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一章

四十一話 誘い

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 村の確認をしつつ我が家を目指しているわけだが、同行する王様はソレはもう饒舌だった。
 余程ストレスが溜まっていたんだろう。
 俺の家に到着し、腰を落ち着けても王様はちっとも落ち着かなかった。
 寧ろ加速し、壮絶な愚痴量産機と化していた。

 偉そうな口調もどこかへ飛んでいってしまい、目の前にいるのは王様というより殆どただのおっさんである。
 結果俺の対応も近所のおっさん相応に成り果てるわけで……

「しかし、お前はなかなか見どころがあるな! 大抵俺が王であると明かせば、途端に畏まるか信用しないかのどちらかなんだが、お前はすんなりと受け入れた上で態度を全く変えようとしない」
「いや、アンタがノリ悪いと空気重くなるだけとか言ったんじゃねぇっすか。 丁寧な言葉遣いで接しろって言うならそうするけど? 使い慣れてないからかなりいい加減になると思うけど」
「いや、いい! 普段から肩肘張った態度なぞとっても疲れるだけだし、一言一言に気を使われてはこちらも喋りにくくて叶わぬ。知ってるか? 己の城で王として振る舞う場合、自分のことを『余』とか言うのだぞ? 俺を王だと知った上で『アンタ』などと気安く話しかけてくれる奴がどれだけ貴重なことか……!」
「まぁ、そうだろうとは思ったけど」

 以前俺の上司だった人がまさにこんな感じだったからだ。
 ただ、性格の方は豪放磊落なこの人とは真逆で「俺は上に立つような人間じゃない。丁寧な言葉で接されるとむず痒くなるからやめてくれ」という自身の無さからくる感じだったが。

「形式だの格式だのは城の中でだけ気にすれば良いのだ。プライベートな時間くらい楽に過ごさせろというのだ!」
「王様ってストレスとか結構凄そうだしなぁ。息抜きできる時はしたくなるか」
「わかってくれるか! いやぁ、ホントお前は話がわかるな! 大体だな、俺は王になぞなりたくはなかったのだ。それをあの馬鹿兄が……!」

 なんでも王様自身は本来継承権の順位はそこまで高くなく、本人も王になることなど考えもせず騎士団に入るつもりだったらしい。
 本当は傭兵をやりたかったようだが、王族が傭兵になることなど流石に許しが出るはずもなく、であればということで騎士団に入り浸り剣の腕を鍛え続けていたんだそうな。
 しかし、何に焦ったのか継承権一位の長兄が軍働きの戦果を欲して自ら出陣。
 周囲の反対を押し切って前線に顔を出した挙げ句、雑兵に討ち取られてしまった。

 ソレを好機と見たのが次男坊。
 諦めていた王位が何もしないうちに手元に転がり込んできたのだ。
 そこで堅実に次期王としてどっしり構えていればよかったのに、何をトチ狂ったのか兄を殺した敵国へ遠征を仕掛けてしまった。
 おそらく、棚ぼたではなく、自ら王位を勝ち取ったとして長兄を殺した国を倒すことで民衆の支持を集めようとしたんだろうとのことだ。
 そんな事に頭が回るほど知恵はつけていないボンボンだったので、第二王子を擁立する貴族に吹き込まれたらしい。
 だが、長男ほど厳しく教育を受けたわけではなく王族であるだけのボンボンが軍を指揮など出来るわけもない。
 で、結局見事なまでに返り討ち。
 国軍はそのの3割を失い潰走。
 そして反撃によって国土の一部を切り取られるという大失態まで犯してしまう。
 そもそも無茶な進軍による疲弊から現地徴発がかなり酷かったらしく、自国軍から略奪まがいの徴発をされたうえに巻き込まれる形で反攻戦によって侵略を受け市民感情は最悪。
 しかも無茶な徴発とよって武器や食料、私兵団まで奪われてしまった土地の貴族自衛すら出来ず敗走する羽目になったがその貴族家はなんと第二王子支持はであったにもかかわらず王子の失態を有耶無耶にするため国土を奪われた責任を取らされ処刑。
 軍を置き去りに逃げ帰った第二王子は生き延びることには成功したが、結局処刑された貴族の領民から反逆に遭い、最後はその貴族の息子等の手によって暗殺されてしまったらしい。

