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「「「うぉぉぉぉ!?!?!?」」」
同じく、部屋にいた他の男達も驚きを隠せない。腰を振るのも忘れて、皆こちらに見入っている。
オネエ様方は知ってたと言わんばかりの眼差しをこちらに向けて、気持ちが良い行為を中断された事に不満げである。
「君!君!獣人だったの??
え?なんで?なんで早く言ってくれないの!?」
ジャコブが興奮して、ものすっごい顔でボクに迫って来た。
そこへ、ボクの裸体を覆い隠す様にふわりとかけられた服。
見ると、先ほど副商会長と呼ばれていた男のものだった。
「ちょ!ロムニーさん!匂いが付くじゃないですか!やめてくださいよ!
僕のなんですよ!」
てっきり獣人のボクが臭いとかいう、よくある獣人差別なのかと思ったら、どうやらジャコブは他の男の匂いがボクに付くのを嫌がっていたらしい。
自分の上着を急いで脱いでボクにスッポリ被せてから、ロムニーさんの服を乱暴に檻の隙間から突き返していた。
「僕のとか言ってる場合じゃないだろ。
その子獣人なんだから、まずは商会長に報告だ。
スパイかもしれないだろ。」
「こんなに可愛い子が、スパイなわけないじゃないですか!
この子は神様が僕の長年の願望を叶えてくれて、起こしてくださった奇跡なのです!そうに違いないのです!
おぉ!神よ!可愛い子羊をありがとうございます!」
ジャコブは本当に神に感謝しているのかも怪しい程に素早く祈っては、ボクを服の上からぎゅっと抱きしめた。
涙を流していて、暑苦しくて気持ちが悪い。
可愛い子と言われて嫌な気はしないが、ボクはきっと彼より10歳以上年上である。獣人は若く見えるとは言え、いくらなんでも子羊は言い過ぎだと思う。
しっかりとした海の男の筋肉が、ボクを押し潰しそうだ。
そろそろ離してくれ…気が遠のいていく…。
「おい。とりあえず檻から出ろ。ソイツが逃げない様に見ててやるから。今すぐ商会長に報告だ。」
「嫌です!この子は僕のです!
ほら、ここに書いてあるでしょ!調教中で僕のだって!」
「そういう問題じゃないだろ。羊じゃなかったんだから。
この船に部外者を乗せるのはマズイ。それくらいお前でも解るだろ。他の船とは訳が違うんだ。
ハァ~。よりによって、この船に獣人が潜り込んでいたとは…それも草食獣人。
隠蔽したら大事になるぞ。
部屋に連れ帰るのは、報告してコイツの処分が決まってからだ。一晩くらい猶予はくれるだろうさ。
まずは商会長にどうするか報告だ。」
「……。……。解りましたよ。
ロムニーさん、これから先一生、羊さん達使い放題で良いので、この子を守るのに加勢していただけませんか?」
見ると、もう全員服装を整えていて、誰も笑っていない。
酔いも一気に醒めたその重い空気に、普段鈍いと言われているさすがのボクでも、何かマズイ事が起きたのだと知る。
「……。……。
状況次第だ。」
長い沈黙の後で、ジャコブはやっと渋々承諾した。
さっきまでの気軽さも、裸のボクに服を掛けてくれた優しさも、全て取り払った冷酷そうな大人の顔がそこにあった。
どこの商会も、一番の遣り手は副商会長であることが多い。どうやら羊遊郭だなんだと呑気に思っている場合では無かったらしい。
「おい、オマエ。話は出来るか。」
ボクはうなづいて、自己紹介をしようと口を開いた所で、ロムニーに止められた。
「ここではマズイ。
おい、お前ら。証人が必要になったら後で呼ぶから、サーディ以外は一旦各自部屋で待機だ。サーディは付いてこい。」
ジャコブにお姫様抱っこをされたまま、向かった先は、この船の船尾にある大きめの部屋だった。どうやらロムニーの私室らしい。
「サーディ、少し外で待ってろ。」
「はい!」
その軍隊を思わせる、商船らしからぬ返事ときびきびとした動きに、ボクの中の危険センサーが反応した。
まずい。この船は、もしかしたら…。
ボクは、変に隠し立てはしない方が良いと思い、生まれから365連勤に至り、牧場に潜り込んだところまで、包み隠さず全て話した。
仕事ばかりで最近人と話していなかったが為に、少々必要ない情報まで無駄に話してしまったかもしれない。
話を聞き終わったジャコブは、ボクの年齢には驚いていたものの、
「はぁ~良かった!
