔽物を回り込んでくるかと思ったが、まさか間合いを潰して包囲を狭めてくるとは。
間合いを潰すといっても突っ込んでくるというわけでもなく、ヒーラー背にしてをゆっくり歩いてくる。
厄介な。
こっちに有効な遠距離迎撃手段がないと知ってるから堂々と隠れずに近づいてきやがった。
アレを正面から崩すのは流石に厳しいか。
頑丈な盾役とヒーラーがセットとなると無理押しは難しいだろう。
タンクということはVITや装備の防御力もかなり高いハズだし、さっきの二人のように一手で確実に息の根を止めるような倒し方は期待できない。
よしんば、大ダメージを与えられたとしても、割合回復のポーションとヒーラーの回復ですぐに巻き返されて反撃を受けかねない。
となると先にヒーラーを狙うしか無いが、そうなるとタンクが黙っては居ないし、遠隔二人が厄介になる。
迂闊に背を見せればヒーラーを餌に俺が釣り上げられかねない。
それと、大問題として俺は大盾持ちと戦ったことはまだ一度もない。
ロイが大盾を使っていたが、戦ってるのを見たのは一度切り。
それも殆ど技らしい技を見せずに間合い管理とバッシュで抑え込んでいたせいでスキル確認という意味では殆ど役に立たなかった。
スキルの特徴や癖が判っていれば対処のしようもあるが、初見でしかも多対一の戦い中にというのはいくら何でもハードルが高すぎる。
遠隔とも直接戦ったことはないが、さっきのチャレンジバトルでそれなりの数の攻撃スキルは確認できている。
どういう訳かプレイヤーの殆どがスキルをそのまま自分の使いやすい様にカスタマイズせずに使っているので一度発動してしまえばその後の動きはみな同じだ。
つまり使ってくる技さえ知っていれば、ある程度はという前置きがつくが対処の取りようはある。
狙やはり先に潰すべきはヒーラーと距離をとってこちらを包囲する遠距離の二人だが……
「よっ……」
相手側から身体が完全に隠れているのを確認して再び木をよじ登る。
樹の葉を揺らした瞬間矢が飛んできたが枝に突き立って俺まで届いては来ない。
しかし即座に揺れた木の上を撃ち抜こうとするとは判断がかなり早いようだ。
しかも射たれた矢は正確に俺の隠れた太枝に突き立っているのを見るに、命中精度もかなり高い。
魔法使いの方はまだ一度も魔法を見せていないから判断保留だな。
木の上で枝に身を隠すようにして遠距離の二人の位置を確認する。
火炎の範囲魔法でも打ち込まれたら厄介だが、そこまで考えが回っていないんだろうか?
あるいは使える魔法がかなり偏っているか、だが……
何にせよ気づくまでは上を取らせてもらえば良い。
遠距離二人も俺が遠距離武器を持っていない事を知っているから変に身を隠すよりも射線の確保を重視しているようだ。
つまりこっちから丸見えだ。
とはいっても、障害物用の木からは離れていない。
流石にそのへんは抜かりがないようだ。
この場合、取れる手はそれほど無いわけだが……
手元にあるので武器に使えそうなのははショートソードと両手槍、それと毒薬か……
どれもゼロ距離で有効なものばっかだな。
矢を拾えればなにかに使えそうな気もするんだが、流石にそれは危険過ぎる。
弓使いが居る方の木に向けて、上着で包んだ空のポーション瓶を放物線軌道で投げ込む。
そして……
◇◇◇
キョウというあの公式プレイヤーが隠れた木を遠隔二人で挟み込むようにして、タンカーを接近させる。
当初に建てた作戦とはまるで別物だがコレは仕方ない。
本来であれば人数さを生かして、近接が足止め、或いは追い詰める形で動き、私達遠隔が援護しつつタンクに守られたヒーラーが安全に近接二人を回復して追い詰めるという形になるはずだった。
その作戦は前衛二人が一瞬で倒された時点で切り捨てざるを得なかった。
強いのは解っていた。
あの馬鹿げた強さのNPCを相手に条件勝利とはいえ勝ち取った瞬間を私も見ていたから。
とはいえ、いくら凄いとはいっても所詮NPC相手だと侮っていたのかもしれない。
人間相手にああも上手いこと立ち回れるわけはないと。
でも、実際はこの有様だ。
格上の前衛2人相手にして、瞬殺といっても過言じゃない勢いで倒してみせた。
彼奴等も油断があったんだろうけど、それにしたってこの結果はあんまりだ。
いくら油断があろうが、LV3の二人掛かりでも相手にもならないと証明されたようなものだから。
不意打ちだったから?
