【完結】牧場で羊になりきっていたら、氷結の貴公子に夜のお供を命じられました

夜曲

文字の大きさ
上 下
4 / 34

4.

しおりを挟む
「「「うぉぉぉぉ!?!?!?」」」

同じく、部屋にいた他の男達も驚きを隠せない。腰を振るのも忘れて、皆こちらに見入っている。
オネエ様方は知ってたと言わんばかりの眼差しをこちらに向けて、気持ちが良い行為を中断された事に不満げである。


「君!君!獣人だったの??
え?なんで?なんで早く言ってくれないの!?」

ジャコブが興奮して、ものすっごい顔でボクに迫って来た。

そこへ、ボクの裸体を覆い隠す様にふわりとかけられた服。
見ると、先ほど副商会長と呼ばれていた男のものだった。

「ちょ!ロムニーさん!匂いが付くじゃないですか!やめてくださいよ!
僕のなんですよ!」

てっきり獣人のボクが臭いとかいう、よくある獣人差別なのかと思ったら、どうやらジャコブは他の男の匂いがボクに付くのを嫌がっていたらしい。
自分の上着を急いで脱いでボクにスッポリ被せてから、ロムニーさんの服を乱暴に檻の隙間から突き返していた。

「僕のとか言ってる場合じゃないだろ。
その子獣人なんだから、まずは商会長に報告だ。
スパイかもしれないだろ。」

「こんなに可愛い子が、スパイなわけないじゃないですか!
この子は神様が僕の長年の願望を叶えてくれて、起こしてくださった奇跡なのです!そうに違いないのです!
おぉ!神よ!可愛い子羊をありがとうございます!」

ジャコブは本当に神に感謝しているのかも怪しい程に素早く祈っては、ボクを服の上からぎゅっと抱きしめた。
涙を流していて、暑苦しくて気持ちが悪い。

可愛い子と言われて嫌な気はしないが、ボクはきっと彼より10歳以上年上である。獣人は若く見えるとは言え、いくらなんでも子羊は言い過ぎだと思う。

しっかりとした海の男の筋肉が、ボクを押し潰しそうだ。

そろそろ離してくれ…気が遠のいていく…。


「おい。とりあえず檻から出ろ。ソイツが逃げない様に見ててやるから。今すぐ商会長に報告だ。」

「嫌です!この子は僕のです!
ほら、ここに書いてあるでしょ!調教中で僕のだって!」

「そういう問題じゃないだろ。羊じゃなかったんだから。

この船に部外者を乗せるのはマズイ。それくらいお前でも解るだろ。他の船とは訳が違うんだ。
ハァ~。よりによって、この船に獣人が潜り込んでいたとは…それも草食獣人。
隠蔽したら大事オオゴトになるぞ。

部屋に連れ帰るのは、報告してコイツの処分が決まってからだ。一晩くらい猶予はくれるだろうさ。
まずは商会長にどうするか報告だ。」

「……。……。解りましたよ。
ロムニーさん、これから先一生、羊さん達使い放題で良いので、この子を守るのに加勢していただけませんか?」

見ると、もう全員服装を整えていて、誰も笑っていない。
酔いも一気に醒めたその重い空気に、普段鈍いと言われているさすがのボクでも、何かマズイ事が起きたのだと知る。

「……。……。
状況次第だ。」

長い沈黙の後で、ジャコブはやっと渋々承諾した。
さっきまでの気軽さも、裸のボクに服を掛けてくれた優しさも、全て取り払った冷酷そうな大人の顔がそこにあった。

どこの商会も、一番の遣り手は副商会長であることが多い。どうやら羊遊郭だなんだと呑気に思っている場合では無かったらしい。

「おい、オマエ。話は出来るか。」

ボクはうなづいて、自己紹介をしようと口を開いた所で、ロムニーに止められた。

「ここではマズイ。
おい、お前ら。証人が必要になったら後で呼ぶから、サーディ以外は一旦各自部屋で待機だ。サーディは付いてこい。」


ジャコブにお姫様抱っこをされたまま、向かった先は、この船の船尾にある大きめの部屋だった。どうやらロムニーの私室らしい。

「サーディ、少し外で待ってろ。」
「はい!」

その軍隊を思わせる、商船らしからぬ返事ときびきびとした動きに、ボクの中の危険センサーが反応した。
まずい。この船は、もしかしたら…。


ボクは、変に隠し立てはしない方が良いと思い、生まれから365連勤に至り、牧場に潜り込んだところまで、包み隠さず全て話した。
仕事ばかりで最近人と話していなかったが為に、少々必要ない情報まで無駄に話してしまったかもしれない。


話を聞き終わったジャコブは、ボクの年齢には驚いていたものの、
「はぁ~良かった!
ね!僕の羊さんはスパイなんかじゃなかったですよね?
良かった!下船までちゃんと面倒を見ますから、これから宜しくね!」
とボクに頬擦りをした。

10以上も年上のオジサンをお膝抱っこに頬擦りなんて、控えめに言ってやめて欲しい。
ボクの年齢を忘れるの早すぎないか…。
と呆れたものの、まだ眉間の皺を緩めないロムニーに、事はそう簡単な話では無さそうだと悟った。


「わかった。今の話を商会長に報告して、次の寄港地でなんとか下ろしてもらえないか交渉しよう。」

「えぇ~次の寄港地と言わず、僕の家まで連れて帰りたいですぅ~。僕が一生面倒みますから!」

「……。まぁ、どうしようも無かったら、そう話を持っていくしかないな。
ジャコブ、お前この子を一生家から出さずに、死ぬまで面倒をみれると誓えるか?」

ロムニーの真剣な眼差しに、世間知らずそうなジャコブも、やっと事の深刻さを理解した様だった。

「はい!もちろんです!僕が間違えて指名して、牧場から連れてきてしまったので、責任は僕にあります。
僕が一生面倒をみます!」

彼の場合は、どう考えても責任感だけでは無さそうだが、ここは大海原の上。口封じでポチャンとされたらおしまいだ。
心の中に湧いて出たその恐ろしい仮説から逃れられるのなら、それも良い。

「それは、本当にどうしようも無くなった時の話だ。もし、この子の為を本当に想うのなら、次の港で降ろしてやるのが一番良い。
それは解るな。」

「ハイ…残念ですが…。それは解ります。」

「ヨシ。じゃあ、商会長に話をしに行こう。
ジャコブ、お前は絶対に余計な事は言うなよ。
一つ間違えれば、お前が好きな羊ちゃんがどうなるか…解るよな。」


ボクはその仮説があながち間違いでは無さそうだと確信して、ただ震える事しか出来なかった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

処理中です...