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賢帝が治める金剛国(こんごうこく)という国がある。
その、金剛領のはずれの峻厳な山、吉祥山(きっしょうざん)に仙人の住む仙洞がある。
泡沫(ほうまつ)洞だ。
その日、金剛国のはずれの山岳地帯にある蠍(さそり)の里で暮らす九曜は幻以(げんい)に連れられて、翼馬に乗り、師匠の孔雀(くじゃく)を訪ねた。
九曜と幻以の二人が結ばれたことを報告するためだ。
かつて、九曜と幻以は孔雀の弟子だった。
九曜は孔雀の弟子の中でも特別な存在で、孔雀の寵愛を一身に受ける稚児だった。
その九曜が高齢により稚児の任を解かれた。その後、九曜は、かねてより九曜を側に置きたいと望んでいた孔雀の囲碁仲間の仙人の翼弦に乞われて、彼のもとへ行く約束をした。
しかし、九曜は翼弦のもとへ向かう途中で遭難してしまう。そんな折、九曜に恋慕の情を抱いていた幻以がいち早く九曜を発見し、策を弄して自分の故郷、蠍の里に九曜を連れ去り、説得の後に九曜を手に入れたのだ。
弟子の一人に過ぎない幻以の撹乱が許されるはずはなく、九曜と幻以は泡沫洞から破門された。
半年ほどして、孔雀から許された九曜と幻以は、婚姻の報告を兼ねて泡沫洞へと向かったのだった。
九曜はよく晴れた青空の上で、夫の幻以が手綱を繰る翼馬に乗った九曜は、幻以のたくましい胸にもたれて、流れる雲を眺めていた。
幻以が宗主を務める蠍の里では、男同士の婚姻が認められていて、妊娠も可能な秘薬が存在していた。
九曜は妊娠を望み、毎日秘薬を服用していた。
その日はまだこないが、九曜の心は幸せに満ちていた。
泡沫洞に到着した二人を出迎えていたのは、九曜と幻以が世話をしていた弟子たちだ。皆、白い道衣を着ている。
二人の事情を知らされている弟子たちは、九曜と幻以を温かい笑顔で出迎えた。
翼馬から降りた九曜のもとへ、おさげ髪の一人の少女が駆け寄る。
九曜が泡沫洞で修業していた時、特に目をかけていた少女、沙羅だ。しばらく見ないうちに美しい娘になっていた。
「お帰りなさい、九曜様、そして、おめでとうございます」
「ただいま、沙羅。ありがとう」
九曜はなにやら気恥ずかしくて、控えめな声で言った。
泡沫洞の九曜と幻以が一緒になるなど、誰も想定していなかったに違いないのだ。
次いで沙羅と同期で幻以の甥の翔太が九曜と幻以のもとに歩み寄った。沙羅と同様、背が伸びた翔太は立派な青年になっていた。
「お帰りなさい、叔父さん。破門はそのうち解かれると思っていたけど、甥として肩身が狭かったよ」
「迷惑をかけてすまんな」
幻以は翔太に苦笑しつつ、九曜を抱き寄せた。
「翔太、俺の嫁だ」
「叔父さんなら必ず九曜様を手に入れると思っていたよ」
言うと、翔太は満面の笑みになった。
九曜は自分と幻以の婚姻が想定内だった者もいるのだな、と驚きつつも、洞内で生活していた頃の幻以は全身で九曜を求めていたことを思い出した。
「九曜様、幻以様、中で孔雀様と……翼弦様がお待ちです」
沙羅から翼弦と聞いて、九曜はわずかにおびえた。
翼弦。彼は九曜の第二の居場所になるところだった。
九曜は翼弦のところへたどり着く前に、安寧を手に入れた。
翼弦にとって九曜と幻以の婚姻は、面白くないに違いない。
九曜の心の内を悟った幻以は、九曜の体をしっかりと抱き締めた。
「大丈夫だ。俺がいる」
