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五章
名前は?
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保健室を出た私と幻は、教室に向かって歩いていた。
「そういえば、幻」
ふと、とあることに気が付き隣を歩いている幻に話しかけたのだが。
「あ゙?」
あからさまに機嫌が悪い。余程さっきの先生が嫌いなのだろうか。
「あの先生、名前なんだっけ?」
その問いに拍子抜けしたような顔でこちらを振り返る。
「なんで?」
「だって、私が体調崩したときはだいたい幻が介抱してくれてたし、保健室行ってもすぐ迎えに来るし。あの先生と2人で話すことってあんまりなくて…。名前覚えてないんだよね」
私は真面目に困っていたのだが、何故か幻は鼻で笑った。
「お前はアイツの名前なんか知らなくていい」
「いや、そういうわけにはいかないでしょ…先生だし」
どこかで聞いたことがないか思い出そうとしている私をよそに、幻は機嫌良く笑った。
「お前が倒れても、この俺がいるんだから、何も問題ないだろ?」
「それは…」
そうだけど。何か納得できないものを感じながら、途中で幻と別れ、私は教室に入った。
先に根回ししたのが効いたのか、クラスメイトたちは私のことをすんなりと受け入れてくれた。…というより、憐れみの視線を感じる。攻撃的な空気は感じない。妹の目論見は失敗したようだ。妹はさぞ悔しがっていることだろうが、私は今のうちに迎撃準備をさせてもらう。妹はきっと、私への嫌がらせをそう簡単にはやめないだろう。
そもそも、妹は何故今になって幻を退職させると言い出したのか。
私が白宮家に預けられたのは小学校に入る歳のこと。それから今まで、私に親身になってくれる先生は少数ながらいた。たしかに、幻の世話の焼き方は目立っていたかもしれないが…。幻以前の先生に対して、妹が何かしたという話は聞いたことがないし、さっきのようにはっきりと私に向かって脅しをかけてきたこともない。
高校に上がって心境の変化でもあったのだろうか?
私は次の授業の準備をしながら、妹のことを考えていた。
授業が始まっても、思考はどうしても妹に囚われてしまう。
『おい。聞こえてるか?』
ぼーっと、黒板の板書をノートに書き写していた私は、突然聞こえた幻の声に固まった。周りに不審に思われないよう気を付けながら幻の姿を探すが、どこにもいない。目の前にいるのは数学の先生で幻ではないし、廊下にもいない。後ろに立っているわけでもない。姿が見えないのに、声だけが聞こえる。
『いいか?今の俺の声はお前にしか聞こえない。まあ、アレだな。お前が助けを求めたときは声に出さなくても俺には聞こえるってことだ』
幻からの説明を聞き、ありがたいような、困るような何とも言い難い思いを抱いた私のことは無視したまま、幻が続ける。
『あの女の親は俺の方でなんとかする。4時間目が終わったら作戦会議するぞ。いいな?』
私が返事をする前に、幻は勝手に話を切り上げた。私は誰にも気付かれないようため息をつくと、4時間目が終わるのを待った。
「そういえば、幻」
ふと、とあることに気が付き隣を歩いている幻に話しかけたのだが。
「あ゙?」
あからさまに機嫌が悪い。余程さっきの先生が嫌いなのだろうか。
「あの先生、名前なんだっけ?」
その問いに拍子抜けしたような顔でこちらを振り返る。
「なんで?」
「だって、私が体調崩したときはだいたい幻が介抱してくれてたし、保健室行ってもすぐ迎えに来るし。あの先生と2人で話すことってあんまりなくて…。名前覚えてないんだよね」
私は真面目に困っていたのだが、何故か幻は鼻で笑った。
「お前はアイツの名前なんか知らなくていい」
「いや、そういうわけにはいかないでしょ…先生だし」
どこかで聞いたことがないか思い出そうとしている私をよそに、幻は機嫌良く笑った。
「お前が倒れても、この俺がいるんだから、何も問題ないだろ?」
「それは…」
そうだけど。何か納得できないものを感じながら、途中で幻と別れ、私は教室に入った。
先に根回ししたのが効いたのか、クラスメイトたちは私のことをすんなりと受け入れてくれた。…というより、憐れみの視線を感じる。攻撃的な空気は感じない。妹の目論見は失敗したようだ。妹はさぞ悔しがっていることだろうが、私は今のうちに迎撃準備をさせてもらう。妹はきっと、私への嫌がらせをそう簡単にはやめないだろう。
そもそも、妹は何故今になって幻を退職させると言い出したのか。
私が白宮家に預けられたのは小学校に入る歳のこと。それから今まで、私に親身になってくれる先生は少数ながらいた。たしかに、幻の世話の焼き方は目立っていたかもしれないが…。幻以前の先生に対して、妹が何かしたという話は聞いたことがないし、さっきのようにはっきりと私に向かって脅しをかけてきたこともない。
高校に上がって心境の変化でもあったのだろうか?
私は次の授業の準備をしながら、妹のことを考えていた。
授業が始まっても、思考はどうしても妹に囚われてしまう。
『おい。聞こえてるか?』
ぼーっと、黒板の板書をノートに書き写していた私は、突然聞こえた幻の声に固まった。周りに不審に思われないよう気を付けながら幻の姿を探すが、どこにもいない。目の前にいるのは数学の先生で幻ではないし、廊下にもいない。後ろに立っているわけでもない。姿が見えないのに、声だけが聞こえる。
『いいか?今の俺の声はお前にしか聞こえない。まあ、アレだな。お前が助けを求めたときは声に出さなくても俺には聞こえるってことだ』
幻からの説明を聞き、ありがたいような、困るような何とも言い難い思いを抱いた私のことは無視したまま、幻が続ける。
『あの女の親は俺の方でなんとかする。4時間目が終わったら作戦会議するぞ。いいな?』
私が返事をする前に、幻は勝手に話を切り上げた。私は誰にも気付かれないようため息をつくと、4時間目が終わるのを待った。
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