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水神殿への帰還

8-5 フェイのお馬さん

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 盗賊の残党を逃げないように馬車に縛り、殺した盗賊たちの遺体処理を行う。
 騎士たちが盗賊全員の顔写真を撮っている。高額の賞金首も数名いて、確認ができれば換金してくれるようだ。それ以外は焼却処分となる。

 雑魚は殺さないで奴隷として売ったほうがお金にはなったそうだが、街まで連れて行く間は俺が管理しないといけないようなので、それは流石に面倒だ。

 人型のオークやゴブリンを散々殺しまくったせいか、俺にはもう盗賊相手に可哀想とかいう感情は全くない。
 こいつらには日本人のような倫理観は全く通用しない。甘く接すれば他の誰かが被害に遭う。下手な同情はこの世界の人にとって害悪にしかならない。



 護衛をしていた騎士の遺体は街まで持ち帰り丁重に弔うそうだ。
 命を挺してお嬢様を守った騎士として、家族が当分暮らせるだけの報奨がでるようだ。
 こういう制度があるから騎士は皆が憧れる職業の一つになっているのだろう。冒険者が死んでも何の保証もない。貯蓄が無ければ残された家族は路頭に迷うしかないのだ。


 この後の予定だが、壊れた馬車はソシリアの村から鍛冶職人がきてとりあえず動くように修理をするそうだ。
 村に持ち帰り、本格的な馬車の修理と追加の人員が到着するまでソシリアの村で待機するのが今回俺に与えられた緊急依頼だ。

 俺への報奨は1日100万ジェニーも出してくれるとの事だが、それ以外にも盗賊1人当たりに10万ジェニー別途で報奨としてくれるそうだ。つまり合計で500万ジェニーが領主から俺に支払われることになる。

 今回の獲得品は領主からの2日分の護衛依頼200万ジェニー、盗賊1人10万ジェニー×28人:280万ジェニー、馬13頭、懸賞首7人、奴隷落ち盗賊1名、盗賊の所持金160万ジェニー、盗賊の所持品。

 盗賊の所持品の中には武器や防具、魔石や宝石、回復剤なども含まれる。全部売ればそこそこの金額になりそうだ。

 領主からの依頼料が多いと思ったのだが、どうやら誘拐窃盗団捕縛の件の感謝の意も含まれてるとの事だ。
 イリスさんがふっかけてふんだくったわけではなさそうで安心した。そんな事で領主に目を付けられたくはないからね。


「パウルさん、懸賞首や馬なんかをハーレンまで運ぶのを頼めないかな? 処分はギルドの方に頼むことにしたけど、そこまで運ぶのはお願いしたいんだけどダメかな?」

「ああ、構わない。リョウマ殿は補充人員が来るまでの2日間、護衛の為にいてくれさえすればいい。後は俺たちの方で責任を持ってハーレンまで届ける」

「ありがとう。ハーレンまで戻るのは流石に面倒だから助かります」

 今回の利益はそのまま神殿に寄付する予定だ。流石にお金はもう要らない。俺個人としてはあまり使い道がない。素材の購入費分残しておけば十分なのだ。


 事後処理をしていたら、サリエさんが馬で駆けつけてきた。

「止まれ! それ以上近づくと問答無用で切るぞ!」
「あ! パウルさん、その人は俺と一緒にガラ商会を護衛しているクラン『灼熱の戦姫』の方です。ゴールドランクの方なので、見た目はあれですがパウルさんより遥かに強いですよ」

 俺の発言に嘘だろっていう風に、見た目15歳くらいのちみっこを舐めるように上から下まで見つめていた。

「ん! リョウマ速すぎ! 直ぐ追いかけたのに全く追いつけなかった!」

 見るとサリエさんの愛馬がゼーゼー言っている。全力で35kmを駆けてきたのだろう。普通の馬とかならできないだろうな……馬も異世界仕様ってことか。可哀想だったので回復剤を混ぜた水を出してやり【アクアヒール】と【アクアフロー】で軽くマッサージしてあげたら、スリスリと頭を擦りつけてきて可愛かった。