 元々仲が良かった3男と4男は二人の兄の失態を見て国の内側を立て直し力を蓄えるべく協力して動き始めるのだが、4男を擁立する貴族が暴走。
 功を焦り、勝手に3男を暗殺してしまい3男を支持する貴族と4男を支持する貴族で真っ二つに国を割ってしまう。
 結果、国は荒れ泥沼の政争の果てに4男も暗殺されてしまい、最後に残った男系の王族が妾腹だった自分と一つ上の兄だけになってしまったのだという。

 仕方なく繰り上がりで継承権最上位になってしまった兄を次期王として擁立し、後の調べによって4人の兄の死因全てに貴族が絡んでいたことを理由に、関わりのあった貴族を国政から全て排除。
 想像以上に貴族の腐敗が進んでおり、排除した結果国政の継続が困難なほどの人手不足に直面。
 思い切って実力のある平民も取り立て、反発する貴族達を正論でねじ伏せ完全実力主義的な国家運営に切り替えた。
 そして年老いた父の退位によって兄を新王として頂くはずだった。
 しかし――

「彼奴等グルだったんだよ! 戴冠式の時に何故か兄と並んで王座の前の呼ばれた時に何かおかしいと思っていたんだ。兄貴のやつ、事もあろうに王座の前で『ここまで国を立て直したのは私ではなく弟の功績によるものが大きい』だなどと言いおって、親父も親父で、何が『ウム、その方の意思確かに確認した』だよ! 俺の意思は全く確認されてなかっただろうに!」
 
 結局、兄と父親に仕組まれ、本人の意志とは関係なく王として祭り上げられてしまったらしい。
 困ったことに応急に引っ込んで政務にかかりきりだった兄よりも、表立って活動していたこの人の方が民衆からの支持が非常に高く、うかつに『やっぱなし』とできる空気でもなく不承不承王様をやってるらしい。

 一応ここは外で、他の人の耳目なんかも有るんだがここまでぶっちゃけちまって大丈夫なんだろうか?
 王様というより飲み屋で愚痴る酔っぱらいおっさんみたいだ。
 ただまぁ、その気持ちは俺もよく分かる。

 王様に比べればかなりミニマムなスケールだが、オレ個人は作業員としてテストプレイヤー枠で入社したのに何故か上長にされ、やりたくもない報告会だのブレストなんかに引っ張り出されまくった事がある。
 お偉いさんの前に出ての報告会とかやたら疲れるんだよな、精神的に。
 しかもそのせいでやりたかった仕事が全く進まず、やりたくもない資料集めやら予算組みばかりやらされ、ゲームプレイばかりしている同時期に入社した部下と比べられて作業進展が遅いとか言われるのだ。
 ストレスも溜まるってものだろう。
 部長や社長とかの重役ではなく、ただの一上長の立場でアレだから、王として国の重鎮とかそういった連中を相手にするのは相当面倒臭そうだと言うことくらいはなんとなくわかる。

「はー、久々に溜まっていた愚痴を吐き出したら大分スッキリしたわ」
「いやまぁ、多少なら愚痴聞きくらいしても構わんけど、ウチまで来た理由ってもしかしてソレなの?」

 リアルのように定時の仕事があるわけでもないし、時間にかなり余裕があるから話の聞き手になるくらいなら別に構わないが、王様の愚痴とか聞かされても雲の上の出来事過ぎて正直上手い返しはできんぞ。

「まぁ、半分くらいはソレが理由だが……ふむ、そうだな」
「えぇ……?」

 半分くらいとか、想像以上に愚痴聞きの比重が大きい……
 愚痴聞きレベルの内容で、国王が俺とサシで話し合うべき内容って一体何だ? 

「まぁ、お前なら大丈夫だろう。ここは腹を割って話そうか」
「勿体つけるなぁ。一体何を聞きたいんすか?」
「ズバリ聞くが、お前この世界の住人ではないな?」
「………………あ?」

 ――今なんつった?
 この世界の住人じゃない……つまりプレイヤーであることを見抜かれた?
 何で? 何時そんなきっかけを与えた?
 わざわざ周囲から隔離して一対一で会話を求めてきたんだ。
 集会所を出るときには既に確信していたはず。
 だが、出会ってからまだそこまで情報を与えるような会話してなかった筈だぞ。

「何故、そう思ったんすか? 普通自分の顔を知らない村人が居るからって異世界人だとか思うやつは居ないだでしょ?」
「言動と気配……だな。先に種を明かしてしまうと、実はお前とは別に『プレイヤー』を名乗る異世界人と面識があるのだ」
「ああ、なるほど……」

