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貧乏暇なし
58.雁字搦め
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正吾は、若干胸を弾ませながら階段を上っていた。
これはもしかすると、おうちデート。いや、それを通り越していきなり同棲生活みたいな感じになるのでは?
二人はとっくに一緒に住んでいるし、なんなら一緒に寝てすらいるのだが、縄張り意識が強いアルファにとって、地下室はどうしても蒼空くんのテリトリーという意識が強かった。
地上の家という自分の縄張りに、やっと将来の伴侶だと思っているオメガを連れ込める。
主に自分の邪な欲望のせいで鎖という邪魔なものはあるが、生涯の伴侶と住もうと思って設計した家で、蒼空くんと一緒に生活できる。
なんという僥倖。オークション規則を破る事はリスクがあって、やってはいけない事だとは本当は解っている。
しかし、一緒に過ごしたいという欲望とこの気持ちの昂りは抑えきれなかった。
自分の巣穴に意中の雌を連れ込めるのだ。これはもはや雄の本能とも言えるだろう。
もし蒼空くんが望めば、もしかしたら夫婦の寝室で共に夜を過ごすことも出来るのでは?と胸が高鳴る。
別に何かしなくてもいい。ただ夫婦の寝室のベッドでいつもの様に一緒に寝るだけでも…。
と考えて、今は昼間だから外が明るいから良いが、家の中からの明かりが照らす夜だと人影が透けて見えないか心配になった。
いくら遮光一級のカーテンでも、限度があるかもしれない。
なにせ、俺と蒼空くんでは体格が違い過ぎる。一目で別人の影だとわかるだろう。後で確認しなくては。
一応家を取り囲む様に高い生垣があり、通行人がパッと見ても家の中は見えない様になっているが、それは逆を言えば生垣が邪魔をしてこちらも相手の姿を視認できないという事だ。
もし生垣に張り付いてこちらを凝視している人が居たとして、二階からなら解るかもしれないが、一階に居る際は全く判らない。
浮かれて取り返しがつかない心配をしてしまうのは怖い。ここは慎重に、慎重に。落ち着け、落ち着け俺。
ひとまず家中のカーテンがちゃんと締まっているか見て、急な事でカーテンクリップは無いから、見た目は悪いがとりあえずガムテープでカーテン同士隙間が無い様に止めて、壁紙とカーテンははがすとき傷つけない様に養生テープで止めて…。
焦るな。焦らずにじっくり考えて準備しなくては。
家中のカーテンをガムテープと養生テープで止めながら、気づくと鼻歌なんか歌ってしまっている。
たぶん蒼空くんと同じかそれ以上に、蒼空くんを自宅に招けることを楽しみにしている自分がいる。
いつかもう一度蒼空くんに、綺麗な空を見せたかった。
二階から人影が無いか確認して、片目程の隙間を開けて、蒼空くんに青空を見せてあげる事はできるだろうか。
それが今の俺に出来る精一杯だ。悔しいけれど、今は仕方ない。
いつか明るい空の下を一緒に手を繋いで歩きたい。
彼の事を知っている親父世代が死に絶えて、彼の容姿も中年から老年に変わる頃になったら、もう彼を見分けられる者は居ないだろう。
その頃になれば、オークション組織に多少の金を積めば実現可能だろうか。それとも、一生無理だろうか。
先のことは余り考えない様にしていたが、俺の方が十六歳も年上だ。
健康に気をつけて極力長生きしなくては。このまま何も手を打たなければ、俺の命日からそう遠くない日が、そのまま蒼空くんの命日になってしまう。
蒼空くんとの関係に少し進捗が見えて、少しずつ現実がのしかかって来る。
本当にこのままで良いのだろうか。何か手を考えて、俺の毒牙にかかる前に、彼を逃してあげた方が良いのではないだろうか。
これ以上関係が進んだら、蒼空くんを逃してあげられなくなる。この手を離せなくなる。諦めきれなくなる。
だからその前に、彼の本当の幸せを考えてあげるべき時期に来たのではないか。俺が与えられる偽りの最善の”幸せ”ではなくて。
まるで波の様に、自分の手で蒼空くんを幸せにしたい気持ちと、自分では幸せに出来ないから彼を逃してあげなくてはという気持ちが、寄せては返し、寄せては揺蕩う。
俺たちを縛るものが、何もなくなればいいのに。
普通のカップルの様に、誰に憚ることなく過ごせたら良かったのに。
テープで厳重に固定された異様なカーテンの様を見て、オークション規則で雁字搦めになっている自分たちを想う。
これはもしかすると、おうちデート。いや、それを通り越していきなり同棲生活みたいな感じになるのでは?
