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恥ずかしすぎる…。ボクはそのまま布団の中に潜り込んで、ドアの向こうでロムニーさんの報告が終わるのを待った。
「その…帰ったぞ。」
ライランド様がかなり気まずそうにしている。
「じゃあ、続きを!」
「それには及ばない!」
ライランド様は類稀なる反射神経で、ボクの声に被せて言った。
「きみをここに連れてきたのは、さすがに家畜の羊と一緒の倉庫に、それも檻の中に入れておくのは人権的に問題があると考えたからだ。
決して邪な気持ちではない。」
えぇ?本当に??
別にロムニーさんに見られたからって、特殊趣味を恥じる事はないのに。
でもまぁ、多分ボクの方が年上だし、ここは寛大な心でそういう事にしておいてあげよう。
「分かりました!もし必要でしたらいつでも言って下さいね!
じゃあ、先払いでここにある本を読ませて頂きたいんですが…。」
「本は自由に読め。別に奉仕は要らん。」
「そうなんですかぁ…。」
意図せず、何故だか本当に残念そうな声が出てしまい、自分の声音に驚いた。
それには、ライランド様も気がついた様だ。
「この前はツノ付きだと言って悪かったな。
別に差別を…いや差別には違いないんだが、草食獣人だからと見下している訳ではなく、俺はただツノがダメなだけなんだ。
今の君の姿は問題ない。むしろ垂れ耳が可愛…
いや。なんでもない。
とにかく、女…いや男もだが、人を買うという行為自体が、俺は余り好きではない。
もし君がお金を稼ぎたいだとか、好きでするのならば構わないが、そうでないならば、そういう事をする必要はない。
こうなったからには、俺もジャコブも一生面倒をみるつもりでいるから、安心しなさい。
ただ…俺たちの国は一年中雪に覆われていて、君が気に入ってくれる草や野菜が生えているかどうか……。一応努力はしようと思っているが……って聞いているのか!」
ヤバっ。どの本を読もうかと上の空で、偉い人のお話を余り聞いていないのがバレてしまった。
「はい!聞いています!
でも、ただ飯食らいは良くないと思うので、何かボクでお手伝い出来る事があったらさせて下さいね!」
「あぁ、君がそうしたいならそうするといい。航海中は特に行動の制限はしないつもりだ。
ただ、寄港中は万が一にも逃げられたら困るから、ここの部屋に居てもらおうと考えている。ここは外から鍵がかかるし、窓には鉄格子がついている上に、ドアを開けても俺の執務室だからな。君の足では逃げられまい。」
確かに。あの時ひとっ飛びで、執務机に座っていた状態からボクに飛びかかった跳躍力を思い出し、ボクの足では絶対に逃げられないだろうなと思った。
ボクはこう見えても非常に合理的で、無駄な事はやらない主義だ。
「わかりました!この本が読めるのなら、一生監禁して頂いても構いません!」
「一生…。」
あぁ。つい本音が。自ら監禁を望むなんて、その奴隷根性にドン引きされてしまっている様だ。
「とっとにかく、ライランド様はお仕事お忙しいですよね!ボクの事はお構いなく!」
「あぁ。解った。ランプはそこだ。食事はここに運ばせる。扉には念の為鍵を締めるから、何かあったらノックをしてくれ。」
「はい!解りました!」
今までの人生の中で一番笑顔になった『解りました』だった。
@@@@
ひrjhkwgqぎhqk。おい。
「おい。聞いているのか。
もう出港したから、ジャコブの部屋に戻って良いぞ。」
いつの間にかライランド様がボクの目の前に立っていた。本に夢中になっていて、全く気が付かなかったが、どうやら日が暮れる前に、船は動き出した様だった。
「あの…このままここに居ちゃダメですか?」
案の定ここにある本の内容はボクには難しく、調べものをしながら読み進めているが為に、本を何冊も広げていた。
部屋いっぱいに開かれた本を見て、ライランド様も、これを動かすのは大変だと思ったらしい。
「はぁ~。好きにするがいい。
ただの本の虫なのか、肝が据わっているのか。肉食獣人だって俺の部屋に居たがるヤツはそう居ないというのに…。
普通怖がるだろう。」
確かにその氷の様に冷めた目で眼光強く睨みつけられたら、震え上がる程に怖いが、本の魅力には抗えない。
