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婚約破棄
15.フィナンシャル・クローズ
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そんな中でも仕事は待ってくれない。
俺の仕事は総合商社の資源部門での投資プロジェクトの組成である。
今回手掛けている巨大LNGの案件は、顧客は中東、融資はロンドン、事業者は日本、建設は韓国と、すべてのプレイヤーが全世界に散らばっている。
遠距離で尚且つ時差も大きく、電話会議ではなかなか契約条件がまとまらない。PJ融資契約締結が三週間も伸びてしまった。
最終手段とばかりにすべての関係者を一同に会したドバイで、なんとかPJ融資契約締結を無事に終える事ができた。
次は建設フェーズに入るため、営業である俺がやらなくてはならないことは一先ず一段落した。
残りはこの後のプロジェクト実行フェーズを円滑に進めていく為の、顧客や関係者との友好な関係づくりのみだ。
大きなプロジェクトがひと段落して、顧客の中東富豪も大喜び。
地道なポイント稼ぎが功を奏し、顧客に気に入られた俺は、最後の夜に贔屓の奴隷オメガで遊んでいかないかと誘われた。
いつもなら法令遵守を理由に断っていた。だが今回は、大きな仕事が終わってしまったが故の燃え尽き症候群と、一緒に住む家まで設計していた婚約者に逃げられた喪失感で抜け殻になってしまっていたのだろう。
それもいいかと、何故だか俺はこの時思ってしまった。
営業という仕事上、顧客の機嫌を損ねることはできないと自分自身に言い訳をして、顧客が口利きしてくれたお店の褐色の奴隷オメガと一夜を過ごした。
取引先からの性接待は本来コンプライアンス違反である。ただ、支払いを自費で出せばそこはグレーゾーン。
俺はかなり割引されているだろう支払いを済ませ、はぁやっと日本に帰れると飛行機の時間を気にしながら、奴隷売春宿を出ようとした。
そこで、『日本でも地下オークションで奴隷オメガを入手できますよ。』と黒服に営業をかけられ、連絡先を渡された。
全然そんなつもりは無かった俺は驚いたが、どうやら黒服は、王位継承権すら持っている石油大富豪の紹介で、彼の贔屓の奴隷オメガを貸し出された俺の事を、かなりのVIPと勘違いしたらしい。
誤解を解いたり断ったりする手間がただ惜しかっただけで、俺はその電話番号をなんとなく流れで受け取っただけだった。
日本で普通に出会うオメガとは違い、相手を楽しませようと気を遣う必要がなく、何にでも従順な奴隷オメガは確かに気が楽で良かったが、俺にとってはただそれだけだった。
特に嗜虐趣味があるでもなく、弱いものイジメが好きな部類でもない俺にとっては、奴隷オメガとの一夜は、別に特別気に入る様な体験でもなかった。
だから、当然そんなものに連絡をするつもりは全くなく、適当にシャツのポケットに突っ込んでそのまま持って帰ってきてしまっただけだった。
しかし、いざ日本に帰ってみると、大きな仕事が終わったからと上司にねぎらわれて、しばらくはゆっくりしてくれと次の仕事もまだなく、定常業務のみのゆるい日々。
時間だけはたっぷりとあった。
同僚にも色々と労われて婚約者に逃げられた事で気を使われ、合コンやらオメガを紹介する食事会やらに顔を出す日々。
ちょっと可愛いなと思うオメガが居ても、芯が強く、自信に満ち溢れていた元婚約者とついつい比べてしまう。
やっとお眼鏡に適っても、また運命のツガイに出会って捨てられたらと思うと、なかなか前に進めない。
かと言って、ベータ家庭に産まれ、ツガイという強い絆に特別な憧れがあった俺は、ベータ女性を生涯の伴侶にする気にはどうしても成れなかった。
例えそれが、運命のツガイに怯えなくても済む唯一の方法だと一般的に思われていたとしても。
