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断絶~ドゥアンジゥェ~

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 あれから二年。僕は中学二年生になった。
 先生が居なくても、僕の象棋シャンチーの腕前は相変わらず上達を続けていて、今は市の大会で入賞する事もあるくらいだ。

 沈老師シェンラオシーとは毎月文通をしている。別れたその日から少しも間を空けず、ずっと。
 僕は先生から返事が来たら、徹夜してでもすぐその日のうちに返事を認めている。先生からも、そんなに遅れずに返事が来ているはずだ。


 なんでも、「もしメールを許可したら毎日先生とメールしかしなくなって、全く勉強しなくなるでしょ?」とは母の言だ。よく僕の事を解っている。
 だからこの文明の時代に、僕達は敢えての文通だった。



 来週は重陽節チョンヤンジェー※4[陰暦九月九日。菊の節句]だ。

 だから僕は、今の僕と沈老師シェンラオシーの心境にぴったりのこの季節の漢詩を書いて、先生に送った。
 そろそろ手紙が日本に届いて、先生が読む頃だろうか。俺は先生からのお返事を今か今かと待ち望んでいた。

 でも、もうとっくに返信が届いてもおかしくない時期なのに、沈老師シェンラオシーからの返信は一向に来ない。もしかして、隠していた僕の気持ちがあの漢詩で伝わってしまったのだろうか。それとも漢詩はちょっと重すぎて引かれた? 
 僕は正しく一日千秋の想いで毎日を過ごした。



 そんな僕の元に、ある日一通の手紙が届いた。その差出人は僕。そう、僕が送った手紙が、差出人不明で戻ってきてしまったのだ。

 沈老師シェンラオシー、引っ越しちゃったって事?え?僕に何の断りもなく?

 もしそうなら、もうしばらく待てば住所が変わった事を知らせる先生からの手紙が来るものだとばかり思っていた。

 それなのに、待てど暮らせど先生からの連絡は来なかった。


 僕は凄く悲しかった。と同時に怒りが湧いた。
 だって、僕は何の前触れもなく、一方的に沈老師シェンラオシーとの連絡の手段を絶たれてしまったんだ。引っ越すなんて、前の手紙には一言もそんな事書いてなかったのに。

 先生の電話番号は知っているけれど、中学生の僕には国際電話なんて幾らかかるのか見当もつかなかった。親に怒られるのが怖くて、国際電話を掛けることは出来なかった。


 手元に戻ってきた自分の手紙を読んで、更に切なさが増した。
 そこに書いたのは、重陽節チョンヤンジェーの一番有名な詩だったから。
 その詩に乗せた僕の想いすらも、沈老師シェンラオシーに否定された気持ちになってしまった。


『独在異郷為異客、毎逢佳節倍思親。※5
 たった一人異郷で異邦人として過ごすと、節日には愛しいあなたの事が普段の倍以上も恋しくなる。

 遥知兄弟登高処、遍挿茱萸少一人。
 虎龍哥が高みに昇り、節日ならではの時を過ごす折に、ただ僕があなたの傍に居られない事を寂しく思う。』
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