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二章

四十二話 旅立ち?Ⅰ

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「村を離れるだぁ?」
「ええ、村も落ち着いたようなので二週間ほどエリスとハティと俺とでこの辺りを見て回ろうと思って」

 あの襲撃事件から数日。
 村はいつもの様子を取り戻しつつあった。
 大規模な襲撃で、割と洒落にならないモンスターなんかも現れたりしたが、実際の被害は実はそれほど出ていなかった。
 野犬の群れは村の外でほとんど食い止められていたし、大怪我した人が何人か出たが幸いな事に死者は出なかったのだ。
 破損したのも入口近くの家が飛び込んできた野犬にぶつけられて柱が曲がったのと、村の北側の壁が一部破壊された程度だった。
 幸いなことに村の中央を流れる川よりも北側に住んでいたのは新入りの俺とアラマキさんだけで、二人共の家は壊れた壁から離れていたのでバジリコックやアーマードレイクが暴れても倒壊する家なんかは特になかった訳だ。
 なので、俺はログインしてきたアラマキさんと壁の補修用の木材厚めを手伝った程度だった。

 そして、完全に村が落ち着いたのを見計らって俺は村長を訪ねた。
 少しの間留守に村を留守にする必要があったたので、その報告のためだ。

「お前達を村に縛り付けるつもりはないし別にそれは構わないが、三週後に都から迎えが来るのは理解してるな?」
「ええ、なので余裕を持って二週間前後で戻ってくるつもりです」

 流石に王様からの誘いをブッチする訳にはいかないからな。
 俺たちの今後の活動を考えると、こっちとしても王様の案には乗っておきたいのだ。

「ガーヴはこの事を知ってるのか?」
「ええ、確認はもうとってます。エリスと仲のいいサリちゃんにはベソかかれましたけど」
「そりゃお前が悪い。友達取り上げられたらそりゃ泣かれるだろ」
「ええ、まぁエリスに説得してもらってなんとか納得してもらいました」

 俺たちが村を出ていくと勘違いして泣かれちまったんだよな。
 二週間ほどで帰ってくるって何度も説明してやっと理解はしてもらえたけど、あのふくれっ面は絶対に納得してないな。
 あまり子供を敵に回したくはないんだけどなぁ。

「わかった。先月大量だった分、今月の狩りは数名で行おうと思っていたしな。本来ならお前らに技術を仕込もうかと思っていたが……他にやりたいことが出来たのなら仕方あるまい」
「ホントすいません。狩りの技術なんかを教えてほしいと頼んだのは俺の方なのに」

 正直これについては俺も本気で惜しいと思っている。
 空腹まで丁寧に再現してくれやがるこの世界で暮らす以上、狩りの技術は冒険とかなんかよりも遥かに生死に直結する重要な技術だからな。
 教えてくれる人がいるうちに必要最低限の技術は身につけておきたいのだ。
 ただ、今回の要件はあれはあれで俺の生活に関わるものだからなぁ。
 主に銭的な意味で。

「気にするな。狩りなんぞ必要にかられれば嫌になるほどすることになるんだ。お前やハティには村を守ってもらった恩もある。やりたいことを見つけたのならそれを優先すればいい」
「助かります」

 こうして村長達に村を離れる許可を取ったのには当然理由がある。
 先日、今までは完全に沈黙していたメーラーに運営からのメールが届いたからだ。


   ◇◇◇


「何だこのアラート? 何かの通知か?」

 突如聞こえてきたアラート音に久々にシステムウィンドウを開いてみる。
 ……そういえば、ネトゲなのにステータスやシステムウィンドウを全く使ってないな。
 本来ならこの手のゲームでかなり頻繁に使われるであろう装備ウィンドウだが、このゲームでは装備とかは自分で普通に身に着けるもので、装備ウィンドウはあくまで今身に着けているものを確認する程度のものでしか無い。
 なので、一目見ればわかるものをいちいちウィンドウ開いて確認することもないんだよな。
 俺自身、スキルの確認以外でコンソールを全く使ってないことに今更気がついた。
 手持ちのアイテムが増えればアイテムウィンドウなんかは役に立つかもしれんけど、今はカバン覗けば全部見えるし、各種ウィンドウの価値がかなり低い気がする。
 って、そんなことよりもだ。
 
「結局、この音はなんの通知なんだ……と」

 ステータスや装備、システムウィンドウ等思いつく所を全て開いてみたがどこにもそれらしい物はない。
 一体何がペコポンペコポン鳴ってるんだ……?
 開けるウィンドウは全備見てみたし、コレ以外となるとゲーム外の筐体用のジェネラルメニューか?