冗談。
1対6で勝負を挑んだ時点で、そんなもの何の言い訳にもならない。
そもそも、別ゲームとは言え海外のPvP大会で優勝経験もある私たちにそんな言い訳許されるわけがない。
相手は今、木の上に隠れている。
何度か木の葉が揺れた場所を射ってみたが、枝にうまく隠れているのか当たった気配はない。
ヤンの魔法は強力だがあそこまでは届かない。
とはいえあの二人の瞬殺を見せられた以上、迂闊に近づくのは危険過ぎる。
木と木の間隔は飛び移ろうとしてもレベル2の身体性能ではまず無理。
恐らく私のAGIでも助走つけて全力ジャンプしてもあの距離はギリギリ届かない。
AGI強化薬でブーストしてもレベル2のステータスでは無理のハズ。
となると、警戒すべきは木の上じゃなくて寧ろ下。
木の上に居るからと、上を注視している間に不意をついてくるなんてこともあの人ならやって来かねない。
そう、意識を樹上と地面の両方を捉えられる位置で固めた途端、まるで狙ったかのように頭上で木の枝に何かが突っ込む葉擦れの音が耳に飛び込んできた。
「何で!? 届くハズが……!?」
つい疑問に叫んで上を見上げた所で何かが振ってくることに気付きとっさに避けたが、少しだけ飛び散ったそれを身体に浴びてしまった。
浴びた部分に継続的にはいるダメージ表現。
これは……毒!?
そうか、さっきの葉擦れはこの毒ビンが投げ込まれて……
理解したとほぼ同時、ヤンの方、その一本手前の木からも葉擦れの音。
しかも私のときよりも遥かに大きい。
毒ビンは囮で本命はあっち!?
こっちの注意をひきつけて安全を確保した状態で近くの木に飛び移ったってこと!?
「ヤン! 木から離れて……!!」
私の言葉に咄嗟に反応してすぐさま行動に移す切り替えの速さは流石だ。
それだけに留まらず、木から飛び降りてきたそいつに対して、距離を取りながらのショックブラストを打ち込むおまけ付きだ。
威力は高いが射程が短いあの魔法を、予め用意していたんだろう。
弾き飛ばされたキョウは場外に向かって吹っ飛ぶ。
あの勢いでは地に足が付く前にリングアウトは確定だ。
直接倒せなかったのは残念だけど、油断できる相手じゃなかった。
前衛二人が倒されてしまっていたし、場を引っ掻き回される前に片がついたのは寧ろラッキーだったかも?
と、息を吐いた途端、強い衝撃と共に私のキャラは叩き切られていた。
◇◇◇
ラッキー! と言わざるを得ない。
弓使いを切り捨て、一気に魔法使いに駆け寄る。
俺が投げたマントに包んだポーション便を魔法で迎撃するのは確認した。
次のリキャストまで数秒はかかるはず。
その数秒が勝負だ。
この位置関係ではタンクの救援も横入りも間に合わない。
一般MMOと違ってパーティメンバーのHP表示なんかが無いのは夕方の狩りで確認済みだ。
相手の魔法使いは俺が弓使いを倒したことに気がついていない。
障害物を盾にして一気に詰め寄り、吹き飛ばされ場外に落ちたソレを目で追う魔法使いを背後から一撃。
わけがわからないと言った感じでこちらを振り返った所でHPがゼロになりロックされた。
我ながらあんな素人考えのフェイントがここまでキレイにはまるとは……恐ろしい。
まぁ二度は通じないだろうな。
さて、あとはタンクとヒーラーだけだが……これが一番厄介だな。
どうやって崩したものか……
いや、相手が少しでも混乱しているうちにまずは一度突っ掛けて様子を見る。
今度は一切のひねり無く、ヒーラーではなくその前で構えるタンクに向けて突撃。
一歩ごとに進行方向を左右に刻みつつ、最後の一歩に飛影を載せつつ薙ぎ払うように首狙いで槍をブチ込む。
当然ながら大振りの一撃は盾で弾かれる。
受け止めた側は一切の顔色を変えず、槍を弾かれた俺に向かってロングソードを突きこんでくる。
結構な隙を見せたつもりだが、反撃はコンパクトで堅実なものだった。
あからさますぎて誘いがバレてたか……?