ね!僕の羊さんはスパイなんかじゃなかったですよね?
良かった!下船までちゃんと面倒を見ますから、これから宜しくね!」
とボクに頬擦りをした。
10以上も年上のオジサンをお膝抱っこに頬擦りなんて、控えめに言ってやめて欲しい。
ボクの年齢を忘れるの早すぎないか…。
と呆れたものの、まだ眉間の皺を緩めないロムニーに、事はそう簡単な話では無さそうだと悟った。
「わかった。今の話を商会長に報告して、次の寄港地でなんとか下ろしてもらえないか交渉しよう。」
「えぇ~次の寄港地と言わず、僕の家まで連れて帰りたいですぅ~。僕が一生面倒みますから!」
「……。まぁ、どうしようも無かったら、そう話を持っていくしかないな。
ジャコブ、お前この子を一生家から出さずに、死ぬまで面倒をみれると誓えるか?」
ロムニーの真剣な眼差しに、世間知らずそうなジャコブも、やっと事の深刻さを理解した様だった。
「はい!もちろんです!僕が間違えて指名して、牧場から連れてきてしまったので、責任は僕にあります。
僕が一生面倒をみます!」
彼の場合は、どう考えても責任感だけでは無さそうだが、ここは大海原の上。口封じでポチャンとされたらおしまいだ。
心の中に湧いて出たその恐ろしい仮説から逃れられるのなら、それも良い。
「それは、本当にどうしようも無くなった時の話だ。もし、この子の為を本当に想うのなら、次の港で降ろしてやるのが一番良い。
それは解るな。」
「ハイ…残念ですが…。それは解ります。」
「ヨシ。じゃあ、商会長に話をしに行こう。
ジャコブ、お前は絶対に余計な事は言うなよ。
一つ間違えれば、お前が好きな羊ちゃんがどうなるか…解るよな。」
ボクはその仮説があながち間違いでは無さそうだと確信して、ただ震える事しか出来なかった。
同じく、部屋にいた他の男達も驚きを隠せない。腰を振るのも忘れて、皆こちらに見入っている。
オネエ様方は知ってたと言わんばかりの眼差しをこちらに向けて、気持ちが良い行為を中断された事に不満げである。
「君!君!獣人だったの??
え?なんで?なんで早く言ってくれないの!?」
ジャコブが興奮して、ものすっごい顔でボクに迫って来た。
そこへ、ボクの裸体を覆い隠す様にふわりとかけられた服。
見ると、先ほど副商会長と呼ばれていた男のものだった。
「ちょ!ロムニーさん!匂いが付くじゃないですか!やめてくださいよ!
僕のなんですよ!」
てっきり獣人のボクが臭いとかいう、よくある獣人差別なのかと思ったら、どうやらジャコブは他の男の匂いがボクに付くのを嫌がっていたらしい。
自分の上着を急いで脱いでボクにスッポリ被せてから、ロムニーさんの服を乱暴に檻の隙間から突き返していた。
「僕のとか言ってる場合じゃないだろ。
その子獣人なんだから、まずは商会長に報告だ。
スパイかもしれないだろ。」
「こんなに可愛い子が、スパイなわけないじゃないですか!
この子は神様が僕の長年の願望を叶えてくれて、起こしてくださった奇跡なのです!そうに違いないのです!
おぉ!神よ!可愛い子羊をありがとうございます!」
ジャコブは本当に神に感謝しているのかも怪しい程に素早く祈っては、ボクを服の上からぎゅっと抱きしめた。
涙を流していて、暑苦しくて気持ちが悪い。
可愛い子と言われて嫌な気はしないが、ボクはきっと彼より10歳以上年上である。獣人は若く見えるとは言え、いくらなんでも子羊は言い過ぎだと思う。
しっかりとした海の男の筋肉が、ボクを押し潰しそうだ。
そろそろ離してくれ…気が遠のいていく…。
「おい。とりあえず檻から出ろ。ソイツが逃げない様に見ててやるから。今すぐ商会長に報告だ。」
「嫌です!この子は僕のです!