 確定だな。
 異世界人というのはあるいは物語から想像したとかで片付けられるが、プレイヤーなんてピンポイントな用語で言い当てられれば話は別だ。
 そして、そのプレイヤーが同じ日本人であれば、所作から俺が同類だと見抜かれたとしても不思議ではないか。

「なるほど、それで俺がプレイヤーと呼ばれる者たちの一人だとして、ソレを知ってどうするんすか?」
「なに、少し頼まれ事があるのだ」
「頼まれごと?」

 王様が直々に?
 なにかヤバイことに首突っ込んでんじゃないだろうな?

「なんでもプレイヤー達はそれぞれが大きく離れた地に居るそうじゃないか。それで、他のプレイヤーにあってみたいからもし別の土地で見かけたら声をかけて欲しいとな」

 そうでもなかった。
 ただの声かけ役かよ!

「おいおい、いくらフットワークが軽いとは言え王様をメッセンジャー代わりにするとかスゲェことすんなソイツ」
「で、あろう? だから気に入ったのだ。それになかなか筋も良いので俺が直々に鍛えつつ相談役として近くに置いておるのだ」
「ナルホド、たしかにアンタが気に入りそうなタイプだ」
「別にお前を我が国に取り込んでどうこうするつもりはないさ。あ奴に顔を見せてやってくれればそれで良い」

 他のプレイヤーか。
 ミーティングに来てた人の一人だろうか?
 何にせよアラマキさん以外のプレイヤーともコッチで会ってみたいとは思ってはいたからな。
 この機に顔をだすのも悪くないかも知れない。
 村の外に出て別の大きな街へ、とか実にRPGっぽいしな。

「それくらいならまぁ構わないかな。俺も他のプレイヤーがこっちではどう過ごしているのか気になっていたんだ」
「であれば、一月ほど先に我が国の建国祭が都で開かれるから、その時に訪ねてきてくれ」
「それは構わないけれど、俺こっちに来たばかりでこの辺りの地理が全くわからないんだけど」
「建国祭には街や村の代表者も訪れる。当然シギンも出席するであろうから、便乗して来ればよいだろう」
「なるほど」

 確かに顔を出すには良い理由になるな。
 祭りとか単純に気になるしな。

「ところで俺たちの……異世界人の存在って結構知られてる?」
「どうであろうな? 俺はお前が二人目だが、異世界人が居るという前提でなければ気付くことはできんだろう。最初の一人は俺の知らぬ言葉を繰り返し使ったから不自然に思い問い詰めたらあっさり白状したが……」

 迂闊過ぎるだろ。
 大丈夫なのかソイツ。危機管理的な意味で。
 ……といっても所詮はゲームの中での出来事だから、そこまで深く考えて行動したりしないか。
 俺みたいに、ゲームの中で痛みなんかを感じる訳でもないし。
 ミーティングの時も感じてたけど、なんか状況が特殊すぎて俺だけ全く別のゲームやってるみたいな感じなんだよなぁ。

「少なくとも他所で異世界人やプレイヤーと思われる噂というのは聞いたことがないな。接触した上で隠しているという可能性はあるがな。俺の様にな」
「あら、俺達みたいなのを探し回ってるわけじゃないのか?」
「今回は偶然それらしい者を見つけたから声をかけただけだ。積極的に探し回っているわけではないな。我が国でも知っている者は俺を含めて3人だけだ。貴族共に知られれば政治的に担ごうとする馬鹿が出るとも限らんからな」
「あぁ、なんかありそうだなぁそれ」
「正直、お前もあ奴も何というか筋の良さはひと目見てわかったが、ソレだけで国の切り札として担ぎ上げるほどの魅力があるかと言えば……」
「まぁ、そうだろうなぁ」

 RPGなんかでは基本主人公は他を圧倒する戦闘力で悪者をなぎ倒していくのが王道だ。
 だが、ぶっちゃけこの村の中だけで見ても俺よりもガーヴさんのほうが強いし、多分王様はそれ以上に強い。
 つまり、レベルの上がりきってない俺の強さなんてそこらの兵士と大差ないと言うことだ。
 『異世界から来た』という希少性はあったとしても『だから何?』と返されればなんの価値もないわけだ。

