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二章

五十一話 文化的生活『最』必需品

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「賑やかだねー、ハティ!」
「わふ」

 控室で待っていたエリスを迎えに行き、時間もあるしせっかくこっちのサーバに来たということで街を散策することに。
 こんなデカイ街は向こうでも行ったことがないから俺自身の興味もあるしな。

「人が多いからあまり離れないようになー」
「はーい」
「はー……いい子ねぇ。私もあんな妹欲しかったわ」

 散策に出ているのは俺とエリス、ハティと控室で暇してたきなこさんだ。
 最初はSADにでも案内させようかと思ったが、会社勤め組は運営の手伝いに回っているようだった。
 リリティアさんだけはフリーだった筈だが、リアル用事でログアウトしているとの事。
 他の連中も似た感じで休憩がてらログアウトしていたり、既にでかけた後だったりと言った感じだった。
 まぁ声優の二人は次のイベントステージ用の打ち合わせっぽい事してたけど。
 チェリーさんえらい疲れた顔してたけど大丈夫かアレ……

「アレがバディなんだよねぇ。うちの子とは完全に別物だね」
「そういえばきなこさんのバディはどんな風なん?」
「うちの子? ウィル・オ・ウィスプ系の見た目で名前はヒトダマ」

 ウィスプなのに人魂なのか……
 いやまぁ光って浮いてるのは似てるのかもしれんが。

「初期組は妖精型だってのはSADから聞いたんですけど、普通に会話とか出来るんです?」
「喋ることはできないね。ただ、こっちの言葉は理解してるみたいでちゃんとリアクション返してくれるよ。すごく賢いペットみたいな感じ」
「ああ、そうなんだ」
「ハティちゃんにイメージ近いかな」
「なるほど。そう言われるとなんとなく理解できる」

 ハティも喋ることはできないけど、こっちの言葉は確実に理解してるしな。
 ちっこいハティってイメージしておけば間違いないんだろう。

「…………まぁ、あんな馬鹿げたステータスでは断じて無いけどね」
「あれはまぁ、特殊な事例というか……そもそもあいつバディじゃないから」

 多分俺が遭遇した全ての中で最強だろうし、アレ。
 エドワルト相手でも歯牙にもかけないんじゃなかろうか。

「お、串焼きだ。ちょっと食ってみるか……」

 露天商が出してる串焼きが美味そうだったので一本購入。
 100Gとお手頃価格? なので懐も傷まない。
 湯気もたって、見た目も
 さて、お味のほどは……

「…………」
「どしたの?」

 モグモグと口を動かしてみるものの……

「味がしない……」
「え? そりゃゲームだし味はしないでしょ?」
「ALPHAでは普通に作った飯には味があったし『食ってる』って実感はあったんだけどなぁ」
「え、そうなの? ……って、そういえば痛みだけじゃなくトイレ行きたくもなるんだっけ」

 食べているという認識だけはあるのに、どうもこっちでは何か食った気がしない。
 認識があるのにその気がしないとは我ながらおかしな事を考えているとは思うが、実際口をもぐもぐしても口に何かを入れてる感覚がそもそもない。
 今時分は何かを食べているという認識は確かにあるけど、行動に対する答えが想定したものとはまるで違うというか……
 何故か匂いとか食ってるんだっていう雰囲気はするんだけど、雰囲気なだけで口の中に麻酔でも掛けられたような感じがする。
 どうやら痛覚だけじゃなくて味覚とかも殆どないらしい。
 視覚、聴覚はハッキリしてるのに五感の中でも差があるのは一体何なのか?
 触覚は明確にあるのに痛覚が殆ど無いってのも不思議な話だし……

 あれ、そういえば身体を動かしたし少し腹ごしらえ……って感じで食っては見たけど、そもそも腹減ってなくね?
 システムだけじゃなくて、感覚的にもゲームに寄っている?
 色々な制限解除している向こう側とはアバター情報処理量が確かに違うんだけど、それ以外のなにかがある気がする。
 向こう側でも感じる筈のない空腹や便意といったシステム外の感覚も感じるはずの俺のアバターが、こっちでは何も感じないというならなにかそういう理由がありそうなんだが……。

