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朝になった。
金翼宮の片隅にある宝物庫に訪れた女官が、空気の入れ替えのために鎧戸を開け放った。
窓から、朝陽が差し込む。宝物庫の中には、所狭しと宝物が並べられていた。
珍しい宝石、金や銀細工の置き物、陶磁器、宝石が散りばめられた宝剣、全て金翼宮の主人の翼弦が、世界中から集めてきた蒐集物だ。
朝陽に照らされて燦然と輝く蒐集物の中に、ひと際輝く美しい宝物があった。
それは、琥珀色の瞳をした、象牙色の肌の裸身の男、生ける彫像と化した九曜だった。
昨晩、金翼宮に連れ去られた九曜は、翼弦から手籠めにされそうになり、金翼宮から脱出を図った。
しかし、翼弦から再び捕らえられた九曜は、動揺するあまり、無意識のうちに仙術を用いて翼弦を攻撃していた。
負傷した翼弦は、九曜に一瞬にして報復した。すなわち、九曜を生ける彫像と化したのだった。
九曜は金翼宮の宝物庫の蒐集物の一つとして飾られることになった。
そして一夜が明けた。
今の九曜に許されているのは、思考のみだった。
人間と仙人とでは、まるで格が違う。
九曜は仙人に牙を剥いたのだ。本来ならば殺されてもしょうがない。
この報復が永劫に続くのならば、死に等しい。
九曜は考えるだに憂鬱になった。もう、愛する者には二度と会えないのだろうか。
女官が部屋を去り、廊下で人の気配がした。
九曜は耳を澄ました。男の足取りだ。
宝物庫に入ってきたのは翼弦だった。
「気分はどうだ? 九曜よ」
翼弦からまじまじと見られて、九曜の心に羞恥心が襲ってきた。九曜は裸なのだ。
翼弦は九曜に歩み寄り、彫像の頬が赤らんでいくのを見届けると、満悦の表情となった。
(生き地獄だ……)
九曜の体が悔しさゆえに微かに震える。なにかいおうにも、言い返せない。
「昨日の一撃は効いたぞ。よくも私を不能にしてくれたな。さすがは泡沫洞の弟子だ。私でも治癒には長い時間を要する。それまで別の楽しみ方を模索することにした」
翼弦は九曜の頬に手を触れると、おとがいまでの輪郭を確認するようにさらりと撫でてから、九曜の目の前に用意された一人用の椅子に腰かけた。
無論、九曜を鑑賞するための椅子だ。
(なんという悪趣味な……)
九曜は心の中で翼弦の愚行を嘆いた。一度は師事しようと考えた男なのに。
翼弦は九曜の心中を察したように履いていた笑みを深くした。
翼弦は九曜に不躾な視線を注ぎ続ける。
艶やかな黒髪、長い睫毛が下を向いた、少々陰鬱な潤んだ琥珀色の瞳に、象牙色の肌に薄く紅潮した頬、魅惑的な唇に、細く滑らかな首筋、鎖骨、肩から腕にかけて、紅く色づいた胸の先、腹から腰の曲線、体の中央で奥ゆかしく垂れ下がる陽物から肉づきのよい太腿、脚まで、翼弦の視線はまるで遠慮がない。
翼弦の精力的な黒い瞳は、九曜を暴力的に視姦していた。完全に自分の所有物だといいたげだった。
(幻以……)
幻以を想う九曜の目から、ひとしずくの涙が流れ落ちた。
金翼宮の片隅にある宝物庫に訪れた女官が、空気の入れ替えのために鎧戸を開け放った。
窓から、朝陽が差し込む。宝物庫の中には、所狭しと宝物が並べられていた。
珍しい宝石、金や銀細工の置き物、陶磁器、宝石が散りばめられた宝剣、全て金翼宮の主人の翼弦が、世界中から集めてきた蒐集物だ。
朝陽に照らされて燦然と輝く蒐集物の中に、ひと際輝く美しい宝物があった。
それは、琥珀色の瞳をした、象牙色の肌の裸身の男、生ける彫像と化した九曜だった。
昨晩、金翼宮に連れ去られた九曜は、翼弦から手籠めにされそうになり、金翼宮から脱出を図った。
しかし、翼弦から再び捕らえられた九曜は、動揺するあまり、無意識のうちに仙術を用いて翼弦を攻撃していた。
負傷した翼弦は、九曜に一瞬にして報復した。すなわち、九曜を生ける彫像と化したのだった。
九曜は金翼宮の宝物庫の蒐集物の一つとして飾られることになった。
そして一夜が明けた。
今の九曜に許されているのは、思考のみだった。
人間と仙人とでは、まるで格が違う。
九曜は仙人に牙を剥いたのだ。本来ならば殺されてもしょうがない。
この報復が永劫に続くのならば、死に等しい。
九曜は考えるだに憂鬱になった。もう、愛する者には二度と会えないのだろうか。
女官が部屋を去り、廊下で人の気配がした。
九曜は耳を澄ました。男の足取りだ。
宝物庫に入ってきたのは翼弦だった。
「気分はどうだ? 九曜よ」
翼弦からまじまじと見られて、九曜の心に羞恥心が襲ってきた。九曜は裸なのだ。
翼弦は九曜に歩み寄り、彫像の頬が赤らんでいくのを見届けると、満悦の表情となった。
(生き地獄だ……)
九曜の体が悔しさゆえに微かに震える。なにかいおうにも、言い返せない。
「昨日の一撃は効いたぞ。よくも私を不能にしてくれたな。さすがは泡沫洞の弟子だ。私でも治癒には長い時間を要する。それまで別の楽しみ方を模索することにした」
翼弦は九曜の頬に手を触れると、おとがいまでの輪郭を確認するようにさらりと撫でてから、九曜の目の前に用意された一人用の椅子に腰かけた。
無論、九曜を鑑賞するための椅子だ。
(なんという悪趣味な……)
九曜は心の中で翼弦の愚行を嘆いた。一度は師事しようと考えた男なのに。
翼弦は九曜の心中を察したように履いていた笑みを深くした。
翼弦は九曜に不躾な視線を注ぎ続ける。
艶やかな黒髪、長い睫毛が下を向いた、少々陰鬱な潤んだ琥珀色の瞳に、象牙色の肌に薄く紅潮した頬、魅惑的な唇に、細く滑らかな首筋、鎖骨、肩から腕にかけて、紅く色づいた胸の先、腹から腰の曲線、体の中央で奥ゆかしく垂れ下がる陽物から肉づきのよい太腿、脚まで、翼弦の視線はまるで遠慮がない。
翼弦の精力的な黒い瞳は、九曜を暴力的に視姦していた。完全に自分の所有物だといいたげだった。
(幻以……)
幻以を想う九曜の目から、ひとしずくの涙が流れ落ちた。
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