反撃をかわして真正面からひたすら突く。
こうして戦ってみると判るが、大盾ってこれ、かなり厄介だな。
エドワルトはデカイタワーシールドを背負っていたが、結局背負ったままだったし有用さが分からなかったんだよな。
回り込もうとしても一歩ズレるだけで身体がすっぽり盾で隠れちまう。
小盾のように攻撃に合わせて腕を突き出してガード、というものではなく、地面にどっしり構えた盾を支柱にして対角位置を取られているような感じだ。
しかも反撃が上から来るのか下から来るのかも盾で手元を隠されて判別しにくい。
この感じだと弓矢の斉射とかも盾を傾けてその下に入り込むことで全部防げそうだ。
さすがメイン盾だ……これでうやって突破すりゃいいんだ?
正面、側面も簡単に対応されてしまう。
複数人いればもうひとりが背面を取れるかもしれんが、一対一だとやり辛いことこの上ない。
旧来のMMOでもタンクにメレーが挑んでもまず勝てないものだったが、実際に自分のみで体感してみれば確かに納得だわ。
全体重を載せた一撃が軽くいなされたし、盾に飛び乗って押し倒すとかの奇襲も無理だろうなぁ。
全力の飛影ですれ違って背面を取るか?
でもそんな行動は想定してるだろうし、下手すればすれ違いざまにカウンターを入れられる危険もあるか。
ううむ……
あ、飛びかかり……か。
普通に飛びかかって押しつぶすのは無理でも……行けるか?
相手のタンクは徹底した防御と反撃の構えだ。
自分からは決して仕掛けず、あの巨大なタワーシールドで攻撃を弾き返し、その隙に反撃をするという動きを徹底している。
片手用のバックラーなんかなら、格ゲーみたいに打点を散らして崩すことができるが、ああも全身を隠されたら崩すもへったくれもない。
これが遭遇戦とかなら、こんな面倒くさいやつ相手してられるかとばかりにさっさと退散するところだが、これはPvPだから面倒くさくても相手を倒すしか無いんだよなぁ。
よし、やってみるか!
今度はスキルを使わずに普通にダッシュで接近する。
死角を狙わず、正面からだ。
そのままの勢いで盾に向かって飛び蹴りの勢いで飛びかかる。
スキル無しのこのジャンプ攻撃に相手がカウンターを合わせてくれれば楽なんだが……まぁそう思い通りには行かんよな。
どんな状況でも徹底的な防御スタンス。
流石PvP巧者と言ったところか。
調子を崩さない事の重要さを理解している動きだ。
ただまぁ、反撃がなかったらなかったで対策は一応考えてあるんだが。
飛び蹴りの体勢から、片手で盾の上辺を掴み盾の上にへばりつき、そのままの勢いで一気に相手側へ体重をかける。
タンクをやる奴は大抵VITやSTRが高いだろうから、その程度で押しつぶすことは出来ないだろう。
実際、踏み堪えてる感じはするが、潰される気配はまるでない。
だが、重要なのは相手が踏み堪えているというこの状況だ。
剣を手放しているわけではないが、腕だけではなく肩を使って盾を斜めに構え俺の重さを地面に逃がしている。
互いにこの体勢では片手剣のリーチでは盾越しに攻撃することは出来ない。
だが、俺が持っているのは槍な訳で。
「よっ!」
「!?」
盾の上辺から上半身を乗り出すような形でタンクの顔面に突きを見舞う。
盾は局面になっており、このまま倒れても下敷きで潰れることはないかもしれないが、完全に動きを封じることができる。
相手もそれが解っているからか、不利だと解っていても盾を支えながら俺の攻撃を捌く構えだ。
こちらの攻撃も、変な体勢からの突きは流石に狙いが甘く兜に弾かれてしまうが、そこは数撃ちゃ当たるの精神だ。
バイザーで顔の正面を覆うタイプの兜じゃなかったのが災いしたな。
繰り返しの突きが顔面を何度か捕らえる。
後ろでヒーラーが必死に回復しているようだが、さて火力は足りているだろうか。
タンクは剣を捨て利き腕で顔を庇いながらなんとかポーションを使おうとしているようだが、飲ませるような隙き与えない。
回復魔法の詠唱はおよそ5秒に一回程度の感覚で来る。こちらの突きは剣を捨てて防御に徹した辺りからクリーンヒットが出ていない。
このままだと体勢を建て直されかねないが……
「やっと途切れたか」
回復魔法が5秒を超えても飛んでこない、一瞬視線を送ってみればヒーラーはSPポーションで回復しようとしている。
それを確認した瞬間、タンクに背を向け一気にヒーラーに駆け寄る。
盾に張り付いてから今まで、いくらでも出来たはずの行動。
チャンスはあったのに、ヒーラーを無視してタンクを集中して攻撃し続けてきた事で安全だと油断したな?
