ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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一章

三十九話 野獣使いⅣ

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「は……ぐぁ……?」

 野獣使いは自分の胸から突き出た剣の刃先を呆然と見下ろしている。
 剣は正確に背後から胸の中心をぶち抜いている。
 間違いなく致命傷だろう。

「どうし……て、……ア……ナタが……?」
「人の庭を、これだけ派手に荒らし回って気付かれぬとでも思ったのか?」

 胸から剣を引き抜かれ野獣使いはそのまま倒れ込んだ。

「馬鹿、な……、我々の傭兵団ガリエスタ……との戦争、で……征伐に……」
「フン、錬鉄傭兵団ガリエスタとの戦であればとっくに終わらせたわ。団長や幹部連中の半分以上は逃げられたがな」

 どうやら野獣使いが所属していた傭兵団が目の前の人によって壊滅したらしい。
 ……壊滅でいいよな? 話を聞いてる限り幹部の何割かを仕留めたって言ってるようなものだし。

「信じ……られま……せん、ねぇ? ……他は、ともかく…………十騎の彼ら……が敗走、するなど……」
「事実だ。受け入れよ。 ここにこうして居る事が何よりの証明であろうよ」
「……」

 そのやり取りを最後に野獣使いはついに動かなくなった。
 死んだ……か。
 これでようやく……

「小賢しいな」

 方がついたと胸をなでおろした所で、剣士の男が地面をえぐり取るほどの一撃で死体を切り裂いた。
 なんつう強烈な死体蹴り……と思った所で、真っ二つにされた死体が不自然にゆがんでいることに気がついた。

「ぐっ……は……」

 そして、巻き上げられた土と一緒に深く背中を切り裂かれた野獣使いが転がっていた。
 死体のはずがうめき声を上げて。
 さっきまで仰向けに倒れていた上に、胴体を真っ二つにされたはずの野獣使いが何故か背中に新しいを作って、何より生きている。
 死体だと思っていたモノはゴムの革のようにしぼんで落ちていた。
 これって、ニセの死体で……ようするに、変わり身の術か!?
 空蝉に土遁の術とか、野獣使いであり魔法使いであり忍者でもあったのか。
 なんて多才な……
 しかし、今のは地面をえぐり取るほどの、ではなく地面を抉ること自体が目的だったって事か。
 偽の死体を囮に、魔法で地中を掘り進んで逃げようとしていたのを読んで掘り起こしたと。
 ヤベェ、全然分からなかった……オレ一人だったら間違いなく逃げられてたな。

「そん……な」

 信じられないと言った顔で見上げていた野獣使いが、再びそのまま動かなくなった。
 今度はその首を容赦なく撥ね飛ばして、その男はようやく剣を収めた。
 さっきと似たような感じがするけど、剣を収めたってことは今度はちゃんとトドメを刺せたという確信があるんだろう。
 さっきも見えないはずの地中への逃亡を当たり前のように見破ったし、なにかそういう看破系のスキルとか魔法を持っているんだろうか。
 何にせよ、どうやらギギリを操っていたのが野獣使いである以上、今回の黒幕はここで死んだワケだしこの襲撃事件も原因部分は解決したと見ていいかな。
 想定しているかなり斜め上な展開だったし、外の野犬共の対処やいろいろな事後処理は有るだろうけど、これでようやく今回の村を襲った災厄については一段落、といった所だろうか?

「すまんな。もう少し早く来られれば良かったのだが予想以上の損害を出してしまった」

 というか誰だろうこの人。
 装備を見る限り只者じゃないってことは分かる。
 SADやそのパーティメンバーの装備もかなり強そうだったが、ああいった派手さはあまりないのに何故かひと目で「強そう」というのが伝わってくる。
 それは装備だけじゃなくて使ってるこの人もだ。
 いつの間にか野獣使いの後ろをとっていたし、何より佇まいがなんか強者の威厳的なものを感じさせるのだ。

「ええっと、味方……って事で良いのか?」
「んん?」

 え、何その意外そうな顔。
 ここで敵味方確認するのって別におかしな行動じゃないよな?

