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一章
一話 キョウⅠ
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「ん……」
目を開くとそこは森に隣接した草原だった。
「はぁーー こいつはすごいな」
眼の前に広がるのは大自然。
多少作り物感があるが、むしろゲームイメージにマッチしていて
逆にこのアニメっぽさがいい意味で馴染んでいる感じがする。
FPSジャンルのような超リアルなワールドデザインよりも個人的にはこんな感じのほうが好きだ。
「って、こっちだと普通に喋れるのか? 喉が動かない俺にボイスチャットなんて出来ないはずだがどうやって……」
あ、もしかしてこれも喉の電気信号とかで声帯を再現してるのか。
よく聞いてみると微妙に自分の声に違和感がある。
注意しないと殆どわからないレベルだけど。
「どうだい? 我が社の最新VRゲーム専用機『クレイドル』は?」
「やばいっすね。SFの世界に入り込んだみたいで超ワクワクします」
「喜んでもらえているようで何よりだよ」
VRを使ったゲーム自体は既にいくつもタイトルが出ている。
だが、部屋の中でやるゲームだ。
当然移動がネックになって、広大なマップを自分の足で自由に歩き回れるというゲームは実現しなかった。
だがこれは、その不可能の壁を突破してみせたということなんだろう。
動き回っても違和感がまるで無い。
コントローラー任せではなく自分の意思で歩きまわることが出来るのだからびっくりするというものだ。
「さて、それでまずはログインしましたけど、これからどうすればいいんですか?」
「それじゃあ、キャラエディットを使って簡単な動作説明もしようか」
「たのみます」
「事前に話したとおり、このゲームは両手両足、そしてゴーグルに連動してゲーム内での動きを再現するんだ。立浪さんは現在身体が動かせないから実感ないかもしれないけれど、外ではソリに乗ってるようなポーズになっているよ」
たしか、膝を曲げた状態で固定する脚パーツと、そのパーツにつながるように
伸ばした腕をはめ込むパーツがあるんだっけか。
体操座りのまま後ろに倒れ込んだような状態だって言ってたが。
「動かせない立浪さんにはあんま関係ない話かもしれないけれど、固定する理由はゴーグルで周囲を見えないうちに手や足を振り回したりして周りのものを壊したりしないように、って理由も大きいね」
なるほど。
確かにバトルだったりで腕振り回してコップ倒したり棚倒したりなんて
危険すぎるだろうからな。
「固定と言っても手首と足首が簡単に抜けないようなストッパー構造になってるだけでベルト固定とかされてるわけじゃないんだけどね」
そのへんは、なんか異常があったとき直ぐに外せるようにって感じか?
「手足を固定してるのに、ゲーム内で思ったように動きを再現できるのは、パーツによって筋肉に流れる電気信号を受信してどう動かそうとしているのかをトレースしているからだね。僕もそこの原理は詳しく知らないんだけど、義手や義足で使われる最新技術らしい。いい義手なんかだと肘から先をなくしてても、指の関節動作完全再現できるんだって」
ほぉ~、そいつはすごいな。
ゲームだけじゃなくて実際にそんなレベルの技術が開発されてるのか。
んで、その技術でVRのゲーム内のモーションを再現しているわけか。
これなら確かにゲームで遊ぶにはややでかいとはいえ一人暮らしの部屋でも没入型のVRゲームが遊べるってわけだ。
「そういえば、どうしてコレって完全没入型じゃないんですか? 俺には完全没入型って言っても問題ないように感じるんですけど」
「限りなく完全没入型に近い設計になってはいるけど、実際には四肢と頭だけだからね。安全を考慮して胴体には機械取り付けたりしていないから『完全』ではないんだよ」
「その割には普通に腰や腹が曲がるんですけど……」
「それはあくまで腕や足のパーツが流れる反応から適応してるだけなんだ。だから胴にダメージ受けたりするとダメージ振動表現はそこに近い別のパーツから伝わってくるようになってるんだよ」
なるほどな。
安全面だとかいろいろ考えると完全って言えるものじゃどうしても出来なかったのか。
確かに誤作動とか故障で銅パーツが破損したら大変なことになるだろうしな……