SPすべてを使い切っていたわけではないらしく、咄嗟に一言で終わるような攻撃魔法を放ってきたが、それで怯むほど優しくはない。
魔法を遮るように差し出した左腕がズタズタにされた。
かまいたちの魔法か何かだろうか?
が、左腕一本を犠牲にSP切れのヒーラーが目の前だ。
「おつかれさん」
駆け寄った勢いのまま、槍を抱え込むようにしての薙ぎ払いで胴を刈る。
即死を防ぐため咄嗟に前に出たのか、刃部分ではなく胴で腕を叩き折るような形で当たったが、それで体勢を崩して倒れてしまえば意味はない。
立ち上がる前にきっちり胸の真ん中を槍でぶち抜く。
鎧ではなくローブだから、かなりすんなりと刃が通った。
やはりVITと防具の防御力はこのゲームではバカにならないな。
このやり取りでタンクはHPポーションによって回復され、剣も手に戻ってしまったが、半無限回復状態は解除できたわけだ。
状況的にはようやくイーブンに持ってこれた、といった所か。
さて、この一番厄介な相手をどう鎮めるか。
一応勝つだけならほぼ必勝と言っていい攻め方があるにはあるが、公式プレイヤーやるにはどうも見栄えがなぁ……
と考えをまとめていた所で唐突に相手のタンクは肩の力を抜きため息と共にこう漏らした。
「済まない、リザインだ……」
その言葉と同時に【WINNER is キョウ】という俺の勝利を示すメッセージが表示された。
てっきりタンクとヒーラーは距離をおいたまま、遠隔二人がこっちの射程外で遮蔽物を回り込んでくるかと思ったが、まさか間合いを潰して包囲を狭めてくるとは。
間合いを潰すといっても突っ込んでくるというわけでもなく、ヒーラー背にしてをゆっくり歩いてくる。
厄介な。
こっちに有効な遠距離迎撃手段がないと知ってるから堂々と隠れずに近づいてきやがった。
アレを正面から崩すのは流石に厳しいか。
頑丈な盾役とヒーラーがセットとなると無理押しは難しいだろう。
タンクということはVITや装備の防御力もかなり高いハズだし、さっきの二人のように一手で確実に息の根を止めるような倒し方は期待できない。
よしんば、大ダメージを与えられたとしても、割合回復のポーションとヒーラーの回復ですぐに巻き返されて反撃を受けかねない。
となると先にヒーラーを狙うしか無いが、そうなるとタンクが黙っては居ないし、遠隔二人が厄介になる。
迂闊に背を見せればヒーラーを餌に俺が釣り上げられかねない。
それと、大問題として俺は大盾持ちと戦ったことはまだ一度もない。
ロイが大盾を使っていたが、戦ってるのを見たのは一度切り。
それも殆ど技らしい技を見せずに間合い管理とバッシュで抑え込んでいたせいでスキル確認という意味では殆ど役に立たなかった。
スキルの特徴や癖が判っていれば対処のしようもあるが、初見でしかも多対一の戦い中にというのはいくら何でもハードルが高すぎる。
遠隔とも直接戦ったことはないが、さっきのチャレンジバトルでそれなりの数の攻撃スキルは確認できている。
どういう訳かプレイヤーの殆どがスキルをそのまま自分の使いやすい様にカスタマイズせずに使っているので一度発動してしまえばその後の動きはみな同じだ。
つまり使ってくる技さえ知っていれば、ある程度はという前置きがつくが対処の取りようはある。
狙やはり先に潰すべきはヒーラーと距離をとってこちらを包囲する遠距離の二人だが……
「よっ……」
相手側から身体が完全に隠れているのを確認して再び木をよじ登る。
樹の葉を揺らした瞬間矢が飛んできたが枝に突き立って俺まで届いては来ない。
しかし即座に揺れた木の上を撃ち抜こうとするとは判断がかなり早いようだ。
しかも射たれた矢は正確に俺の隠れた太枝に突き立っているのを見るに、命中精度もかなり高い。
魔法使いの方はまだ一度も魔法を見せていないから判断保留だな。
木の上で枝に身を隠すようにして遠距離の二人の位置を確認する。
火炎の範囲魔法でも打ち込まれたら厄介だが、そこまで考えが回っていないんだろうか?