「お前、ここいらの者ではないな? 傭兵団の奴と敵対していた様なので手を出したが……」

 そこで俺に剣を向けるのかよ!?
 でも、この村を攻撃していた野獣使いと敵対していたからオレを助けた……って事はこの村にとっては味方という事で、それはつまり俺にとっても味方って事で良いんだよな?
 考え方飛躍してないよな?

「一体何者だ? そこの月狼もさき程の奴では無くお前が手綱を握っているように見えるが」

 相手の立ち位置が分からないのは向こうにとっても同じ事らしい。
 まぁ、こんなデカイ狼と一緒にいればこんな状況でなくても警戒するわな。
 ここは素直に応じておこう。
 見るからに強そうだし。
 安全策を考えるなら、ここで敵対しても何も良いことは無さそうだ。
 ……アクションRPGであれば負けイベ上等で無理矢理にでも倒しにかかる所だけどな。

「俺はキョウという。少し前からここで世話になっている。それでアンタは?」
「質問はこちらの質問に全て答えてからにして貰おうか?」

 む、ちょっとくらい答えてくれても良いだろうが。

「まぁ、コイツが俺たちの味方だというのは間違っていないよ。一緒に住んでるし俺や妹に懐いてるから、敵対的な事をしなければ危険は無い」
「月狼が危険は無い……と」
「なんか、みんな最初は同じような反応するけど、確かにガタイはデカイしぱっと見た感じ怖く見るかもしれんが、少なくともコイツは意味もなく人を襲ったりはしないよ」

 そんな凶暴なら真っ先に俺が食われてるし。
 というか、つい今し方まで村人守ってた訳だしな。

「それはお前が本来の月狼の在り方を知らないからこそ言えるのでは無いか?」

 うん?
 いやそりゃ、確かにそうだけど……

「確かに、俺はハティ以外の月狼というのを見たことが無い。だが、この村に住んでる奴らならコイツが危険じゃ無いって言ってくれる筈だよ」
「フム……」
「そんな事より、全部答えたんだから、こっちの質問にも答えて欲しいんだが?」

 コイツの言う通りに大人しく質問には全て答えたんだ。
 今度は文句言われる筋合いはないはずだ。

「よ……」

 よ?

「……俺の名はアルマナフだ。この辺りに住む者であればそれなりに名が通っているつもりであったが……」

 いや、今明らかに何か言おうとして引っ込めたろ!?
 お約束で言えば偽名かね。
 でも何故助けに来ておいて名前を偽る必要があるんだ?
 というか偽名で名を通してるってのもどうなんだそれ。
 まぁ、偽名だろうがなんだろうが俺には大して関係ないから構わんが……

「俺がここに住むようになったのはつい数日前からだし、まだこの村の人の名前も覚えきってないんだよ」

 さっきコイツの言った『ここいらのモンじゃない』ってのもあながち間違いじゃないんだよな。
 土地どころかもともと住んでいた世界自体が違うし。

「で、アルマナフ? さんは、何でこんな状態のこの村へ?」
「これは異な事を言う。こんな状態だから来たのだろうに」

 こんな状態だから?
 どう言う事だ?
 この男が火事場泥棒に手を染めるようには見えない。
 いや、ただそう言うことはしなさそうっていう雰囲気なだけで根拠は特に無いんですけどね?

 なら、どういう理由でこんな修羅場に……?
 いや、この場でいくら考えても答えは出ないか。

 この辺りで顔が効くというなら村長と引き合わせるのが一番手っ取り早そうだ。
 一番ヤバそうな野獣使いはもういない。
 アーマードレイクは……

「グルル……」

 おや、静かだと思ったらハティさん、早速お食事中でしたか。
 餌のために村を襲いに来たコイツが、逆に村にいたハティの餌になるとはなぁ。
 つか、ハティの数倍のサイズがあるけど、食い切れるのか?

