蛇の狂人図鑑

ハライツキ

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農園

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 「君の作る料理は美味しいね。」
 「あら、ありがとう。」
  旦那はそういうと、皿に箸を伸ばす。彼は、煮物を口に運ぶと、口角をあげる。
 「これも、いいね‼」
 「ほらほら、口に物をいれながら、喋らない!」
   彼をたしなめるが、私は彼の言葉に、口角をあげてしまう。食事の用意の労力も、彼の笑顔で報われてしまう。
 「この野菜は、君が作ったものでしょ?」
 「えぇ、そうよ。私が丹精込めて作った野菜よ。残したら、怒るわよ。」
 「残さないよ、いつもありがとう。妊娠してるのに、無理しないでよ。」
 「大丈夫よ、子供のために、あなたにも頑張ってもらわないと!!」
「そうだね!!よしっ、頑張るぞ‼」
  また、彼は私に笑顔を向ける。彼のために、また、料理を作ろう。
 「こんなに美味い料理なら、母さんにも食べさせたかったなあ・・」
   私は、背中を冷たい刃で撫でられた感じがした。彼の母は、数年前から失踪している。母への依存心が強かった彼は、ぬけ殻のようになっていた。
   当時、付き合っていた私は、彼が見ていられなくなり、献身的に彼の生活をサポートした。その結果が、今の幸せな生活だ。だが、彼は、母親をまだ引きずっている。
 「お義母さんは、きっと帰ってくるわ。貴方みたいな人を、ほっとくようなことは出来ないわ。」
 「そうだよね!!ありがとう。」
   彼の顔から、悲しみが消える。私も不意に笑顔になる。
 「早く見つかると良いんだけど、母さんの料理が食べたいよ・・母さんの料理は、世界一だからね。」
    彼の一言に、私の心は闇に包まれた。








 「やっぱり、お袋の味には敵わないのね・・」
 私は、彼を殺した。後頭部に、一撃。ほぼ即死であった。私は、彼が好きだったのではない、誰かの胃袋を一番満足させられる自分が好きだったのだ。
   母親の料理を一番と言う彼と、一緒にいる理由はない。私は、彼の死体を処理することに決めた。処理する場所は、私の農園。彼を埋める穴を、私は堀り始めた。時間はかかったが、なんとか、一人分の穴を掘ることはできた。
   いざ、埋める時の彼は、どこか寂しげな表情をしていた。私は、慰めるように呟く。
 「大丈夫だよ、お母さんもこの中にいるからね。」
   彼の頭を撫でると、彼を穴の中に埋めた。私の農園の野菜達は、彼を栄養に育つだろう。
 「さようなら、私をこの子の一番にするために、頑張ってね。」
   私は、お腹を撫でながら、農園を後にした。
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