ジャコブの部屋まで今開いているページを見失わずに運ぶのは時間と手間がかかりそうだ。そんな時間があったら、このまま本を読んでいたい。
ボクがまた本に目を戻したのを見て、ライランド様はそのまま出て行った。
そうしてボクは、この長い長い航海の殆どをライランド様の部屋で過ごしたのだった。
最後の補給港を出港した後、もう逃げられる可能性が無くなった頃合いで、ボクは強制的にライランド様の部屋から出されてしまった。
北の国は日照が弱いから、今のうちに日の光を浴びておかないと死ぬぞと言われたが、356連勤している時だって、殆ど日の光を浴びていなかったが、ボクはこの通りピンピンしている。そんなの全くの誤情報だ。
とはいえ、短い期間で頭の中に詰め込み過ぎてしまって、休憩が必要なのも確かなので、ボクは何か身体を動かす様なお手伝いが出来ないかと船を歩き回ってみる事にした。
どうやら羊の中に羊獣人が紛れ込んでいたという件については緘口令が敷かれていた様で、皆ボクの垂れた長耳を見て一様に驚いている。
ニッコリと笑って、
「何かお手伝いがしたいのですが。」
と言うと、皆更に驚いて、『羊のキミにそんな事はさせられない』と言う。
失礼だなぁ。羊だって男だ。こう見えても力持ちなんだぞ。
と、重いものを持ち上げて運んで見せると、皆顔を真っ青にして、『羊のキミに怪我をさせてしまったら大変だから、とにかくやめてくれ』と懇願される。
みんな羊羊羊って、どこに行っても羊だということを理由にお手伝いを断られる。肉食獣人はなんて過保護なんだ。ボクだって出来るのに!と憤慨しているところで、ジャコブが飛んできた。
「羊のキミ!危ない仕事をやろうとするのはやめて下さい!」
羊のキミ?ジャコブまで、まるで初めてボクを見たかの様な口ぶりだ。しかも、ちょっと会わないうちに敬語だし。
「ジャコブまでキミって、もうボクの名前忘れたの?」
あぁ、でも確かにジャコブは前からボクを羊ちゃんと呼ぶばかりで、よく考えると一度も名前で呼んでもらった事なかったや。
「そっちのキミではありませんよ。まさかライランド様の愛人になるなんて、やるじゃないですか。
皆あなたの事を羊の君だとお慕いしているのです。危ない仕事をしようとするのはやめて下さい。
後でライランド様に怒られるのは御免ですから。」
羊のキミってそっち!?てっきり呼びかけのキミかと思ったら、君主の方の君だったって事!?ボクが!?なんで?
「その…帰ったぞ。」
ライランド様がかなり気まずそうにしている。
「じゃあ、続きを!」
「それには及ばない!」
ライランド様は類稀なる反射神経で、ボクの声に被せて言った。
「きみをここに連れてきたのは、さすがに家畜の羊と一緒の倉庫に、それも檻の中に入れておくのは人権的に問題があると考えたからだ。
決して邪な気持ちではない。」
えぇ?本当に??
別にロムニーさんに見られたからって、特殊趣味を恥じる事はないのに。
でもまぁ、多分ボクの方が年上だし、ここは寛大な心でそういう事にしておいてあげよう。
「分かりました!もし必要でしたらいつでも言って下さいね!
じゃあ、先払いでここにある本を読ませて頂きたいんですが…。」
「本は自由に読め。別に奉仕は要らん。」
「そうなんですかぁ…。」
意図せず、何故だか本当に残念そうな声が出てしまい、自分の声音に驚いた。
それには、ライランド様も気がついた様だ。
「この前はツノ付きだと言って悪かったな。
別に差別を…いや差別には違いないんだが、草食獣人だからと見下している訳ではなく、俺はただツノがダメなだけなんだ。
今の君の姿は問題ない。むしろ垂れ耳が可愛…
いや。なんでもない。
とにかく、女…いや男もだが、人を買うという行為自体が、俺は余り好きではない。
もし君がお金を稼ぎたいだとか、好きでするのならば構わないが、そうでないならば、そういう事をする必要はない。
こうなったからには、俺もジャコブも一生面倒をみるつもりでいるから、安心しなさい。
ただ…俺たちの国は一年中雪に覆われていて、君が気に入ってくれる草や野菜が生えているかどうか……。一応努力はしようと思っているが……って聞いているのか!」
ヤバっ。どの本を読もうかと上の空で、偉い人のお話を余り聞いていないのがバレてしまった。
「はい!聞いています!