幻以から耳元でささやかれて、九曜はうなずいた。
その、金剛領のはずれの峻厳な山、吉祥山(きっしょうざん)に仙人の住む仙洞がある。
泡沫(ほうまつ)洞だ。
その日、金剛国のはずれの山岳地帯にある蠍(さそり)の里で暮らす九曜は幻以(げんい)に連れられて、翼馬に乗り、師匠の孔雀(くじゃく)を訪ねた。
九曜と幻以の二人が結ばれたことを報告するためだ。
かつて、九曜と幻以は孔雀の弟子だった。
九曜は孔雀の弟子の中でも特別な存在で、孔雀の寵愛を一身に受ける稚児だった。
その九曜が高齢により稚児の任を解かれた。その後、九曜は、かねてより九曜を側に置きたいと望んでいた孔雀の囲碁仲間の仙人の翼弦に乞われて、彼のもとへ行く約束をした。
しかし、九曜は翼弦のもとへ向かう途中で遭難してしまう。そんな折、九曜に恋慕の情を抱いていた幻以がいち早く九曜を発見し、策を弄して自分の故郷、蠍の里に九曜を連れ去り、説得の後に九曜を手に入れたのだ。
弟子の一人に過ぎない幻以の撹乱が許されるはずはなく、九曜と幻以は泡沫洞から破門された。
半年ほどして、孔雀から許された九曜と幻以は、婚姻の報告を兼ねて泡沫洞へと向かったのだった。
九曜はよく晴れた青空の上で、夫の幻以が手綱を繰る翼馬に乗った九曜は、幻以のたくましい胸にもたれて、流れる雲を眺めていた。
幻以が宗主を務める蠍の里では、男同士の婚姻が認められていて、妊娠も可能な秘薬が存在していた。
九曜は妊娠を望み、毎日秘薬を服用していた。
その日はまだこないが、九曜の心は幸せに満ちていた。
泡沫洞に到着した二人を出迎えていたのは、九曜と幻以が世話をしていた弟子たちだ。皆、白い道衣を着ている。
二人の事情を知らされている弟子たちは、九曜と幻以を温かい笑顔で出迎えた。
翼馬から降りた九曜のもとへ、おさげ髪の一人の少女が駆け寄る。
九曜が泡沫洞で修業していた時、特に目をかけていた少女、沙羅だ。しばらく見ないうちに美しい娘になっていた。
「お帰りなさい、九曜様、そして、おめでとうございます」
「ただいま、沙羅。ありがとう」
九曜はなにやら気恥ずかしくて、控えめな声で言った。
泡沫洞の九曜と幻以が一緒になるなど、誰も想定していなかったに違いないのだ。
次いで沙羅と同期で幻以の甥の翔太が九曜と幻以のもとに歩み寄った。沙羅と同様、背が伸びた翔太は立派な青年になっていた。
「お帰りなさい、叔父さん。破門はそのうち解かれると思っていたけど、甥として肩身が狭かったよ」
「迷惑をかけてすまんな」
幻以は翔太に苦笑しつつ、九曜を抱き寄せた。
「翔太、俺の嫁だ」
「叔父さんなら必ず九曜様を手に入れると思っていたよ」
言うと、翔太は満面の笑みになった。
九曜は自分と幻以の婚姻が想定内だった者もいるのだな、と驚きつつも、洞内で生活していた頃の幻以は全身で九曜を求めていたことを思い出した。
「九曜様、幻以様、中で孔雀様と……翼弦様がお待ちです」
沙羅から翼弦と聞いて、九曜はわずかにおびえた。
翼弦。彼は九曜の第二の居場所になるところだった。
九曜は翼弦のところへたどり着く前に、安寧を手に入れた。
翼弦にとって九曜と幻以の婚姻は、面白くないに違いない。
九曜の心の内を悟った幻以は、九曜の体をしっかりと抱き締めた。
「大丈夫だ。俺がいる」
幻以から耳元でささやかれて、九曜はうなずいた。
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