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五章
家系図
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ともかく、家具の設置は終わった。使い慣れない家具ばかりだが、この家を出るつもりなら慣れておかなくては。
「…で?これから、どうする?」
壁の写真を渋々消した幻は、テーブルの横にある1人掛けソファーに陣取った。私もその隣、テーブルの前の3人掛けソファーに座る。
「わっ」
今までにない座り心地だ。…今まで使っていた家具が相当酷いものなので、比較すればどんなに安物でも座り心地が良いのは当たり前なのだが。
幻は足を組むと、テーブルの上を軽く叩いた。それまで何も無かったその場所に、何かの図が描かれた紙が数枚あった。
「これは?」
「白宮家の家系図と、この家の見取り図。あと、学校の見取り図もついでにな」
私はまず、白宮家の家系図を手に取る。妻と夫、1人の娘。…娘は1人。
「あー、お前のことは書いてないぞ?一応養子だったか…。養子なんて待遇じゃないけどな」
幻の言葉を聞き流しながら、私の目はその紙に吸い付けられていた。私はこの家の子供ではない。養子として迎え入れられたはずだった。でも、実態は違った。私は毎日毎日働かされ、心が休まる暇もなかった。…この家の娘でないなら、私は何なんだろう。私の家族は。
「…家族に会いたい」
その言葉は、口に出さないと決めたつもりだった。言葉にしても辛いだけ。私の居場所がないことを再認識するだけだから、と。
「…あ?」
別の紙を見ていたはずの幻が反応してこちらを見た。
「お前の家族なんて、ロクなもんじゃないぞ?会って良いことなんて何もない」
「わかってる。でも…」
実父は…私の本当のお父さんだけは、私のことを待っていてくれていると信じたかった。
「どうしているかだけ、確かめたい…。できる?」
幻はニヤリと笑った。
「お前がそれを望むなら、俺にできないことはない。今から行くか?」
今すぐにでも家族の元へ送る勢いの幻を片手で制し、深呼吸をした。
「待って。昔のお父さんは過労で倒れるぐらい働き詰めだった。行くのは週末にしよう。今は…」
私は白宮家の見取り図を手に取る。
「先にこっちを片付けなきゃ。元々、この家から離れることができたら、お父さんのことは探すつもりだった。ううん、この家から逃げ出すまでお父さんのことは忘れることにしたの」
迎えに来るはずだった、あの日。どうして、来てくれなかったのか。その後、養父によれば実父からの連絡はぱたりと途絶えたらしい。どうしても理由が知りたかった。…私を捨てたわけじゃないと、信じたかった。何か、どうしようもない理由があったのだと、信じたかった。今理由を聞けば、復讐の覚悟が崩れてしまうかもしれない。
「ふーん。ま、お前が今すぐじゃなくていいって言うなら待つけどよ」
やる気満々だった幻は不服そうだが、私の意思を尊重してくれた。
「…で?これから、どうする?」
壁の写真を渋々消した幻は、テーブルの横にある1人掛けソファーに陣取った。私もその隣、テーブルの前の3人掛けソファーに座る。
「わっ」
今までにない座り心地だ。…今まで使っていた家具が相当酷いものなので、比較すればどんなに安物でも座り心地が良いのは当たり前なのだが。
幻は足を組むと、テーブルの上を軽く叩いた。それまで何も無かったその場所に、何かの図が描かれた紙が数枚あった。
「これは?」
「白宮家の家系図と、この家の見取り図。あと、学校の見取り図もついでにな」
私はまず、白宮家の家系図を手に取る。妻と夫、1人の娘。…娘は1人。
「あー、お前のことは書いてないぞ?一応養子だったか…。養子なんて待遇じゃないけどな」
幻の言葉を聞き流しながら、私の目はその紙に吸い付けられていた。私はこの家の子供ではない。養子として迎え入れられたはずだった。でも、実態は違った。私は毎日毎日働かされ、心が休まる暇もなかった。…この家の娘でないなら、私は何なんだろう。私の家族は。
「…家族に会いたい」
その言葉は、口に出さないと決めたつもりだった。言葉にしても辛いだけ。私の居場所がないことを再認識するだけだから、と。
「…あ?」
別の紙を見ていたはずの幻が反応してこちらを見た。
「お前の家族なんて、ロクなもんじゃないぞ?会って良いことなんて何もない」
「わかってる。でも…」
実父は…私の本当のお父さんだけは、私のことを待っていてくれていると信じたかった。
「どうしているかだけ、確かめたい…。できる?」
幻はニヤリと笑った。
「お前がそれを望むなら、俺にできないことはない。今から行くか?」
今すぐにでも家族の元へ送る勢いの幻を片手で制し、深呼吸をした。
「待って。昔のお父さんは過労で倒れるぐらい働き詰めだった。行くのは週末にしよう。今は…」
私は白宮家の見取り図を手に取る。
「先にこっちを片付けなきゃ。元々、この家から離れることができたら、お父さんのことは探すつもりだった。ううん、この家から逃げ出すまでお父さんのことは忘れることにしたの」
迎えに来るはずだった、あの日。どうして、来てくれなかったのか。その後、養父によれば実父からの連絡はぱたりと途絶えたらしい。どうしても理由が知りたかった。…私を捨てたわけじゃないと、信じたかった。何か、どうしようもない理由があったのだと、信じたかった。今理由を聞けば、復讐の覚悟が崩れてしまうかもしれない。
「ふーん。ま、お前が今すぐじゃなくていいって言うなら待つけどよ」
やる気満々だった幻は不服そうだが、私の意思を尊重してくれた。
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