「ん、ありがとう。凄くこの子も喜んでる」

「サリエさんだけで来たのですか?」
「ん、この子が一番早いから私だけ先に来た。商隊ごとこっちに来るって言ってた」

「それは有り難い。私はこの隊の副隊長のパウル・E・クレストだ。冒険者のサリエだったな。駆け付けてくれて感謝する」

「ん、バナムの冒険者ギルド所属、Aランク冒険者のサリエです」


 サリエさんがゴールドカードを提示し、2人が挨拶を終える頃に、女性陣が着替えてやってきた。

「リョウマ様、改めて感謝いたします。助けてくださりありがとうございました」

 侍女と女騎士さんも一緒に深々と頭を下げお礼を言ってきた。女騎士も居たんだなとこの時やっと気づいたのだが、この人も重傷を負っていたそうでヤバかったそうだ。侍女は俺と目が合うとポッと顔を赤らめるのでとても可愛かった。

 今回この隊での死者は4人、御者と隊長と騎士2名だ。騎士の中では女騎士が回復担当だったようで、最後まで皆に守られていたおかげで助かったようだ。

 侍女とお嬢様と女騎士、3人も回復職が居たので俺の到着まで持ちこたえられたとも言える。


 現在、ガラ商隊の到着待ちだ。ソシリアの村から鍛冶屋を連れて移動中との連絡があった。
 暇を持て余してうろうろしていたサリエさんが、俺を手招きで呼んでいる。

「サリエさんどうしました?」
「ん、良い馬が一頭いる」

 どうやら、馬や盗賊の武器なんかを見てたサリエさんが気に入った馬がいたようだ。

「気に入ったのなら差し上げますよ」
「ん、違う。リョウマが乗ると良い」

「俺たちは自分で走った方が速いですからね。馬はかえって足手まといになります」
「ん、神殿まで行くのにあの親子には必要」

 成程、俺たちっていうよりナシル親子の為か。でもその為に生き物を飼うのもなー。馬の世話って凄く大変だしね。その期間だけ飼って売るのも可哀想だよな。頭も良くデリケートな馬にはあっちこっち飼い主が変わるのは凄いストレスになるだろう。飼うならちゃんと最後まで面倒を見る覚悟がいる。


 それから1時間程したころ、ガラさんが鍛冶屋を連れてやってきた。

「ナターシャ様、お久しぶりでございます。この度は災難でございましたな。無事で何よりです」
「ガラ殿、態々駆けつけてくださり感謝します。この件で発生した損失は我がハーレン家が責任を持って保証しますので、よしなに頼みます」

「はい、冒険者に支払う日当分だけですので問題ありません。冒険者たちにも許可を得ています。存分に私共をお使いください」

「他の皆も感謝します。2日程お付き合いください」

 皆も頭を下げ了承の意を表している。

「ですがナターシャ様、どうして上街道ではなく下街道をお使いになられたのですか? 普通貴族は騎士の護衛がいるので上街道をお使いになりますよね?」

「それは私が答えよう。隊長が冒険者ギルドで、最近シルバーウルフがバナムから2日目の野営地でよく出るようになったと聞いてきて、万が一があってもいけないからと、念のために下街道経由で行こうと決断されたのだ。上街道の2日目付近で待ち伏せしていた盗賊は私たちが下街道を選択したものだから慌てて反対側から回ってここで待ち伏せたみたいだな」

「そうでございましたか。狼の話は私も聞いておりますが、まだ実害は何も出ていないとのことですし、うちには今回リョウマらがいるので警戒していませんでした」


 ナターシャさん、さっきまで亡くなられた御者や隊長達の側で泣いていたのに、今は領主代行として毅然と振るまっている。大したものだ、悲しいのをグッとこらえて貴族として悲しみを飲み込んでいるのだろう。貴族も大変だなと改めて思った。