「さて、じゃあ実際に動かしてみようか。身体の動かし方は理解してるよね」
「ええ、思ったように動く。怪我する以前よりも、というか学生時代よりも身体が軽いイメージですよ」
「それは良かった。どこか動きがぎこちなく感じるところがでないか一通り動き回ってみてください。かなり無理なポーズをとっても大丈夫です」
ふむ。
ジャンプ。コレは問題なし
前屈。ちゃんと思い通りに動く……ってか柔らけーな、両手ペッタリ地面につくぞ。
ストレッチも問題なし。体を思い切り捻っても平気だ。
前転、後転も問題なし。バク転は……失敗すると恥ずかしいから一人の時試そう。
股下にも腕が通る。
すげーな。完全再現どころか俺の身体より遥かに柔軟だ。
……まぁ、半ニート生活で贅肉ついた自分と比べるのも何だが。
「問題なさそうです」
「よしよし、良いね。じゃあ、一度自分好みの体型にキャラクターエディットしてみて」
「ふむ……」
ここは、やっぱり女キャラだよな。
この手のゲームってどうも男キャラの装備が野暮ったい。
それに比べて女キャラの装備は妙に華やかだったりかっこよかったりで。
だからまずは性別は女として……
サイズは……やっぱ最低で。
対人戦があった場合攻撃が当たりにくいのは大正義だ。
兎に角小さく子供サイズかつ、体型はバランスよく……
髪型は……まぁポニテでいいか。
顔も変に弄ると不細工になりそうだしプリセットでいいか。
胸は……個人的にはでかいほうが好みだが、偏ると変な目で見られそうだしな。
そもそも元のデザインからデカイからあえて弄らなくても満足サイズだ。
デフォルトサイズで……
よし、こんなもんか
「できた」
「相変わらず小さな女の子作るんだね」
「微妙に人聞きの悪い様に聞こえるのは何でですかね?」
「なんでだろうね?」
ナンデダロー?
「さて、体を作り直して見た所で、もう一度基本動作。それとオブジェクトを用意してみたから持ち上げたり振ってみたりいろいろな動作を試してみてほしい」
んん?
「基本動作はさっきやったのにまたやるんですか?」
「うん。絶対やったほうが良い。他のテスター達を見た感じね」
「……まぁ、良いですけど」
何かあるのか?
ジャンプは、特に問題ない……よな?
前屈も……おっと?
危なく地面を強打するところだった。
身体がさっきより小さいからか。
ストレッチは……
ああ、なるほど、コレはダメだ
すげぇ違和感が出る。
「もっと色々動きを確かめなくて良いのかい?」
「ああ、こりゃダメですね。他のテスターがおかしな反応する理由もわかった」
「立浪さんほどゲームやり慣れてる人でもダメなのかい?」
「コレはゲームの経歴云々は関係ないところだなぁ」
このゲームは自分の体のとおりにキャラも動く。
視点は当然キャラ目線だ。
本来の身長が170近くある俺が、その感覚を残したままで体型も何もかも違う上に身長140足らずのボディに入ればどうなるか。
動きに違和感が出まくるわけだ。
エルボーを突き出したつもりがまるでフックを入れたように腕を振りすぎたり、ちょっと身体を曲げようとしただけで地面に手を付けるほど前屈してしまったり。
コレはダメだ。
大丈夫な人はいるかも知れないが俺は無理。
「すいません、もう一度作り直しますわ」
「了解。ゆっくり自分にあったキャラを作ってほしい。じゃあ僕は少しの間席を外すよ」
「わかりました」
さて、まずは自分に合わせた身体を作り出さな無いとな。
性別は男で……身長は、微調整入れていけばいいか。
この際だから顔や髪型とかも自分に似せておくか。
テストサーバなら身バレとか気にする必要なさそうだし。
そもそもゲームチックなデザインだから気にする必要もないか。
体型は……デブにも出来るのか。
運動不足で腹回り気になってたから贅肉つけて……
よし、こんなもんだな。
うん。
ただの運動不足の村人Aだこれ。
流石にコレはもうちょっとなんとかしたいな……
とはいえ、変に体型変えるのも違和感出るはずだし
せめてこの腹くらいはなんとか……
動き自体はこのボディで完璧だから後はどれだけ削れるか、か。
全身運動に加え、オブジェクトを振り回してみる。
横幅とかはそこまで苦にならないんだよな。
でもスリムにすると妙なスカスカ感が。
重量バランスか?
なら胴回りの脂肪を減らした分少しだけ筋肉つけて行けるか?
