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一章

二十八話 PvPⅢ

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「ああ、クソっ時間切れかよ。結構いい感じだったのに」

 SADの腕を飛ばし、その勢いのまま首を狩ろうと動いた瞬間、時間切れで排出されてしまった。
 我ながら結構いい所まで言ったと思うんだがなぁ。
 想定ではグレートソードの方を奪い取るつもりだったが、SADが自分からショートソードを手放してくれたおかげで、あっさりと武器を入手できたのは大きかった。
 俺のステータスと、初期装備のショートソードではろくな傷をつけられないが、それは武器身体共にしょぼいからであり、逆に言えばいい武器があれば俺の非力さを補ってダメージが与えられるんじゃないかと思ったのだ。

 そしてSADが持っていた武器は明らかに強そうだったからな。
 あのレアっぽい武器なら攻撃力を補ってくれると思っていたが、一撃で腕を切り落とせる程とは流石にちょっと想定外だった。
 いい意味で。
 ただ、その事に気づいたのは少々遅すぎたようだった。

 PvPコンソールには

『WINNER is SAD』

 の表示。
 腕一本飛ばしただけでは俺の消耗を誤魔化しきれなかったようだ。

 まぁばれないように立ち回ってはいたけど、ぶっちゃけ満身創痍だしな!
 一度も直撃はもらわなかったが、避けきれない攻撃をいくつか受け流す必要があった。
 受け流しには全て成功するにはしたんだが、成功した上でガッツリ体力を持っていかれたのだ。
 必殺技をガードした時に体力を削られる感じだ。

 問題は、その削られ肩代わりと尋常じゃなかったって事で……
 ダメージを受け流しているのに、一度受け流す毎に腕がしびれて暫く使い物にならんのだ。
 痛みのようなものは相変わらず殆ど感じはしないが、手の感覚が死んでろくに武器を振るえなくなる。
 そんな状況では反撃どころか、次の攻撃を受け流すことすら出来ない。

 そして、そんな風になってるってことは当然こっちのHPもガッツリ削られているわけだ。
 一発も直撃を喰らわなかったのに、実はこっちの体力は8割近く削られていた。
 なので、腕を切り飛ばしただけではダメージ的にはせいぜい2割程度しか与えられなかったろうし、残りHP割合で勝敗の決まる今回のルールでは俺の負けが確定した……というわけだ。

「ちっくしょう、もうちょっと早く仕掛ければ引き分けくらいは狙えそうだったんだがなぁ」
「引き分け……引き分けを狙えたねぇ?」
「倒しきれるとは思わんけど、あのまま上手く行けばもう一本腕を飛ばすくらいは出来たかもしれんだろ?」

 まぁ、腕一本奪った時点である程度有利は取れたとは思うが、警戒されてただろうから本当にあの後にもう一撃入れられたのかと聞かれれれば、少々怪しいもんだけど。

「まぁ、負けは負けだしな。しゃーないわな」
「たしかに俺の勝ちだわな。でも内容は引き分けどころか完全に俺の負けだったけどな」
「過程はどうであれ結果が全てだっつの。正直な話最初の奇襲で仕留めきれなかった時点で勝てないってのは判っちゃいたんだが……」

 まぁ、チャレンジクエスト的なやりこみ要素ならクリアできずに素直に悔しがったかもしれんが、最初から勝ち目のない対人戦で勝った負けたと言った所で……ねぇ?

「わかってると思うが、そもそも勝負が成り立つ組み合わせじゃなかったんだ。むしろそんな勝ち確状況で腕一本持って枯れたとかこっちが大恥だっつの」
「知らんがな。そこは油断するお前が悪いだろ」
「油断っつか……そうだよ、油断と言えば最初の一発目なんなんだよ。出し抜けにとんでもない不意打ちブチかましやがって!」
「まともにやっても勝てないって判ってたからな。正々堂々と正面から不意打ちっていう高度な嫌がらせだよ」
「お前のスキルは一通り把握してたんだが、お前の持ってる【隠密】スキルは俺の【看破】や【気配察知】よりもかなり低かったし、それだけじゃないんだろ? 【飛影】はわかるが【飛影】の射程よりも移動距離は長かったが【疾走】を使えるほどの距離も空いてなかったはず。一体幾つのスキル使ったんだ?」
「【飛影】と【疾走】だけだよ」
「は?」

 やっぱそう思うよなぁ。
 はじめてガーヴさんにやられた時も、【飛影】だけで叩きのめされたのにまるで幾つもスキルを組み合わせて攻められたんだと思いこんだしな。
 たった一つのスキルで普通の人なら複数スキルを使うのと同じレベルの成果を出すって実はすげぇよなぁ。