「リョウマ君、また稼ぎましたね。結構な金額になるのではないですか?」

 皆との顔合わせも済み、うろうろしていたらパエルさんが話しかけてきた。

「盗賊たち、所持金は160万ジェニーしか持っていなかったですが、懸賞首と馬が13頭いますのでそれなりになりそうですね。全てハーレンの孤児院に寄付予定です」

「全部寄付するのですか?」
「そうですね……半分バナムの孤児院に渡す事にします」

「いやそうでなくて、お金に執着は無いのですか?」
「だって、装備やアクセサリーは自己品の方が良いし、服も自分で作った方がずっと良いですしね。食もそれ程お金は使わないでしょ? 住むとこもログハウスの方が快適だし、宿屋ぐらいだったらそれほどお金もいらない。俺たち兄妹にしてみれば、お金はあまり使い道がないのですよ」

 俺の話を聞き『灼熱の戦姫』の面々は確かにそうですねと納得していた。


「兄様、お馬さん飼いたいです! この子が凄く可愛いです!」

 うわ、やっぱフェイのやつ気付いちゃったか。可愛いと言ってるやつはさっきのサリエさんお勧めのやつだ。フェイのやつ馬の鑑定もできるのだろうか? 目敏く見つけやがった。

「フェイ、世話をするのが大変だからダメだ」
「フェイが全部世話しますから!」

「お前、自分の事もちゃんとできないのに何言ってんだ。絶対ダメだ!」
「約束します! フェイがちゃんと面倒見ますから! この子飼いたいです!」

 どう言っても引こうとしない。参ったな……。

「フェイちゃん、朝晩の馬の餌やりとお昼の軽食、休憩地点での水やりと汗の拭き取りは欠かさずやらないといけないよ。特に汗は直ぐに拭き取ってやらないと体調を崩したり毛並みが悪くなるから凄く大事なのよ」

 パエルさんがフォローに入ってくれた。

「フェイが全部やります!」

「村や町に着きさえすれば、大抵門の付近で馬を預かってくれるとこがあるので、そこでお金さえ払えば管理してくれます。宿屋には必ず馬房があるし、大変なのは外に出ている間だけなのですけどね……」

「うん、フェイが世話するからこの子飼いたいです!」 

 ジーッと俺の方を見て視線を逸らさない。

「はぁ、解ったよ。とりあえずバナムまでフェイ1人でその馬の世話をちゃんと見れたら飼っていい事にする」 
「やったー! 兄様ありがとう! フェイ頑張る!」

 フェイのその満面の笑顔を見て、パウルさんを含めた騎士や冒険者が見惚れている。
 確かにフェイは可愛い……。


 1時間程で壊された車輪の交換を終え、とりあえずはソシリアの村に戻る事になった。
 フェイは早速お気に入りの馬にまたがってニコニコ顔だ。ソシアさんとサリエさんが横に付いていろいろ教えてくれるそうだ。『灼熱の戦姫』全員が馬の世話をフェイに交代で仕込んでくれるそうなので、もう飼う事決定になりそうだ。



 移動中にガラ商隊と騎士たちの間である程度の話がまとまった。

 ソシリアの村でナターシャ御一行が泊まり、俺もそこに随行することになった。
 ガラ商隊は昨日の野営地で連泊だ。フェイに本日分の昼食と夕食を預けたのでガラさんたちにはそのままログハウスに泊まってもらう。そしてガラさんたちには明日の朝バナムに出発してもらう。

 どういう事かというと、明日の夕方にはソシリアの村に領主の騎士たちが到着するのだ。その時点で俺は転移魔法で地点登録してある3日目の野営地に飛べばいい。下手したら俺の方がガラさんより先に野営地に着くことになるだろう。


