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暗転
88.鞭の痕
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やっと蒼空が帰ってきた。
蒼空に発情期が来てしまったから動かせないと言われた時の焦燥と言ったら、筆舌にしがたいものがある。
蒼空の次の発情期は三月後半の予定だった。
そう、あと一ヶ月以上も先のはずだった。
だから安心して蒼空を預けていたのに、それなのにこんなに早く発情期が来るなんて。
俺の目の届かない所で蒼空に何かあったのではと俺は激しく心配していた。
もしかしたら知らない人に囲まれたことと俺から離れた事でフェロモンバランスが崩れてしまったのだろうか。
それとも、オークション組織の食べ物に何か混ぜ物でもされていて、強制的に発情させられてしまったのだろうか。
ここ最近はいつも俺と発情期を一緒に過ごしていた為、蒼空にとっては久しぶりの一人きりの発情期だ。地下室の鉄格子の前で顔色を無くして気を失っていた、あの時の状態が思い起こされる。
今度は俺の方が一日千秋の思いで、蒼空の帰りを待つ番だった。
家の前の私道にエンジンの音が響く。袋小路になっているこの道を通る車は他にないはずだ。道を間違えたのでなければ。
俺は窓に飛びついた。
あなたの街の電気屋さん 加藤電機。間違いない。いつもの作業車だ。
俺は作業員が車を止めてピンポンを押すのも待てずに、鉄砲玉の様に玄関を飛び出した。
もう止まろうとしていた作業車が危うく俺を轢きそうになり、急ブレーキでガコンと止まった。
「驚いたぁ~!!お客様ですかぁ…。」
「すまない。つい気が急いてしまって…。あの、蒼空は…。」
無事ですか?と繋ぐ前に、
「確かに!今日はいい天気ですね!外ではなんなので、早く家に入りましょう」
と急かされた。
確かに外で話せる話ではない。少し冷静にならなくては。
また洗濯機の箱に入れられて眠らされている蒼空と作業員を家の中に招き入れ、俺は素早くガチャリと鍵を閉めた。
作業員と向き合うや否や、恨み言を言われた。
「先ほどは本当に驚きました。襲撃かと思ってしまうので、急に飛び出さないでくださいね。
一応敵対組織とかもいますし、地下オメガの親族に逆恨みされたりすることもあるんで、護身や処理用に色々持ってるんです。
間違ってお客様を殺しちゃったら本当に大変なんで。気を付けて下さいよ。」
「本当にすみません。つい気が急いてしまって…。
あの、蒼空は無事でしょうか。」
「??
査定額の結果はお知らせしたかと思うのですが…。
お客様の地下オメガは健康そのもの。無事借金額以上の価値があると認められていますので、ご安心ください。」
「違う!発情期になったと聞いた…ので。だからその…色々無事かと聞いているんだ。」
正吾は慌てる余り、口調も定まらない。
「あぁ。安心してください。
査定に来た地下オメガにはちゃんと一人一人個室が与えられていますから。オメガ同士何か間違いがあったりはしませんよ。
私たち従業員は全員ベータですし。発情期の地下オメガに誘われたとしても、決して手を出さない様に訓練されています。安心してください。」
「そうか…。それなら良かった…。」
「とりあえず地下に運ばせていただきますね。」
「あぁ。よろしく頼みます。」
当初二週間の予定が、二十日近く蒼空に会えなかった事で、正吾は心配で心配で気が気でなく、やっとの事で蒼空の顔を見れて安心した。しかし、その寝顔が少し苦し気に眉を寄せているので更に少し心配になってしまった。
今すぐひん剥いて蒼空が無事か確認したい。
しかし、流石に作業員がまだ地下に居る時に、蒼空の服を脱がして確認する訳にもいかない。俺は早く帰ってくれ早く帰ってくれと念を送りながら蒼空の寝顔と撤収作業をする作業員の様子とを交互に見ていた。
やがて段ボールの撤収作業が終わった作業員が、始終ソワソワとしていた俺の言動を見かねて、
「なんかすぐ使いたそうなので、気付け薬嗅がせておきますね。普段はやってないんですが、サービスですよ。」
と言って、蒼空に気付け薬を嗅がせてくれた。
いや。それは別に要らないんだが。
蒼空が寝ている間に脱がせて隅々まで確認しようと思っていたのだが…と思うも、前回は一時間以上もそのまま寝ていたし、早く蒼空と話がしたいとも思っていた正吾は、まぁそれもいいかと特段止めなかった。
「ヤってる最中に起きる様に良い塩梅に仕上げておきますから。」
と作業員は訳知り顔で要らない気を回してくる。
