【完結】もう一度君に蒼空を見せたい〜奴隷オークションで高額な処女地下オメガを買ってしまったので借金返済に追われています〜

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相互理解

47.純然たる被害者(オメガ視点)

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<蒼空視点>


 もう、心の中でもご主人様というのはやめよう。
 僕が自分の事を奴隷だと思っていると、さっきみたいについ口から出てしまって、いつか正吾さんを傷つける。
 だから、もうご主人様と奴隷であったことは忘れよう。


 先ほどの会話の中で、僕はいつの間にか意識せずに、正吾さんの事を様付けではなく、自然と正吾さんと呼べていた。



 僕が何も言わなくても、正吾さんが家にいると僕がお風呂に入りづらい事を彼が解ってくれていて嬉しかった。
 僕を奴隷だとは思っていない事も、僕たちは対等だと言ってくれた事も、僕が純然な被害者で、正吾さんが加害者だから僕の為に何かすることに引け目を感じなくていいと言ってくれた事も。

 そして、僕の事を好きだと言ってくれた事も。

 特に、僕が純然たる被害者であると言い切ってくれたことは、僕の心を軽くした。

 僕と母の最近の境遇は、まるで僕たちが何かとてつもなく悪いことをしてしまって、その罰を今受けているんじゃないかと思わせる様なものだった。

 前世かもしれないし、今世かもしれない。
 でも僕たちが知らないところで、きっと何か大きな罪を犯してしまったから、僕たちはこの世の地獄に落とされて、酷い罰を受ける事になったんだと漠然と感じていた。

 そうでなければ、僕たちがこんなに酷い事をされる説明がつかない。

 それが、誰かの純然たる悪意によるもので、美人が居たから蹂躙する。欲しいから手に入れて、大した理由がなくとも壊す。
 弱者が酷い目に遭う事に、そんな崇高な理由なんて全くないんだとは、信じられない位には、僕は箱入りだったから。


「僕らは純然たる被害者で、母も僕も何も悪くない。」
 正吾さんの言葉はそう言ってくれた様に錯覚した。

 もちろん、事業に失敗してしまった父も悪くないだろう。


 当然営利企業だからお金儲けの為というのもある。けれど、父が中南米に投資していたのは、現地に雇用を創出して、アメリカに亡命したくても出来ないような貧民達や貧困に喘ぐ女性を助けたいからだ。と父が話してくれたことがある。

 企業にはCSR社会的責任がある。柏木商事は創業者が大きな裁量権を持つ独立系の商社だからこそ、自分たちの心の赴くままに、その社会的責任を果たしていけるんだと、株主の利益を最大限に考えなくてはならない大手財閥系とはそこが違うんだと父はよく話していた。きっと将来、僕にもそういうことを考える人になって欲しいと思っていたんだと思う。


 その時僕は、こんなにも立派な人が父で良かったと思った。僕も将来、そういう人の為になる様な形で力を行使したいと思っていた。もう叶わない夢だけれど。


 通貨危機が起こったのは天災のせいで、本当に偶然で、当然父のせいではない。

 僕たち家族は運が悪かっただけで、誰も悪くないんだ。
 だから、これは何かの罰ではない。
 僕達は、何も悪いことをしていない。

 何かの罪を償う必要がないのならば、僕は幸せになってもいいんだ。
 その権利があるんだ。

 正吾さんが、「僕は純然たる被害者」だと言ってくれた事で、僕は素直にそう思える様になった。

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