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世界恐慌
77.蒼空からの提案
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寒い冬の日の事だった。
その日は、雪が降ってくるかもしれないという予報があった。俺は電車が動いているうちにと思い、いつもより早く退社した。
午前様にはならなかったが、それでも時間は既に23時。
蒼空くんには先に食べてくれと連絡しているが、きっと今日も食べていない。早く帰らなくては。
一階のキッチンで簡単に焼きそばを作って下に降りた。だが、予想に反して蒼空くんは今夜はもう食べたと言う。
本当に?と思ってゴミを見たが、確かにインスタントラーメンを食べた後の様だ。
「正吾さん。食べ終わったら、お話があります。」
蒼空くんの顔がいつになく真剣だ。何か重大な話の様だ。
エッチをするときにはいつも避妊しているし、そういう話ではないと思うのだが、なんだか深刻そうな顔だ。
まさか…いや。落ち着け。でも、まさか…俺と蒼空くんの可愛い子供が出来たのか?
「なんだい。先に聞くよ。」
「いえ。この話をしたら、多分正吾さんが食べれなくなってしまうので、先に食べ終わってから話したいです。」
これは本当に大事だ。
オークション規約では、子供を作ることは禁止されている。
堕胎させられるか、産んでも連れていかれて売られてしまう。
なんとか蒼空くんと産まれてくる子供を守る方法を考えなくては。
正吾は、急かす心をなんとか落ち着かせながら、恐ろしいスピードで二人分の焼きそばを平らげた。ちょっと食べ過ぎてしまった。
「食べ終わったよ。
蒼空くん、話してくれるかい?」
顔が若干脂下がっているかもしれない。過度にニヤけてしまわない様に顔を調整しようとして、目じりが少しピクピクしている。
「僕、前から考えていたことがあるんです。
正吾さんは外で僕の為に一生懸命夜遅くまで働いています。
でも僕は、家で正吾さんの帰りを待つしか無くて、スーパーに買い出しに行くことも、正吾さんが居ないときは地上の家の掃除をすることも、正吾さんの夕食を作ってあげることも、洗濯を代わる事もできない。」
おや?これは子供の話じゃないな?
確かに俺が家に居ない時はキッチンも洗濯機も無い地下だけで過ごさせているから、緊急対応で在宅勤務が無くなった今、蒼空くんを1階に出してあげられていない。
それに対する不満の話か?
「僕、もっと正吾さんの役に立ちたいんです。
正吾さんがこんなに働いているのは僕の為です。
それなのに、当の本人が何もしていない所か、こうやって食事も作って貰って、負担にしかなっていないなんておかしいです。僕も何かしたいんです。
既に死亡届が出されてしまっていて、外に出れないから働く事も買い物も家事も出来ない。
何もできない無力感と正吾さんの為に何かしたいという焦燥感に僕は毎日駆られているんです。
正吾さんに買われて、正吾さんを好きになってからずっとです。
この一年近い時間の間、僕はずっと、罪悪感と無力感と焦燥感に駆られているんです。
僕をオークションに持ち込めば、正吾さんがバイトをしなくても十分暮らしていけるだけの金額になるのは知っています。
でも、僕は正吾さんとはもう離れたくありません。」
蒼空くんと子供三人で仲良く暮らす妄想は、とたんに霧散した。
この先は聞きたくない。俺はどうしても蒼空の言葉を遮りたかった。
「ちょっと待ってくれ。これ以上は何も言わなくていい。
蒼空くんが在宅で出来る仕事を追加で探すから、それで妥協してくれ。」
「いいえ!内職なんかじゃ、なんの役にも立たない!
これは僕のわがままです。僕に、お金を稼ぐ機会をくれませんか?
今でも僕を買いたいという人は絶対に居ると思います。」
「頼む!これ以上何も言わないでくれ!」
しかし、それに被せる様に蒼空は大声で叫んだ。
「僕に、客を取らせていただけませんか?