あるいは使える魔法がかなり偏っているか、だが……
何にせよ気づくまでは上を取らせてもらえば良い。
遠距離二人も俺が遠距離武器を持っていない事を知っているから変に身を隠すよりも射線の確保を重視しているようだ。
つまりこっちから丸見えだ。
とはいっても、障害物用の木からは離れていない。
流石にそのへんは抜かりがないようだ。
この場合、取れる手はそれほど無いわけだが……
手元にあるので武器に使えそうなのははショートソードと両手槍、それと毒薬か……
どれもゼロ距離で有効なものばっかだな。
矢を拾えればなにかに使えそうな気もするんだが、流石にそれは危険過ぎる。
弓使いが居る方の木に向けて、上着で包んだ空のポーション瓶を放物線軌道で投げ込む。
そして……
◇◇◇
キョウというあの公式プレイヤーが隠れた木を遠隔二人で挟み込むようにして、タンカーを接近させる。
当初に建てた作戦とはまるで別物だがコレは仕方ない。
本来であれば人数さを生かして、近接が足止め、或いは追い詰める形で動き、私達遠隔が援護しつつタンクに守られたヒーラーが安全に近接二人を回復して追い詰めるという形になるはずだった。
その作戦は前衛二人が一瞬で倒された時点で切り捨てざるを得なかった。
強いのは解っていた。
あの馬鹿げた強さのNPCを相手に条件勝利とはいえ勝ち取った瞬間を私も見ていたから。
とはいえ、いくら凄いとはいっても所詮NPC相手だと侮っていたのかもしれない。
人間相手にああも上手いこと立ち回れるわけはないと。
でも、実際はこの有様だ。
格上の前衛2人相手にして、瞬殺といっても過言じゃない勢いで倒してみせた。
彼奴等も油断があったんだろうけど、それにしたってこの結果はあんまりだ。
いくら油断があろうが、LV3の二人掛かりでも相手にもならないと証明されたようなものだから。
不意打ちだったから?
冗談。
1対6で勝負を挑んだ時点で、そんなもの何の言い訳にもならない。
そもそも、別ゲームとは言え海外のPvP大会で優勝経験もある私たちにそんな言い訳許されるわけがない。
相手は今、木の上に隠れている。
何度か木の葉が揺れた場所を射ってみたが、枝にうまく隠れているのか当たった気配はない。
ヤンの魔法は強力だがあそこまでは届かない。
とはいえあの二人の瞬殺を見せられた以上、迂闊に近づくのは危険過ぎる。
木と木の間隔は飛び移ろうとしてもレベル2の身体性能ではまず無理。
恐らく私のAGIでも助走つけて全力ジャンプしてもあの距離はギリギリ届かない。
AGI強化薬でブーストしてもレベル2のステータスでは無理のハズ。
となると、警戒すべきは木の上じゃなくて寧ろ下。
木の上に居るからと、上を注視している間に不意をついてくるなんてこともあの人ならやって来かねない。
そう、意識を樹上と地面の両方を捉えられる位置で固めた途端、まるで狙ったかのように頭上で木の枝に何かが突っ込む葉擦れの音が耳に飛び込んできた。
「何で!? 届くハズが……!?」
つい疑問に叫んで上を見上げた所で何かが振ってくることに気付きとっさに避けたが、少しだけ飛び散ったそれを身体に浴びてしまった。
浴びた部分に継続的にはいるダメージ表現。
これは……毒!?
そうか、さっきの葉擦れはこの毒ビンが投げ込まれて……
理解したとほぼ同時、ヤンの方、その一本手前の木からも葉擦れの音。
しかも私のときよりも遥かに大きい。
毒ビンは囮で本命はあっち!?
こっちの注意をひきつけて安全を確保した状態で近くの木に飛び移ったってこと!?
