12 / 42
承
#8.コイツは誰だ
しおりを挟む
櫂は顔を覆って蹲っていたが、ハッと気が付いた。
「お前まさかだけど、こんなことを繰り返してるんじゃないだろうな?
さっき十度目の正直って言ったのは…整形の回数だよな?」
「うん?まぁ整形もそれ位の回数はさせたけど、彼がちょうど十人目だからさ。
俺、地下オークションのスポンサー兼お得意さんなんだよね。
それも、時々入ってくるアルファやベータをいい値段で買ってくれる上客だからさ。特別に贔屓して貰ってるわけ。」
「闇オークションの…って、それ良い事でもなんでもないだろ。得意気に言うなよ。」
櫂はもうどこからツッコんで良いのか解らない。ひどく狼狽していた。
「俺のこの三十五年間の櫂への愛を知っておいてほしくてさ。
櫂に少しでも似ているところがあると、他の男に触らせたくなくて、ついつい買っちまうんだよな。」
「!!」
櫂は生理的な嫌悪感が拭えず声に出てしまいそうだったが、なんとか堪えた。
それは愛でもなんでもないだろう!ただの執着だ!お前のただの執着に赤の他人を巻き込むな!
そう言えたらどんなに良いだろうか。
気の置けない友人。それも、親友だと言っても良いほどの仲だと思っていたのに。思ったことはなんでも口に出来る仲だったのに。
今は一言一言を考えて言葉を発しなくてはならない。
櫂如何によって、目の前のこの哀れな若い男の運命も、自分の運命も一瞬にして決まってしまうのだから。
「なぁ、お前金持ちなんだろ?人一人くらい一生養ってたって、痛くも痒くもないだろ?
俺は、俺と同じ顔のやつが俺のせいで殺されるのは……嫌だよ。」
櫂はどうして良いのか解らない。とりあえず相手を少し持ち上げて、甘えている体で交渉してみることにした。
「お優しいことだ。お前のその優しくて真っすぐなところが好きだったよ。
だからあんな半分人助けみたいなハイリスクローリターンな国に投資して、失敗しちゃうんだよ。」
「あれは、地震が起きたせいで。天災だったんだから仕方ないだろ?」
あれは取れるリスクと銀行との付き合いの深さを見誤っていた俺の落ち度だ。だが、まさか2カ国同時にそうなるとは、予想のしようが無かった。
「その天災が一つ起こるだけで通貨危機になっちゃうような脆弱な国々に、正義感だけで投資するから悪いんだよ。」
「そんなの日本だって同じじゃないか。このまま円安が進んだ上に関東で大きな地震でも一つ起きてみろ、みるみるうちに似たような事になるのは目に見えてる。」
「まぁ、そりゃあ祖国だから、そこはある程度仕方ないだろ。
ちゃんと海外にも資産は隠してあるから安心しな。お前と蒼空くんを一生不自由なく囲える位にはあるからさ。
分散投資もスワップ管理もバッチリ!例え日本で通貨危機が起きても、そうそう潰れない様に資金繰りしてるぞ。」
蒼空を囲う!だと?もしかして、蒼空を買ったのはコイツか?
まずは下手に出るしかない。この男が何を考えているのか、じっくり探らなくては。
情報は一度には引き出せない。無理して一度にやろうとすれば、相手はこちらが情報を引き出そうとしていると察し、警戒されてしまい開示されなくなる。
まずは、俺の事をどう思っているかだ。コイツはまだ俺の事が好きなのか?それとも、自分のものにならなかった俺を滅茶苦茶に憎んでるから、復讐の為にこんな事をしているのか?
ずっと親友だと思っていた。でも今はコイツの事が、もう全く、これっぽっちも解らなくなってしまった。
「あーあーそうだよ。もう何とでも言え。
俺は、リスク管理が充分に出来てなくて、自分の偽善の為に家族も何もかも犠牲にしてしまった愚かな男だよ。
俺の家族まるごと養えるお前と違って、目の前の若者一人助けられない無力な男だよ。俺をけなしてそれで満足か?
