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二章
四十七話 チャレンジバトルⅡ
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「それでは……公式プレイヤーチャレンジバトルーー!!」
「うわっテンション高っ!?」
「ええ、まぁお仕事ですからね」
「え、そこで素に戻るのやめてくれない?」
「このコーナーは、安達勇人さんことあつしと、結城桜さんことチェリーブロッサムを含めた公式プレイヤー達によるチャレンジバトルをお送りするコーナーです。視聴者の方たちによって選ばれたモンスターと、サイコロの目によって出た人数で戦っていただきます。見事勝利した数によってプレイヤーの皆さんにはちょっとしたアイテムが配布されるのでぜひ視聴者さん達には『面白くなるギリギリを見極めて』モンスターを選んでいただきたいと思います!」
「え、それ結構ハードル高いこと視聴者さんに要求してない?」
「お祭りですので! アイテムがほしければ弱いモンスターを選べばゲットできますが、まさか、まさか視聴者のみなさんがそんなヌルい選択をするとは」
「いや、ヌルいとかいうなし」
C1さん、ちょっと煽り過ぎじゃないですかねぇ?
公式生放送でテンション上がってるのはまぁ良いんだけど、それで苦労するの俺達なんだが……
まぁ、弱すぎるモンスターとかだと盛り上がらないってのはわかるんだけどな。
俺らの目の前には8面ダイス。
これの出た目でPT人数が決まるってことか。
確か4戦で、4戦目までに全員参加してなかった場合は4戦目は残った全員で参加、既に全員参加していた場合は視聴者アンケートで決めるんだっけか。
一応全員活躍できるように段取りは組まれてるんだよな。
「では早速行ってみましょう。サイコロを振って下さい!」
「……おや、誰も振ろうとしませんね?」
「既に熾烈な戦いが始まっているようですね、仲間内での醜い争いですが」
好き勝手言いよる……
「おっとここで飛び出したのは勇者あつしです! かなり自棄っぱちに蹴り転がしたように見えましたがきっと気の所為でしょう! そして出た数字は……5です!」
「さぁ、ここで出てくるのは誰でしょうか! ……おっと彼らは我が社のテストプレイヤーで、αテストではテスター中最強のチームですね。全員がLv5を超える実質現行最強パーティです! ……まぁαテストのキャラクターコンバートの影響で装備品やアイテムは一切持ち込めないため、初期装備なんですけどね。そして残る一人は……おおっと! あつしです。SAD達が最強プレイヤーとしって、完全初心者のあつしが安全地帯に潜り込んだ! これは姑息……!」
さすがプロ。
迷わず美味しい所を持っていったな。
ああいう、咄嗟の判断でネタに飛び込んでいけるのが人気の秘訣なんかねぇ。
「そしてコレに対するモンスターはプレイヤーの皆さんに選んでいただきます! 4つの選択肢にモンスターの名前が表示されるので選んで下さい。ステータスなどは表示されませんが、βテスト参加者の方ならどれがヤバイモンスターなのかはおおよそ分かるかと思います。分からなくても大丈夫、その場のノリで選んでしまいましょう。決して、ええ決して攻略サイトなんて見て強さを確認する必要はありませんよ!?」
うわ、エグいことを。
アレで絶対知らない奴らは攻略サイトで強い順に選ぶぞ。
SAD達なら余裕だろうけどあつしはえらい目に合うんじゃ……
「さぁ、結果が出ました、結果は……ブラックウルフ*5です! なお、ブラックウルフのレベルは2の上位となります。精鋭4人にとっては楽勝のモンスターでしょうが、数が多い! 一人につき一体ずつ相手にしても一体はあつしが対処しなければなりません。生放送直線にキャラ作成したあつしにとっては手も足も出ない強敵です! このピンチ、あつしはどう乗り切るのか!?」
「あつしさん、凄い顔してますね」
「なにかゼスチャーしていますね。あの動きは『カット』? 残念、生放送にカットはありません。では準備が整ったようなので頑張っていただきましょう!」
ヒデェ。
容赦ねぇなこの運営。
まぁコメントの流れが凄いことになってるし傍から見てる分には相当面白いんだが。
「バトル1! レディ、GO!」
開始と同時にSAD達が狼の群に突っ込む。
あつしも取り残されないように必死だ。
やがてロイとSADそれぞれ二匹ずつ狼を抑え込む。
ヘイトコントロールでヘイトトップを勝手に狙ってくれる従来のMMOと違い、モンスターも臨機応変に動いてくるこのゲームではモンスターの動きを抑え込むタンクには結構な技術を要求される。
二匹同時に牽制と圧力をかけて動きを抑え込むというのはかなりの高等テクニックだろう。
俺にはまだ無理だ。
……ただ、多分ロイあたりなら3匹相手でも抑え込めるよな?
「おおっと、ロイ選手がなにやらハンドシグナルを送っている! あれは『逃げ回れ』でしょうか。大丈夫です、既にあつしさんは死に物狂いで逃げ回っています!」
絶対わざとだな。事前に打ち合わせたのかロイのアドリブなのかは判らないけど間違いなくネタのためにやってる。
やろうと思えばタゲを取れる後衛二人が一切手を出さない辺り間違いなく確信犯だ。
必死の形相で逃げ回るあつしを背に、『何故か』苦戦しつつSAD達は狼たちを殲滅。
あつしを追いかける狼をSADが後ろから蹴り飛ばし、リリティアが適切に急所を撃ち抜いてとどめを刺す。
そしてズタボロで倒れていたあつしが立ち上がりドヤ顔でガッツポーズ。
まるで自分が倒しましたと言わんばかりのスゲェウザいドヤ顔で会場はどっと沸いていた。
スゲェなあの顔芸。
「勝者、公式プレイヤーズ!!」
「あつしさん、凄いドヤ顔ですねぇ」
「あの顔を表現できるのもNEW WORLDの魅力の一つです!」
「あの顔がこのゲームの自慢なの!?」
「いえ、顔自体はあつしさんが自慢して下さい」
相変わらずメインステージは好き勝手言ってるが、何にせよこれで1勝だ。
勝って当然の組み合わせだったが、あつしのおかげで笑いも取れてたし結構良い組み合わせだったんじゃなかろうか?