「ヤン! 木から離れて……!!」
私の言葉に咄嗟に反応してすぐさま行動に移す切り替えの速さは流石だ。
それだけに留まらず、木から飛び降りてきたそいつに対して、距離を取りながらのショックブラストを打ち込むおまけ付きだ。
威力は高いが射程が短いあの魔法を、予め用意していたんだろう。
弾き飛ばされたキョウは場外に向かって吹っ飛ぶ。
あの勢いでは地に足が付く前にリングアウトは確定だ。
直接倒せなかったのは残念だけど、油断できる相手じゃなかった。
前衛二人が倒されてしまっていたし、場を引っ掻き回される前に片がついたのは寧ろラッキーだったかも?
と、息を吐いた途端、強い衝撃と共に私のキャラは叩き切られていた。
◇◇◇
ラッキー! と言わざるを得ない。
弓使いを切り捨て、一気に魔法使いに駆け寄る。
俺が投げたマントに包んだポーション便を魔法で迎撃するのは確認した。
次のリキャストまで数秒はかかるはず。
その数秒が勝負だ。
この位置関係ではタンクの救援も横入りも間に合わない。
一般MMOと違ってパーティメンバーのHP表示なんかが無いのは夕方の狩りで確認済みだ。
相手の魔法使いは俺が弓使いを倒したことに気がついていない。
障害物を盾にして一気に詰め寄り、吹き飛ばされ場外に落ちたソレを目で追う魔法使いを背後から一撃。
わけがわからないと言った感じでこちらを振り返った所でHPがゼロになりロックされた。
我ながらあんな素人考えのフェイントがここまでキレイにはまるとは……恐ろしい。
まぁ二度は通じないだろうな。
さて、あとはタンクとヒーラーだけだが……これが一番厄介だな。
どうやって崩したものか……
いや、相手が少しでも混乱しているうちにまずは一度突っ掛けて様子を見る。
今度は一切のひねり無く、ヒーラーではなくその前で構えるタンクに向けて突撃。
一歩ごとに進行方向を左右に刻みつつ、最後の一歩に飛影を載せつつ薙ぎ払うように首狙いで槍をブチ込む。
当然ながら大振りの一撃は盾で弾かれる。
受け止めた側は一切の顔色を変えず、槍を弾かれた俺に向かってロングソードを突きこんでくる。
結構な隙を見せたつもりだが、反撃はコンパクトで堅実なものだった。
あからさますぎて誘いがバレてたか……?
反撃をかわして真正面からひたすら突く。
こうして戦ってみると判るが、大盾ってこれ、かなり厄介だな。
エドワルトはデカイタワーシールドを背負っていたが、結局背負ったままだったし有用さが分からなかったんだよな。
回り込もうとしても一歩ズレるだけで身体がすっぽり盾で隠れちまう。
小盾のように攻撃に合わせて腕を突き出してガード、というものではなく、地面にどっしり構えた盾を支柱にして対角位置を取られているような感じだ。
しかも反撃が上から来るのか下から来るのかも盾で手元を隠されて判別しにくい。
この感じだと弓矢の斉射とかも盾を傾けてその下に入り込むことで全部防げそうだ。
さすがメイン盾だ……これでうやって突破すりゃいいんだ?
正面、側面も簡単に対応されてしまう。
複数人いればもうひとりが背面を取れるかもしれんが、一対一だとやり辛いことこの上ない。
旧来のMMOでもタンクにメレーが挑んでもまず勝てないものだったが、実際に自分のみで体感してみれば確かに納得だわ。
全体重を載せた一撃が軽くいなされたし、盾に飛び乗って押し倒すとかの奇襲も無理だろうなぁ。
全力の飛影ですれ違って背面を取るか?
でもそんな行動は想定してるだろうし、下手すればすれ違いざまにカウンターを入れられる危険もあるか。
ううむ……
あ、飛びかかり……か。
普通に飛びかかって押しつぶすのは無理でも……行けるか?
相手のタンクは徹底した防御と反撃の構えだ。
自分からは決して仕掛けず、あの巨大なタワーシールドで攻撃を弾き返し、その隙に反撃をするという動きを徹底している。
片手用のバックラーなんかなら、格ゲーみたいに打点を散らして崩すことができるが、ああも全身を隠されたら崩すもへったくれもない。
これが遭遇戦とかなら、こんな面倒くさいやつ相手してられるかとばかりにさっさと退散するところだが、これはPvPだから面倒くさくても相手を倒すしか無いんだよなぁ。
よし、やってみるか!
