蛇の狂人図鑑

ハライツキ

文字の大きさ
上 下
3 / 39

愛欲人形

しおりを挟む
   「はあっはあっ、イクよユズキ」
    僕は、ユズキの中で快楽に見悶える。
「ユズキ、今日も良かったよ」
   そう言って、僕は彼女の髪を撫でた。

   僕と彼女は、一年の仲になる。
   出会いのきっかけは、インターネットだった。興味本位で見た、ラブドールのサイトを見たところ、そこにユズキがいたのだ。僕は続々購入を決めた。安い買い物ではないが、恋人もいなければ、趣味もない、無駄に貯めた金だけはある僕には、有意義な買い物だ。僕は彼女が来てから毎晩のように求めた。彼女は最高の人形だった。人形だったのだ。
  「私も気持ち良かったわ。」
    僕は、空耳かと思った。まさかな、そんなことはない。
   「疲れてるのかな、僕・・」
    射精の脱力感からかと、僕は思った。
「ケンジ、疲れてるなら休んだら?」
  今度は、はっきり聞こえた。
「おいおい、嘘だよな・・」
「嘘じゃあないわよ」
  ユズキの顔を恐る恐るみる。
「私、あなたのために生き始めたのよ。」
  こうして、僕とユズキの新たな生活が始まった。




    彼女が、生き始めたことで、僕の生活に潤いが出来た。部屋に愛するモノがいるのは、それだけで心が休まる。
  「ケンジ、ご飯出来たわよ。」
    夫婦と言うのは、こういうことなんだろう。無縁だと思っていた、僕には新鮮なものだった。ユズキはただ、笑って座っていた。
    僕達は、二人でテレビを見て、二人でお風呂に入り、二人で同じ布団に入り、二人で愛を育んだ。
   ユズキの声が、僕にしか聞こえない幻聴かと思っていたが、ユズキが大きな声で喘いだ時に、隣から壁を叩かれた。僕は、安心感からか、少し笑った。
   彼女は妄想の産物ではない、現実なのだ。僕は、幸せをただ噛み締める。こんな日々がずっしり続けば良かった。僕は続ける気だった。 






   「ねぇ、ケンジ。私達、結婚式をあげましょう。」
   ユズキは、僕に呟いた。テレビで見た、結婚式に感化されたみたいだ。
   「良いけども、多分、式場の人は驚くだろうね。」
  「人形だから?」
    僕はゆっくりと頷く。ユズキは、少し悲しそうな顔をする。
  「あなたと私は、同じ形をしているのに、一緒ではないのね。」
 「うん、けども、生きるってそういうものだよ。」     
「生きるのは、辛いのね。」
   僕達は、また、肌を重ねる。ユズキの肌がいつもより冷たく感じた。 

    

   目を覚ますと、僕の首にユズキの手がかかっていた。彼女の顔に、悲しみが見える。
  「ごめんなさい。私は、もう耐えられない。」
    彼女の言葉を聞いて、僕はユズキの頭をそっと撫でた。
  「大丈夫、わかってるよ。」
   










   









   「気味が悪いなあ。」
    刑事は頭を抱えて呟いた。アパートの大家から、最近、上の階の部屋の物音が聞こえなくなったらしい。不審に思ったので、通報したとのことだ。
    大家は、ボケているのか部屋の住民が、男か女かわからないとのことだ。鍵を開けて中にはいると、部屋には2体の人形が重なりあっているだけだった。
    まさか、こいつらが生活していたのか?なんて、子供だましの創造を大家に話す訳にはいかない。
   「だけど、もしそうならば・・」
   部屋の外で、なにかを言いかけそうになったが、口を閉ざした。多分、この部屋の中身と、言いかけたことは同じものだろう。ならば、俺がすることは、同じことだ。
   俺は、部屋の扉を閉めた。

























   「これからも、ずっと一緒だよ。」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

僕にとってのハッピーエンド

文野志暢
ホラー
僕は気がつくと知らない小学校にいた。 手にはおもちゃのナイフ。 ナイフを振っていると楽しくなる。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

The Last Night

泉 沙羅
ホラー
モントリオールの夜に生きる孤独な少女と、美しい吸血鬼の物語。 15歳の少女・サマンサは、家庭にも学校にも居場所を持てず、ただひとり孤独を抱えて生きていた。 そんな彼女が出会ったのは、金髪碧眼の美少年・ネル。 彼はどこか時代錯誤な振る舞いをしながらも、サマンサに優しく接し、二人は次第に心を通わせていく。 交換日記を交わしながら、ネルはサマンサの苦しみを知り、サマンサはネルの秘密に気づいていく。 しかし、ネルには決して覆せない宿命があった。 吸血鬼は、恋をすると、その者の血でしか生きられなくなる――。 この恋は、救いか、それとも破滅か。 美しくも切ない、吸血鬼と少女のラブストーリー。 ※以前"Let Me In"として公開した作品を大幅リニューアルしたものです。 ※「吸血鬼は恋をするとその者の血液でしか生きられなくなる」という設定はX(旧Twitter)アカウント、「創作のネタ提供(雑学多め)さん@sousakubott」からお借りしました。 ※AI(chatgpt)アシストあり

処理中です...