「さぁ、続いてのパーティ選出です。サイコロを振って下さい!」
今度は実況4人組の一人がサイコロを投げた。
出た数字は……2。
4か……あまり少ない人数だとレベルの低い俺は目立つから今回はパスしたいかぁ。
「とりあえず私が出るかな。誰かもうひとり一緒に行かない?」
む、きなこさんか。
彼女となら別に一緒でもいいかな、知り合いと一緒なら気軽に行けるし。
「じゃ……」
「なら、どうせソロ参加だし俺が出るよ」
「…………」
さっきといい今回といい、どうしてこの人俺にかぶせてくるん?
確信犯? 嫌がらせなの?
「そ、そっか。よろしくね」
流石にわざとってわけじゃないと思うが、何というか間が悪すぎる。
きなこさんも多分、同じソロの俺を誘おうとしてくれたんだろうけどすごく微妙な顔になっちまってるし。
でも、相手が自己申告で参加申請してる以上断ることもできないだろう。
なんかせっかく気を利かせてくれたのに悪い事しちまったな。
「おっと、公式プレイヤー軍の陣営が決まったようですね。男性プレイヤーはスレインさん。αテスト参加者であり、ゲーム雑誌等にNEW WORLDの記事などを乗せてくれています。ソロプレイがメインで時間があまり取れないのが不満とのことですがそれでもレベルは3を超えています! 一方の女性プレイヤーはきなこもちさん。普段は今日は別件で参加できていない相方のイチゴさんとペアで行動しているとの事です。スタイルは珍しい格闘家タイプ。レベルは3ですがレベル4目前の高ステータスです! 攻撃系魔法使いのスレインさんと近接タイプのきなこもちさんという遠近アタッカーコンビがどんな戦いを見せるか、期待大です!」
攻撃偏重パーティだけど、ペアなら仕方ないか。
むしろ変に耐久するよりも一気に畳み掛けることで圧倒するほうが安定して戦えるかな?
「さて、モンスターアンケートの方はどうなったでしょうか!? 視聴者の選んだ対戦相手は……サラマンダー! βテストに登場したモンスターの中でも最上位に位置するモンスターの一体です! 視聴者の皆さんもなかなか容赦がないですねぇ!? これは二人で挑むには少々きついか!?」
割と強いモンスターなのか。
二人共LV3って言ってたが……
「無茶なチョイスしたのは運営? ですが敢えて言いましょう! 選んだのは視聴者の皆さんです! 待ったなしの第二試合レディ、GO!」
相変わらず容赦ねぇ!
「実際どうなんです、サラマンダーって」
「あら、キョウさんはβテストには参加してないんですか?」
おっと、実況主さん達に聞いたつもりだったが、まさか声優さんからの反応があるとは。
「あ、そうかチェリーさん来てからの自己紹介は二回目で詳しい話はしてなかったですね。俺は先々週からテストサーバの方でテスターとして参加してるのでβテストには一切関わってないんですよ。レベルもあつしの次に低いんですよ」
「なるほど、それじゃ知らなくて当然ですね。サラマンダーはβテストで行ける一番高レベル帯の火山エリアにいるモンスターです。ステータス的にはレベル3で渡り合える程度なんですが、火山や密林といった一部のエリアのモンスターは体力が非常に高く設定されてて、そのステータスに騙されると消耗戦になって追い詰められてしまうんです」
ああ、昔やったMMOでよくあったな。エリート属性とか強敵属性とついてるモンスター。
複数人で攻略するのが前提のダンジョンにいるモンスターだと同じレベルでもステータスが大きく違ってるってやつだ。
「所謂パーティ攻略前提モンスターですか」
「正解です。このゲームは従来のMMOと違って解析が困難なのでモンスターのステータスなんかは判っていないんですけど、実際に戦えばある程度の強さの目奴は付きますからね。レベル2のプレイヤーが100人戦って100人勝てれば少なくともそのモンスターはレベル2以下……と言った感じで」
ナルホドなぁ、プレイヤーの多さを利用した人海戦術でのデータ収集か。
データ解析ができないせいでの苦肉の策なんだろうけど、ある意味一番健全な攻略法でもあるな。
「きなこもちさんが果敢に攻める! スレインさんは攻撃よりも相手の妨害に集中しているようですね」
「射出系の多い攻撃魔法ではゼロ距離戦闘がメインのきなこもちさんを巻き込んでしまいかねませんから、ピンポイントで対象指定できるタイプのデバフで援護する戦法のようですね。この戦い方は非常に有効な戦法なので見ているプレイヤーの皆さんも是非参考にして下さい」
「おおっと、苦戦しているものの、その戦法にはディレクターは大絶賛です」
当たり前にようにフレンドリファイアがあるこのゲームでは確かに誤射をしないように立ち回るのは基本だよな。
マトモな集団戦闘は沼猪を狩った時とライノスと戦った時だけだが、それぞれが明確に自分の仕事を理解して動かないとあっという間に瓦解しちまう。