何人かのオメガの子と食事に行ったり、夜を過ごしたりしたが結局しっくりこず、どんなにかわいくて性格が良さそうな子とでも、余り長くは続かなかった。
俺の仕事は総合商社の資源部門での投資プロジェクトの組成である。
今回手掛けている巨大LNGの案件は、顧客は中東、融資はロンドン、事業者は日本、建設は韓国と、すべてのプレイヤーが全世界に散らばっている。
遠距離で尚且つ時差も大きく、電話会議ではなかなか契約条件がまとまらない。PJ融資契約締結が三週間も伸びてしまった。
最終手段とばかりにすべての関係者を一同に会したドバイで、なんとかPJ融資契約締結を無事に終える事ができた。
次は建設フェーズに入るため、営業である俺がやらなくてはならないことは一先ず一段落した。
残りはこの後のプロジェクト実行フェーズを円滑に進めていく為の、顧客や関係者との友好な関係づくりのみだ。
大きなプロジェクトがひと段落して、顧客の中東富豪も大喜び。
地道なポイント稼ぎが功を奏し、顧客に気に入られた俺は、最後の夜に贔屓の奴隷オメガで遊んでいかないかと誘われた。
いつもなら法令遵守を理由に断っていた。だが今回は、大きな仕事が終わってしまったが故の燃え尽き症候群と、一緒に住む家まで設計していた婚約者に逃げられた喪失感で抜け殻になってしまっていたのだろう。
それもいいかと、何故だか俺はこの時思ってしまった。
営業という仕事上、顧客の機嫌を損ねることはできないと自分自身に言い訳をして、顧客が口利きしてくれたお店の褐色の奴隷オメガと一夜を過ごした。
取引先からの性接待は本来コンプライアンス違反である。ただ、支払いを自費で出せばそこはグレーゾーン。
俺はかなり割引されているだろう支払いを済ませ、はぁやっと日本に帰れると飛行機の時間を気にしながら、奴隷売春宿を出ようとした。
そこで、『日本でも地下オークションで奴隷オメガを入手できますよ。』と黒服に営業をかけられ、連絡先を渡された。
全然そんなつもりは無かった俺は驚いたが、どうやら黒服は、王位継承権すら持っている石油大富豪の紹介で、彼の贔屓の奴隷オメガを貸し出された俺の事を、かなりのVIPと勘違いしたらしい。
誤解を解いたり断ったりする手間がただ惜しかっただけで、俺はその電話番号をなんとなく流れで受け取っただけだった。
日本で普通に出会うオメガとは違い、相手を楽しませようと気を遣う必要がなく、何にでも従順な奴隷オメガは確かに気が楽で良かったが、俺にとってはただそれだけだった。
特に嗜虐趣味があるでもなく、弱いものイジメが好きな部類でもない俺にとっては、奴隷オメガとの一夜は、別に特別気に入る様な体験でもなかった。
だから、当然そんなものに連絡をするつもりは全くなく、適当にシャツのポケットに突っ込んでそのまま持って帰ってきてしまっただけだった。
しかし、いざ日本に帰ってみると、大きな仕事が終わったからと上司にねぎらわれて、しばらくはゆっくりしてくれと次の仕事もまだなく、定常業務のみのゆるい日々。
時間だけはたっぷりとあった。
同僚にも色々と労われて婚約者に逃げられた事で気を使われ、合コンやらオメガを紹介する食事会やらに顔を出す日々。
ちょっと可愛いなと思うオメガが居ても、芯が強く、自信に満ち溢れていた元婚約者とついつい比べてしまう。
やっとお眼鏡に適っても、また運命のツガイに出会って捨てられたらと思うと、なかなか前に進めない。
かと言って、ベータ家庭に産まれ、ツガイという強い絆に特別な憧れがあった俺は、ベータ女性を生涯の伴侶にする気にはどうしても成れなかった。
例えそれが、運命のツガイに怯えなくても済む唯一の方法だと一般的に思われていたとしても。
何人かのオメガの子と食事に行ったり、夜を過ごしたりしたが結局しっくりこず、どんなにかわいくて性格が良さそうな子とでも、余り長くは続かなかった。
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