【完結】もう一度君に蒼空を見せたい〜奴隷オークションで高額な処女地下オメガを買ってしまったので借金返済に追われています〜

夜曲

文字の大きさ
上 下
70 / 329
貧乏暇なし

61.正吾さんの意気地なし

しおりを挟む

「うん。じゃあ行こうか。」


 と照れ隠しなのか足早に立ち去ろうとする正吾さんに鎖を引かれて、少し突っ張る鎖を追いかける様にして僕は書斎に戻った。
 寝室から書斎へは距離が短くて良かった。前につんのめって転ぶかと思った。


 正吾さんが焦っているのは、きっと今ここで僕を襲わない様にだろうか。
 別に襲ってくれてもいいのに。

 あれ?僕は今何を考えた?
 だめだ。こんな消極的な気持ちで正吾さんとの初めてを過ごすのは絶対に後で後悔する。

 好きだから抱いてと僕が言えるまで、もっと気持ちの整理がついてからがいい。
 一生に一度の事なんだから。焦らなくても大丈夫。時間は沢山あるんだから。



 その日は、正吾さんがお仕事をしている顔を盗み見ながら本を読んだ。僕は相変わらず読むふりで、内容はちっとも頭に入って来なかったが。
 一緒にキッチンに立って夕食を作り、一緒に一階で夕食を取った。
 凄く幸せで満たされた一日だった。沢山正吾さんの顔が見られて、普段の寂しさを忘れられた一日だった。


 でも困ったのは、トイレの時とお風呂の時だ。地上のトイレには一度行ってみたが、鎖の長さの関係で、正吾さんにドアの前で待っていてもらう必要がある。それは流石に恥ずかしすぎた。
 だから、夜のお風呂は地下に戻って鎖を外して貰ってから入った。

 この日は昼間の2階の寝室での正吾さんの捕食者の眼を思い出してしまい、もし夜にまた地上の正吾さんのテリトリーに戻ったら、僕は今度こそ喰われるんじゃないかと心配になってしまった。本当は食器をしまったり、洗濯したりと夜も地上で家事の手伝いをしたかったのに、とうとう言い出す勇気が出ず、僕はいつものように地下で一緒に寝ることにした。


 同じく地下でお風呂に入った正吾さんは、何か僕に言いたそうな顔をしていたが、ギクシャクとお互いを意識しながらも、結局何も言えずに僕の横でお行儀よく寝ていた。


 今日地上に上がった時に玄関を見ていたお仕置き♡とか言って、ちょっとくらい僕にいたずらしてくれても良かったのに。
 正吾さんの意気地なし。



 それからの僕たちの日々には、地上での生活が加わった。

 エマゾンで注文したらしく翌日には二十メートル程の長い鎖が届いたので、僕は正吾さんと同じフロアであれば、地上に出て何をしていても良い事になった。


 玄関のドアは、シリンダーが完全に取り外せ、そのシリンダーを嵌め戻さないと外には出られないそうだ。本来はチャイルドロックの為の機能だが、シリンダーの隠し場所を知らない僕が玄関から外に出る事は物理的に不可能となっている。

 そのため、僕が一階の中で正吾さんの眼が届かない場所に居ても、正吾さんはある程度は安心している様だ。

 僕は、正吾さんが居ると結局正吾さんを見てしまって本の内容が頭に入ってこないので、それだったら内職をした方が時間が有効活用できると思い、正吾さんに頼んでなんとかネットを使わないでもできる内職を探して貰い、商品ポップを折って、両面テープをつける内職をさせてもらっている。作業場所は在宅勤務をしている正吾さんの横だ。僕も正吾さんと一緒に働けている様に思えて、ちょっと嬉しくなる。


 月に1~2万円にしかならないから、そんなに家計の足しにはなってないんだけど、ついつい正吾さんばかり見てしまって変な事を考えてしまって一日が終わってしまうよりは、手を動かしている方が気がまぎれるし、生産的なのだ。
 それに、一生懸命働いてくれている正吾さんの隣で、娯楽の為に本を読んでいるのもなんとなく気まずいし。一応僕の方が奴隷なはずだし。


 そして、正吾さんはなんとそのお金を僕のお小遣いという事で渡してくれている。


 僕としては使い道もないし、正吾さんが色々揃えてくれているから別に何にも不自由してないし、借金の返済に充てて欲しかったのに、何か欲しい本や欲しいものが有ったらこのお金を使って正吾さんがエマゾンで注文してくれるらしい。

 遠慮していると思われない様に、時々そのお金を使ってコンビニスイーツを買ってきて欲しいと頼んで正吾さんと一緒に食べているが、その大半は貯金している。いつかお金が足りなくなった時にすぐ出せる様に。だって、借金返済は僕にとっても大事だから。いや、そもそも僕の為なんだし、僕にとってこそ大事なんだから。



 そんな僕たちの穏やかな日々はゆっくりと、でも確実に過ぎていった。

しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜

MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね? 前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです! 後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛 ※独自のオメガバース設定有り

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

さよならの向こう側

よんど
BL
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 ※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。 ※2026年春庭にて本編の書き下ろし番外編を無配で配る予定です。BOOTHで販売(予定)の際にも付けます。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

処理中です...