あの二人はそれがちゃんとわかってるから、二人で攻めたほうが火力が出るのにあえてああいう戦い方をしてるんだな。
「射線が通るのを待つくらいなら、動きを鈍らせてきなこさんの攻撃命中率を上げたほうがDPS上は数値が上がるとみてのサポート集中か」
「だと思います、実際あそこまで割り切ってしまえば行動が単純化してミスも減りますし」
「…………」
「? どうしました?」
「いや……ほんとにガチプレイヤーなんだなぁと」
あつしのように、仕事の依頼ではじめて触る、悪言い方で客寄せパンダ的な有名人プレイヤーって多いからな。
せっかくの公式プレイヤーなら、ゲーマーとしては仕事を離れてプライベートでも自分の好きなゲームをガッツリ楽しんでくれてると自然と応援したくなるってもんだ。
「言いたいことはなんとなく判りますよ。でも、私はゲームオタクが高じて声優になったようなものですからね」
「ああ、それはなんとなくわかります。俺もゲーム好きで大会優勝をきっかけにリバークレイにスカウトされて入社しましたから。今は理由があって退社してフリーですけど、こうして仕事させてもらってます」
「あら、ご同輩さんでしたか」
「みたいですね」
と、話している間に戦況が動いてたな。
「おおっとぉ! きなこもちさんの反撃が華麗に刺さる刺さる!」
「戦闘中にサラマンダーの動きを覚えたようですね。アレはカウンタースタンスという反撃系のスキルですね。的確に相手の攻撃を見切らなければ相打ちになってダメージを食らってしまう高等技です。カウンターはキレイに決まれば大ダメージを与えられるので、ああいった体力の高いモンスターにも有効な対策手段ですよ」
「なるほど、流石公式プレイヤー! レベルだけではない、テクニックも兼ね備えているという事を見せつけてくれます!」
ライノスの時に俺もやったけど、自力でダメージを与えられない相手にはアレが一番有効なんだよな。
でも、目の前を底冷えするような一撃がかすめていく状況はかなり心臓に悪い。
失敗すると相打ちって言ってるけど、実際相打ちになると受けるダメージはこっちのほうが遥かにデカイから、実質一方的にぶっ飛ばされると思ったほうがいい。
そういう意味ではハイリスクハイリターンの高等技だよなぁ。
「倒したぁーーー! 弱った所をスレインさんのバインド技によって拘束され、身動きを取れなくなった所にきなこもちさんのトドメの一撃! 即席とは思えない息の合った連携でついに勝利です!」
動画コメントも「スゲェ」や「マジか」で埋め尽くされている。
これは公式プレイヤーの面目躍如って感じじゃないか?
「ああ、しんどーーーー!」
「おつかれさま」
「ほんとにお疲れだよ! 強さは大したことないけど、いくら何でもタフすぎ」
「アレ、パーティ戦闘用のモンスターらしいぞ?」
「そんなことだろうと思ったよ! ステータスと体力のバランスがちっとも取れてなかったもの!」
どうやら本気でお疲れのようだ。
どっかりと腰を下ろしたと思ったらそのまま後ろに倒れ込んでしまった。
「見事な戦いを見せてくれた二人に喝采を! そしてまだまだ戦いは終わっていない! 次の戦いは何人で行うのでしょうか!?」
今度は二人組の内の剣士がサイコロを転がした。
割と皆率先して転がすのな。
俺の場合つい他の人に任せたくなっちまうぜ。
「さぁ、今回の数字は……6です! 今までで最高数ですね。これで有利に戦えると思った公式プレイヤーの皆さん。そんな甘い話はございません! 人数が増えれば当然難易度が上がります。チョイスされるモンスターも最強クラスです!」
「おい!? 聞いてないんですけど!?」
抗議の声はサイコロを振った当の本人だ。
というか俺も聞いてないんだけど……
「ちなみに一戦目も、相当な難易度ですよ? SADさん達が強すぎてモンスターが霞んでましたけど、集団戦を得意とするブラックウルフ5体を相手取ると、同レベル5人では手も足も出ない難易度なんです」
「ぐ……そう言われると……まぁ」
「というわけで不正はなかった! さぁ、メンバーの選出をお願いします!」
さて、どうしたものか?
「俺達、4人揃って出たいので今回立候補します」
「そうですね。残り二人はどうしましょうか? 俺たち二人組なんで2チームで6人でもいいし残りのお二人でも区切れるのでこちらとしてはどっちでも大丈夫ですが……」
そうだな。4人が確定となると、残りはどっちの組み合わせでもハッキリ割れる。
個人的には今回混ざっておきたいところだけど、二人しか残らないなら次は残り二人を含めた再抽選ってことになるだろうし、そこまで拘る必要もない。
「なら、じゃんけんで良いんじゃないかしら? 私と、そちらのお二人のどちらかでジャンケンして、負けたほうが今回参加ということで」
「なら、俺がジャンケンします」
なんかほんとに皆グイグイ行くな。
俺が日和見主義過ぎるのか? あの積極性を見習うべきなの?