お前、俺の事が好きなんじゃないのかよ。」
軽く探ってみる。
「好きだったさ。昔は単純に好きだったよ。
でも、俺だけのものにならないお前を、同じくらい憎んでもいた。
人気オメガ俳優と電撃結婚して、あんな綺麗な息子が出来て。
もともと俺の手が届かない存在だったが、更に届かない所にどんどん行っちまうお前がな。
拗らせてんだよ。こっちは。」
成程。可愛さ余って憎さ百倍という所か。
「拗らせすぎだろうが。
お前にだってお綺麗で優秀な妻子がいるだろうが。
なんで俺の方には居ちゃダメなんだよ。横暴だろうが。」
哲也は何も言わずに微笑んでいる。その何を考えているのか解らない笑顔が怖い。
「なぁ、もし俺がお前の言う事聞いたら、凛空も蒼空も、そして目の前のこの俺の顔をした男も、みんな助けてくれるのか?」
「そうだなぁ~。少なくとも蒼空くんは助けたいとは思っているよ。コイツもこのまま飼っててやってもいい。」
そこに凛空の名前が入っていない所に、この男の本質を感じる。
間違いない。この男は凛空を恨んでいる。
運命のツガイに買われたから幸せ?本当にそんな都合の良い話があるのか?
この男は間違いなく何かを隠している。でもまずは、聞き出し易そうな蒼空の方からだ。
「お前、もしかして蒼空が今どこにいるか知ってんのか?」
「そりゃあね。知りたい?」
「知りたいに決まってんだろ!
頼む、教えてくれ!」
櫂は不承不承ながら、哲也に頭を下げた。
「……俺が何を望んでるか、解ってるだろ?それをくれ。」
「俺の身体だなんてキモイ事言うんじゃねーぞ。」
「そのお前の身体なんだなぁ。これが。
出来れば心も欲しいなぁ~。」
その言葉を聞いた瞬間、櫂は眦を吊り上げた。
「お前まさかだけど、こんなことを繰り返してるんじゃないだろうな?
さっき十度目の正直って言ったのは…整形の回数だよな?」
「うん?まぁ整形もそれ位の回数はさせたけど、彼がちょうど十人目だからさ。
俺、地下オークションのスポンサー兼お得意さんなんだよね。
それも、時々入ってくるアルファやベータをいい値段で買ってくれる上客だからさ。特別に贔屓して貰ってるわけ。」
「闇オークションの…って、それ良い事でもなんでもないだろ。得意気に言うなよ。」
櫂はもうどこからツッコんで良いのか解らない。ひどく狼狽していた。
「俺のこの三十五年間の櫂への愛を知っておいてほしくてさ。
櫂に少しでも似ているところがあると、他の男に触らせたくなくて、ついつい買っちまうんだよな。」
「!!」
櫂は生理的な嫌悪感が拭えず声に出てしまいそうだったが、なんとか堪えた。
それは愛でもなんでもないだろう!ただの執着だ!お前のただの執着に赤の他人を巻き込むな!
そう言えたらどんなに良いだろうか。
気の置けない友人。それも、親友だと言っても良いほどの仲だと思っていたのに。思ったことはなんでも口に出来る仲だったのに。
今は一言一言を考えて言葉を発しなくてはならない。
櫂如何によって、目の前のこの哀れな若い男の運命も、自分の運命も一瞬にして決まってしまうのだから。
「なぁ、お前金持ちなんだろ?人一人くらい一生養ってたって、痛くも痒くもないだろ?