今度はスキルを使わずに普通にダッシュで接近する。
死角を狙わず、正面からだ。
そのままの勢いで盾に向かって飛び蹴りの勢いで飛びかかる。
スキル無しのこのジャンプ攻撃に相手がカウンターを合わせてくれれば楽なんだが……まぁそう思い通りには行かんよな。
どんな状況でも徹底的な防御スタンス。
流石PvP巧者と言ったところか。
調子を崩さない事の重要さを理解している動きだ。
ただまぁ、反撃がなかったらなかったで対策は一応考えてあるんだが。
飛び蹴りの体勢から、片手で盾の上辺を掴み盾の上にへばりつき、そのままの勢いで一気に相手側へ体重をかける。
タンクをやる奴は大抵VITやSTRが高いだろうから、その程度で押しつぶすことは出来ないだろう。
実際、踏み堪えてる感じはするが、潰される気配はまるでない。
だが、重要なのは相手が踏み堪えているというこの状況だ。
剣を手放しているわけではないが、腕だけではなく肩を使って盾を斜めに構え俺の重さを地面に逃がしている。
互いにこの体勢では片手剣のリーチでは盾越しに攻撃することは出来ない。
だが、俺が持っているのは槍な訳で。
「よっ!」
「!?」
盾の上辺から上半身を乗り出すような形でタンクの顔面に突きを見舞う。
盾は局面になっており、このまま倒れても下敷きで潰れることはないかもしれないが、完全に動きを封じることができる。
相手もそれが解っているからか、不利だと解っていても盾を支えながら俺の攻撃を捌く構えだ。
こちらの攻撃も、変な体勢からの突きは流石に狙いが甘く兜に弾かれてしまうが、そこは数撃ちゃ当たるの精神だ。
バイザーで顔の正面を覆うタイプの兜じゃなかったのが災いしたな。
繰り返しの突きが顔面を何度か捕らえる。
後ろでヒーラーが必死に回復しているようだが、さて火力は足りているだろうか。
タンクは剣を捨て利き腕で顔を庇いながらなんとかポーションを使おうとしているようだが、飲ませるような隙き与えない。
回復魔法の詠唱はおよそ5秒に一回程度の感覚で来る。こちらの突きは剣を捨てて防御に徹した辺りからクリーンヒットが出ていない。
このままだと体勢を建て直されかねないが……
「やっと途切れたか」
回復魔法が5秒を超えても飛んでこない、一瞬視線を送ってみればヒーラーはSPポーションで回復しようとしている。
それを確認した瞬間、タンクに背を向け一気にヒーラーに駆け寄る。
盾に張り付いてから今まで、いくらでも出来たはずの行動。
チャンスはあったのに、ヒーラーを無視してタンクを集中して攻撃し続けてきた事で安全だと油断したな?
SPすべてを使い切っていたわけではないらしく、咄嗟に一言で終わるような攻撃魔法を放ってきたが、それで怯むほど優しくはない。
魔法を遮るように差し出した左腕がズタズタにされた。
かまいたちの魔法か何かだろうか?
が、左腕一本を犠牲にSP切れのヒーラーが目の前だ。
「おつかれさん」
駆け寄った勢いのまま、槍を抱え込むようにしての薙ぎ払いで胴を刈る。
即死を防ぐため咄嗟に前に出たのか、刃部分ではなく胴で腕を叩き折るような形で当たったが、それで体勢を崩して倒れてしまえば意味はない。
立ち上がる前にきっちり胸の真ん中を槍でぶち抜く。
鎧ではなくローブだから、かなりすんなりと刃が通った。
やはりVITと防具の防御力はこのゲームではバカにならないな。
このやり取りでタンクはHPポーションによって回復され、剣も手に戻ってしまったが、半無限回復状態は解除できたわけだ。
状況的にはようやくイーブンに持ってこれた、といった所か。
さて、この一番厄介な相手をどう鎮めるか。
一応勝つだけならほぼ必勝と言っていい攻め方があるにはあるが、公式プレイヤーやるにはどうも見栄えがなぁ……
と考えをまとめていた所で唐突に相手のタンクは肩の力を抜きため息と共にこう漏らした。
「済まない、リザインだ……」
その言葉と同時に【WINNER is キョウ】という俺の勝利を示すメッセージが表示された。
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