「「じゃーんけん、ぽん」」
「俺達の負けなんで今回は俺達が出ますね」
「はーい。頑張ってね」
じゃんけんはチェリーさんの勝ち。つまり俺も次回参加組だ。
次のサイコロで2とか引かない限りはまぁ問題ないはず。
「公式プレイヤー軍の出場者が確定したようです! まずあちらの四人ですが、鉄平、ゆっきー、コータ、アスターといえば知っている人は多いのではないでしょうか? 有名ゲーム実況『気分に任せて』ではじまる動画で有名な四人です。NEW WORLDでの公式実況配信の打診をお願いした所快く引き受けてくださいました!」
おおぅ、視聴者コメントが一気に増えた。
この反応を見るとほんとに人気なんだろうな。
最近ゲームそのものから離れてたからゲーム実況とかも殆ど見てなかったから、いまいち判らないんだよな。
「残る二人、剣士のカインさんとヒーラーのハンペンさんはテストサーバにおける外部テスター枠で参加してくださっているお二人です。元々は生産型プレイヤーとして参加していただいたのですが、今では戦闘にも手を出すオールラウンダーなプレイヤーです!」
へぇ、生産もやってるのか。
皆なにかに特化してると思ってたんだが、両方に手を出す人も居るんだな。
って、自分で家立てようとしている俺の言えたことじゃないが。
「そして、そんな6人に対して視聴者の選んだモンスターは……ルビースケイル! 知る人ぞ知るオープンβテスト最強モンスターです! オープンβ時は引き連れるフレイムリザードを隔離して倒すのがスタンダードでしたが、今回は闘技場。雑魚とボスの分離はできません! この難局を6人はどう凌ぐのでしょうか!?」
お供付き……所謂グループボスとか群ボスとかいうタイプか。
お供の数は2匹と少ないが、数が少ない場合、大抵は一匹一匹がかなり強いんだよな。
数が多ければ多いで単体では大して強くはなくても、効果力の範囲攻撃でで焼けないと数の暴力であっという間に体力溶かされるんだけど。
「フレイムリザードの一匹はこちらで引き受けます。こいつはαにも居るんで対処法は判ってますから、手早く片付けてそちらに合流します」
「お願いします! 俺達はルビースケイルを隔離してもギリギリだったので、お供付きだと長く持ちません。なんとか早めに合流お願いします」
「了解!」
へぇ、フレイムリザードってテストサーバにも居るのか。火山地帯とか長居はしたくないけど、ちょっとだけ行ってみたいな。
観光的な意味で。
「さぁ、βテスト最強モンスターとの戦いですが、彼らの戦いはディレクター的にはいかがでしょうか!?」
「フレイムリザードは体力が高い上に、攻撃すると燃える体液が飛び散ってダメージをばらまきます。反撃を対処しつついかに素早く倒してルビースケイルを孤立させるかが重要なんですが、カインさんとハンペンさんの動きは素晴らしいですね」
二人組はフレイムリザードの吐くブレス……というか溶岩? を回避しながら一瞬で距離を詰め、一撃を入れ、体液が飛び散る前に直ぐ様退避。
理想的な一撃離脱だ。
軽い攻撃は気にせず、危険な攻撃にのみ反応している。
徹底的な効率主義だな。
相方のヒーラーもその行動が理解できているせいか、こまめで確実な回復魔法に完全集中している感じだ。
回復が必要ないと見るや初歩的な氷の魔法を打ち込んでいる。
回復に専念するくらいなら少しでも打撃を加え早く倒すことで自分の回復魔法の負担を減らすといった目的か。
ペアで戦い続けてきたというだけあって、かなり互いの持ち味を理解した戦いに慣れている。
俺にはまだ真似できない戦い方だ。
「おおっと、カイン、ハンペンの両名が早くもフレイムリザードを撃破! これには視聴者コメントも大盛り上がりだ! テスターとしての実力を見せつけているぞ!」
「でも、鉄平さん達も凄いですよ。ルビースケイルとフレイムリザードを4人で良く凌いでいます。本来ルビースケイルと闘うのに運営の想定したな推奨戦力はLV3昇格直後のプレイヤー12人以上です。それを苦戦しているとは言え4人で凌いでいるというのはなかなか出来ませんよ?」
コメントのほうも煽るコメントも多いが、実際に戦った事があるプレイヤーも居るのか、擁護コメントもチラホラ見られる。
実際、かなり良い連携が取れてるように見える。
「おおっと、普段はおちゃらけムードのゲームプレイが持ち味の『気分に任せて』チームですが、今日にに限っては本気プレイでしょうか!? 抜群のチームワークでルビーリザードの猛攻を凌いでいます!」
「いや、マジで気を抜くと死ぬんですって! ……うぉっ、アブねぇ!?」
「実況に突っ込み入れる程度には余裕があるようです! その調子で是非頑張ってもらいたいものです」
「うおおお、簡単に言いやがってぇぇぇ!」
ああやって、いちいち反応返すところは何だかんだでエンターテイナーだなぁ。
「いや、でも実際よく凌いでると思うぜ。あの鉄平って人、かなりこのゲームのタンクに必要なプレイヤースキルを兼ね備えてる」
「あのヒーラーも回復を最低限に抑えて持久戦の構えでやってるな。ペース配分にちゃんと気を配ってる」
SADやロイたちにも好評のようだ。
色々なゲーム実況配信をやってるだけあって、ゲームそのものへの慣れ的な物があるのかも知れないな。
βはガチでやったって言ってたけど、ただ遊んでるだけじゃなく戦術なんかもちゃんと考えてやってそうな動きだ。
カインとハンペンの二人が合流すると、即座にもう一匹のフレイムリザードを文字通り処理。
途中、ルビースケイルのブレスを避け損なったアスターが戦闘不能になってしまったが、無事撃破に成功した。
たった6人でフルコンディションのルビースケイル撃破ということで動画コメントよりもゲーム内の会場のほうが盛り上がっていた。
彼らの知る最強モンスターの撃破となると、やっぱり実際にプレイしていた人の反応のほうがでかいか。
「なんとぉー! これは無理かと思われていたルビースケイルですが、まさかの撃破を成し遂げました!コレは大金星なんじゃないでしょうか!?」
「いや、実際凄いですよ。良い戦いになるとは思っていましたが、僕もまさか倒せるとは思っていませんでした」
「おおっとぉ、勝てない前提のモンスターを投入するとか、それで良いのかディレクター!?」
「ええ、まぁ他にも選択肢はありましたから、選んだのは視聴者の皆さんですよね?」
「汚い! これが大人の汚さです! しかし、これだけの結果を出してくれたんですから、報酬にちょっとくらい色をつけても良いんじゃないんですか?」
「えぇ……? まぁ、そうですねぇ…… 実際良いもの見せていただきましたし……ええ、判りました! 本当に段取りにないんで、何をとは今は言えませんが後日報酬アイテムに追加報酬を加えようと思います!」
ああ、ネトゲ生放送でのお約束のやつだな。
かならずある茶番劇的なやつだ。
まさか、もらう側ではなく渡す側の視点でこれを見ることになるとは……
「しかし戦いはまだ続きます! ラストの第四戦! 公式プレイヤー軍はサイコロを振って下さい!」
さて、次は俺らの出番か。
「うわっテンション高っ!?」
「ええ、まぁお仕事ですからね」
「え、そこで素に戻るのやめてくれない?」
「このコーナーは、安達勇人さんことあつしと、結城桜さんことチェリーブロッサムを含めた公式プレイヤー達によるチャレンジバトルをお送りするコーナーです。視聴者の方たちによって選ばれたモンスターと、サイコロの目によって出た人数で戦っていただきます。見事勝利した数によってプレイヤーの皆さんにはちょっとしたアイテムが配布されるのでぜひ視聴者さん達には『面白くなるギリギリを見極めて』モンスターを選んでいただきたいと思います!」
「え、それ結構ハードル高いこと視聴者さんに要求してない?」
「お祭りですので! アイテムがほしければ弱いモンスターを選べばゲットできますが、まさか、まさか視聴者のみなさんがそんなヌルい選択をするとは」
「いや、ヌルいとかいうなし」
C1さん、ちょっと煽り過ぎじゃないですかねぇ?