「いや、お前の場合はそうでもないな?」
「んん? 何かあったっけ?」
「月狼だよ、月狼。なんであんな化物を使役することが出来る? 月狼は群において力を示した群の長に絶対服従する種族特性があるはずだが、あれはどう考えてもお前や背中に乗せていた娘よりも強いだろ」

 そういや野獣使いもそんな事言ってたな。
 自分たちの中で一番強いやつにしか従わんとかなんとか。
 でもハティって明らかに俺より強いんだよなぁ。
 俺が手も足も出なかったライノスやアーマードレイクを余裕で蹴散らしてたし。
 ライノスにやられかけた所をハティに助けられてるから、俺の強さを自分より強いと勘違いしているってことも無さそうだし。

「そう言われてもなぁ……俺にだって理由は判らんし、出会った時にすぐ懐かれたからな。月狼っていう種族を知ったのもその後だし」
「そもそもあんな化物と、どういう状況で出くわしたというのだ……」
「自宅に便所を作り忘れて、夜に裏の森で野糞していたら鉢合わせになった」
「……」

 そんな目でみんなよ……

「事実なんだから仕方ないだろ! 野糞中に目の前に現れたときには既に懐かれてて、そのまま背中に載せられて村長の家に向かったんだから!」
「……それは、さぞかし騒ぎになったんじゃないか?」
「村長とかハティを初めて見せたときは顔がひきつってたな」
「で、あろうよ。月狼というのは群れれば竜すら狩る化物だからな」

 確か北の山脈の王者だっけ?
 竜も住む北の山脈で王者として君臨するとかなんとか。
 これも村長に聞いたんだっけか。

「お前も大概だが、あの月狼の背に乗っていた娘も相当な常識はずれだぞ? そもそもアレの背中に乗るなど自殺行為に他ならん。月狼に限らずあの手の獣は身体に触れられることを極端に嫌うからな」
「そうは言うが、さっきも言ったとおりハティに出会って最初に取ってきたアクションが『背中に乗れ』だったからなぁ。他の月狼は知らんけどハティは背中に人乗せるのが好きなんじゃねーの?」
「揃いも揃って常識の通じん奴らめ……」
「世の中を知らんからなぁ、俺ら」
「そこで開き直るのはどうなんだ?」

 知らんね。
 文句ならマニュアルもよこさずこの世界に放り込んだ運営に言ってくれ。

「ただいまー。キョウ帰ってたんだね。」

 なんだかんだで話し込んで結構時間がたっていたらしい。
 ハティの背中に載せられてエリスが帰ってきた。
 いつの間にか日も大分高くなってるな。
 そろそろ昼飯時か。

「おう、邪魔してるぜ」
「あ、さっきのおじさん」
「おじさん……いや、確かに30過ぎればオッサンであることに間違いはないが……」

 王様は何気ないエリスの一言で動揺していた。
 漫画とかでもよくネタにされるが、そんなにオッサン呼ばわりでショック受けるもんかね?

「おかえり、ふたりとも。ハティは腹いっぱい食えたか?」
「ワフ……」

 おや、あまり元気がない。
 量はあっても不味かったのか?

「なんかねー、気持ち悪い虫がいっぱい居て途中で食べられなくなっちゃったみたい」
「あぁ……なるほど」

 ギギリと同じで、アーマードレイクもあのエグい蟲を使って操っていたのか。
 確かに身体を糞袋に変えるような寄生虫が居たら肉も不味くならぁな。

「じゃあ、ハティの分も必要だな。飯の支度するから二人共川で汚れ落としておいで」
「はーい。行こ、ハティ」
「ワフッ」

 背中にエリスを乗せたままハティはノシノシと川へ降りていく。
 ホント仲良いなあいつら。
 少々スケール感がおかしくなるが、実に微笑ましい光景だ。

「まぁ、あんな感じで大人しいやつですよ」
「実際この目にしてもにわかには信じられん光景だな」

 ここまで驚かれるとか、一体野生の月狼ってどれだけ獰猛なんだ……

「だけど、少なくともハティが安全だと言うのは理解できるだろ?」
「まぁ、あの巨大な月狼が小娘を背中に乗せる姿を実際に見せられてはな」
「なんだかんだで村のみんなにも安全だって説明してあるし、少なくともこの村では認められてるよ」

