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12. ★分岐点探し2

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 俺はアルファらしいアルファだ。そりゃあ哲也に比べれば確かに4㎝くらい小さいかもしれないが、これでも183cmもある。身体だってスポーツで鍛えていて、筋肉が付いたがっしりとした体格をしている。
 まさか、そんな俺をそういう意味で好きになる同性のアルファが居るとは、その時は想像した事も無かった。

 哲也の好意に気が付いてから、数日はギクシャクしたかもしれない。しかし、相手の方は特に俺に何かを伝えるつもりは無いらしい。
 そういう視線を向けるのも、俺が哲也を見ていない時だけ。歩きながらふとさりげなくショーウィンドウや教室のガラスに映る影を確認すると、俺の目を盗んで舐めまわすように俺の事を見ている。それだけ。

 だから、もしかしたらコイツもアルファ校の名残が残っているだけで、一時の気の迷いだと思ったのだ。もっと女性やオメガが多い環境になれば、俺をそういう目で見ていた事すらも忘れるだろうと。
 ボディータッチが少し多い気はするが、許容範囲ではある。実害はないだろうとそのまま親友関係をつづけた。


 俺らの交友関係は、大学を卒業してからも、都合がつけば毎週飲みに行く位のペースで続いていた。


 やがて俺は自社製品のCMに起用するタレントを選ぶ接待の席で、凛空りくと出会った。事務所に枕営業で仕事をとって来いという意図で連れてこられていた凛空。
 しかし、当人の方はただの顔合わせだと思っていた様で、その場に一人残され、料亭の続き間に敷かれた布団を前に顔を真っ赤にして固まっていた。
 俺の方もいくらオメガタレントだからと言って、そんな事を強要するつもりもなかった。事務所の対応に呆れ返って横を見ると、身体を強張らせて目に涙を溜めて必死に毒づく凛空が居て、一瞬で恋に落ちた。

 この小さな身体で傷つきやすい心を持ったかわいい強がりオメガを俺が護りたい。いや、守らなくてはならないと。

 出会いがそんなだったから、俺は権力を笠に他にもこういう事をしていた最低アルファだと思われていて、凛空の警戒を解くまでが大変だったんだっけか。

 でも人に懐かない野生のリスを少しずつ手懐けていく過程が、とても楽しかった。


 極秘交際の末ツガイになった後。やっとアイツに事後報告をした。
 その時の哲也の苦虫を噛み潰したような顔といったらなかったな。

 ってっきり俺は、『お前ロリコンだったのかよ』っていう初代合法ショタをツガイにした俺に対する批判なんだと思ったのだが…。今考えるとそうでは無かったのかもしれない。

 哲也にとっての凛空は、俺のことを横から掻っ攫っていった女狐だったんだろう。テレビに映っている姿と普段の凛空がまるきり違う事からして、このぶりっ子が俺の櫂を奪っていきやがってと恨みを募らせていたのかもしれない。
 もしかしたら、ツガイが出来て俺と会う頻度が減った事も関係していたやもだ。


 だが、俺が結婚してすぐにアイツも許嫁と結婚したし、俺たちに蒼空が出来てすぐ、アイツも後継者をつくった。

 月に一度は会って、家族ぐるみで遊びに行った。お互いの家もよく行き来した。時にはお互いのツガイ無しで、子供達だけを連れて二人で遊びに出かけたりもした。

 だからてっきり、もう俺の事は吹っ切れたんだと思っていたのに……。

 そこに来てこの35年越しの執着だ。寝耳に水も良い所だ。


 今思えば、凛空と出逢ってから結婚し、蒼空が生まれ、順調に育っていくのを見守るまで。通貨危機が起きて会社が倒産する直前までが、俺の人生の中で一番幸せな時期だったな。
 はぁ~~。本当に俺はどこで間違えたんだろうな。
 あの時そう言う目で俺を見るなとガツンと言って、その芽生えたばかりの淡い恋心を摘んでいれば良かったのか。それともそもそも隣の椅子のヤツになんて話しかけずに、哲也とは出会わなければよかったのか。

 しかし、出会わなければ良かったと片付けてしまうには、アイツと過ごした楽しい想い出が多すぎた。だって、俺の人生で一番の、なんでも話せる親友だと思っていたんだ。ほんの2か月前までは。

「ガチャン」トントントントン。
 地下室の蓋が開けられ、階段を降りてくる足音がする。

 あぁ、やっと哲也が帰って来た。

 階段を下りきった所にある鉄格子を開け、哲也が入ってきた。


 良かった。帰ってきた。
 あぁ、あぁ…早く…早く外してくれ。


 俺のペニスとアヌスにこんな凶暴なものを入れたまま、仕事に出かけるなんてホント血も涙も無い奴だ。


『ただいま』も『今帰った』もなく、開口一番発したのは、
「良い塩梅だな。」という今日のオナホへの吟味だった。

「てつや…これ…。ぎゃっ!」

 外してとまだ言い終わらない内に、俺の後ろから振動する極太アナルプラグが無造作に抜き出された。
 次いで、スーツ姿のズボンのチャックを下ろしただけの哲也に後ろから貫かれ、出そうとしていた声は悲鳴に変わった。


 俺はアルファだぞ!オメガじゃないんだ…。こんな…こんな…。いきなり突っ込むな。切れてしまうだろうが。

 今はコイツに毎日甚振られているから、怖くて自分の肛門が見れない。きっとアルファらしからぬ状態になってしまっているだろう。現実を直視するのが恐ろしい。


 結局今日もコイツの意のままに散々甚振られたものの、凛空の情報は何も手に入らなかった。


 運命のツガイに買われたという俺の凛空。お願いだ。元気でいてくれ。
 もし君が傷つかずに過ごせているのならば、例え君が心変わりをして俺の事を忘れていたとしても、運命のツガイとやらを好きになっていたとしても、決して君を責めないから。どうか。


 俺のこの願いは、後に粉々に砕かれる事になることを、この時の俺はまだ知らなかった。
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