公式生放送でテンション上がってるのはまぁ良いんだけど、それで苦労するの俺達なんだが……
まぁ、弱すぎるモンスターとかだと盛り上がらないってのはわかるんだけどな。
俺らの目の前には8面ダイス。
これの出た目でPT人数が決まるってことか。
確か4戦で、4戦目までに全員参加してなかった場合は4戦目は残った全員で参加、既に全員参加していた場合は視聴者アンケートで決めるんだっけか。
一応全員活躍できるように段取りは組まれてるんだよな。
「では早速行ってみましょう。サイコロを振って下さい!」
「……おや、誰も振ろうとしませんね?」
「既に熾烈な戦いが始まっているようですね、仲間内での醜い争いですが」
好き勝手言いよる……
「おっとここで飛び出したのは勇者あつしです! かなり自棄っぱちに蹴り転がしたように見えましたがきっと気の所為でしょう! そして出た数字は……5です!」
「さぁ、ここで出てくるのは誰でしょうか! ……おっと彼らは我が社のテストプレイヤーで、αテストではテスター中最強のチームですね。全員がLv5を超える実質現行最強パーティです! ……まぁαテストのキャラクターコンバートの影響で装備品やアイテムは一切持ち込めないため、初期装備なんですけどね。そして残る一人は……おおっと! あつしです。SAD達が最強プレイヤーとしって、完全初心者のあつしが安全地帯に潜り込んだ! これは姑息……!」
さすがプロ。
迷わず美味しい所を持っていったな。
ああいう、咄嗟の判断でネタに飛び込んでいけるのが人気の秘訣なんかねぇ。
「そしてコレに対するモンスターはプレイヤーの皆さんに選んでいただきます! 4つの選択肢にモンスターの名前が表示されるので選んで下さい。ステータスなどは表示されませんが、βテスト参加者の方ならどれがヤバイモンスターなのかはおおよそ分かるかと思います。分からなくても大丈夫、その場のノリで選んでしまいましょう。決して、ええ決して攻略サイトなんて見て強さを確認する必要はありませんよ!?」
うわ、エグいことを。
アレで絶対知らない奴らは攻略サイトで強い順に選ぶぞ。
SAD達なら余裕だろうけどあつしはえらい目に合うんじゃ……
「さぁ、結果が出ました、結果は……ブラックウルフ*5です! なお、ブラックウルフのレベルは2の上位となります。精鋭4人にとっては楽勝のモンスターでしょうが、数が多い! 一人につき一体ずつ相手にしても一体はあつしが対処しなければなりません。生放送直線にキャラ作成したあつしにとっては手も足も出ない強敵です! このピンチ、あつしはどう乗り切るのか!?」
「あつしさん、凄い顔してますね」
「なにかゼスチャーしていますね。あの動きは『カット』? 残念、生放送にカットはありません。では準備が整ったようなので頑張っていただきましょう!」
ヒデェ。
容赦ねぇなこの運営。
まぁコメントの流れが凄いことになってるし傍から見てる分には相当面白いんだが。
「バトル1! レディ、GO!」
開始と同時にSAD達が狼の群に突っ込む。
あつしも取り残されないように必死だ。
やがてロイとSADそれぞれ二匹ずつ狼を抑え込む。
ヘイトコントロールでヘイトトップを勝手に狙ってくれる従来のMMOと違い、モンスターも臨機応変に動いてくるこのゲームではモンスターの動きを抑え込むタンクには結構な技術を要求される。
二匹同時に牽制と圧力をかけて動きを抑え込むというのはかなりの高等テクニックだろう。
俺にはまだ無理だ。
……ただ、多分ロイあたりなら3匹相手でも抑え込めるよな?
「おおっと、ロイ選手がなにやらハンドシグナルを送っている! あれは『逃げ回れ』でしょうか。大丈夫です、既にあつしさんは死に物狂いで逃げ回っています!」
絶対わざとだな。事前に打ち合わせたのかロイのアドリブなのかは判らないけど間違いなくネタのためにやってる。
やろうと思えばタゲを取れる後衛二人が一切手を出さない辺り間違いなく確信犯だ。
必死の形相で逃げ回るあつしを背に、『何故か』苦戦しつつSAD達は狼たちを殲滅。
あつしを追いかける狼をSADが後ろから蹴り飛ばし、リリティアが適切に急所を撃ち抜いてとどめを刺す。
そしてズタボロで倒れていたあつしが立ち上がりドヤ顔でガッツポーズ。
まるで自分が倒しましたと言わんばかりのスゲェウザいドヤ顔で会場はどっと沸いていた。
スゲェなあの顔芸。
「勝者、公式プレイヤーズ!!」
「あつしさん、凄いドヤ顔ですねぇ」
「あの顔を表現できるのもNEW WORLDの魅力の一つです!」
「あの顔がこのゲームの自慢なの!?」
「いえ、顔自体はあつしさんが自慢して下さい」
相変わらずメインステージは好き勝手言ってるが、何にせよこれで1勝だ。
勝って当然の組み合わせだったが、あつしのおかげで笑いも取れてたし結構良い組み合わせだったんじゃなかろうか?