でも、ただ飯食らいは良くないと思うので、何かボクでお手伝い出来る事があったらさせて下さいね!」
「あぁ、君がそうしたいならそうするといい。航海中は特に行動の制限はしないつもりだ。
ただ、寄港中は万が一にも逃げられたら困るから、ここの部屋に居てもらおうと考えている。ここは外から鍵がかかるし、窓には鉄格子がついている上に、ドアを開けても俺の執務室だからな。君の足では逃げられまい。」
確かに。あの時ひとっ飛びで、執務机に座っていた状態からボクに飛びかかった跳躍力を思い出し、ボクの足では絶対に逃げられないだろうなと思った。
ボクはこう見えても非常に合理的で、無駄な事はやらない主義だ。
「わかりました!この本が読めるのなら、一生監禁して頂いても構いません!」
「一生…。」
あぁ。つい本音が。自ら監禁を望むなんて、その奴隷根性にドン引きされてしまっている様だ。
「とっとにかく、ライランド様はお仕事お忙しいですよね!ボクの事はお構いなく!」
「あぁ。解った。ランプはそこだ。食事はここに運ばせる。扉には念の為鍵を締めるから、何かあったらノックをしてくれ。」
「はい!解りました!」
今までの人生の中で一番笑顔になった『解りました』だった。
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ひrjhkwgqぎhqk。おい。
「おい。聞いているのか。
もう出港したから、ジャコブの部屋に戻って良いぞ。」
いつの間にかライランド様がボクの目の前に立っていた。本に夢中になっていて、全く気が付かなかったが、どうやら日が暮れる前に、船は動き出した様だった。
「あの…このままここに居ちゃダメですか?」
案の定ここにある本の内容はボクには難しく、調べものをしながら読み進めているが為に、本を何冊も広げていた。
部屋いっぱいに開かれた本を見て、ライランド様も、これを動かすのは大変だと思ったらしい。
「はぁ~。好きにするがいい。
ただの本の虫なのか、肝が据わっているのか。肉食獣人だって俺の部屋に居たがるヤツはそう居ないというのに…。
普通怖がるだろう。」
確かにその氷の様に冷めた目で眼光強く睨みつけられたら、震え上がる程に怖いが、本の魅力には抗えない。
ジャコブの部屋まで今開いているページを見失わずに運ぶのは時間と手間がかかりそうだ。そんな時間があったら、このまま本を読んでいたい。
ボクがまた本に目を戻したのを見て、ライランド様はそのまま出て行った。
そうしてボクは、この長い長い航海の殆どをライランド様の部屋で過ごしたのだった。
最後の補給港を出港した後、もう逃げられる可能性が無くなった頃合いで、ボクは強制的にライランド様の部屋から出されてしまった。
北の国は日照が弱いから、今のうちに日の光を浴びておかないと死ぬぞと言われたが、356連勤している時だって、殆ど日の光を浴びていなかったが、ボクはこの通りピンピンしている。そんなの全くの誤情報だ。
とはいえ、短い期間で頭の中に詰め込み過ぎてしまって、休憩が必要なのも確かなので、ボクは何か身体を動かす様なお手伝いが出来ないかと船を歩き回ってみる事にした。
どうやら羊の中に羊獣人が紛れ込んでいたという件については緘口令が敷かれていた様で、皆ボクの垂れた長耳を見て一様に驚いている。
ニッコリと笑って、
「何かお手伝いがしたいのですが。」
と言うと、皆更に驚いて、『羊のキミにそんな事はさせられない』と言う。
失礼だなぁ。羊だって男だ。こう見えても力持ちなんだぞ。
と、重いものを持ち上げて運んで見せると、皆顔を真っ青にして、『羊のキミに怪我をさせてしまったら大変だから、とにかくやめてくれ』と懇願される。
みんな羊羊羊って、どこに行っても羊だということを理由にお手伝いを断られる。肉食獣人はなんて過保護なんだ。ボクだって出来るのに!と憤慨しているところで、ジャコブが飛んできた。
「羊のキミ!危ない仕事をやろうとするのはやめて下さい!」
羊のキミ?ジャコブまで、まるで初めてボクを見たかの様な口ぶりだ。しかも、ちょっと会わないうちに敬語だし。
「ジャコブまでキミって、もうボクの名前忘れたの?」
あぁ、でも確かにジャコブは前からボクを羊ちゃんと呼ぶばかりで、よく考えると一度も名前で呼んでもらった事なかったや。
「そっちのキミではありませんよ。まさかライランド様の愛人になるなんて、やるじゃないですか。
皆あなたの事を羊の君だとお慕いしているのです。危ない仕事をしようとするのはやめて下さい。
後でライランド様に怒られるのは御免ですから。」
羊のキミってそっち!?てっきり呼びかけのキミかと思ったら、君主の方の君だったって事!?ボクが!?なんで?
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