【完結】牧場で羊になりきっていたら、氷結の貴公子に夜のお供を命じられました

夜曲

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どうやらライランド様は、ズワルト王の誕生日祝いに贈った死刑囚の草食獣人の中に、見目が麗しい暗殺者を何人か仕込んでいた様である。

ラドーム殿下が王太子になった途端に動き出す手筈だったのだが、王様は既に一度草食獣人に不覚を取っている身。ガードが堅くてなかなか手を下すタイミングが掴めなかったらしい。
ラドーム殿下の王太子就任から、ひと月もかかってしまったようだ。

「これがズワルト国との停戦合意書だ。だいぶロマノフ国側に有利な様にしてある。この実績を引っ提げて、明日は胸を張って王太子になれるぞ。
メリノの王子としての初実績だ。これでメリノの為政者としての実力に、文句を言う貴族も居なくなるだろう」
とはライランド様の言だ。

ちょっと待って、ボクのお妃様、有能過ぎるよ。
でも、幼少期から疎まれて育ったとはいえ、実の父親なのに、良いのかな……。

その答えは、ラドーム殿下が会話の中で下さった。父王の圧政で多くの民や貴族さえもが苦しんでいたのだから、これで良いのだと。王様の嗜虐趣味は何も草食獣人だけに向けられていたわけではなかったらしい。
なるほど。ラドーム殿下は父王には疎まれていなかったはずだけど、これが為政者というものか。ボクには一生成れる気がしないな。


明日の王太子宣誓式を“こっそり”見に来たはずのラドーム殿下は、国が混乱しているだろうからと、渋々帰っていった。

「また3ヶ月後の結婚式の時には、ぜひ美しい晴れ着姿を見せてくださいね!」
とは、恐らくバルバリーに向かって言ったのだと思うが、ボクに言ったのだと勘違いしたライランド様がまた怒っている。


いずれにせよ、この葉だけで根が無かった”侵略戦争”は、一応の終結を迎えたのだった。

ライランド様兄弟に触発されてなのか解らないが、帰りたくない兵士が続出し、ズワルト王国に近い港には、多くの兵がそのまま残ったらしい。
得意の身体能力を活かしながら、百人力の仕事をして、草食獣人とカップルになって仲良く暮らしていると聞き、その草分け的な存在になれたボクも少し嬉しい。


@@@@@


孤児院育ちのボクの王太子就任と、侵略国の元王子であるライランド様の結婚は貴族達から反対意見の多かった。しかし、停戦合意書の中に、「両国親善の証として、ズワルト王国の第一王子をロマノフ王国の王太子に嫁がせる。」と書かれていると、なかなかそれに異議を唱える事ができる貴族はいない。

ズワルト王国は帝国を名乗って良いほどの大国だ。この、『第一王子を嫁がせる』というパワーワードは、多くの貴族の溜飲を下げたのもまた事実だった。

国王の崩御自体は、ラドーム殿下が城に戻るまで隠されたが、その間にラドーム殿下がライランド様の王籍剥奪を無かった事にしてくれたのである。


@@@@


そうして時は流れ、やってきました。
いよいよ今夜は結婚前夜でございます。

なぜかナディーがひたすらにボクのお尻の拡張を勧めてくるのだが、一体どうしたものか。

ナディーは完全に、草食獣人のボクが受けとめる方になるのだと疑っていない様で、ボクの方が夫なんだと何度言っても、解ってくれない。

こんなに若いのに、固定概念でガチガチになっている様だ。可哀想に。
今や時代は草食獣人も肉食獣人も対等なのだ。もっと柔軟な思考を持った方がよいぞ。

仕方ないなぁ。子供のわがままに付き合ってやるかと、ボクは念の為拡張をした。


@@@@


翌朝、礼服に身を包んだライランド様自ら、ボクを迎えに来た。

ボクの礼服姿を一目見て、ほぅっと見惚れているのが解って照れ臭い。

今のボクのツノはかなり完全に近い形で伸びていて、この国で神に選ばれし神聖な羊と信仰されている王族の姿にだいぶ近くなっているとはいえ、こんな貧乏くさいぼんやりとした顔をしているボクに見惚れてくれるなんて、ライランド様くらいなんじゃないだろうか。

王太子宣誓式の時にも似た様な衣装は着たというのに、いちいち感動してくれるなんて、本当に良い妻を持ったなぁ。ボクには勿体ない位だ。


そもそも、ボクが王太子だなんて、随分と遠くまで来たものだ。

ずっと孤児として育ってきた。まさか自分の人生で、結婚式に本当の両親や兄弟が立ち会ってくれることがあるなんて、思いもしていなかった。
これも、全部ライランド様のおかげだ。ライランド様が、本物の侵略ではなく、侵略ごっこをしてくれていたから。


ライランド様がいなければ、ボクは未だにあのブラック商会で、肉食獣人達に怒られながら、来る日も来る日も計算ばかりしていただろう。まだ日が登る前から働き始めて、月が傾き始めた頃に部屋に帰って泥の様に眠る。そんな日々だっただろう。

ライランド様がいなければ、ボクの故郷は一面の焼け野原になっていただろう。戦力差は火を見るよりも明らかだ。この美しい山河が蹂躙され、沢山の草食獣人が愛玩奴隷として輸出される、そんな奴隷大国になっていただろう。

ライランド様がいなければ、ボクは一生肉食獣人を怖がって生きただろう。あのしなやかな筋肉に包まれて眠る幸せを永遠に知らないままだっただろう。


健やかなる時も、病める時も、ボクはライランド様と生涯共にあり、大切にすると誓います。

ボクは万感の想いで、隣に立つ最愛の人を見上げた。

神父さんに誓いのキスをと言われ、ボクは顔を真っ赤にしながらも、一生懸命背伸びをした。
あれ?夫であるボクの方からキスをしないといけないのに届かない。

ライランド様はなんとも言えない感極まった顔でそんなボクを愛おしそうに見ていたが、そのしなやかな手が急にボクの首の後ろに伸びてきて、そっと支えられたかと思うと、一気に熱烈なキスが降ってきた。

儀式的なキスで良いのに。我慢の限界がきたのか、ライランド様のザラザラとした舌が歯列を割って入り込んできたところで、お父さまが大きく咳払いをした。

ハッと我に返ったライランド様が名残惜しそうに離れていく。

待って、そういえばボク達、ずっと一緒に寝ていたけれど、キスをするのは初めてだ。というより、今のボクのファーストキスだったんだけど!
先程までの始終紳士的な態度から豹変したライランド様の雄味に、ボクの頭はクラクラとしそうだった。もう、抱いて。

いやいやダメダメ。ボクの方が夫なんだから、初夜はガツンと男気を見せて、がんばらないといけない。ボクは半年もの間、長いことお預けをされていた愛する妻を満足させるために、気合いを入れ直した。
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