「さぁ、続いてのパーティ選出です。サイコロを振って下さい!」
今度は実況4人組の一人がサイコロを投げた。
出た数字は……2。
4か……あまり少ない人数だとレベルの低い俺は目立つから今回はパスしたいかぁ。
「とりあえず私が出るかな。誰かもうひとり一緒に行かない?」
む、きなこさんか。
彼女となら別に一緒でもいいかな、知り合いと一緒なら気軽に行けるし。
「じゃ……」
「なら、どうせソロ参加だし俺が出るよ」
「…………」
さっきといい今回といい、どうしてこの人俺にかぶせてくるん?
確信犯? 嫌がらせなの?
「そ、そっか。よろしくね」
流石にわざとってわけじゃないと思うが、何というか間が悪すぎる。
きなこさんも多分、同じソロの俺を誘おうとしてくれたんだろうけどすごく微妙な顔になっちまってるし。
でも、相手が自己申告で参加申請してる以上断ることもできないだろう。
なんかせっかく気を利かせてくれたのに悪い事しちまったな。
「おっと、公式プレイヤー軍の陣営が決まったようですね。男性プレイヤーはスレインさん。αテスト参加者であり、ゲーム雑誌等にNEW WORLDの記事などを乗せてくれています。ソロプレイがメインで時間があまり取れないのが不満とのことですがそれでもレベルは3を超えています! 一方の女性プレイヤーはきなこもちさん。普段は今日は別件で参加できていない相方のイチゴさんとペアで行動しているとの事です。スタイルは珍しい格闘家タイプ。レベルは3ですがレベル4目前の高ステータスです! 攻撃系魔法使いのスレインさんと近接タイプのきなこもちさんという遠近アタッカーコンビがどんな戦いを見せるか、期待大です!」
攻撃偏重パーティだけど、ペアなら仕方ないか。
むしろ変に耐久するよりも一気に畳み掛けることで圧倒するほうが安定して戦えるかな?
「さて、モンスターアンケートの方はどうなったでしょうか!? 視聴者の選んだ対戦相手は……サラマンダー! βテストに登場したモンスターの中でも最上位に位置するモンスターの一体です! 視聴者の皆さんもなかなか容赦がないですねぇ!? これは二人で挑むには少々きついか!?」
割と強いモンスターなのか。
二人共LV3って言ってたが……
「無茶なチョイスしたのは運営? ですが敢えて言いましょう! 選んだのは視聴者の皆さんです! 待ったなしの第二試合レディ、GO!」
相変わらず容赦ねぇ!
「実際どうなんです、サラマンダーって」
「あら、キョウさんはβテストには参加してないんですか?」
おっと、実況主さん達に聞いたつもりだったが、まさか声優さんからの反応があるとは。
「あ、そうかチェリーさん来てからの自己紹介は二回目で詳しい話はしてなかったですね。俺は先々週からテストサーバの方でテスターとして参加してるのでβテストには一切関わってないんですよ。レベルもあつしの次に低いんですよ」
「なるほど、それじゃ知らなくて当然ですね。サラマンダーはβテストで行ける一番高レベル帯の火山エリアにいるモンスターです。ステータス的にはレベル3で渡り合える程度なんですが、火山や密林といった一部のエリアのモンスターは体力が非常に高く設定されてて、そのステータスに騙されると消耗戦になって追い詰められてしまうんです」
ああ、昔やったMMOでよくあったな。エリート属性とか強敵属性とついてるモンスター。
複数人で攻略するのが前提のダンジョンにいるモンスターだと同じレベルでもステータスが大きく違ってるってやつだ。
「所謂パーティ攻略前提モンスターですか」
「正解です。このゲームは従来のMMOと違って解析が困難なのでモンスターのステータスなんかは判っていないんですけど、実際に戦えばある程度の強さの目奴は付きますからね。レベル2のプレイヤーが100人戦って100人勝てれば少なくともそのモンスターはレベル2以下……と言った感じで」
ナルホドなぁ、プレイヤーの多さを利用した人海戦術でのデータ収集か。
データ解析ができないせいでの苦肉の策なんだろうけど、ある意味一番健全な攻略法でもあるな。
「きなこもちさんが果敢に攻める! スレインさんは攻撃よりも相手の妨害に集中しているようですね」
「射出系の多い攻撃魔法ではゼロ距離戦闘がメインのきなこもちさんを巻き込んでしまいかねませんから、ピンポイントで対象指定できるタイプのデバフで援護する戦法のようですね。この戦い方は非常に有効な戦法なので見ているプレイヤーの皆さんも是非参考にして下さい」
「おおっと、苦戦しているものの、その戦法にはディレクターは大絶賛です」
当たり前にようにフレンドリファイアがあるこのゲームでは確かに誤射をしないように立ち回るのは基本だよな。
マトモな集団戦闘は沼猪を狩った時とライノスと戦った時だけだが、それぞれが明確に自分の仕事を理解して動かないとあっという間に瓦解しちまう。