「う~ん」
腹筋だけじゃだめだな。全身すこし筋肉質にして……
いや、マッチョはなんか違うな。
できるだけ細マッチョ以上にはならないようになんとかバランスを……
ああ、そうか肩幅や腕周りの微調整で付近の肉付きもコントロールできるな。
それに下半身のバランスを……
……うむ、こんなもんか!
これならどうだ?
「……よし」
ストレッチにもオブジェクト振り回してもほとんど違和感感じない。
むしろ、自分の理想値にまで体が動いてくれる。
そうか、コレが俺の理想の体だったか。
「ごめんごめん、会議が長引いて長い間放ったらかしてしまって……って、ずいぶん掛かってるみたいだね」
「んん? 田辺さんこそずいぶん早いお帰りで」
「え、いや早いって、あれからもう4時間は過ぎてるんだけど」
「え、マジで?」
「今までのテスターで、キャラエディットだけでここまで遊んでくれたのは立浪さんだけだよ」
「うわマジだ、俺そんなにのめり込んでたのか」
恐るべし、キャラエディットの中毒性。
「でも、まぁ、納得行くキャラにはなったかな」
「それは良かった。それだけオブジェクトを使い倒したってことは動作関係は大丈夫かな?」
「ああ、どんなポーズだって取れますよ」
「結構。じゃあ次はメインコンソールについて説明するよ」
コンソール……ステータス画面みたいなやつだな。
「本来は腕につける筐体パーツに専用ボタンがあるんだけど立浪さんは使えないから、そういう人でも遊べるようにするテストケースとして専用のUIが組んであるんだ」
「俺専用か」
良いよな専用。特別仕様っぽくて。
「立浪さんが今喋ることができてるのも障害者用試作システムなんだよ? 一般向けのはゴーグルに普通にボイスチャット用のマイクがついてるんだから」
あ、やっぱりそうなのか。
妙にハイテクだと思った。
「さて、ではメインコンソールの開き方だけど、右手のブレスレットを左手で突いてみて欲しい」
「こうか?……おっ」
なんか玉が出てきた。
いや玉というか……土星?
「ボールが出てきたと思うんだけど、それはコンソールキューブ。そのキューブをひねるとページを選べるようになってる」
「このくちばしみたいに尖った所が指してるページが開くのか」
「そういう事。人差し指を押し込めば決定、中指を押し込めばキャンセル。マウスみたいな感覚で使えるはずだよ」
「なるほど、たしかにコレはマウスだわ」
さてさて、選べるページは……
ステータスウィンドウ
スキルウィンドウ
コンフィグ……?
「これ、アイテムウィンドウとか装備ウィンドウが見つからないんだけど、これはゲーム本番が始まるまで開けない仕様なんです?」
「流石、テスター経験豊富なだけあってそういう所に気付くのは早いね。アイテムウィンドウと装備ウィンドウについてなんだけど、このゲームにはそもそもその2つは存在しないんだ」
「え、マジですか?」
「マジマジ」
え、じゃあドロップアイテムとか収集品はどうするんだ?
装備とかもないとバトルとかきついよな?
「まずアイテムだけど、カバンを背負うなりなんなりして詰め込む形になる。アイテムウィンドウはなくて、同じ役割のカバンに詰め込んでねって事」
おう、思いもよらぬ方向でリアリティ高いな。
となると当然……
「装備ももちろん、直接身につけることがイコール装備したという事になるね」
やっぱりか。
「ニューワールド、もう一つの新しい世界を謳ってるわけだからね。描画のリアリティよりも生活感とかが強く出るようなシステムにしてるんだ」
「なるほどねぇ……」
アイテムボックスなんてシステマチックな領域作るくらいなら
カバンっていう持ち運び用のアイテムがあるんだから正しく効果を与えようって事か。
「最近のゲームはルーチン化されてるものが多い代わりにプレイヤーのストレスを極力排除しようっていう設計が多いんだけど、あえて逆にしてみたんだ。この不便さも理不尽ではないリアリティとして楽しんで欲しいってね」
たしかに、カバンの大きさに対して見た目通りの量しか入らないっていうのはRPGなんかに慣れた層には苦痛かもしれないけど、口に出してみると当たり前のこと言ってるだけだから理不尽ではないんだよな。
アイテム所持制限あるゲームなんて昔からいくらでもあるし。
「他に聞きたいことはあるかい?」
「この玉消すにはどうしたら?」
「手放すようにすれば勝手に消えるようになってるよ」
投げりゃいいのか?
こう、か?
「お、なるほど」
右手から少し離れた時点で玉は透けるように消えた。
「ログアウトについては本来ならシステムウィンドウから選べるんだけど、立浪さんの場合ログアウトすると自力でログインできないでしょ? なので、常時ログイン状態でいてください」
「え、それって大丈夫なんですか?」
「本来なら食事や睡眠休憩が必要なので絶対にアウトなんですけど、立浪さんの場合全部機械任せですから……」
ああ、そういやそうか。
全身管だらけで、食事もトイレも必要ないわけだ。
寝るときはログインしっぱなしで寝落ちればOKと。
「なるほど、理解しました」
「他になにか質問はあるかい?」
なにかあったか?
エディット終わって、UIの使い方もわかった。
ログイン、ログアウトも必要ない。
さて
「今のところは思いつかないですね」
「そっか。うん、前置きがずいぶん長くなってしまったけど、それじゃあいよいよゲームスタートだね。最初に同意文出るけど気にせずOKしちゃって」
「ん、……おお?」
ゲーム開始時によくある同意文か。
とりあえずヤバそうな部分だけ確認して承認。
昔コレで痛い目を見たのである一部だけは確認しないと気がすまないのだ。
で、
キャラクターネームか。
……まぁゲーセンで使ってるやつでもいいか。
「おや、日本語入力できるのかこれ」
ふむ……なら。
キョウ……と。
テスターだけなら流石にかぶらないだろ。
よし、通ったな。
あとはキャラクター特性?
ここはやっぱり戦闘系だよな。
イキナリ雑魚に絡まれて死ぬのも嫌だし。
……あれ、このゲーム死んだらどうなるんだ?
デスペナとかリスポーン条件とか聞いておけばよかった。
まぁ、今はいいか。
で、ボーナススキル?
最初に選んだスタイルでスキルが幾つか選んでもらえるのか。
え~と、戦闘系のスキルは……
腕力:腕を使った動作の起点スキル。腕力が上がる。
脚力:足を使った動作の起点スキル。脚力が上がる。
筋力:全身を使った動作の起点スキル。筋力が上がる。
武器適正・右手:右手に装備した武器の起点スキル。右手装備の攻撃補正。
武器適正・左手:左手に装備した武器の起点スキル。左手装備の攻撃補正。
武器補正・両手:両手に装備した武器の起点スキル。両手装備の攻撃補正。
集中力:特定の行動に集中するスキル。詠唱時間の短縮やターゲットフォロー。
魔法適正:魔法に関する起点スキル。魔法威力が上がる。
鷹の目:眼視系スキルの起点となるスキル。視力が上がる。
……全部、それぞれの系統の基礎になるスキルか。
で、この中から5つ選べるわけね。
魔法適正とか鷹の目とかあるのを見ると、レンジ職やキャスター職もまとめて戦闘職って括りになってるのか。
結構大味だな……
さて、こういうのは基本的に変に手を広げるより一極化するのが良いんだよな。
俺なら基本近接バトル系のゲームやることが多かったからそれに特化すればいい。
……とはいえ、だ。
コレはテストプレイなわけだ。
自分好みに特化させるなら本サービスが始まった時に自分のアカウントでやればいい。
むしろ、ここでは色々確かめたほうがいいんじゃないだろうか。
というか、せっかくだからそうするべきだよな。
ただ、ある程度は戦闘に寄せておかないと序盤が面倒そうってのもある。
ならどうするべきか……
腕力、脚力、筋力は多分ステータスブーストだよな。
これなら絶対腐らないはずだし、この3つは優先度最大だ。
で、今後伸ばすかどうかはともかく、序盤だし武器適性も一つは欲しい。
初期装備は……ショートソードか。
コレなら右手適正でいいか。
あと一つは魔法をこの世界で少し試してみたいっていうのはあるんだよな。
魔法適性は正直惹かれる。
でも集中力もアーチャーとかのレンジ系だけじゃなくて詠唱短縮機能があるっぽい。
いろんなゲームやってきたけど、ヘイストやキャスト短縮はどのゲームでも強い。
……と考えると、ダメージがちょこっと上がる魔法適性よりも集中力のほうが良いか。
ターゲットフォローっていうのがどれくらいの効果かわからないが
魔法以外にも役立ちそうだしな。
よし、これでいこう。
「ほい、決定と」
「さぁこれで、必要な手順は全て終わり。ようこそ、ニューワールドへ。テストプレイだけどこの際だから思う存分楽しんでほしい」
もちろん、やるからには楽しませてもらいますよっと。
目を開くとそこは森に隣接した草原だった。
「はぁーー こいつはすごいな」
眼の前に広がるのは大自然。
多少作り物感があるが、むしろゲームイメージにマッチしていて
逆にこのアニメっぽさがいい意味で馴染んでいる感じがする。
FPSジャンルのような超リアルなワールドデザインよりも個人的にはこんな感じのほうが好きだ。
「って、こっちだと普通に喋れるのか? 喉が動かない俺にボイスチャットなんて出来ないはずだがどうやって……」
あ、もしかしてこれも喉の電気信号とかで声帯を再現してるのか。
よく聞いてみると微妙に自分の声に違和感がある。
注意しないと殆どわからないレベルだけど。
「どうだい? 我が社の最新VRゲーム専用機『クレイドル』は?」
「やばいっすね。SFの世界に入り込んだみたいで超ワクワクします」
「喜んでもらえているようで何よりだよ」
VRを使ったゲーム自体は既にいくつもタイトルが出ている。
だが、部屋の中でやるゲームだ。
当然移動がネックになって、広大なマップを自分の足で自由に歩き回れるというゲームは実現しなかった。
だがこれは、その不可能の壁を突破してみせたということなんだろう。
動き回っても違和感がまるで無い。
コントローラー任せではなく自分の意思で歩きまわることが出来るのだからびっくりするというものだ。
「さて、それでまずはログインしましたけど、これからどうすればいいんですか?」
「それじゃあ、キャラエディットを使って簡単な動作説明もしようか」
「たのみます」
「事前に話したとおり、このゲームは両手両足、そしてゴーグルに連動してゲーム内での動きを再現するんだ。立浪さんは現在身体が動かせないから実感ないかもしれないけれど、外ではソリに乗ってるようなポーズになっているよ」
たしか、膝を曲げた状態で固定する脚パーツと、そのパーツにつながるように
伸ばした腕をはめ込むパーツがあるんだっけか。
体操座りのまま後ろに倒れ込んだような状態だって言ってたが。
「動かせない立浪さんにはあんま関係ない話かもしれないけれど、固定する理由はゴーグルで周囲を見えないうちに手や足を振り回したりして周りのものを壊したりしないように、って理由も大きいね」
なるほど。
確かにバトルだったりで腕振り回してコップ倒したり棚倒したりなんて
危険すぎるだろうからな。
「固定と言っても手首と足首が簡単に抜けないようなストッパー構造になってるだけでベルト固定とかされてるわけじゃないんだけどね」
そのへんは、なんか異常があったとき直ぐに外せるようにって感じか?
「手足を固定してるのに、ゲーム内で思ったように動きを再現できるのは、パーツによって筋肉に流れる電気信号を受信してどう動かそうとしているのかをトレースしているからだね。僕もそこの原理は詳しく知らないんだけど、義手や義足で使われる最新技術らしい。いい義手なんかだと肘から先をなくしてても、指の関節動作完全再現できるんだって」
ほぉ~、そいつはすごいな。
ゲームだけじゃなくて実際にそんなレベルの技術が開発されてるのか。
んで、その技術でVRのゲーム内のモーションを再現しているわけか。
これなら確かにゲームで遊ぶにはややでかいとはいえ一人暮らしの部屋でも没入型のVRゲームが遊べるってわけだ。
「そういえば、どうしてコレって完全没入型じゃないんですか? 俺には完全没入型って言っても問題ないように感じるんですけど」
「限りなく完全没入型に近い設計になってはいるけど、実際には四肢と頭だけだからね。安全を考慮して胴体には機械取り付けたりしていないから『完全』ではないんだよ」
「その割には普通に腰や腹が曲がるんですけど……」
「それはあくまで腕や足のパーツが流れる反応から適応してるだけなんだ。だから胴にダメージ受けたりするとダメージ振動表現はそこに近い別のパーツから伝わってくるようになってるんだよ」
なるほどな。
安全面だとかいろいろ考えると完全って言えるものじゃどうしても出来なかったのか。
確かに誤作動とか故障で銅パーツが破損したら大変なことになるだろうしな……
「さて、じゃあ実際に動かしてみようか。身体の動かし方は理解してるよね」
「ええ、思ったように動く。怪我する以前よりも、というか学生時代よりも身体が軽いイメージですよ」
「それは良かった。どこか動きがぎこちなく感じるところがでないか一通り動き回ってみてください。かなり無理なポーズをとっても大丈夫です」