ほら、ここに書いてあるでしょ!調教中で僕のだって!」
「そういう問題じゃないだろ。羊じゃなかったんだから。
この船に部外者を乗せるのはマズイ。それくらいお前でも解るだろ。他の船とは訳が違うんだ。
ハァ~。よりによって、この船に獣人が潜り込んでいたとは…それも草食獣人。
隠蔽したら大事になるぞ。
部屋に連れ帰るのは、報告してコイツの処分が決まってからだ。一晩くらい猶予はくれるだろうさ。
まずは商会長にどうするか報告だ。」
「……。……。解りましたよ。
ロムニーさん、これから先一生、羊さん達使い放題で良いので、この子を守るのに加勢していただけませんか?」
見ると、もう全員服装を整えていて、誰も笑っていない。
酔いも一気に醒めたその重い空気に、普段鈍いと言われているさすがのボクでも、何かマズイ事が起きたのだと知る。
「……。……。
状況次第だ。」
長い沈黙の後で、ジャコブはやっと渋々承諾した。
さっきまでの気軽さも、裸のボクに服を掛けてくれた優しさも、全て取り払った冷酷そうな大人の顔がそこにあった。
どこの商会も、一番の遣り手は副商会長であることが多い。どうやら羊遊郭だなんだと呑気に思っている場合では無かったらしい。
「おい、オマエ。話は出来るか。」
ボクはうなづいて、自己紹介をしようと口を開いた所で、ロムニーに止められた。
「ここではマズイ。
おい、お前ら。証人が必要になったら後で呼ぶから、サーディ以外は一旦各自部屋で待機だ。サーディは付いてこい。」
ジャコブにお姫様抱っこをされたまま、向かった先は、この船の船尾にある大きめの部屋だった。どうやらロムニーの私室らしい。
「サーディ、少し外で待ってろ。」
「はい!」
その軍隊を思わせる、商船らしからぬ返事ときびきびとした動きに、ボクの中の危険センサーが反応した。
まずい。この船は、もしかしたら…。
ボクは、変に隠し立てはしない方が良いと思い、生まれから365連勤に至り、牧場に潜り込んだところまで、包み隠さず全て話した。
仕事ばかりで最近人と話していなかったが為に、少々必要ない情報まで無駄に話してしまったかもしれない。
話を聞き終わったジャコブは、ボクの年齢には驚いていたものの、
「はぁ~良かった!
ね!僕の羊さんはスパイなんかじゃなかったですよね?
良かった!下船までちゃんと面倒を見ますから、これから宜しくね!」
とボクに頬擦りをした。
10以上も年上のオジサンをお膝抱っこに頬擦りなんて、控えめに言ってやめて欲しい。
ボクの年齢を忘れるの早すぎないか…。
と呆れたものの、まだ眉間の皺を緩めないロムニーに、事はそう簡単な話では無さそうだと悟った。
「わかった。今の話を商会長に報告して、次の寄港地でなんとか下ろしてもらえないか交渉しよう。」
「えぇ~次の寄港地と言わず、僕の家まで連れて帰りたいですぅ~。僕が一生面倒みますから!」
「……。まぁ、どうしようも無かったら、そう話を持っていくしかないな。
ジャコブ、お前この子を一生家から出さずに、死ぬまで面倒をみれると誓えるか?」
ロムニーの真剣な眼差しに、世間知らずそうなジャコブも、やっと事の深刻さを理解した様だった。
「はい!もちろんです!僕が間違えて指名して、牧場から連れてきてしまったので、責任は僕にあります。
僕が一生面倒をみます!」
彼の場合は、どう考えても責任感だけでは無さそうだが、ここは大海原の上。口封じでポチャンとされたらおしまいだ。
心の中に湧いて出たその恐ろしい仮説から逃れられるのなら、それも良い。
「それは、本当にどうしようも無くなった時の話だ。もし、この子の為を本当に想うのなら、次の港で降ろしてやるのが一番良い。
それは解るな。」
「ハイ…残念ですが…。それは解ります。」
「ヨシ。じゃあ、商会長に話をしに行こう。
ジャコブ、お前は絶対に余計な事は言うなよ。
一つ間違えれば、お前が好きな羊ちゃんがどうなるか…解るよな。」
ボクはその仮説があながち間違いでは無さそうだと確信して、ただ震える事しか出来なかった。
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