「つい最近、NPCのおっさんに俺もコレやられたんだよ。まぁ俺がやられたのは【飛影】のみだったが……」
「馬鹿な、一瞬とは言え完全に意表を突かれたんだぞ? 少なくともどうやったのかは知らんが隠密は使っただろ!?」
「いんや? わざと構えを解いて見せてお前が迷って思考に意識を取られた瞬間にただの徒歩に見せかけたモーションから【飛影】で一歩。その加速を二歩目の【疾走】に乗せて懐に踏み込んだ。それだけ」

 俺の隠密レベルならスキルで見破れるってさっき自分で言ってたろうに。

「思考に意識を取られた隙にって……そんな事がなんで分かるんだよ!?」
「俺も言われるまでサッパリ気が付かんかったんだが、お前も俺と同じで何か考えるとき視線が手元に落ちるんだよ。だから、そうなるように仕向けた」
「それがあの無防備な前進か。罠かどうか疑わせるための……」
「そういう事。自分がやられた時は『何だそのインチキ!?』って思ったが、やってみると俺みたいな付け焼き刃でも思いの外通用するもんだな」

 一応、バレても対応しにくいように息を吐いた瞬間を狙って動いたがその必要もなかったみたいだな。

「しかし、たった二つのスキルであれだけの効果を出せるとはな……俺達も結構頭捻っていろいろスキルの組み合わせとか考えてはいたが、周りがどれだけ効果的にスキルを組み合わせて新しい強力な複合スキル生み出せるか試行錯誤してる中、お前一人だけどうにも真逆の、如何に少ないスキルで効率的に運用するかって発想でやってたみたいだな」
「悪かったな、考え方がニッチで! 貧乏性だから手元にあるものを如何に上手く使うかとか小さく纏まったことしか考えられねぇんだよ」

 以前それで上司に「もっとデカイ視点で物を見ろよ」とか直接言われた事もあるから自覚はしてるんだよ。
 まぁその上司はちょっと確認すれば誰でも見つけられるような凡ミスでとんでもない赤字出しちまってクビになったから余計にあの人の言ったことを聞く気になれなかったってのはあるんだけれど。

「いや、むしろテスターとして――俺も含めてなんだが、数ヶ月間もプレイしてたのにどうして誰もその方面を突き詰めようとしたやつが一人も居なかったんだろうかと思ってな」
「そりゃお前、ソッチのほうが楽だからだろ?」
「楽……なのか?」
「目の前にロボットのパーツを沢山渡されて『好きなように組み合わせてかっこいいロボット作ってみろ』って言われるのと、完成したロボット渡されて『好きなように改造してもっとかっこいいロボットに作り変えろ』って言われたらどっちが楽だと思う?」
「あぁ……なるほど」
「基本的に、知識のない奴は未完成品を組み合わせて自分の知っている『何か』を模倣することは出来ても、既に完成されてるものを更に洗練しろって言われても戸惑うしか無いんだよ。そもそも大抵の人間は完成品を渡された時点でその状態が完璧だと受け取るからな」

 好みの問題で好き嫌いはあるかもしれんがそれは人の数だけあるものだからどうしようもない。
 だが、それでも明確にどこそこが気に食わないとかもっとよく出来るとか考えれるやつは、芸術肌とか豊富な知識を備えた者かのどちらかだから一般人とは言い難い連中だろう。
 そういったごく一部を除けば基本一般人とは渡された現物を自分でより良くするとは考えないものだ。
 
「なるほどねぇ。俺もスキルはたくさん覚えたが、システムに従ってスキルをこねくり回して新しい複合スキルを覚えようとはしたけど、覚えたスキルを魔改造しようとは一切考えつかなかったからな」
「そんなもんだ。普通はな。俺の場合はスキルの『効率的な使い方』をNPCのオッサンに教えてもらったからこそ、そういう使い方をしようと考えられた訳だしな」
「道場NPCか。そういう技術を教えてくれる人もいるんだな。俺が知ってるのは街の剣術道場にいた師範代のオッサンに攻撃スキル教えてもらったぜ」
「そういや大きな街には道場とかあるって聞いたような気がするな」

 そんな話をしていた所でC1さんが声をかけてきた。
 どうやら少々立ち話をし過ぎたようだ。

「さてさて、話は尽きないかと思いますが、そろそろ生産メインの方々のテストも終わるようなので一度会議エリアに戻ります。このエリアに来た時同様転送しますので移動をお願いします。ミーティング終了後に会議エリアは開放しておくので積もる話は後ほどお願いします」

 C1さんが戻ってくるなり先に進むように促してきた。
 今は仕事中でもあるのだし、そこに文句を言う人は当然ながら誰ひとりいなかった。
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