ふむ。
ジャンプ。コレは問題なし
前屈。ちゃんと思い通りに動く……ってか柔らけーな、両手ペッタリ地面につくぞ。
ストレッチも問題なし。体を思い切り捻っても平気だ。
前転、後転も問題なし。バク転は……失敗すると恥ずかしいから一人の時試そう。
股下にも腕が通る。
すげーな。完全再現どころか俺の身体より遥かに柔軟だ。
……まぁ、半ニート生活で贅肉ついた自分と比べるのも何だが。
「問題なさそうです」
「よしよし、良いね。じゃあ、一度自分好みの体型にキャラクターエディットしてみて」
「ふむ……」
ここは、やっぱり女キャラだよな。
この手のゲームってどうも男キャラの装備が野暮ったい。
それに比べて女キャラの装備は妙に華やかだったりかっこよかったりで。
だからまずは性別は女として……
サイズは……やっぱ最低で。
対人戦があった場合攻撃が当たりにくいのは大正義だ。
兎に角小さく子供サイズかつ、体型はバランスよく……
髪型は……まぁポニテでいいか。
顔も変に弄ると不細工になりそうだしプリセットでいいか。
胸は……個人的にはでかいほうが好みだが、偏ると変な目で見られそうだしな。
そもそも元のデザインからデカイからあえて弄らなくても満足サイズだ。
デフォルトサイズで……
よし、こんなもんか
「できた」
「相変わらず小さな女の子作るんだね」
「微妙に人聞きの悪い様に聞こえるのは何でですかね?」
「なんでだろうね?」
ナンデダロー?
「さて、体を作り直して見た所で、もう一度基本動作。それとオブジェクトを用意してみたから持ち上げたり振ってみたりいろいろな動作を試してみてほしい」
んん?
「基本動作はさっきやったのにまたやるんですか?」
「うん。絶対やったほうが良い。他のテスター達を見た感じね」
「……まぁ、良いですけど」
何かあるのか?
ジャンプは、特に問題ない……よな?
前屈も……おっと?
危なく地面を強打するところだった。
身体がさっきより小さいからか。
ストレッチは……
ああ、なるほど、コレはダメだ
すげぇ違和感が出る。
「もっと色々動きを確かめなくて良いのかい?」
「ああ、こりゃダメですね。他のテスターがおかしな反応する理由もわかった」
「立浪さんほどゲームやり慣れてる人でもダメなのかい?」
「コレはゲームの経歴云々は関係ないところだなぁ」
このゲームは自分の体のとおりにキャラも動く。
視点は当然キャラ目線だ。
本来の身長が170近くある俺が、その感覚を残したままで体型も何もかも違う上に身長140足らずのボディに入ればどうなるか。
動きに違和感が出まくるわけだ。
エルボーを突き出したつもりがまるでフックを入れたように腕を振りすぎたり、ちょっと身体を曲げようとしただけで地面に手を付けるほど前屈してしまったり。
コレはダメだ。
大丈夫な人はいるかも知れないが俺は無理。
「すいません、もう一度作り直しますわ」
「了解。ゆっくり自分にあったキャラを作ってほしい。じゃあ僕は少しの間席を外すよ」
「わかりました」
さて、まずは自分に合わせた身体を作り出さな無いとな。
性別は男で……身長は、微調整入れていけばいいか。
この際だから顔や髪型とかも自分に似せておくか。
テストサーバなら身バレとか気にする必要なさそうだし。
そもそもゲームチックなデザインだから気にする必要もないか。
体型は……デブにも出来るのか。
運動不足で腹回り気になってたから贅肉つけて……
よし、こんなもんだな。
うん。
ただの運動不足の村人Aだこれ。
流石にコレはもうちょっとなんとかしたいな……
とはいえ、変に体型変えるのも違和感出るはずだし
せめてこの腹くらいはなんとか……
動き自体はこのボディで完璧だから後はどれだけ削れるか、か。
全身運動に加え、オブジェクトを振り回してみる。
横幅とかはそこまで苦にならないんだよな。
でもスリムにすると妙なスカスカ感が。
重量バランスか?
なら胴回りの脂肪を減らした分少しだけ筋肉つけて行けるか?
「う~ん」
腹筋だけじゃだめだな。全身すこし筋肉質にして……
いや、マッチョはなんか違うな。
できるだけ細マッチョ以上にはならないようになんとかバランスを……
ああ、そうか肩幅や腕周りの微調整で付近の肉付きもコントロールできるな。
それに下半身のバランスを……
……うむ、こんなもんか!
これならどうだ?
「……よし」
ストレッチにもオブジェクト振り回してもほとんど違和感感じない。
むしろ、自分の理想値にまで体が動いてくれる。
そうか、コレが俺の理想の体だったか。
「ごめんごめん、会議が長引いて長い間放ったらかしてしまって……って、ずいぶん掛かってるみたいだね」
「んん? 田辺さんこそずいぶん早いお帰りで」
「え、いや早いって、あれからもう4時間は過ぎてるんだけど」
「え、マジで?」
「今までのテスターで、キャラエディットだけでここまで遊んでくれたのは立浪さんだけだよ」
「うわマジだ、俺そんなにのめり込んでたのか」
恐るべし、キャラエディットの中毒性。
「でも、まぁ、納得行くキャラにはなったかな」
「それは良かった。それだけオブジェクトを使い倒したってことは動作関係は大丈夫かな?」
「ああ、どんなポーズだって取れますよ」
「結構。じゃあ次はメインコンソールについて説明するよ」
コンソール……ステータス画面みたいなやつだな。
「本来は腕につける筐体パーツに専用ボタンがあるんだけど立浪さんは使えないから、そういう人でも遊べるようにするテストケースとして専用のUIが組んであるんだ」
「俺専用か」
良いよな専用。特別仕様っぽくて。
「立浪さんが今喋ることができてるのも障害者用試作システムなんだよ? 一般向けのはゴーグルに普通にボイスチャット用のマイクがついてるんだから」
あ、やっぱりそうなのか。
妙にハイテクだと思った。
「さて、ではメインコンソールの開き方だけど、右手のブレスレットを左手で突いてみて欲しい」
「こうか?……おっ」
なんか玉が出てきた。
いや玉というか……土星?
「ボールが出てきたと思うんだけど、それはコンソールキューブ。そのキューブをひねるとページを選べるようになってる」
「このくちばしみたいに尖った所が指してるページが開くのか」
「そういう事。人差し指を押し込めば決定、中指を押し込めばキャンセル。マウスみたいな感覚で使えるはずだよ」
「なるほど、たしかにコレはマウスだわ」
さてさて、選べるページは……
ステータスウィンドウ
スキルウィンドウ
コンフィグ……?
「これ、アイテムウィンドウとか装備ウィンドウが見つからないんだけど、これはゲーム本番が始まるまで開けない仕様なんです?」
「流石、テスター経験豊富なだけあってそういう所に気付くのは早いね。アイテムウィンドウと装備ウィンドウについてなんだけど、このゲームにはそもそもその2つは存在しないんだ」
「え、マジですか?」
「マジマジ」
え、じゃあドロップアイテムとか収集品はどうするんだ?
装備とかもないとバトルとかきついよな?
「まずアイテムだけど、カバンを背負うなりなんなりして詰め込む形になる。アイテムウィンドウはなくて、同じ役割のカバンに詰め込んでねって事」
おう、思いもよらぬ方向でリアリティ高いな。
となると当然……
「装備ももちろん、直接身につけることがイコール装備したという事になるね」
やっぱりか。
「ニューワールド、もう一つの新しい世界を謳ってるわけだからね。描画のリアリティよりも生活感とかが強く出るようなシステムにしてるんだ」
「なるほどねぇ……」
アイテムボックスなんてシステマチックな領域作るくらいなら
カバンっていう持ち運び用のアイテムがあるんだから正しく効果を与えようって事か。
「最近のゲームはルーチン化されてるものが多い代わりにプレイヤーのストレスを極力排除しようっていう設計が多いんだけど、あえて逆にしてみたんだ。この不便さも理不尽ではないリアリティとして楽しんで欲しいってね」
たしかに、カバンの大きさに対して見た目通りの量しか入らないっていうのはRPGなんかに慣れた層には苦痛かもしれないけど、口に出してみると当たり前のこと言ってるだけだから理不尽ではないんだよな。
アイテム所持制限あるゲームなんて昔からいくらでもあるし。
「他に聞きたいことはあるかい?」
「この玉消すにはどうしたら?」
「手放すようにすれば勝手に消えるようになってるよ」
投げりゃいいのか?
こう、か?