 ……と思いたい。
 村長が『認めようが認めなかろうが月狼に暴れられたら俺らにはどうしようもない』と諦めの境地に至っていたことは伝えないでおこう。
 見た目だけはほんとに怖いからな。
 慣れてしまえば精悍な顔つきと引き締まった体つきで格好良く見えるんだが。
 
「ふむ……あそこまで従順であるならいっそ都に連れてきて貰ったほうが良いかもしれんな」
「んん? どういう事ッスか?」
「考えても見よ。何も知らぬ衛兵たちが己の守る街の中で……いや街の周囲でもいいが月狼を見かけたらどうなると思う? 討伐隊を差し向けられかねんぞ?」
「あぁ、なるほど。確かに容易にその場面が想像できるな」

 街の直ぐ側を強力なモンスターが歩いていたら、兵士や傭兵なんかがワラワラ集まってきそうだ。
 新しい街に行くたびにその誤解を解くのは流石に骨が折れそうだ

「だから祭りの空気で浮ついているうちに月狼を従えてると言うのを周知させてしまうのだ。祭りの催し物の一つとしてな。今回の祭りのように何か理由があってお前達が遠出する場合、その月狼も付き従う事は明白だからな。であれば騒ぎになる前に周知させておけば、衛兵を呼ばれる機会も減るだろうよ」
「で、そうなると俺はどうすれば良いんだ?」
「祭りの際に俺の方から迎えを出そう。近衛騎士団に挟まれる形でお前達を背中に乗せて街へ入れば民衆の警戒も減るだろうし、怖いもの見たさで集まった者たちが背中に乗るお前達を見れば『コイツラと一緒にいる月狼は安全』というシンボルにもなる」

 なるほど、結構考えてるんだな。
 確かに、今後村の外に冒険に出るとしたらハティも一緒についてくることになるだろうし、いちいち姿を見られるたびに通報されるよりはここは我慢して祭りの見世物になって置いたほうが良さそうだ。

「それに、俺の知人ということで馬鹿共がお前を面倒事に巻き込みかねんが。その牽制にもなるだろうさ。月狼のそれも王個体となれば迂闊に手を出すことなど出来んからな」
「あぁ、確かに政治のゴタゴタとかには巻き込まれたくはないな」

 俺は冒険したいのであって権力が欲しいわけじゃねぇからな。
 兄弟同士、しかも本人の意志とは関係ないところで暗殺騒ぎとかの話を聞いた直後では余計に関わり合いになりたいとは思えん。

「まぁ、そういうことだ。見世物小屋の珍獣気分を味わうことになると思うが、今後のためを考えるなら大人しく了承しておけ」
「そこは理解してるよ。迎えに来た騎士団と一緒に都に向かうだけでいいんスね?」
「ああ、護衛付きの道程であれば片道7日程になる。その頃合いに迎えを寄越すから遠出の準備だけ整えておいてくれ」
「わかった。お言葉に甘えるとするよ」

 護衛に先導してもらえるなら、変に警戒せずにゆっくり道を覚えながら旅できそうだしこちらとしても有り難い。

「さて……俺の伝えたいことはこの程度だな。そろそろ俺は御暇するとしよう」
「ん? これから飯でも用意するけど、食っていかないん?」
「こう見えてそれなりに忙しいんでな。お前の飾らぬ会話が小気味よくてつい長居してしまった。そろそろ帰らんと部下たちが騒ぎ出しかねん」

 そういえば他の村に護衛のはずの部下を放ったって言ってたっけか。
 王様が長いこと帰ってこなけりゃたしかに問題になるか。
 ここは変に足止めにならないようにすべきか。

「そっか。なら次似合うのは一月後って事かね」
「うむ、楽しみに待っておるぞ。あと、周りの目がない所では良いが城の中でだけはそれなりの対応を心がけるようにな」
「承知しておりますよ、貴族の方々に悪印象を持たれたくはありませんので」
「ハッハッハ! ソレがわかっているなら良い。ではな!」

 そうして、「どっこらせ」とオッサン臭い台詞を残して立ち上がると、王様は颯爽と去っていった。
 ――さて、思いもよらぬ形で拠点移動イベントが始まったが、こっちもそれなりに準備しないとな。

 そう思いつつ、昼飯の準備をしようと立ち上がったところで聞き覚えのないアラート音が耳に入った。


――――――――――――――――

コレにてハイナ村を中心とする第一章はおしまいです。
続く第二章はこの謎のアラートから始まることになります。
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