 メインコンソールを探してみた結果案の定だ。
 というかコレはメールアイコンか?
 でも、俺の筐体はセキュリティの問題でメーラーは封鎖してるんじゃなかったのか?
 とりあえず開いてみればわかるか。

「えぇと……メールが、2通?」

 メールの内容は簡単にまとめるとこうだ。

 3日後正式サービス開始と同時に大規模なセレモニーを開く。
 その際に開発トークイベント等が企画されておりそこで公式プレイヤーの紹介も行う。
 トークイベントは公式プレイヤーの内、声優やプロゲーマーに任せ、テスターにはエキシビジョンマッチを頼みたいという事。
 その後10日~20日程集中的にログインして一般プレイヤーに混ざってプレイして欲しい。

 これが一通目の内容。
 要するに公式テスター向けに送られた、所謂お仕事案内だ。

 そしてもう一通。
 こっちは俺個人宛の内容だった。

 内容は明かせないが、俺のアカウント周辺で想定外の問題が幾つか起こっているという事。
 ログを確認しても原因が突き止められず、緊急措置としてエリスとハティのデータを正式版の本サーバにコンバートしてデータの確認をしたいという事。
 隔離や拘束等をする事はないので、公式プレイヤーとして普通に正式版をプレイしてもらって問題ないということ。
 その他緊急案件故の特別手当とかそういった類の説明がどっさりと……といった感じだ。

 まぁ要するに、セレモニーに合わせて俺のアカウントやハティのデータの精査をさせてくれという訳だ。
 そのついでに公式プレイヤーとして活動してほしいと。
 まぁ、公式プレイヤーとしての活動はテスターとしてのものとは別にお給金が出ると説明は受けているので、入院費とかで貯金が心もとない俺にとっては渡りに船でも有るし、最初から引き受けるつもりだったから問題ない。
 俺のアカウント周辺での問題というのはよく判らんが、明かせないとハッキリ書かれているということは技術的なものかなにかの守秘義務にでも抵触するんだろう。
 そこを突っ込んでも仕方ないし、今はそういうものだと理解だけしておけばいい。

 俺としても、ゲームの世界の中で24時間過ごすしか無い現状、ほとんど俺の身体と言っても過言ではないこのキアバターにバグが出るとかは本気で勘弁してほしいので精査してくれるというのなら願ったり叶ったりだ。
 
「とりあえず俺は参加するとして、ハティとエリスに確認とるか」


  ◇◇◇


 という訳で、二つ返事で……というよりも何が何でも絶対参加をするとノリノリの一人と一匹の了承によってしばらくは本サーバ側で活動する為に、失踪を誤魔化すアリバイ作りに勤しんでいたというわけだ。
 なんせ、データコンバートという仕様上こちらのサーバから俺達三人が忽然と姿を消すことになるからな。
 正直に理由を伝える訳にはいかない以上、理由をつけて人の目の届かないところに行っているということにする必要があるわけだ。
 ミーティングの時のように1日やそこらなら問題ないのだが、今回のように長期となるとそれなりの理由を用意しなければならない。
 アラマキさんは普段から森の中に住んでいるような感じで説明しており、村にいる時間のほうが少ない。
 ログイン時間が限られているから仕方ないのだが、上手く理由を用意したもんだ。

 そして、村長と後見人みたいな立ち位置になっているガーヴさんの二人から了承を取ることに成功し、ようやく準備が整ったというわけだ。
 二週間の旅に出るとはいえ、実際は別サーバへ移動するだけだし、テストと違いサーバ間でアイテムの移動はゲームバランスの維持の問題からも不可能との事で特に荷造りの準備も特に必要ない。
 一応旅装束として村長からマントを譲ってもらい、初期装備だったトラベルバッグも背負ってきているが、これらのアイテムはサーバ間移動している際はアバター情報と一緒に保存されるそうだ。
 要するに2キャラは同時起動は出来ませんよ、という事らしい。
 そもそも、モニターゲームと違い主観操作のこのタイプのゲームで複数キャラの同時仕様とか自動化ツールでも使わない限り無理だと思うが……
 それと、この鯖と本鯖のアバターデータはステータスを共有するだけの別キャラ扱いで、アイテム、所持金といったものは勿論のこと、こちらの鯖では可能なことでも正式版で機能制限されている機能は当然使用不可になるとの事。
 ……なのだが、それでどういった影響が出るのか検証が行えていない為、俺のアバターのみ限定解除されており、検証が進み次第順次機能を落としていくのだそうだ。
 といっても、あくまでリアリティ高すぎなアバターの構造によるものなので、機能を制限していったとしてもゲーム中のパラメータに変動が起きることはないらしい。
 むしろ、あっちの鯖でも便意とか来たらシャレにならんからさっさと検証して機能制限していって欲しいところだ。
 痛覚に関しては前回のテストの時はかなり「遠く」感じたし、変わっていないようならそこまで困ることもないだろう。
 少なくとも痛みでうずくまるような事態には陥らないはず。

「さて、この辺りでいいか。エリス、外に人影はあるか?」
「ううん。誰も居ないよ」
「よし。ならここで良いな」

 というわけで、事前に必要な準備を全て整えた俺達は村から少し離れた山間の洞窟にやってきた。
 流石に信用できるとはいえ村人達にもサーバ移動用のポータルをを見せる訳にはいかないからだ。

 サーバ間移動については前回のミーティングの際に移動用ポータル作成アイテムを受け取っている。
 というか、本来ならログイン時にサーバ選択すればいいのだが、俺がログアウト出来ない(ログアウトしてしまうと自力で再ログインできない為、誤爆防止にログアウトボタンがロックされている)という特殊な状況であるため専用のサーバ移動用ツールをアイテム化してくれたらしい。
 前回はアラマキさんが使い捨てアイテムとして使ってくれたそれを、ミーティングから帰る際に未消耗のユニークアイテムとして渡してくれたのだ。

「さて、それじゃ行こうか。」
「うん!」
「ウォン!」
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