二人はとっくに一緒に住んでいるし、なんなら一緒に寝てすらいるのだが、縄張り意識が強いアルファにとって、地下室はどうしても蒼空くんのテリトリーという意識が強かった。
地上の家という自分の縄張りに、やっと将来の伴侶だと思っているオメガを連れ込める。
主に自分の邪な欲望のせいで鎖という邪魔なものはあるが、生涯の伴侶と住もうと思って設計した家で、蒼空くんと一緒に生活できる。
なんという僥倖。オークション規則を破る事はリスクがあって、やってはいけない事だとは本当は解っている。
しかし、一緒に過ごしたいという欲望とこの気持ちの昂りは抑えきれなかった。
自分の巣穴に意中の雌を連れ込めるのだ。これはもはや雄の本能とも言えるだろう。
もし蒼空くんが望めば、もしかしたら夫婦の寝室で共に夜を過ごすことも出来るのでは?と胸が高鳴る。
別に何かしなくてもいい。ただ夫婦の寝室のベッドでいつもの様に一緒に寝るだけでも…。
と考えて、今は昼間だから外が明るいから良いが、家の中からの明かりが照らす夜だと人影が透けて見えないか心配になった。
いくら遮光一級のカーテンでも、限度があるかもしれない。
なにせ、俺と蒼空くんでは体格が違い過ぎる。一目で別人の影だとわかるだろう。後で確認しなくては。
一応家を取り囲む様に高い生垣があり、通行人がパッと見ても家の中は見えない様になっているが、それは逆を言えば生垣が邪魔をしてこちらも相手の姿を視認できないという事だ。
もし生垣に張り付いてこちらを凝視している人が居たとして、二階からなら解るかもしれないが、一階に居る際は全く判らない。
浮かれて取り返しがつかない心配をしてしまうのは怖い。ここは慎重に、慎重に。落ち着け、落ち着け俺。
ひとまず家中のカーテンがちゃんと締まっているか見て、急な事でカーテンクリップは無いから、見た目は悪いがとりあえずガムテープでカーテン同士隙間が無い様に止めて、壁紙とカーテンははがすとき傷つけない様に養生テープで止めて…。
焦るな。焦らずにじっくり考えて準備しなくては。
家中のカーテンをガムテープと養生テープで止めながら、気づくと鼻歌なんか歌ってしまっている。
たぶん蒼空くんと同じかそれ以上に、蒼空くんを自宅に招けることを楽しみにしている自分がいる。
いつかもう一度蒼空くんに、綺麗な空を見せたかった。
二階から人影が無いか確認して、片目程の隙間を開けて、蒼空くんに青空を見せてあげる事はできるだろうか。
それが今の俺に出来る精一杯だ。悔しいけれど、今は仕方ない。
いつか明るい空の下を一緒に手を繋いで歩きたい。
彼の事を知っている親父世代が死に絶えて、彼の容姿も中年から老年に変わる頃になったら、もう彼を見分けられる者は居ないだろう。
その頃になれば、オークション組織に多少の金を積めば実現可能だろうか。それとも、一生無理だろうか。
先のことは余り考えない様にしていたが、俺の方が十六歳も年上だ。
健康に気をつけて極力長生きしなくては。このまま何も手を打たなければ、俺の命日からそう遠くない日が、そのまま蒼空くんの命日になってしまう。
蒼空くんとの関係に少し進捗が見えて、少しずつ現実がのしかかって来る。
本当にこのままで良いのだろうか。何か手を考えて、俺の毒牙にかかる前に、彼を逃してあげた方が良いのではないだろうか。
これ以上関係が進んだら、蒼空くんを逃してあげられなくなる。この手を離せなくなる。諦めきれなくなる。
だからその前に、彼の本当の幸せを考えてあげるべき時期に来たのではないか。俺が与えられる偽りの最善の”幸せ”ではなくて。
まるで波の様に、自分の手で蒼空くんを幸せにしたい気持ちと、自分では幸せに出来ないから彼を逃してあげなくてはという気持ちが、寄せては返し、寄せては揺蕩う。
俺たちを縛るものが、何もなくなればいいのに。
普通のカップルの様に、誰に憚ることなく過ごせたら良かったのに。
テープで厳重に固定された異様なカーテンの様を見て、オークション規則で雁字搦めになっている自分たちを想う。
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