俺は、俺と同じ顔のやつが俺のせいで殺されるのは……嫌だよ。」
櫂はどうして良いのか解らない。とりあえず相手を少し持ち上げて、甘えている体で交渉してみることにした。
「お優しいことだ。お前のその優しくて真っすぐなところが好きだったよ。
だからあんな半分人助けみたいなハイリスクローリターンな国に投資して、失敗しちゃうんだよ。」
「あれは、地震が起きたせいで。天災だったんだから仕方ないだろ?」
あれは取れるリスクと銀行との付き合いの深さを見誤っていた俺の落ち度だ。だが、まさか2カ国同時にそうなるとは、予想のしようが無かった。
「その天災が一つ起こるだけで通貨危機になっちゃうような脆弱な国々に、正義感だけで投資するから悪いんだよ。」
「そんなの日本だって同じじゃないか。このまま円安が進んだ上に関東で大きな地震でも一つ起きてみろ、みるみるうちに似たような事になるのは目に見えてる。」
「まぁ、そりゃあ祖国だから、そこはある程度仕方ないだろ。
ちゃんと海外にも資産は隠してあるから安心しな。お前と蒼空くんを一生不自由なく囲える位にはあるからさ。
分散投資もスワップ管理もバッチリ!例え日本で通貨危機が起きても、そうそう潰れない様に資金繰りしてるぞ。」
蒼空を囲う!だと?もしかして、蒼空を買ったのはコイツか?
まずは下手に出るしかない。この男が何を考えているのか、じっくり探らなくては。
情報は一度には引き出せない。無理して一度にやろうとすれば、相手はこちらが情報を引き出そうとしていると察し、警戒されてしまい開示されなくなる。
まずは、俺の事をどう思っているかだ。コイツはまだ俺の事が好きなのか?それとも、自分のものにならなかった俺を滅茶苦茶に憎んでるから、復讐の為にこんな事をしているのか?
ずっと親友だと思っていた。でも今はコイツの事が、もう全く、これっぽっちも解らなくなってしまった。
「あーあーそうだよ。もう何とでも言え。
俺は、リスク管理が充分に出来てなくて、自分の偽善の為に家族も何もかも犠牲にしてしまった愚かな男だよ。
俺の家族まるごと養えるお前と違って、目の前の若者一人助けられない無力な男だよ。俺をけなしてそれで満足か?
お前、俺の事が好きなんじゃないのかよ。」
軽く探ってみる。
「好きだったさ。昔は単純に好きだったよ。
でも、俺だけのものにならないお前を、同じくらい憎んでもいた。
人気オメガ俳優と電撃結婚して、あんな綺麗な息子が出来て。
もともと俺の手が届かない存在だったが、更に届かない所にどんどん行っちまうお前がな。
拗らせてんだよ。こっちは。」
成程。可愛さ余って憎さ百倍という所か。
「拗らせすぎだろうが。
お前にだってお綺麗で優秀な妻子がいるだろうが。
なんで俺の方には居ちゃダメなんだよ。横暴だろうが。」
哲也は何も言わずに微笑んでいる。その何を考えているのか解らない笑顔が怖い。
「なぁ、もし俺がお前の言う事聞いたら、凛空も蒼空も、そして目の前のこの俺の顔をした男も、みんな助けてくれるのか?」
「そうだなぁ~。少なくとも蒼空くんは助けたいとは思っているよ。コイツもこのまま飼っててやってもいい。」
そこに凛空の名前が入っていない所に、この男の本質を感じる。
間違いない。この男は凛空を恨んでいる。
運命のツガイに買われたから幸せ?本当にそんな都合の良い話があるのか?
この男は間違いなく何かを隠している。でもまずは、聞き出し易そうな蒼空の方からだ。
「お前、もしかして蒼空が今どこにいるか知ってんのか?」
「そりゃあね。知りたい?」
「知りたいに決まってんだろ!
頼む、教えてくれ!」
櫂は不承不承ながら、哲也に頭を下げた。
「……俺が何を望んでるか、解ってるだろ?それをくれ。」
「俺の身体だなんてキモイ事言うんじゃねーぞ。」
「そのお前の身体なんだなぁ。これが。
出来れば心も欲しいなぁ~。」
その言葉を聞いた瞬間、櫂は眦を吊り上げた。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─
藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。
そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!?
あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが…
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊
喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者
ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』
ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
Rシーンは※をつけときます。

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる