【完結】牧場で羊になりきっていたら、氷結の貴公子に夜のお供を命じられました

夜曲

文字の大きさ
14 / 34

14.

しおりを挟む
「苦しゅうない。苦しゅうない。立ちなさい。」

そう言って立ち上がったボクを、国王様は頭のてっぺんから足の先まで舐めまわす様に見た。

ボクは肉食獣人からよくそういう目で見られる事があるから、知っている。
あの凄く嫌な視線である。

あっ…これ…まずいんでは。

いつでもボクを庇える様に、ナディーくんがボクの斜め前に立っているし、扉が閉まってしまわない様にと、ライランド様付きの侍従が扉の側に立っていて、皆でボクを守ろうとしているのが伝わってくる。

でも、相手は国王様なわけで……。


「何をしている!早く出ていかんか!」

と言われては、そこに残れる者は一人もいなかった。



閉められるドアの音が、やけにボクの耳に響いた。

「さてと。今はライランドのヤツが自ら夜な夜な調教していると聞いているが、お前はワシの誕生日プレゼントだ。
安心しなさい。あんな朴念仁ではなく、来週からはワシがお前の主人だ。たっぷりと可愛がってやるぞ。

その白黒どっちつかずの髪は余り可愛く無いが、それが気にならないほど宝石でいっぱい飾りつけてやるから安心しなさい。

どれ、ちょいと仕上がり具合を見てやろう。」


ボクが国王様へのプレゼント?そんな事、ライランド様からは一言も聞いていない。

嘘だと信じたいが、確かに縁もゆかりもないボクをこのまま一生ここに飼っておく意味も解らない。父王に献上する予定だったといわれた方が、よっぽどしっくりくるのも確かだった。


とはいえ、これからされるであろう事に、ボクはとてつもない嫌悪感を覚えた。


本を読ませてもらえる代金をライランド様に支払おうと思った時には全く感じなかった悪寒が、足の先から背中までゾクゾクゾクっと這い上がってくる。


どうしよう。密室に二人きり。これは逃げられない。

王様の手が伸びて来て、ボクをその長い腕の中に納めた。


「おぉ。プルプル震えていて可愛いのぉ。
ワシは草食獣人が大好きでな。今侵攻しているのも、一つは復讐の為じゃが、もう一つは草食獣人の奴隷を沢山手に入れる為なんじゃよ。

それなのに、ライランドのやつ、トロトロとしおって。あんな弱っちい小国、とっとと終わらせれば良いものを。」


ロムニーに切り落とされてから1月が経って、少し盛り上がって来たツノの跡を、国王の指先がたどる。

「少し伸びてきているな。ワシのところに来るまでには、しっかり切っておけよ。
さぁ、服を脱いで身体を見せてみなさい。」

そういわれても、ボクの手が動くことが無いのを見ると、国王は呆れた顔で寝椅子に腰掛けた。

「はぁ、奴隷一匹調教できんとは、なんとも出来が悪いヤツじゃ。弟とは大違いだ。」

それを聞いて、ボクの不手際は全部ライランド様のせいにされてしまうと思い、ボクは急いで服を脱ぐことにした。

いくらこの人から息子と思われていないとしても、ライランド様そっくりのこの口から、これ以上ライランド様の悪口を聞きたくはなかった。


「ほれほれ。そんなに急ぐな。雰囲気も何も無いなぁ。
本当アヤツはどんな教育をしているんだか。」

ボクの殊勝な心がけは、どうやら逆効果だった様だが。



その時、「ドンッ」という大きな音と共に扉が破られ、遅れて聞こえる「パラパラパラ」という音と共に、黒い影がボクの前に着地した。

丁度ボクは屈んで最後の一枚パンツを脱いだところだったので、黒い影がボクの裸体を王様から隠してくれた形だ。


「ガウォォォ!!」

狭い部屋に、黒豹の力強い咆哮が響き渡る。


「こらこら。そう怒るな。どうせワシへのプレゼントなんじゃろ?少し早めに味見をしようと思っただけじゃないか。

元はと言えば、お前がなかなか戦地から草食獣人を連行して来ないから悪いのじゃ。
手元の草食獣人がだいぶ少なくなってきたから、そろそろ補充しなくてはと思っていたところだ。」

さすが王様。興奮薬を使われた時とどっちがマシかという位に目が血走っている、迫力満点の巨体黒豹に睨まれても、全く動じていない。

視線を横にずらすと、ライランド様はまた扉を蹴破ってしまった様である。元から薄い扉だと思ってはいたが、こうも薄かったのだなと、飛び散った破片を見て妙な感想を抱いた。

ライランド様の登場で、張り詰めていた気が、少しずつ緩んでいくのが自分でも解る。

開いた穴からは、心配そうな顔でナディーが覗いていた。


獣形態では埒が明かないと思ったのか、ライランド様はしゅるりと音もなく獣人形態に戻った。

初めて見るライランド様の背中は、見るからにしなやかな筋肉で覆われていて、とても美しかった。いつもはコントロールできている尻尾が不機嫌さを隠せずに、バタバタと揺れている。


そのままスッと跪き、臣下の礼を取る。

「国王様、残念ながらこの子は国王様に献上する予定の者では無いのです。
もしお望みでしたら、来週の誕生日祝いには20名ほどの草食獣人をご用意しましょう。」

だが王様は、まるで自分の息子が自分に跪くのは当たり前かの様に、立てとも言わずにそのまま会話を続ける。


「ん?だが、ラコーヌがそうだと言っていたぞ。」

「またいつものラコーヌ妃様の勘違いでしょう。
この子は、私が此度の武器調達から連れ帰った学者でして、今は日夜戦術を考えて貰っているところです。」

ラコーヌ妃は王妃様の不貞を疑った王様が娶った二番目の妃で、ライランド様の弟君のお母様だ。
よく意地悪をしてくるから、気をつける様に言われている。


「は!この軽そうな頭で戦術?笑わせるな。
こんなヤツが考えた戦術なぞ怖くて使えんわい。
しかも、ソイツが読んでいたのは我が国の地理書ではないか。敵国の間者の間違いじゃろう。

その子を今すぐに渡しなさい。ワシが使ってやる。」


王様が寝椅子から立ち上がってこちらに来るのを、ライランド様が立ち塞がる。

「……。
いくら国王様でも、お貸しする事はできません。
彼は、私にとって……とって……その、大事な人なのです。」


物凄く照れている迫真の演技だが、残念ながら今のライランド様は獣形態から移行したばかりで、全裸である。
全く説得力がない。


「大事?そうか。そうか。
ワシに似ているところが一つも無いと思っていたが、まさかの草食獣人好きが似るとはな。

じゃあ、ここでソイツを抱いてみろ。草食獣人の可愛がり方が解っているか、ワシが見てやろう。」


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

見捨てられ勇者はオーガに溺愛されて新妻になりました

おく
BL
目を覚ましたアーネストがいたのは自分たちパーティを壊滅に追い込んだ恐ろしいオーガの家だった。アーネストはなぜか白いエプロンに身を包んだオーガに朝食をふるまわれる。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない

muku
BL
 猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。  竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。  猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。  どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。  勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。

【完結】家族に虐げられた高雅な銀狼Ωと慈愛に満ちた美形αが出会い愛を知る *挿絵入れました*

亜沙美多郎
BL
銀狼アシェルは、一週間続いた高熱で突然変異を起こしオメガとなった。代々アルファしか産まれたことのない銀狼の家系で唯一の……。 それでも医者の家に長男として生まれ、父の病院を受け継ぐためにアルファと偽りアルファ専門の学校へ通っている。 そんなある日、定期的にやってくる発情期に備え、家から離れた別宅に移動していると突然ヒートが始まってしまう。 予定外のヒートにいつもよりも症状が酷い。足がガクガクと震え、蹲ったまま倒れてしまった。 そこに現れたのが雪豹のフォーリア。フォーリアは母とお茶屋さんを営んでいる。でもそれは表向きで、本当は様々なハーブを調合して質の良いオメガ専用抑制剤を作っているのだった。 発情したアシェルを見つけ、介抱したことから二人の秘密の時間が始まった。 アルファに戻りたいオメガのアシェル。オメガになりたかったアルファのフォーリア。真実を知るたびに惹かれ合う2人の運命は……。 *フォーリア8歳、アシェル18歳スタート。 *オメガバースの独自設定があります。 *性描写のあるストーリーには★マークを付けます。

処理中です...