 まぁ何にせよこれで、心配のタネはとりあえず取り除かれた訳だ。
 壁の補修も簡易ながら終わっているようだし、これならこの場を離れても大丈夫だろう。

「新参の俺じゃ判断できねぇ事もあるし、悪いが村長のトコへ連れてくから付いてきてくれねぇか?」
「良いだろう」

 素直にこっちの誘導に従ってくれたか。
 態度がちょっと偉そうだし、ゴネられたらどうしようかと思ったが話が通じる相手で良かった。
 確か村長達は村の集会場でギギリと一緒にいるはず……

 ハティは食事中だし、普段コイツの食事は大した量を用意してやれないし今回は邪魔しないで食わせてやりたい。
 でも、一匹で置いておくのも宜しくはないな。

「エリス。俺はこの人連れて村長に会ってくるから、飯食い終わるまでハティの様子見てやっててくれ」
「はーい」

 相変わらず良い返事である。

 それじゃ村長のところへ……って。
 そういやギギリも野獣使いが操ってるって言ってたが、その操っていた野獣使いが死んだ場合、操られていたギギリはいったいどうなるんだ?
 今までの事を全部忘れているとかだったら、唐突に我に返ったギギリが「何言ってんだコイツら?」みたいな態度をとったらほかのむらびとに袋叩きに合うんじゃ……
 まぁずっと意識があったとかだと、それはそれで自分の意思とは違う言動を繰り返す様を見せつけられ続けていた訳で、そう考えるとゾッとしないが。
 でも、程度の差はあれギギリって昔から相当な駄目人間だったみたいだし、実際のところはどうなんだろうな。

 他にも考えることはいろいろあるし歩きながら少し整理してみるか……

 ……にしても、だ。

 今回の襲撃イベント、冷静に思い返してみるゲームとしてみるとどうなんだろうな。
 結果だけ見ればクリアされてるし、問題は無いんだけど……敵側が強すぎやしなかっただろうか。
 野獣使いもかなりの強さだったし、アーマードレイクに関してはハティがいなければ詰んでいた。
 序盤の強制イベントとしてはバジリコックが大ボスで丁度いいんじゃないだろうか。
 ハティのような強力なお供イベントが発生してないプレイヤーはアーマードレイク相手にダメージが通らずに、たとえ死に戻りが出来るプレイヤーであっても最悪死んだ場所によってはリスキル地獄で文字通り詰むんじゃないのか?
 そもそもアラマキさんのような製造メインのプレイヤーはどうすれば良いんだ?
 ハティのような強力なお供がボスを撃破する前提?
 でもアラマキさん、そんなお供は連れてなかったよな?
 それとも負けイベント的に村が滅ぼされても進行するタイプのイベントとかか?
 勝っても負けてもこのアルマナフって人が現れて野獣使いを倒して進行って可能性もあるか。
 実際、俺は野獣使いを倒しきる事ができなかったけど、この人がきっちりトドメ刺したしな。
 結局は襲撃イベントとこの人の登場イベントがセットの……

 ……ぬ、イカンな。
 この世界楽しもうと考えていたはずなのに、どうにもゲーマーとしてシステマチックに考えちまう。
 実際はちゃんと勝って終わったんだしifを考えるのは兎も角、その裏まで勘ぐるのは流石に無粋か。

 というかよくよく考えると今回の戦い、俺あんま活躍してないよなぁ。
 確かに俺もバジリコック相手と、野獣使い相手に最後ちょこっとは戦ったけど、ボスである野獣使いとの戦いは殆どがガーヴさんやハティが戦ってた気がするんだが……
 トドメはこの人だし。
 俺がやったのって中ボスとボスバトル後のイベント戦闘的な感じ?
 いや、確かにネトゲのバトルイベントってNPCとかとボスとのすごい戦闘イベント眺めた後弱ったボス相手にプレイヤーは一回戦って終わりとか結構あるけどさ。
 なんか主人公しているっていうよりも、勇者のおまけみたいな感じが妙にするんだよな……。

 なんというかこう、活躍したって気がしないんだよな。
 序盤だから強いNPCに囲まれて小さな活躍しか出来ないって事か?
 野犬の群をバッサバッサと無双した後に現れるアーマードレイクをやっつける的な王道シチュエーションがあっても……このゲームにはないんだろうなぁ……
 プレイヤーとは言え立ち位置は用意された主人公じゃなくて、所詮はこの世界で生きる一般人扱いなんだよなぁ。
 スローライフ系のゲームならともかくRPGであるなら俺TUEE!とまではいけなくても、ゲームの中でくらい普通に活躍したい……そう思っても許されるんじゃないだろうか。

「さて、ここに村長がいるはずなんだけど……」
「随分と騒がしいな……何かあったか?」

 何やら集会場では人が行き来し、こっちはこっちでエラい騒ぎになっていた。

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