あの二人はそれがちゃんとわかってるから、二人で攻めたほうが火力が出るのにあえてああいう戦い方をしてるんだな。
「射線が通るのを待つくらいなら、動きを鈍らせてきなこさんの攻撃命中率を上げたほうがDPS上は数値が上がるとみてのサポート集中か」
「だと思います、実際あそこまで割り切ってしまえば行動が単純化してミスも減りますし」
「…………」
「? どうしました?」
「いや……ほんとにガチプレイヤーなんだなぁと」
あつしのように、仕事の依頼ではじめて触る、悪言い方で客寄せパンダ的な有名人プレイヤーって多いからな。
せっかくの公式プレイヤーなら、ゲーマーとしては仕事を離れてプライベートでも自分の好きなゲームをガッツリ楽しんでくれてると自然と応援したくなるってもんだ。
「言いたいことはなんとなく判りますよ。でも、私はゲームオタクが高じて声優になったようなものですからね」
「ああ、それはなんとなくわかります。俺もゲーム好きで大会優勝をきっかけにリバークレイにスカウトされて入社しましたから。今は理由があって退社してフリーですけど、こうして仕事させてもらってます」
「あら、ご同輩さんでしたか」
「みたいですね」
と、話している間に戦況が動いてたな。
「おおっとぉ! きなこもちさんの反撃が華麗に刺さる刺さる!」
「戦闘中にサラマンダーの動きを覚えたようですね。アレはカウンタースタンスという反撃系のスキルですね。的確に相手の攻撃を見切らなければ相打ちになってダメージを食らってしまう高等技です。カウンターはキレイに決まれば大ダメージを与えられるので、ああいった体力の高いモンスターにも有効な対策手段ですよ」
「なるほど、流石公式プレイヤー! レベルだけではない、テクニックも兼ね備えているという事を見せつけてくれます!」
ライノスの時に俺もやったけど、自力でダメージを与えられない相手にはアレが一番有効なんだよな。
でも、目の前を底冷えするような一撃がかすめていく状況はかなり心臓に悪い。
失敗すると相打ちって言ってるけど、実際相打ちになると受けるダメージはこっちのほうが遥かにデカイから、実質一方的にぶっ飛ばされると思ったほうがいい。
そういう意味ではハイリスクハイリターンの高等技だよなぁ。
「倒したぁーーー! 弱った所をスレインさんのバインド技によって拘束され、身動きを取れなくなった所にきなこもちさんのトドメの一撃! 即席とは思えない息の合った連携でついに勝利です!」
動画コメントも「スゲェ」や「マジか」で埋め尽くされている。
これは公式プレイヤーの面目躍如って感じじゃないか?
「ああ、しんどーーーー!」
「おつかれさま」
「ほんとにお疲れだよ! 強さは大したことないけど、いくら何でもタフすぎ」
「アレ、パーティ戦闘用のモンスターらしいぞ?」
「そんなことだろうと思ったよ! ステータスと体力のバランスがちっとも取れてなかったもの!」
どうやら本気でお疲れのようだ。
どっかりと腰を下ろしたと思ったらそのまま後ろに倒れ込んでしまった。
「見事な戦いを見せてくれた二人に喝采を! そしてまだまだ戦いは終わっていない! 次の戦いは何人で行うのでしょうか!?」
今度は二人組の内の剣士がサイコロを転がした。
割と皆率先して転がすのな。
俺の場合つい他の人に任せたくなっちまうぜ。
「さぁ、今回の数字は……6です! 今までで最高数ですね。これで有利に戦えると思った公式プレイヤーの皆さん。そんな甘い話はございません! 人数が増えれば当然難易度が上がります。チョイスされるモンスターも最強クラスです!」
「おい!? 聞いてないんですけど!?」
抗議の声はサイコロを振った当の本人だ。
というか俺も聞いてないんだけど……
「ちなみに一戦目も、相当な難易度ですよ? SADさん達が強すぎてモンスターが霞んでましたけど、集団戦を得意とするブラックウルフ5体を相手取ると、同レベル5人では手も足も出ない難易度なんです」
「ぐ……そう言われると……まぁ」
「というわけで不正はなかった! さぁ、メンバーの選出をお願いします!」
さて、どうしたものか?
「俺達、4人揃って出たいので今回立候補します」
「そうですね。残り二人はどうしましょうか? 俺たち二人組なんで2チームで6人でもいいし残りのお二人でも区切れるのでこちらとしてはどっちでも大丈夫ですが……」
そうだな。4人が確定となると、残りはどっちの組み合わせでもハッキリ割れる。
個人的には今回混ざっておきたいところだけど、二人しか残らないなら次は残り二人を含めた再抽選ってことになるだろうし、そこまで拘る必要もない。
「なら、じゃんけんで良いんじゃないかしら? 私と、そちらのお二人のどちらかでジャンケンして、負けたほうが今回参加ということで」
「なら、俺がジャンケンします」
なんかほんとに皆グイグイ行くな。
俺が日和見主義過ぎるのか? あの積極性を見習うべきなの?