いや。別に俺に睡姦の趣味は無いんだが…。それはお前の性癖だろ?と言いたくなったが、まぁいい。無駄口を叩くよりも、とにかく早くお帰り頂こう。
蒼空に発情期が来てしまったから動かせないと言われた時の焦燥と言ったら、筆舌にしがたいものがある。
蒼空の次の発情期は三月後半の予定だった。
そう、あと一ヶ月以上も先のはずだった。
だから安心して蒼空を預けていたのに、それなのにこんなに早く発情期が来るなんて。
俺の目の届かない所で蒼空に何かあったのではと俺は激しく心配していた。
もしかしたら知らない人に囲まれたことと俺から離れた事でフェロモンバランスが崩れてしまったのだろうか。
それとも、オークション組織の食べ物に何か混ぜ物でもされていて、強制的に発情させられてしまったのだろうか。
ここ最近はいつも俺と発情期を一緒に過ごしていた為、蒼空にとっては久しぶりの一人きりの発情期だ。地下室の鉄格子の前で顔色を無くして気を失っていた、あの時の状態が思い起こされる。
今度は俺の方が一日千秋の思いで、蒼空の帰りを待つ番だった。
家の前の私道にエンジンの音が響く。袋小路になっているこの道を通る車は他にないはずだ。道を間違えたのでなければ。
俺は窓に飛びついた。
あなたの街の電気屋さん 加藤電機。間違いない。いつもの作業車だ。
俺は作業員が車を止めてピンポンを押すのも待てずに、鉄砲玉の様に玄関を飛び出した。
もう止まろうとしていた作業車が危うく俺を轢きそうになり、急ブレーキでガコンと止まった。
「驚いたぁ~!!お客様ですかぁ…。」
「すまない。つい気が急いてしまって…。あの、蒼空は…。」
無事ですか?と繋ぐ前に、
「確かに!今日はいい天気ですね!外ではなんなので、早く家に入りましょう」
と急かされた。
確かに外で話せる話ではない。少し冷静にならなくては。
また洗濯機の箱に入れられて眠らされている蒼空と作業員を家の中に招き入れ、俺は素早くガチャリと鍵を閉めた。
作業員と向き合うや否や、恨み言を言われた。
「先ほどは本当に驚きました。襲撃かと思ってしまうので、急に飛び出さないでくださいね。
一応敵対組織とかもいますし、地下オメガの親族に逆恨みされたりすることもあるんで、護身や処理用に色々持ってるんです。
間違ってお客様を殺しちゃったら本当に大変なんで。気を付けて下さいよ。」
「本当にすみません。つい気が急いてしまって…。
あの、蒼空は無事でしょうか。」
「??
査定額の結果はお知らせしたかと思うのですが…。
お客様の地下オメガは健康そのもの。無事借金額以上の価値があると認められていますので、ご安心ください。」
「違う!発情期になったと聞いた…ので。だからその…色々無事かと聞いているんだ。」
正吾は慌てる余り、口調も定まらない。
「あぁ。安心してください。
査定に来た地下オメガにはちゃんと一人一人個室が与えられていますから。オメガ同士何か間違いがあったりはしませんよ。
私たち従業員は全員ベータですし。発情期の地下オメガに誘われたとしても、決して手を出さない様に訓練されています。安心してください。」
「そうか…。それなら良かった…。」
「とりあえず地下に運ばせていただきますね。」
「あぁ。よろしく頼みます。」
当初二週間の予定が、二十日近く蒼空に会えなかった事で、正吾は心配で心配で気が気でなく、やっとの事で蒼空の顔を見れて安心した。しかし、その寝顔が少し苦し気に眉を寄せているので更に少し心配になってしまった。
今すぐひん剥いて蒼空が無事か確認したい。
しかし、流石に作業員がまだ地下に居る時に、蒼空の服を脱がして確認する訳にもいかない。俺は早く帰ってくれ早く帰ってくれと念を送りながら蒼空の寝顔と撤収作業をする作業員の様子とを交互に見ていた。
やがて段ボールの撤収作業が終わった作業員が、始終ソワソワとしていた俺の言動を見かねて、
「なんかすぐ使いたそうなので、気付け薬嗅がせておきますね。普段はやってないんですが、サービスですよ。」
と言って、蒼空に気付け薬を嗅がせてくれた。
いや。それは別に要らないんだが。
蒼空が寝ている間に脱がせて隅々まで確認しようと思っていたのだが…と思うも、前回は一時間以上もそのまま寝ていたし、早く蒼空と話がしたいとも思っていた正吾は、まぁそれもいいかと特段止めなかった。
「ヤってる最中に起きる様に良い塩梅に仕上げておきますから。」
と作業員は訳知り顔で要らない気を回してくる。
いや。別に俺に睡姦の趣味は無いんだが…。それはお前の性癖だろ?と言いたくなったが、まぁいい。無駄口を叩くよりも、とにかく早くお帰り頂こう。
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