 ソシリアの村での夕食は、ナターシャさんとその侍女、そしてパウルさんと俺の4人で食べたのだが、朝の時点ではあまり聞いてこなかった事をいろいろ聞いてきた。

「リョウマ様、空から落ちてきたように見えましたがあれはどういう事なのでしょうか?」
「私にもそう見えました。リョウマ様は空が飛べるのでしょうか? それに魔法発動は【無詠唱】でしたよね?」

 女性二人に質問攻めだ。

「いや、少し離れたところから跳んで、ただの踵落としのつもりが距離を間違っただけですよ」
「え? でも地面が1m程陥没していましたが?」

「【フェイアラボール】を併用してましたのでそう見えたのではないでしょうか? あの時、お二人とも貞操の危機で少し動転しておられたと思いますよ」

 上半身裸で俺にしっかり目撃されたのを思い出したのか、2人とも顔を赤らめ俯いてしまってる。意図してごまかすためにそう誘導したのだがちょっとやりすぎたかな。気の毒なほど恥ずかしそうだ。


「リョウマ殿は魔術師なのかな? 回復魔法も凄い効果があったが、攻撃も回復もできるとは貴重な人材と思うのだが、冒険者などの危険な仕事は辞めて、我々と騎士をやってみぬか?」

「お誘いはありがたいのですが、俺は自由気ままな冒険者が向いているのですよ。一応神殿の関係者でもあるので各神殿を回って世界を見て回ろうと思ってます」

「そうか、今回の報酬も神殿つきの孤児院に寄付すると言っておったな。高尚な心掛けだ」


「リョウマ様、どうしても今回ハーレンの領主館までの同行はできないのでしょうか?」
「申し訳ないが、水神殿のフィリアの所に向かう途中なのであまり待たすわけにもいかないのですよ」

「エッ!? あの、フィリア様の事を呼び捨てになさるほどの御関係なのでしょうか?」
「お嬢様が想像したような男女の関係性は無いですよ。フィリアは私の2番弟子にあたるので、逆に『様』をつけて呼ぶと怒られてしまうのです。師匠が弟子に様付けはおかしいとか言ってね」


「エッ? 水魔法では誰も及ばないと称されるフィリア様が弟子なのですか? フィリア様が師匠ではなくて?」
「そうです。侍女の方も先ほど言われてたので気付いてる思いますが、俺は【無詠唱】で魔法を発動できますので、その辺のコツを教えてあげているのです。魔力操作自体はフィリアの方がずっと上手いですけどね」

「【無詠唱】は私も是非教えて頂きたいです!」

 これにはお嬢様だけではなく侍女の方も食いついてきたが、教えている時間は無い。

「中途半端に教えるのは危険ですので、そうそう教える訳にはいきません」
「そうですよね。そう簡単に教えてくださるわけないですわね」

 2人とも凄く残念そうだ。時間があったら可愛い2人にたっぷり時間を掛けて指導してあげるんだけど、今はちょっと面倒なのでごめんなさいだ。

「いつになるかは未定ですが、ナシル親子はハーレンの領民なので神殿の用が済めば送り届けるのでその時に領主様の所には顔を出すようにします」 

「本当でございますか! ありがとうございます。このまま命の恩人をもて成す事もせず黙って行かせてしまうとお父様に私も含めた家臣が怒られてしまう所でした」

「今は足止めされる事の方が返って迷惑なので、今回はご容赦ください。必ず後で寄らせていただきます」
「はい、よろしくお願いします。必ずお越しくださいね」


 なんか、鬼気迫る雰囲気でついつい了承してしまった。
 領主様との謁見とかコミュ障な俺には苦痛でしかない。今ですら、美少女2人相手に緊張しまくって胃がキリキリしているのに……。


 夕食後は各部屋に別れ1泊した。


 次の日も護衛騎士が到着するまで特に何事も起こらず、ソシリアの村の前で俺は緊急依頼完了となる。


 神殿から戻り、ハーレンに寄った際に必ず立ち寄ると約束をし、お嬢様一行と別れたのだった。
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