お願いします!」
その日は、雪が降ってくるかもしれないという予報があった。俺は電車が動いているうちにと思い、いつもより早く退社した。
午前様にはならなかったが、それでも時間は既に23時。
蒼空くんには先に食べてくれと連絡しているが、きっと今日も食べていない。早く帰らなくては。
一階のキッチンで簡単に焼きそばを作って下に降りた。だが、予想に反して蒼空くんは今夜はもう食べたと言う。
本当に?と思ってゴミを見たが、確かにインスタントラーメンを食べた後の様だ。
「正吾さん。食べ終わったら、お話があります。」
蒼空くんの顔がいつになく真剣だ。何か重大な話の様だ。
エッチをするときにはいつも避妊しているし、そういう話ではないと思うのだが、なんだか深刻そうな顔だ。
まさか…いや。落ち着け。でも、まさか…俺と蒼空くんの可愛い子供が出来たのか?
「なんだい。先に聞くよ。」
「いえ。この話をしたら、多分正吾さんが食べれなくなってしまうので、先に食べ終わってから話したいです。」
これは本当に大事だ。
オークション規約では、子供を作ることは禁止されている。
堕胎させられるか、産んでも連れていかれて売られてしまう。
なんとか蒼空くんと産まれてくる子供を守る方法を考えなくては。
正吾は、急かす心をなんとか落ち着かせながら、恐ろしいスピードで二人分の焼きそばを平らげた。ちょっと食べ過ぎてしまった。
「食べ終わったよ。
蒼空くん、話してくれるかい?」
顔が若干脂下がっているかもしれない。過度にニヤけてしまわない様に顔を調整しようとして、目じりが少しピクピクしている。
「僕、前から考えていたことがあるんです。
正吾さんは外で僕の為に一生懸命夜遅くまで働いています。
でも僕は、家で正吾さんの帰りを待つしか無くて、スーパーに買い出しに行くことも、正吾さんが居ないときは地上の家の掃除をすることも、正吾さんの夕食を作ってあげることも、洗濯を代わる事もできない。」
おや?これは子供の話じゃないな?
確かに俺が家に居ない時はキッチンも洗濯機も無い地下だけで過ごさせているから、緊急対応で在宅勤務が無くなった今、蒼空くんを1階に出してあげられていない。
それに対する不満の話か?
「僕、もっと正吾さんの役に立ちたいんです。
正吾さんがこんなに働いているのは僕の為です。
それなのに、当の本人が何もしていない所か、こうやって食事も作って貰って、負担にしかなっていないなんておかしいです。僕も何かしたいんです。
既に死亡届が出されてしまっていて、外に出れないから働く事も買い物も家事も出来ない。
何もできない無力感と正吾さんの為に何かしたいという焦燥感に僕は毎日駆られているんです。
正吾さんに買われて、正吾さんを好きになってからずっとです。
この一年近い時間の間、僕はずっと、罪悪感と無力感と焦燥感に駆られているんです。
僕をオークションに持ち込めば、正吾さんがバイトをしなくても十分暮らしていけるだけの金額になるのは知っています。
でも、僕は正吾さんとはもう離れたくありません。」
蒼空くんと子供三人で仲良く暮らす妄想は、とたんに霧散した。
この先は聞きたくない。俺はどうしても蒼空の言葉を遮りたかった。
「ちょっと待ってくれ。これ以上は何も言わなくていい。
蒼空くんが在宅で出来る仕事を追加で探すから、それで妥協してくれ。」
「いいえ!内職なんかじゃ、なんの役にも立たない!
これは僕のわがままです。僕に、お金を稼ぐ機会をくれませんか?
今でも僕を買いたいという人は絶対に居ると思います。」
「頼む!これ以上何も言わないでくれ!」
しかし、それに被せる様に蒼空は大声で叫んだ。
「僕に、客を取らせていただけませんか?
お願いします!」
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