「「じゃーんけん、ぽん」」
「俺達の負けなんで今回は俺達が出ますね」
「はーい。頑張ってね」
じゃんけんはチェリーさんの勝ち。つまり俺も次回参加組だ。
次のサイコロで2とか引かない限りはまぁ問題ないはず。
「公式プレイヤー軍の出場者が確定したようです! まずあちらの四人ですが、鉄平、ゆっきー、コータ、アスターといえば知っている人は多いのではないでしょうか? 有名ゲーム実況『気分に任せて』ではじまる動画で有名な四人です。NEW WORLDでの公式実況配信の打診をお願いした所快く引き受けてくださいました!」
おおぅ、視聴者コメントが一気に増えた。
この反応を見るとほんとに人気なんだろうな。
最近ゲームそのものから離れてたからゲーム実況とかも殆ど見てなかったから、いまいち判らないんだよな。
「残る二人、剣士のカインさんとヒーラーのハンペンさんはテストサーバにおける外部テスター枠で参加してくださっているお二人です。元々は生産型プレイヤーとして参加していただいたのですが、今では戦闘にも手を出すオールラウンダーなプレイヤーです!」
へぇ、生産もやってるのか。
皆なにかに特化してると思ってたんだが、両方に手を出す人も居るんだな。
って、自分で家立てようとしている俺の言えたことじゃないが。
「そして、そんな6人に対して視聴者の選んだモンスターは……ルビースケイル! 知る人ぞ知るオープンβテスト最強モンスターです! オープンβ時は引き連れるフレイムリザードを隔離して倒すのがスタンダードでしたが、今回は闘技場。雑魚とボスの分離はできません! この難局を6人はどう凌ぐのでしょうか!?」
お供付き……所謂グループボスとか群ボスとかいうタイプか。
お供の数は2匹と少ないが、数が少ない場合、大抵は一匹一匹がかなり強いんだよな。
数が多ければ多いで単体では大して強くはなくても、効果力の範囲攻撃でで焼けないと数の暴力であっという間に体力溶かされるんだけど。
「フレイムリザードの一匹はこちらで引き受けます。こいつはαにも居るんで対処法は判ってますから、手早く片付けてそちらに合流します」
「お願いします! 俺達はルビースケイルを隔離してもギリギリだったので、お供付きだと長く持ちません。なんとか早めに合流お願いします」
「了解!」
へぇ、フレイムリザードってテストサーバにも居るのか。火山地帯とか長居はしたくないけど、ちょっとだけ行ってみたいな。
観光的な意味で。
「さぁ、βテスト最強モンスターとの戦いですが、彼らの戦いはディレクター的にはいかがでしょうか!?」
「フレイムリザードは体力が高い上に、攻撃すると燃える体液が飛び散ってダメージをばらまきます。反撃を対処しつついかに素早く倒してルビースケイルを孤立させるかが重要なんですが、カインさんとハンペンさんの動きは素晴らしいですね」
二人組はフレイムリザードの吐くブレス……というか溶岩? を回避しながら一瞬で距離を詰め、一撃を入れ、体液が飛び散る前に直ぐ様退避。
理想的な一撃離脱だ。
軽い攻撃は気にせず、危険な攻撃にのみ反応している。
徹底的な効率主義だな。
相方のヒーラーもその行動が理解できているせいか、こまめで確実な回復魔法に完全集中している感じだ。
回復が必要ないと見るや初歩的な氷の魔法を打ち込んでいる。
回復に専念するくらいなら少しでも打撃を加え早く倒すことで自分の回復魔法の負担を減らすといった目的か。
ペアで戦い続けてきたというだけあって、かなり互いの持ち味を理解した戦いに慣れている。
俺にはまだ真似できない戦い方だ。
「おおっと、カイン、ハンペンの両名が早くもフレイムリザードを撃破! これには視聴者コメントも大盛り上がりだ! テスターとしての実力を見せつけているぞ!」
「でも、鉄平さん達も凄いですよ。ルビースケイルとフレイムリザードを4人で良く凌いでいます。本来ルビースケイルと闘うのに運営の想定したな推奨戦力はLV3昇格直後のプレイヤー12人以上です。それを苦戦しているとは言え4人で凌いでいるというのはなかなか出来ませんよ?」
コメントのほうも煽るコメントも多いが、実際に戦った事があるプレイヤーも居るのか、擁護コメントもチラホラ見られる。
実際、かなり良い連携が取れてるように見える。
「おおっと、普段はおちゃらけムードのゲームプレイが持ち味の『気分に任せて』チームですが、今日にに限っては本気プレイでしょうか!? 抜群のチームワークでルビーリザードの猛攻を凌いでいます!」
「いや、マジで気を抜くと死ぬんですって! ……うぉっ、アブねぇ!?」
「実況に突っ込み入れる程度には余裕があるようです! その調子で是非頑張ってもらいたいものです」
「うおおお、簡単に言いやがってぇぇぇ!」
ああやって、いちいち反応返すところは何だかんだでエンターテイナーだなぁ。
「いや、でも実際よく凌いでると思うぜ。あの鉄平って人、かなりこのゲームのタンクに必要なプレイヤースキルを兼ね備えてる」
「あのヒーラーも回復を最低限に抑えて持久戦の構えでやってるな。ペース配分にちゃんと気を配ってる」
SADやロイたちにも好評のようだ。
色々なゲーム実況配信をやってるだけあって、ゲームそのものへの慣れ的な物があるのかも知れないな。
βはガチでやったって言ってたけど、ただ遊んでるだけじゃなく戦術なんかもちゃんと考えてやってそうな動きだ。
カインとハンペンの二人が合流すると、即座にもう一匹のフレイムリザードを文字通り処理。
途中、ルビースケイルのブレスを避け損なったアスターが戦闘不能になってしまったが、無事撃破に成功した。
たった6人でフルコンディションのルビースケイル撃破ということで動画コメントよりもゲーム内の会場のほうが盛り上がっていた。
彼らの知る最強モンスターの撃破となると、やっぱり実際にプレイしていた人の反応のほうがでかいか。
「なんとぉー! これは無理かと思われていたルビースケイルですが、まさかの撃破を成し遂げました!コレは大金星なんじゃないでしょうか!?」
「いや、実際凄いですよ。良い戦いになるとは思っていましたが、僕もまさか倒せるとは思っていませんでした」
「おおっとぉ、勝てない前提のモンスターを投入するとか、それで良いのかディレクター!?」
「ええ、まぁ他にも選択肢はありましたから、選んだのは視聴者の皆さんですよね?」
「汚い! これが大人の汚さです! しかし、これだけの結果を出してくれたんですから、報酬にちょっとくらい色をつけても良いんじゃないんですか?」
「えぇ……? まぁ、そうですねぇ…… 実際良いもの見せていただきましたし……ええ、判りました! 本当に段取りにないんで、何をとは今は言えませんが後日報酬アイテムに追加報酬を加えようと思います!」
ああ、ネトゲ生放送でのお約束のやつだな。
かならずある茶番劇的なやつだ。
まさか、もらう側ではなく渡す側の視点でこれを見ることになるとは……
「しかし戦いはまだ続きます! ラストの第四戦! 公式プレイヤー軍はサイコロを振って下さい!」
さて、次は俺らの出番か。
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