「お、なるほど」
右手から少し離れた時点で玉は透けるように消えた。
「ログアウトについては本来ならシステムウィンドウから選べるんだけど、立浪さんの場合ログアウトすると自力でログインできないでしょ? なので、常時ログイン状態でいてください」
「え、それって大丈夫なんですか?」
「本来なら食事や睡眠休憩が必要なので絶対にアウトなんですけど、立浪さんの場合全部機械任せですから……」
ああ、そういやそうか。
全身管だらけで、食事もトイレも必要ないわけだ。
寝るときはログインしっぱなしで寝落ちればOKと。
「なるほど、理解しました」
「他になにか質問はあるかい?」
なにかあったか?
エディット終わって、UIの使い方もわかった。
ログイン、ログアウトも必要ない。
さて
「今のところは思いつかないですね」
「そっか。うん、前置きがずいぶん長くなってしまったけど、それじゃあいよいよゲームスタートだね。最初に同意文出るけど気にせずOKしちゃって」
「ん、……おお?」
ゲーム開始時によくある同意文か。
とりあえずヤバそうな部分だけ確認して承認。
昔コレで痛い目を見たのである一部だけは確認しないと気がすまないのだ。
で、
キャラクターネームか。
……まぁゲーセンで使ってるやつでもいいか。
「おや、日本語入力できるのかこれ」
ふむ……なら。
キョウ……と。
テスターだけなら流石にかぶらないだろ。
よし、通ったな。
あとはキャラクター特性?
ここはやっぱり戦闘系だよな。
イキナリ雑魚に絡まれて死ぬのも嫌だし。
……あれ、このゲーム死んだらどうなるんだ?
デスペナとかリスポーン条件とか聞いておけばよかった。
まぁ、今はいいか。
で、ボーナススキル?
最初に選んだスタイルでスキルが幾つか選んでもらえるのか。
え~と、戦闘系のスキルは……
腕力:腕を使った動作の起点スキル。腕力が上がる。
脚力:足を使った動作の起点スキル。脚力が上がる。
筋力:全身を使った動作の起点スキル。筋力が上がる。
武器適正・右手:右手に装備した武器の起点スキル。右手装備の攻撃補正。
武器適正・左手:左手に装備した武器の起点スキル。左手装備の攻撃補正。
武器補正・両手:両手に装備した武器の起点スキル。両手装備の攻撃補正。
集中力:特定の行動に集中するスキル。詠唱時間の短縮やターゲットフォロー。
魔法適正:魔法に関する起点スキル。魔法威力が上がる。
鷹の目:眼視系スキルの起点となるスキル。視力が上がる。
……全部、それぞれの系統の基礎になるスキルか。
で、この中から5つ選べるわけね。
魔法適正とか鷹の目とかあるのを見ると、レンジ職やキャスター職もまとめて戦闘職って括りになってるのか。
結構大味だな……
さて、こういうのは基本的に変に手を広げるより一極化するのが良いんだよな。
俺なら基本近接バトル系のゲームやることが多かったからそれに特化すればいい。
……とはいえ、だ。
コレはテストプレイなわけだ。
自分好みに特化させるなら本サービスが始まった時に自分のアカウントでやればいい。
むしろ、ここでは色々確かめたほうがいいんじゃないだろうか。
というか、せっかくだからそうするべきだよな。
ただ、ある程度は戦闘に寄せておかないと序盤が面倒そうってのもある。
ならどうするべきか……
腕力、脚力、筋力は多分ステータスブーストだよな。
これなら絶対腐らないはずだし、この3つは優先度最大だ。
で、今後伸ばすかどうかはともかく、序盤だし武器適性も一つは欲しい。
初期装備は……ショートソードか。
コレなら右手適正でいいか。
あと一つは魔法をこの世界で少し試してみたいっていうのはあるんだよな。
魔法適性は正直惹かれる。
でも集中力もアーチャーとかのレンジ系だけじゃなくて詠唱短縮機能があるっぽい。
いろんなゲームやってきたけど、ヘイストやキャスト短縮はどのゲームでも強い。
……と考えると、ダメージがちょこっと上がる魔法適性よりも集中力のほうが良いか。
ターゲットフォローっていうのがどれくらいの効果かわからないが
魔法以外にも役立ちそうだしな。
よし、これでいこう。
「ほい、決定と」
「さぁこれで、必要な手順は全て終わり。ようこそ、ニューワールドへ。テストプレイだけどこの際だから思う存分楽しんでほしい」
もちろん、やるからには楽しませてもらいますよっと。
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