「何か根本的な違いがありそうなんだけど、思いつかないんだよなぁ」
「運営ですら理由が解ってないみたいだし、そこは悩むだけ無駄なんじゃない?」
「そう言われるとそうなんだけど、なんか気になるんだよな」

 でもまぁきなこさんの言う通り今考えても答えは出ないか……

「……まぁ、良いか。腹が減らないなら食費も掛からないってことだし」

 空腹も便意も痛みもないってことは、こっちのサーバでは正しい意味でゲーム感覚で楽しめるってことだな。
 エドワルトの戦いは、そもそも一撃でも被弾したら即死の危険性があったからガン避け選択したけど、死なない一撃であれば喰らってでも有利を取るって選択肢もあるって事だ。
 かなり自由度の高い……というか無理押しも選択肢に組み込めるのは攻める側有利な俺好みな感じではある。
 その動きに慣れすぎて、向こう側で無謀な戦い方をしないように注意が必要だけどな。

「ハティちゃんやエリスちゃんは美味しそうに食べてたから、食費はなくならないと思うけど」
「そうだった……」

 彼奴等は系統が違ってもAI搭載型のNPCという扱いだからなのか、こっちの飯もちゃんと飯として食べているようだった。
 特にハティはこっちだとあんなに小さいのにめっちゃ食うからな……

「エリス、飯はうまかったか?」
「うん! 知らない味で美味しかったー」
「そっか」

 初期所持金は20000Gで、ハティとエリスのおやつ、あとさっきの串焼きで3000G近く使ってしまっている。
 というか、大体日本円と同じ価値観なんだよな、こっちのGって。
 ゲームとしては結構珍しいんじゃないだろうか。
 こっちとしては予算建てが楽でいいけど。
 それはさておき二週間前後こっちで暮らすことを考えると、食費と宿代を稼がないと野宿する羽目になりかねない。
 どっかで狩りをする必要があるな。
 まさかこっちでまで生活費を考えなければならんとは……
 ハイナ村は物々交換がメインだったから金のことはあまり考えなくても良かったんだよな。
 肉が食いたければ狩りをして肉を取るとか塩がほしければ肉と交換するとか……
 何か基本肉が中心だな……
 まぁ、嗜好品みたいなものはなかったから、こんな発展した街とはある品物が違うか。
 ああでも、アルマナフの街に行ったらこんな感じなのかもしれんな。
 多少はスケール差があるかもしれないが。
 あれ?
 日本円とほぼ同価値で手持ちが17000Gしかないと、2人と一匹で宿とったら金が足りないんじゃ?
 いや、5000Gくらいの各安宿……があったとしても場所を知らねぇわ。
 そもそも宿屋の相場が判らん。

「やべ……、疲れたとかちょっと言ってられないかも知れないな」
「キョウ?」
「どしたん?」
「さしあたって今夜の宿代を稼がないと寝る所がなくなる……」
「え? 何言って……ってそういえばログアウトできないって言ってたっけ。結構重要なことじゃない?」

 ううむ、このままこの街をふらっと一周して施設の場所とか覚えようと思ってたけど、これはちょっと先に資金確保しないと駄目だな。

「今日は町の外に出るつもりはなかったんだけど、仕方ないな。狩場の確認ついでにちょっと生活費稼ぐか……」
「狩りいくの? エリスとはティもついてく!」
「わふ!」

 ううん、連れてっても良いものか……あ、でもエリスもガーヴさんから護身術とか習ってるしエリスも狩りしたいって言ってたよな。
 ちらっと稽古覗いた感じ、どこぞの戦闘民族なんじゃないかってくらい本格的な組手とかやってたし、向こうと違って町の外でいきなりライノスに襲われるとかはないだろうから、LV1用の狩場で生活費稼ぎついでにレベル上げするのもありか……?

「私も手伝うからサクッと行ってこよう。街から離れなければ平気でしょ」
「あ、なんかすいません。それならお願いしたいかも」
「良いってことよ。私もこっちのバトルがどうなってるのか気になってたしね」

 保護者が二人もいれば流石に大丈夫か。
 きなこさんLV3だし、俺もなりたてとは言えLV2だから、初心者用狩場でならちょっと強いやつに絡まれても十分対処できるはず。

「よし。それじゃエリスの特訓も兼ねて、街の近くでちょっとバトルしてみようか」
「おー!」
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